決して尽きることのないもの/保坂和志『遠い触覚』(河出書房新社、2015年) 2021年10月28日 21:35 愛は与えれば与えるだけもっと増えるから尽きることはない、というようなことを保坂和志が言っていたがたぶん言葉もそうだ。愛と言葉に共通していることは、その両方とも自分のものではなく、自分とは別のどこかから発生してただ自分の中を通って世界に手渡されるという ...
何もないが故に何もない/『草の響き』(東出昌大主演、2021年) 2021年10月16日 12:46 有楽町ヒューマントラストシネマで東出昌大主演の映画『草の響き』を観た。『海炭市叙景』『きみの鳥はうたえる』などに続いて、函館出身の作家、佐藤泰志の小説の映画化。函館が舞台なので、なかなか帰省できていない函館の風景を感じたい思って、この映画に足を運んだ ...
古井由吉『私のエッセイズム』(河出書房新社、2021年) 2021年10月12日 07:30 古井由吉がすごい人だということはわかる。しかし、小説にはなかなか手が出ないので、せめてと彼のエッセイにしがみつくようにして、空き時間に一文字一文字読んでいる。粘り強い思考と、こだわり抜いた言葉、そこから仄見える狂気。敬意を抱いているが、なかなか近づけ ...
凪と風/川本直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』(河出書房新社、2021年) 2021年10月06日 20:45 何度でもぶり返してくる暑さを振り切って、やっと秋の風だと言えるような風が窓から入ってくるようになった。今の家には窓が多いので南向きの窓と東向きの窓とを開けて、風が家の中を通っていく。今日は、やらなければならない仕事があることへの不安と、二度目のワクチン ...
言葉という詐術 2021年10月02日 21:44 他人の言葉を読むことは他者と出会うことだ。他者というのは、根本的に自分とは異なる思考をするため、文章を読むのが苦痛で仕方ない。それは自分と異なる生理的な感覚、論理性、そうしたものを有しているからだ。だから、多くの文章は私は我慢がならないし、それは私自身 ...