目次
(参考資料)
小児気管支喘息の薬物療法における適正使用ガイドライン
この医薬品・医療機器等安全性情報は、厚生労働省において収集された副作用等の情報をもとに、医薬品・医療機器等のより安全な使用に役立てていただくために、医療関係者に対して情報提供されるものです。
平成18年(2006年)8月
厚生労働省医薬食品局
医師、歯科医師、薬剤師等の医療関係者は、医薬品や医療機器による副作用、感染症、不具合を知ったときは、直接又は当該医薬品等の製造販売業者を通じて厚生労働大臣へ報告してください。
なお、薬種商販売業や配置販売業の従事者も医療関係者として、副作用等につき、報告することが求められています。
重要な副作用等に関する情報
前号(医薬品・医療機器等安全性情報 No.226)以降に改訂を指導した医薬品の使用上の注意のうち重要な副作用等について、改訂内容、参考文献等とともに改訂の根拠となった症例の概要に関する情報を紹介いたします。【1】塩酸ゲムシタビン
(重大な副作用)] 肝機能障害、黄疸:AST(GOT)、ALT(GPT)、Al-Pの上昇等の重篤な肝機能障害、黄疸があらわれることがある。
- 肝機能障害、黄疸:6例(うち死亡3例)
販売開始:平成11年8月
症例の概要
投与期間 副作用 備考
年齢 使用理由
(合併症) 経過及び処置
70代 非小細胞肺癌
(高血圧、肺気腫、うつ病) 1200mg
2回
1000mg
6回 肝機能障害
胸部レントゲンでは左肺腫瘍と陳旧性結核を認めるのみ。CRP3.91mg/dLと軽度高値であったため、ホスホマイシンナトリウムの静注開始。
投与期間 副作用 備考
年齢 使用理由
(合併症) 経過及び処置
50代 肺大細胞癌
(咽頭癌、高血圧) 1300mg
2回 肝不全
肝疾患の既往歴なし。アルコール飲酒歴あり(日本酒3合/日)。
ウルソデオキシコール酸内服、新鮮凍結人血漿の使用(計8単位)、ステロイドパルス療法(コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム1g/日)開始。
閉塞性黄疸は認められず、B型及びC型肝炎ウイルスマーカーは陰性。精査にて胆管拡張、肝腫瘤及び心不全は除外された。状態不良のため肝生検は実施せず。
剖検:なし
死因:肺癌及び肝不全
【2】 沈降破傷風トキソイド
沈降破傷風トキソイド「ビケン」(阪大微生物病研究会)
沈降破傷風トキソイド「生研」(デンカ生研株式会社)
沈降破傷風トキソイド「北研」(北里研究所)
沈降破傷風トキソイドキット「タケダ」(武田薬品工業)
(重大な副反応)] ショック、アナフィラキシー様症状:ショック、アナフィラキシー様症状(全身発赤、呼吸困難、血管浮腫等)があらわれることがあるので、接種後は観察を十分に行い、異常が認められた場合には適切な処置を行うこと。
- ショック、アナフィラキシー様症状:3例(うち死亡0例)
関係企業が推計したおおよその年間使用者数:約70万人(平成17年)
販売開始:昭和40年
症例の概要
投与期間 副作用 備考
年齢 使用理由
(合併症) 経過及び処置
40代 右大腿挫創、破傷風免疫
(肝硬変) 0.5mL
1回 アナフィラキシー反応、気管浮腫
投与期間 副作用 備考
年齢 使用理由
(合併症) 経過及び処置
20代 破傷風免疫
(なし) 0.5mL
1回 アナフィラキシー反応、意識消失
夜にはまだ少しぼーっとするような事があった。
【3】 ピコスルファートナトリウム(大腸検査前処置の効能を有する製剤)
コンスーベン液(鶴原製薬)
シンラック液(岩城製薬)
チャルドール液(大洋薬品工業)
ファレスタック液(東和薬品)
フルレールドライシロップ、同液(高田製薬)
ベルベロン液(マルコ製薬)
ヨーピス液(イセイ)
ラキソセリン液(長生堂製薬)
ラキソデート液(小林化工)
ラキソベロン液(帝人ファーマ)
本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者
腸管に閉塞のある患者又はその疑いのある患者(大腸検査前処置に用いる場合)
腸管狭窄及び重度な便秘の患者
腸管憩室のある患者
高齢者
