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  奈良時代はじめ頃の播磨地域について詳しく書かれている『播磨国風土記』には、今で言う「心霊スポット」についての記述があります。それらは「荒ぶる神伝承」「交通障害説話」などと呼ばれていて、特定の場所を行き交う人のち半分が死んでしまう、といった、今の心霊スポットよりもずっと被害に遭う確率が高く、恐ろしいものだったようです。   荒ぶる神の鎮祭伝承一覧(参考文献より)  そのうち、③と④は同じ「神尾山」に接する地域に残された伝承です。  いずれも地域住民にとっては迷惑な神ですが、「一定のリズムと具体的数値をともなう定型句が配置」されていて、それぞれの土地がなぜそういう地名になったのか(地名起源説話)について記されています。  こうした荒ぶる神伝承は、自然災害(洪水、濃霧、鉱毒など)によってもたらされた交通の障害に対する祭祀説話であるとされています。古代には荒々しい自然現象は荒ぶる神によるものと考えられていたのでしょう。そして、①⑤以外は、結局荒ぶる神が祭祀によって鎮められ、行き交う人々に平和と安全が保障されるようになる、という点で共通しています。  このような風土記に記された伝承はそれぞれの土地の人々によって語り継がれていました。そして上記の「荒ぶる神鎮祭伝承一覧」の例を見ると、神を祭り鎮めた者として具体的な氏族、個人名が記されている場合があるので、彼らは荒ぶる神を祭り鎮めたご先祖様であり、土地の人々にとってはその土地の開拓者といった性格を持っていたようです。だからこそ、こうした説話を語り継いできたのでしょう。  「荒ぶる神」の舞台となったのは人の往来の多い交通の要衝でもありました。時代が下って現在、大きな道は道路法の規定によって国や地方自治体などによって管理されています。現代における「荒ぶる神」はこうした組織によって鎮められている、といえるのかも知れません。 (館長補佐 中村 弘) <参考文献> 坂江 渉 2022 年 「 『 風土記 』 の 荒ぶる 神 鎮 祭 伝承と 倭王権 の 地域 編成 」 『 ひょうご 歴史 研究室 紀要 』 第 7 号
明日4月1日から当館で、「第3回 Kids考古学新聞コンクール」の入賞作品の展示が始まります。 kids考古学新聞コンクールは、鳥取県の「むきばんだ応援団」主催のWebサイト『全国子ども考古学教室』内で開催される、全国の小学生を対象にした壁新聞コンクールです。 新聞を飾る“壁”を設置中の職員 その第3回の入賞作品20点を、下記の期間、当館でも展示します。 全国で巡回展を実施されていますが、当館での展示は初めて。 新聞には、私たちが読んでも、知らないことがたくさん書いてあります。 どの新聞も、素晴らしい出来栄えです! 兵庫県内の小学生も受賞されています。 子どもたちの熱意あふれる作品を、この機会にぜひご覧ください。 ◆展示期間:令和5年4月1日(土)~6月30日(金)予定 ◆実施場所:当館1F 西入口側通路(無料ゾーン) コンクールに関しての詳しい情報は、 こちらの 【全国子ども考古学教室(主催者サイト)】 をご覧ください。
3月11日、今年度最後の講演会“兵庫考古学研究最前線「社寺彫刻の考古学」”を開催しました。 講師は、兵庫県教育委員会文化財課の甲斐昭光課長。 当館の学習支援課長として勤務されていた学芸員ですので、このブログを読んでいらっしゃる方には、おなじみの方かもしれませんね。 今回の講演では、ご専門の弥生時代の話ではなく、どちらかというとマニアックな研究の発表をしてくださいました。職務を通じて興味を持った社寺彫刻の特徴を、考古学ならではの手法で分析した調査成果や楽しみ方を紹介されました。 兵庫県には6000ほどの社寺があるそうですが、甲斐課長は4年かけて3000か所ほどへ足を運ばれたそうです。まるで分布調査のようですね。 現地で、彫刻の記録写真を撮っておき、自ら図化されるのだとか。 