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母が祖母の家を片付けていたら、15年ほど前に亡くなった祖父の洋服が何着か出てきた。サイズ的にほとんど着られないのだが、唯一、このコートだけは着られたので、もらってきた。スーツの上に着るようにあつらえてあるので、大きめなのだろう。
祖父のコート

発見した時は、丁寧に折りたたまれて箱に入っていた。生地には汚れや傷み、虫食いが全くなく、ほとんど着た形跡がない。

ところが、袖を通そうとしたら、あっさり裏地が破けてしまった。試しに全く傷のないところで、裏地を引っ張ってみると、半紙を破るぐらいの力で裂けてしまう。見た目は光沢があってきれいなのだが、長い年月のうちに劣化したらしい。人絹だろうか。

とはいえ、表地は質のよさそうなウールで、これを捨ててしまうのはいかにも惜しい。というわけで、裏地を貼り替えてもらい、僕が着ることにした。張替え代金は35,000円。覚悟はしていたが、なかなかいいお値段である。

このコートはオーダーメイドである。タグには港区芝のテーラーのものが付いていた。祖父が品川区で文房具屋を始めたのが昭和32年(1957年)ごろ。この家の数軒隣がつい最近までテーラーで、遺品にはそこであつらえた服もあったから、それ以前のものであることは間違いない。

状態からみて、さすがに戦前ではないだろう。とすると、祖父がシベリア抑留から帰ってきた昭和23年(1948年)以降ということになる。つまり、このコートはだいたい60年ぐらい前のものと推測される。

さすがにオーダーメイドだけあって、非常に作りがいい。ステッチもしっかり入っている。
祖父のコート(襟)
写真でも伝わると思うが、ものすごく厚い生地で、やたらと重い。量ってみたら、なんと2kg。ちょっとした毛布よりも重い。
祖父のコート(袖)

内ポケットのつくりも丁寧だ。名前の刺繍も今のものより達筆(のような気がする)。
祖父のコート(内ポケットと刺繍)

さて、寒い日に、これを着て仕事に行ってみた。まるで鎧を着ているようだ。重いというよりも、かっちりしている。一日着たぐらいではシワひとつできないし、通り魔にナイフで刺されても通りそうもない。

しかし、最近の軽いダウンジャケットのように、着てすぐに暖かさを感じるものではない。「意外とたいしたことないな」と思って、駅までの道を急ぐと、だんだん暖かくなり、汗が出るぐらいになった。体の芯から温まる感じである。これは今まで着た他の防寒具とはちょっと違う感覚だ。

学校について、暖房の入っていない部屋でコートを脱いでも、まだ暖かい。暖房を入れる必要を感じないくらいである。いくらなんでもちょっとおかしい。そこで気がついた。

コートが重いので負荷がかかり、自分の体が発熱しているのだ、と。
(追記) (追記ここまで)

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