昔、グループ展をやっていたころ、「ご自由に壊してください」という作品を作った人がいた。そばにプライヤーを置いて、見に来たお客さんに作品を壊させるという趣向である。めでたく壊されたあかつきには、中から何かが出てくる予定だった。
しかし、結局その中身が何だったかは分からなかった。その作品は、展示したその日のうちに、袋に入れて燃えるごみに出せるほど、壊されてしまったからである。一週間後には細かく砕かれて、おまけに画廊の壁まで傷つけられてしまった。何が出てくる予定だったのか、作者以外は誰も知らない。お客さんは作者の思惑通り壊してくれなかったのである。
こんなことを思い出したのは、TOKYO DESIGN WEEK2016での悲惨なニュースを聞いたからである。
「子どもが中に!」ジャングルジムから火の手 神宮外苑:朝日新聞デジタル
木製のジャングルジムに鉋屑様の木くずを満たし、下からライトアップ(白熱電球だったらしい)していた。どうやらその熱により発火したらしい。
Twitterなどでは、「照明による発火が予測できないのはオソマツだ」というような意見を多く見る。たしかにそれはそうなのだが、もっとも大事な問題はそこではない。
僕が最初に書いたエピソードを思い出したのは、これにより〈お客さんは作者の思惑を超えてくる〉ことを知ったからである。
アートというものは、お客さんに何か体験させようとするものだ。絵画などの普通の作品なら、「作品を見て心を動かす」というのが体験になる。「ご自由に壊してください」作品は、「作品を壊す」という体験を、炎上した木製ジャングルジムでは、「作品の中で子供に遊ばせる」という体験である。
しかし、お客さんは必ずしも作者の思ったとおりには動いてくれない。最初の例では、「ここを壊すだろう」と予想したところでない部分を壊しはじめ、最後は完全な塵になった。この時のお客さんは、ほとんどが大人だったが、理性ある大人でさえそうなのだから、子供ならもっととんでもないことをしても不思議ではない。
もし、運良く木製ジャングルジムが炎上していなくても、照明に触ってやけどするかもしれない。防火対策が施されていたとしても、子供がそれを壊してしまうかもしれない。あらゆる危険を想定しても、子供はまったく大人の考えもつかないことをしてしまうものだ。
炎上したジャングルジムが、単に見るだけのオブジェだったら、炎上しても最後は笑い話になっただろう。そこに、作者以外の第三者、しかも最も行動の予測が難しい子供を介在させてしまったのが、この悲劇の発端である。
このジャングルジムの作者は、建築のサークルだそうだ。建築は、第三者が強く関わる作品である。だから、お客さんを中に入れたいという気持ちになったのだろう。しかし、ならば、安全対策はもっと強力に取られるべきだったし、主催者もより厳しく監督すべきだった。
もっというと、このレベルの人たちが、子供を作品に介在させるべきではなかった。その結果、誰も予想しない悲惨な体験をさせてしまったのである。 (追記) (追記ここまで)
しかし、結局その中身が何だったかは分からなかった。その作品は、展示したその日のうちに、袋に入れて燃えるごみに出せるほど、壊されてしまったからである。一週間後には細かく砕かれて、おまけに画廊の壁まで傷つけられてしまった。何が出てくる予定だったのか、作者以外は誰も知らない。お客さんは作者の思惑通り壊してくれなかったのである。
こんなことを思い出したのは、TOKYO DESIGN WEEK2016での悲惨なニュースを聞いたからである。
「子どもが中に!」ジャングルジムから火の手 神宮外苑:朝日新聞デジタル
東京・明治神宮外苑で開かれていたロボットやオブジェなど現代アートの展示イベントで6日夕、木製の展示品が燃え、遊びに来ていた5歳の佐伯健仁(けんと)君が火に巻き込まれて死亡した。晩秋の休日が一転し、会場には消火作業にあたる人たちの大声が飛び交った。
木製のジャングルジムに鉋屑様の木くずを満たし、下からライトアップ(白熱電球だったらしい)していた。どうやらその熱により発火したらしい。
Twitterなどでは、「照明による発火が予測できないのはオソマツだ」というような意見を多く見る。たしかにそれはそうなのだが、もっとも大事な問題はそこではない。
僕が最初に書いたエピソードを思い出したのは、これにより〈お客さんは作者の思惑を超えてくる〉ことを知ったからである。
アートというものは、お客さんに何か体験させようとするものだ。絵画などの普通の作品なら、「作品を見て心を動かす」というのが体験になる。「ご自由に壊してください」作品は、「作品を壊す」という体験を、炎上した木製ジャングルジムでは、「作品の中で子供に遊ばせる」という体験である。
しかし、お客さんは必ずしも作者の思ったとおりには動いてくれない。最初の例では、「ここを壊すだろう」と予想したところでない部分を壊しはじめ、最後は完全な塵になった。この時のお客さんは、ほとんどが大人だったが、理性ある大人でさえそうなのだから、子供ならもっととんでもないことをしても不思議ではない。
もし、運良く木製ジャングルジムが炎上していなくても、照明に触ってやけどするかもしれない。防火対策が施されていたとしても、子供がそれを壊してしまうかもしれない。あらゆる危険を想定しても、子供はまったく大人の考えもつかないことをしてしまうものだ。
炎上したジャングルジムが、単に見るだけのオブジェだったら、炎上しても最後は笑い話になっただろう。そこに、作者以外の第三者、しかも最も行動の予測が難しい子供を介在させてしまったのが、この悲劇の発端である。
このジャングルジムの作者は、建築のサークルだそうだ。建築は、第三者が強く関わる作品である。だから、お客さんを中に入れたいという気持ちになったのだろう。しかし、ならば、安全対策はもっと強力に取られるべきだったし、主催者もより厳しく監督すべきだった。
もっというと、このレベルの人たちが、子供を作品に介在させるべきではなかった。その結果、誰も予想しない悲惨な体験をさせてしまったのである。 (追記) (追記ここまで)
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