的注意] 本剤を大腸検査前処置に用いた場合、腸管蠕動運動の亢進により腸管内圧の上昇を来し、虚血性大腸炎を生じることがある。また、腸管に狭窄のある患者では、腸閉塞を生じて腸管穿孔に至るおそれがあるので、投与に際しては次の点を留意すること。
(重大な副作用)] 腸閉塞、腸管穿孔:大腸検査前処置に用いた場合、腸管に狭窄のある患者において腸閉塞を生じ、腸管穿孔に至るおそれがあるので、観察を十分に行い、腹痛等の異常が認められた場合には適切な処置を行うこと。
- 腸閉塞、腸管穿孔:6例(うち死亡0例)
販売開始:昭和55年(大腸検査前処置の効能追加:平成4年3月)
症例の概要
投与期間 副作用 備考
年齢 使用理由
(合併症) 経過及び処置
50代 大腸内視鏡検査
(再生不良性貧血、骨粗鬆症) 75mg
1日間 腸閉塞
排便があり、便秘の増悪がないことを確認した上で、下部内視鏡検査の前処置として本剤処方となった。
午後、レントゲン検査にて腸閉塞と診断。胃管と下部内視鏡下に経肛門的イレウス管挿入。
夕方、意識低下、血圧低下により人工呼吸管理、塩酸ドパミン投与を開始。
正午頃、死亡確認。
投与期間 副作用 備考
年齢 使用理由
(合併症) 経過及び処置
50代 大腸内視鏡検査
(大腸癌、腸閉塞) 75mg
1日間 腸管穿孔
夕方、緊急手術施行。便臭を伴う暗赤褐色の腹水と回腸末端付近からS状結腸までの広範囲腸管壊死、S状結腸に穿孔を伴った腫瘤を認めた。壊死腸管の切除施行。
その後エンドトキシン吸着治療法を含めた集中治療、腹腔ドレナージ、抗生剤投与により症状は消失した。
使用上の注意の改訂について(その178)
前号(医薬品・医療機器等安全性情報 No.226)以降に改訂を指導した医薬品の使用上の注意(本号の「1 重要な副作用等に関する情報」で紹介したものを除く。)について、改訂内容、主な該当販売名、参考文献等をお知らせいたします。
臭化パンクロニウム
注意] 本剤は呼吸抑制を起こすので自発呼吸が回復するまで必ず調節呼吸を行うこと(ガス麻酔器又は人工呼吸器を使用すること)。
サクシニルコリン(塩化スキサメトニウム)で過去にアナフィラキシー反応が生じた患者では、同様にアナフィラキシー反応が生じる可能性があるので、注意すること。
筋弛緩作用の残存による呼吸抑制、誤嚥等の合併症を防止するため、患者の筋弛緩が十分に回復したことを確認した後に抜管すること。
臭化ベクロニウム
的注意] 本剤は呼吸抑制を起こすので自発呼吸が回復するまで必ず調節呼吸を行うこと(ガス麻酔器又は人工呼吸器を使用すること)。
サクシニルコリン(塩化スキサメトニウム)で過去にアナフィラキシー反応が生じた患者では、同様にアナフィラキシー反応が生じる可能性があるので、注意すること。
筋弛緩作用の残存による呼吸抑制、誤嚥等の合併症を防止するため、患者の筋弛緩が十分に回復したことを確認した後に抜管すること。
臭化ブチルスコポラミン(経口剤、坐剤)
(重大な副作用)] ショック、アナフィラキシー様症状:ショック、アナフィラキシー様症状(悪心・嘔吐、悪寒、皮膚蒼白、血圧低下、呼吸困難、気管支攣縮、浮腫、血管浮腫等)があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
臭化ブチルスコポラミン(注射剤)
(重大な副作用)] ショック、アナフィラキシー様症状:ショック、アナフィラキシー様症状(悪心・嘔吐、悪寒、皮膚蒼白、血圧低下、呼吸困難、気管支攣縮、浮腫、血管浮腫等)があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
アラセプリル、塩酸イミダプリル、マレイン酸エナラプリル、カプトプリル、塩酸キナプリル、シラザプリル、塩酸テモカプリル、塩酸デラプリル、トランドラプリル、塩酸ベナゼプリル、ペリンドプリルエルブミン、リシノプリル
タナトリル錠2.5、同錠5、同錠10(田辺製薬)
レニベース錠2.5、同錠5、同錠10(萬有製薬)他
カプトリル細粒、同錠12.5mg、同錠25mg、同-R(三共)他
コナン錠5mg、同錠10mg、同錠20mg(三菱ウェルファーマ)他
インヒベース錠0.25、同錠0.5、同錠1(中外製薬)他
エースコール錠1mg、同錠2mg、同錠4mg(三共)
アデカット7.5mg錠、同15mg錠、同30mg錠(武田薬品工業)他
