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夫のしろまる 『今昔物語集』巻16を入力し終えた。その最後から三番目(巻16 紀伊国人邪見不信蒙現罸語 第卅八に、ちょっと珍しい誤植(たぶん)があった。

左の画像のしろまるである。

この説話は、妻の信心を妨害した夫が、イチモツに蟻に囓られたような痛みを感じて死ぬという話で、しろまるの部分には門構えに牛という字が入るべきところである。この字は本来「閉」の異体字にすぎないのだが、日本ではなぜかイチモツのことを指し、「マラ」と読む。

丹鶴叢書本でもここは門構えに牛が入っているから、『攷証今昔物語集』の底本が、実際にしろまるだったとは考えにくい。また、他の場所にはちゃんと入っているので、意図的な伏せ字でもない。

おそらく、特殊な文字なので、初校の段階では活字が入らなかったのだろう。こういう場合、通常、活字をひっくり返した〓(ゲタ)が用いられるが、『攷証今昔物語集』の場合、異体字や特殊な漢字が多いので〓だらけだったと思われる。

『攷証今昔物語集』は誤植らしきものはいくつか見つかるが、いままで見たところ〓の見逃しは一つもない。漢字にはかなり気を使っていた様子がうかがえる。

となると、なぜこれを見逃したかが気になるが、「マル」と「マラ」の音の近さが関係しているのではないか。

例えば、校正で〓に正しい字を指定したものの、印刷所で、

「おい、小僧、8行目の〓にマラ入れとけ」
「マルっすね、わかりやした親方!」

みたいな感じで、しろまるにされてしまい、その後見逃されてそのままになってしまったのかもしれない。

あるいは、初校では、〓の代わりに本文中では使われないしろまるが入っていたものの、校正の時に「おっとのマルにたちまちにありつきて・・・」みたいな感じで読んでもらって、見逃してしまったのかもしれない。

こういう変換ミスみたいなのは、ワープロ時代以降、よく見られるようになったが、活字の時代(『攷証今昔物語集』は大正3年)の事情を想像すると、ちょっと面白い。
(追記) (追記ここまで)
タグ :
#今昔物語集
#誤植

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