闘いを終えての感想は一言だけで彼は選手たちのもとに戻って行った。私は負けるのが嫌いだと六十年間言い続けて来たボスニア・ヘルツェゴビナ出身のこの男は日本に来てからまだ一度も負けていない。けれど、彼は彼の人生で彼の嫌いな負けを何百回と経験していて、そのこと ...

友達のいない外国人のようにこの町で生きている 本当に言いたいことを 閉じ込めあうような話し声を 知らない国の言葉のように聞きながら 無力なんだと自分に嘘をつくのはやめて この世界に話しかけることを ぼくは始めよう (渡辺洋「一人」『向日 歌う言葉』より ...

希望が感じられない。それは今に始まったことではないと人は言うかもしれない。連帯も無い。共感も無い。そんな社会を生きている気がする。すべてのことは金を中心に起こり、金を巡って廃れてゆく。弱いものは潰されて、強いものが生き残る。しかしそれもひとときのこと ...

ソファに寝転がって 大きく息を吐く 目を瞑って 口を膨らませて お腹の奥に溜まった 一日分の暗闇が ふうっと部屋に 広がった 蝋燭の炎が 周りの空気を燃やしてできる 脆弱な輪廓が揺れて 家族の陰影を成す 君は炎であり 同時にまた この部屋の この夜々の 冬の雨の残り香 ...