オドリック錠0.5mg、同錠1mg(サノフィ・アベンティス)、プレラン0.5mg錠、同1mg錠(中外製薬)他
チバセン錠2.5mg、同錠5mg、同錠10mg(ノバルティスファーマ)他
コバシル錠2mg、同錠4mg(第一製薬)他
ゼストリル錠5、同錠10、同錠20(アストラゼネカ)、ロンゲス錠5mg、同錠10mg、同錠20mg(塩野義製薬)他
乳婦等への投与] 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。〔妊娠中期及び末期にアンジオテンシン変換酵素阻害剤を投与された高血圧症の患者で羊水過少症、胎児・新生児の死亡、新生児の低血圧、腎不全、高カリウム血症、頭蓋の形成不全及び羊水過少症によると推測される四肢の拘縮、頭蓋顔面の変形等があらわれたとの報告がある。また、海外で実施されたレトロスペクティブな疫学調査で、妊娠初期にアンジオテンシン変換酵素阻害剤を投与された患者群において、胎児奇形の相対リスクは降圧剤が投与されていない患者群に比べ高かったとの報告がある。〕
ピコスルファートナトリウム(大腸検査前処置の効能を有しない製剤)
本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者
タカルシトール(2μg/g)
的注意] 本剤は活性型ビタミンD3製剤であり、類薬(活性型ビタミンD3外用剤)との併用又は大量投与により血清カルシウム値が上昇する可能性がある。また、高カルシウム血症に伴い、腎機能が低下する可能性があるので、類薬との併用又は大量投与に際しては、血清カルシウムや尿中カルシウム及び腎機能(クレアチニン、BUN等)に注意し、観察を十分に行うこと。
タカルシトール(20μg/g)
的注意] 本剤は活性型ビタミンD3製剤であり、血清カルシウム値が上昇する可能性がある。また、高カルシウム血症に伴い、腎機能が低下する可能性があるので、以下のような場合には、血清カルシウムや尿中カルシウム及び腎機能(クレアチニン、BUN等)の検査を定期的(使用開始2〜4週後に1回、その後は医師の判断により必要に応じて適宜)に行い、これらの検査値に異常が認められた場合には使用を中止し経過を観察すること。
- 皮疹が広範囲にある等の理由により、本剤を1日に10g近く使用する場合や皮疹重症度が高く、皮膚のバリア機能が低下して本剤の経皮吸収が増加する可能性のある患者に使用する場合
- 腎機能が低下している患者に使用する場合
- 本剤との相互作用が懸念される薬剤を投与している患者に使用する場合や本剤の使用開始前にシクロスポリンによる治療が行われた患者に使用する場合
(重大な副作用)] 高カルシウム血症:高カルシウム血症及び高カルシウム血症によると考えられる臨床症状(倦怠感、食欲不振等)があらわれることがある。異常が認められた場合には、使用を中止し、血清カルシウム値、尿中カルシウム値等の生化学的検査を行い、必要に応じて輸液等の処置を行うこと。
イソニアジド
(重大な副作用)] 皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)、紅皮症(剥脱性皮膚炎)
イソニアジドメタンスルホン酸ナトリウム
用(類薬)] 皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)、紅皮症(剥脱性皮膚炎)
ラミブジン(100mg)
(重大な副作用)] 横紋筋融解症があらわれることがあるので、筋肉痛、脱力感、CK(CPK)上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇等の症状があらわれた場合には投与を中止するなど、適切な処置を行うこと。
乾燥人フィブリノゲン
(重大な副作用)] 血栓塞栓症:血栓塞栓症(深部静脈血栓症、腸間膜血栓症、肺塞栓症等)があらわれることがあるので、血中フィブリノゲン濃度、血小板数、血液凝固能(プロトロンビン時間等)等の血液検査を行うなど、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、適切な処置を行うこと。
アスピリンを含有する製剤
アスピリンアルミニウムを含有する製剤
