「蠅叩き」は六月の季語である。
去年の夏、イギリス
コッツウォルズ(cotswolds)地方の
チッピング・カムデン(Chipping Campden)で、こんなものを買った。
その名も、The Amazing FLY GUN!直訳すると「驚異の蠅鉄砲」。
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先端の乳白色の部分をセットして、引き金を引くと、ものすごい勢い(マジでびっくりした)で先端が飛び出し、蠅(または蚊)を射殺するという代物。
売っていたのは、ぬいぐるみだの英国雑貨だのが売っている、ごく普通の土産物屋である。僕はこういう観光地にありがちな土産物屋はあまり興味がないので、買うのはヨメに任せてぶらぶらしていたら、〈いかにも〉なイギリス雑貨の間にこれがぶら下がっていた。
「こういうくだらないお土産は葛的先生に最適!」と思って、慌ててレジで会計していたヨメに渡した。
レジの前には、これまたいかにもな英国風の
(削除) デブ (削除ここまで)恰幅のいいおばさんが座っていたのだが、なぜかこれを持っていったとたんに立ち上がって興奮状態。Great!とか言っている。この変貌ぶりが面白い。それまでは粛々とレジ打ってたのに。
よくよく聞いてみると、「それはお土産には最適だ」とか「世界中で売れている」とか「自分の家でハンティングができる」とか言っているようだ。最適なのは葛的先生だけではないらしい。ヨメが僕に「それ何?」と聞くので、飛んでいる蠅を撃つ真似をしたら、おばちゃん「Yes!Yes!」。
なんだか面白いので、蠅を撃つ真似をしつつ「日本には蠅がいっぱいいるぜ」(たぶん間違っているので英文はなし)的なことを言ったら、おばちゃん何か言ってた。聞き取れなかったけど「Yes!Yes!」。後でヨメに聞いたら、じゃあ全滅させられるかもね」的なことを言ってたらしい。
最後に店を出るとき、おばちゃんHave a nice hunting!と言ってくれた。
バスに乗って「驚異の蠅鉄砲」を取り出して、説明書を見て笑った。「お土産に最適」とか「世界中で売れている」とか「自分の家でハンティングができる」とか、ここに書いてあったのだ。どう見ても玩具なのに、「おもちゃにするな」と書いてあるのも笑える。
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裏も「敵を知れ」とか「撃ち方のtips」とか、大袈裟でおもしろい。
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それにしても不思議なのは、なぜこれを持って行ったときにおばちゃんが興奮したかである。僕は次のようなシナリオを想像した。
このおばちゃんは、「驚異の蠅鉄砲」を仕入れたさい、さんざん家族にバカにされたのである。
娘「母さん、何でそんなの仕入れたの!普通のかわいいぬいぐるみとか食器でいいのよ。観光に来てハエトリ鉄砲を買う人なんかいないわ!」
母「ぬいぐるみなんか他の店にもあるわ。これからはうちの店にしかないものを売らなきゃ。見て!ここにInternational best sellerって書いてあるわよ。世界中で売れてるのよ!」
娘「そんなの見たことないわ!」
母「だからいいんじゃないの!これは絶対売れるわ!」
もちろん、イギリス的でも、チッピング・カムデン的でもない「驚異の蠅鉄砲」が売れるわけがなかった。母さんがっかり。
ところが、ある日、剃刀のような目をした背の高い東洋人がこれを買った。
母「ほら、売れたじゃない!」
娘「一個だけでしょ!」
母「置き場所が悪かったのよ。これからどんどん売れるわよ!もっと目立つところに置きましょう。」
そんな話をしているところに、一人の英国紳士が現れた。
MI6のヒュームである。
ヒューム「数日前、ここで銃を買った東洋人がいなかったか?」
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