「目で見てもわからなかった特徴が図化することで認識できる」とのこと。 そのうえで、 ・地域別 ・彫師、彫師一門別 ・時期別  などの項目で県内の社寺彫刻を分析し、その特徴を解説されました。 これからの展望として、「更にたくさんの社寺を巡って調査を続け、五国それぞれの地域の分析を進めたい。また他県と比較して兵庫県ならではの特徴を見つけるのが楽しみ」 そして「それぞれの地域の価値を“おもしろい”と親しんでいただけたら」と講演を結ばれました。    * * * 今年度も講演会をご聴講くださった皆さま、 また古代体験講座や色々なイベントにご参加くださった皆様、ありがとうございました。 来年度の予定をホームページに掲載しております。 いろんな講座や体験講座をご用意しておりますので、チェックしてみてくださいね。
3月25日(土)、「考古博劇場」を開催しました。 加古川市立平岡中学校の演劇部の皆さんが、『桃の転校生』『夢、うつつ』の2編を上演してくださいました。 平岡中学校の演劇部は東播地域で定評があり、大勢の部員がいらっしゃる名門です。 会場は開演前から、満席になりました。楽しみですね。 ◆1つ目の演目…『桃の転校生』。 とある学園に転校した主人公が、夜な夜な学校に搬入されるという“白い粉”を巡り、個性豊かなクラスメイトと共に謎解きをはじめるという楽しいストーリー。 えっ?白い粉?・・・大丈夫、恐いものではなかったですよ。 笑いあり、ほんのりロマンスありの楽しい舞台に、会場は大盛り上がり。 役者の皆さんは、「本当に中学生?」と声があがるほどの素晴らしい演技でした。 ◆2つ目の演目…『夢、うつつ』 “夢の集まる場所”といわれる不思議な世界に迷い込んでしまった男が、 様々な難題に立ち向かいつつ、自分の夢を見つめ直すストーリー。 迫真の演技に、会場中が引き込まれました。 上演中、ふと舞台袖をみると、 先ほどの出演者を含めて何人もの部員が、音響、照明など、いろいろなお仕事をされていました。 舞台上にある背景画パネル(舞台装置)も、演劇部の皆さんがつくられるとのこと。 そして、そのパネルを動かすことで場面を変換させるなど、さまざまな技術がみられました。 1つのお芝居を上演するためには、色んな役割が必要なのですね。 博物館の仕事にも通ずるものを感じました。 いつも講演会を行う当館の講堂が、演劇部の皆さんのおかげで大きな劇場にみえました。 素晴らしい舞台をありがとうございました。
春分の日に、体験イベント「オポナカ ムラリンピック」を開催しました。 “オポナカムラ”は、弥生語で『大中村』の意味です。 つまりオポナカ ムラリンピックは「播磨大中古代の村(大中遺跡公園)で行うオリンピック」というわけです。 体験ひろばで行う予定でしたが雨が降ってきたので、場所を変更して当館軒下での開催となりました。にもかかわらず、 開始時間には大勢の方にお越しいただきました。 今回の種目は3つ。当館ボランティアの皆さんが考えてくださいました。 ◆第1種目…『修羅ひき』。 小型の修羅(しゅら)で荷物をひいて、速さを競います。 今回は、発掘現場で使うコンテナ(黄色い箱)に埴輪を乗せた“修羅”をひいて、2本の柱の周りをぐるっと走っていただきました。 「ゴールまでもう少し!がんばれ~!」 ◆第2種目…『輪投げ』。 考古博らしい埴輪や鹿の角などを的にした輪投げで、合計点を競いました。 ◆第3種目…『ガッチャ』。 ボールのかわりに「ガチャガチャ」のカプセルに重りを入れて投げる“ボッチャ”風の点入れゲームです。 カプセルの中には、大中遺跡公園でとれたトチの実が入っていて、 投げるたびにカラカラといい音を出していました。 各種目を体験するとスタンプを押してもらえます。 3つのスタンプを集めてくださった方には、当館オリジナル缶バッジをプレゼントしました。 3つ体験された皆さんに、「ムラリンピック、いかがでしたか?」とお尋ねすると、 「楽しかった~~!!」と笑顔でこたえてくださいました。 足元の悪いなか、 ご参加いただいた皆さん、 ありがとうございました!