エスロイフェン(エスエス製薬)他
出産予定日12週以内の妊婦。
アスピリンを含有し、アセトアミノフェンを含有しない製剤
アスピリンアルミニウムを含有し、アセトアミノフェンを含有しない製剤
歯痛リングル(佐藤製薬)他
市販直後調査の対象品目一覧
注)効能追加等における対象
小児気管支喘息の薬物療法における適正使用ガイドライン
平成17年度の医薬品等適正使用推進事業として、作成が進められた「小児気管支喘息の薬物療法における適正使用ガイドライン」がまとまりましたので紹介します。
なお、本ガイドラインについては、参考資料を含め、厚生労働省のホームページ(http://www.mhlw.go.jp/)に掲載しています。
小児気管支喘息の薬物療法における
適正使用ガイドライン
西間 三馨 国立病院機構福岡病院
日本小児アレルギー学会
院長
(前)理事長
森川 昭廣 群馬大学医学部小児科
日本小児アレルギー学会
教授
理事長
国立病院機構相模原病院 臨床研究センター
理事
研究部長
国立病院機構福岡病院診療部
庶務担当理事
統括診療部長
東京女子医科大学小児科
教授
滋賀医科大学小児科
教授
岡山大学医学部小児科
班長
教授
日本小児科学会
医療管理者
(元)理事長
北九州市立八幡病院
理事長
副院長
日本アレルギー学会喘息ガイドライン委員会
同・GINA担当
帝京大学医学部内科
委員長
理事
教授
教授
副部長
平成17年度研究
I.小児気管支喘息の急性発作における医療機関での治療治療を的確に行うには発作の見分け方が重要であり、小、中、大発作、及び呼吸不全の判定は表1に示すとおりである。
表1 小児気管支喘息における発作程度の判定
また、乳児の重症発作のサインは年長児とかなり異なるので注意を要する(表2)。
表2 乳児喘息重症発作時の症状
1. 乳児(2歳未満)の発作時の治療
乳児では表3に示す治療を行う。
表3 医療機関での乳児喘息発作に対する薬物療法プラン(2歳未満)
期
治
療 β2刺激薬吸入 β2刺激薬吸入
(反復可*1)
酸素吸入(Spo2<95%) 入院
β2刺激薬吸入反復*1
酸素吸入
輸液
ステロイド薬静注*2 入院
イソプロテレノール持続吸入*3
酸素吸入
輸液
ステロイド薬静注反復*4
加
治
療 β2刺激薬吸入反復*1 (基本的に入院)
ステロイド薬投与*2
(静注・経口)
輸液
アミノフィリン持続点滴(考慮)*5 イソプロテレノール持続吸入*3
ステロイド薬静注反復*4
アミノフィリン持続点滴(考慮)*5 気管内挿管
人工呼吸管理
アミノフィリン持続点滴(考慮)*5
麻酔薬(考慮)
〔注意事項〕
これを超える場合は小児アレルギー専門医を紹介する。
発熱時の使用は適用の有無を慎重に考慮する。
本治療は小児喘息の治療に精通した医師のもとで行われることが望ましい。
その要点は下記のとおりである。
*1 吸入のβ2刺激薬は、(1)サルブタモール(ベネトリン(R))(29プロカテロール(メプチン(R))、または(3)イソプロテレノール(アスプール(R))が用いられる。
(1)ベネトリン(R)は0.5% 30mLの瓶に入っているのでスポイトでネブライザーの中に0.1〜0.3mL入れ生理食塩水を2mL加えてコンプレッサーで吸入する。
(2)メプチン(R)も同様であるが、最近1回0.3mLの吸入法ユニットが発売されたので使いやすくなった。この薬剤は心刺激作用は少ないが、振戦を来しやすい。逆にこの副作用がブレーキとなり過剰な吸入が防げることもある。
(3)アスプール(R)は0.5% 50mLが用いられる。本剤は上記2薬剤に比べて心刺激作用が強く脈拍が上がりやすいのが欠点である。逆に作用持続時間が短く気管支拡張作用発現が早いことから、脈拍数を指標に吸入量を調整することができる。これがわが国でイソプロテレノール持続吸入が用いられる大きな理由となっている。
吸入機器としては電動式コンプレッサーが用いられる。超音波(ウルトラソニック)ネブライザーは粒子が小さく咳嗽が出やすいことや残液濃度が変わることから推奨できない。
定量噴霧式可圧ネブライザー(pMDI)やマスク付きネブライザーを用いる方法もあり、サルブタモール(サルタノール(R)、アイロミール(R))、プロカテロール(メプチンキッドエアー(R))などが使われる。
