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前にも書いたように(本を整理すること:2016年08月13日参照)、現在、祖母の家にある蔵書を整理している。ほとんどは僕の本だが、中には母の本や叔父の本もある。その中に、僕が子供の頃、読んだ本があった。講談社の『少年少女日本文学全集』 全24巻である。

おそらく、祖父が叔父のために買ったものだろう。当時、文学全集は百科事典と並んで、本棚のこやしとして流行ったが、「少年少女」とあるように、子供向けに読みやすく作られている。
講談社少年少女日本文学全集

僕が日本の近代文学に触れたのは、これが最初だった。実家にも日本文学全集のたぐいはあったが、大人向けで読みにくい。これは、字は小さいものの、難しい漢字にはルビが振ってあり、収録作品も、大人向けのものは排除されていたから読みやすかった。祖父母の家に行って、商店街のおもちゃ屋へ行くのと、これを読むのが楽しみだった。

近代文学の全集というのは、個人全集でなければ、ほとんど価値がないものが多い。僕が引き取るには場所を取り過ぎる。懐かしいものではあるが、全部捨てるしかないかと思い、最後のお別れに何冊かページを繰ってみると、これが出来がいいのでびっくりした。

一口でいうなら、手抜きがない。お飾りの大人向けの全集と違って、あくまで読まれることを想定して作られていて、手が込んでいる。人選はこんな感じ。これに漏れている人(子供向きの作品が少ない人)も、21巻以降に入っていることがある。
少年少女日本文学全集24巻内容
一冊一冊はこんな感じである。
少年少女日本文学全集5巻

これは5巻。内容は「芥川龍之介・菊池寛・宇野浩二・豊島与志雄」となっている。同じ時代の人ではあるが、中の良い友達を集めたかのような人選だ。

実際、普通だったら、まとめられちゃいそうな、夏目漱石・森鴎外も別の巻にされていて、2巻は漱石にかかわりのある作家でまとめられている。

1巻 森鴎外・島崎藤村・国木田独歩・二葉亭四迷
2巻 夏目漱石・中勘助・高浜虚子・野上弥生子

装丁がまたすばらしい。当時の文学全集(当時に限らないが)は、本棚の飾りなので、むやみに厚く、読みにくい物が多いが、子供の手で楽に持てるように薄く作ってある。函も無機質なものではなく、それでいて子供っぽすぎないのがいい。安野光雅の装丁らしい。

表紙は布装だが、わざわざ絵が貼り付けてあって手がこんでいる。芥川編では、「蜘蛛の糸」と思しき絵が付いているが、各巻によって異なっていて、描いている画家も違っている。

こちらは1巻。森鴎外の「山椒大夫」だろう。
山椒大夫
2巻。漱石の「坊っちゃん」だと思われる。
坊っちゃん
3巻。小川未明集だけど、読んでいないので分からない。
小川未明集
装丁だけでこれだけの手間がかけられている。

もちろん、中身もよい。今の本と比べると、活字が小さいものの、ルビや注釈だけではなく、作家の写真や、解説も充実している。解説は近代文学研究の一流どころの執筆で、例えば森鴎外編の解説は吉田精一である。
作者の写真
解説

これを読んだ〈子供たち〉は、いわゆる団塊の世代にあたる。当時は子供が多いから、これで十分商売になったのだが、それだけでは、ここまでのものは作れなかっただろう。この全集からは、子供向きだからこそいい加減なものは作れないという意気込みを感じるのである。

なお、この全集(23巻「ノンフィクション名作集」のみ欠本)はヤフオクに出しているので、ほしい方は入札をおねがいします。

講談社『少年少女日本文学全集』 全24巻(23巻欠本):ヤフオク!

最後は宣伝で締める・・・と。 (追記) (追記ここまで)
タグ :
#全集
#装丁
#児童文学

コメント

コメント一覧 (2)

    • 1. ホシナ
    • 2016年11月22日 18:08
    • 昔のものは、読者に媚びてなかったですよね。相手が子供であろうと。それでも売れた、ということはあるんでしょうが。
      最近は、子供にはこんな難しいものは判らない、って決めつけて易しくするような傾向にありますが、本当はそんなことはないと思うんですけどね。
    • 2. 中川@やたナビ
    • 2016年11月22日 20:54
    • 分かるものだけ読んでいたら、成長しないんですけどね。
      まあ、媚びていなかったというか、細分化されたその道の専門家がいなかったから、子供向けにできなかったような気もします。
      専門家なんて、ロクなもんじゃありませんな。
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