昨年度は、12月にヴァイオリンコンサートとして開催しました「こうこはくロビーコンサート」、今年度は3月19日にフルートとピアノの協演で、 “風薫る春のしらべ” と題して開催しました。 このロビーコンサートは、新型コロナウイルス感染症の影響により、公演等の中止が相次ぐ中、県民の鑑賞機会を確保するとともに、県内の新進・若手アーティストに活動の場を提供することを目的として(公財)兵庫県芸術文化協会が経費の一部を負担して実施するものです。 拍手に迎えられて、鮮やかな白と赤のドレスでお二人が登場されました。 司会者の紹介に深く一礼された後、すぐに演奏が始まりました。春のしらべにぴったりの『早春賦』を聴かせてくださいました。 フルートを演奏してくださる春本亜美(はるもと あみ)さん。 姫路市のご出身で、現在は博物館の地元、播磨町にお住まいです。 相愛大学音楽学部音楽学科在学中にはオーディションによりオーケストラに3年間所属し、卒業後は各新人演奏会や数々のコンクールで実績を積まれました。 現在は、音楽事務所に所属し、結婚式やイベントでの演奏、NHKトアステーション出演の他、自ら企画してコンサートを開催されています。また、AMI  MUSIC  SCHOOLを主宰し、後進の指導にも励んでらっしゃいます。 ピアノを演奏してくださる加門祐香里(かもん ゆかり)さん。 京都市立芸術大学を経て大阪音楽大学大学院ピアノ研究室を卒業されたあと、京都ピアノコンクール金賞、フッペル鳥栖ピアノコンクール優勝、東京新人演奏会優秀賞、横浜音楽国際コンクールF.リスト賞受賞など様々なコンクールで入賞され、国内外でアカデミーやコンクールに参加し、研鑽を積まれました。ソロに限らず、アンサンブル、重奏、伴奏などの演奏活動を行いながら、湊川短期大学非常勤講師として後進の指導をされています。 会場は、多くの方々がご来場くださり、1階席は満席となりました。2階の立ち見も多くの人が集まり、大盛況となりました。 2曲目と3曲目は、クラシックの名曲からショパンの『ノクターン』、チャイコフスキーの『花のワルツ』を続けて演奏してくださいました。 3曲目の演奏後、いったんフルートを置いて、「この楽器はフルートの仲間で長さが半分くらいですが、何という楽器かわかりますか?」と、問いかけがありました。 「これは、フル...
2月25日(土)、シリーズ講演会・兵庫考古学研究最前線2022 第5弾、 「イアン・ホダー著『過去を読む』を読む」を開催しました。 講師は、当館の鐵 英記埋蔵文化財課長です。 当館では珍しい理論考古学の講演会で、英国考古学会の権威として知られるイアン・ホダーの名著を基軸に、考古学者が過去を読みとく際のさまざまな考え方をご紹介しました。 ホダーの著書『過去を読む』では、 「考古学では土器などモノの変遷などを見て、時代や地域、文化などいろいろな違いを調べていくが、『なぜ変化するのか?』という点は弱い。その “なぜ” を考えよう」と説いているとのこと。 そして、それを踏まえて鐵課長は、何事にも固定観念を持たず、“なぜ“  “これで合っているのか” と少し疑って考えてみることも大事だとし、 「例えば、昔の人にとって土器とは何だったのか。今の人が昔の人のことを想像して煮炊きや貯蔵などに使ったと考えているが、必ずしも現代とイコールではないはず」と話しました。 また、「昔の生活における男女間の仕事の分業はどうであったか? という疑問点については、ホダーによると、考古学者が『現在の男女分業を過去に投影して見ているのではないか』とのこと。当館のテーマ展示室にも、その傾向が見られるので、展示をご覧になる際には考えてみてください」と話しました。 今後は、もっと現代の主観にとらわれない説があってもよい。 そこから見つかる今後の研究が楽しみだ、と講演を締めくくりました。

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