*2 ステロイド薬の注射では、プレドニゾロン(プレドニン(R))、メチルプレドニゾロン(ソル・メドロール(R))、ハイドロコーチゾン(サクシゾン(R)、ソル・コーテフ(R))が、内服ではプレドニゾロン(プレドニン(R))、ベタメタゾン(リンデロン(R))、デキサメタゾン(デカドロン(R))が用いられる。
1shot静注、点滴静注が行われるが、小児では極めてまれであるが薬剤アレルギーがあるので初めて使用するときは点滴静注が望ましい。
内服薬は基本的にshort actingなものがよいがプレドニゾロンは錠剤、粉剤しかなく苦みが強くて乳児では服用困難である。
デキサメタゾンエリキシル、ベタメタゾンシロップを使わざるを得ないが副作用に留意する。
*3 イソプロテレノールの持続点滴療法はわが国の小児でよく用いられるが、心刺激作用が強いため、専門病院で行うことが望ましい。パルスオキシメーター、心電図モニター、酸素吸入を併用して注意深く行う。詳細は表4を参照されたい。
*5 本薬剤は過剰投与による副作用報告があることから、けいれん疾患のある乳児や6ヵ月未満児に用いる場合は小児喘息の治療に精通した医師の指導のもとで行われることが望ましい。発熱時の使用には特に注意を払う。
表4 イソプロテレノール持続吸入実施の要点
アスプール(R)(0.5%)2〜5mL+生理食塩水500mL
(無効例や呼吸不全では増量も可:例えばアスプール(R)(0.5%)10mL+生理食塩水500mLから開始)
*注射用製剤プロタノール-L(R)(0.2mg/1mL、1mg/5mL)は吸入薬としての使用は適応外使用である(保険適用はない)。
インスピロン(R)やジャイアントネブライザー内に調整した上記の液を入れる。
ネブライザーと接続したフェイスマスクを患児の口、鼻を覆うように固定するが、乳幼児やマスクを嫌がる患児は酸素テントに収容してテント内に噴霧する。
1)酸素濃度50%、噴霧量10L/分で開始する。
2)本療法は薬物の定量的な指標に乏しい。よって、発作の重症度と副作用の出現について詳細に観察して、適量の噴霧になるように薬液濃度や噴霧量を適宜調整する。
3)吸入液の時間あたりの減り方からおよその使用量を把握する。
4)Spo2は95%以上に維持する。
5)発作の程度に応じて数時間から数日間の実施を行う。
6)イソプロテレノールを増量して持続吸入した場合は、症状軽快後、まずイソプロテレノールの濃度を通常量へ下げる。
7)症状の改善がみられたら、噴霧量を漸減するか、吸入液濃度を落とし、徐々に中止にもっていく。その後は、β2刺激薬の間欠的吸入へ変更する。
1)パルスオキシメーター、心拍数、呼吸数、心電図:連続的に必ず行う。
2)血清電解質、心筋逸脱酵素、血圧:適宜
3)Paco2上昇例では動脈カテーテルを留置すると血液ガス分析が容易に行える。
1)喘鳴、陥没呼吸、チアノーゼなど臨床症状。
2)吸入の効果が現れ始めると、上昇していた心拍数が減少してくることが多い。
3)十分な噴霧を行ってもSpo2が上昇しない場合や、Spo2が95%以上でも心拍数が低下してこない場合には、効果が不十分である可能性がある。その際には、血液ガス分析や胸部X線撮影を行い、呼吸状態の再評価や合併症の確認を行う。
1)酸素テント内に噴霧するとエアロゾルの霧で患児の状態が観察しにくくなることに注意する。
2)一定時間ごとに排痰、体位変換、体動を促す。
3)フェイスマスクの装着状態を定期的に確認する。
4)チューブの閉塞(折れ曲がり、液貯留、圧迫など)や噴霧の状況などに常に注意する。特に、インスピロン(R)で生理食塩水を用いると目詰まりしやすい。
5)心電図上の変化、胸痛など心筋障害を疑う所見があったときにはイソプロテレノールの減量を早急に検討し、同時に心筋逸脱酵素を検査する。
6)症状が悪化してイソプロテレノールを増量しても十分な反応がない場合は、人工呼吸管理ができる体制の準備を進める。
2. 幼児、年長児における発作時の薬物療法
2歳〜15歳までの幼児・年長児のプランを表5に示す。
表5 医療機関での喘息発作に対する薬物療法プラン(2〜15歳)
期
治
療 β2刺激薬吸入 β2刺激薬吸入反復*1
酸素吸入(Spo2<95%で考慮) 入院
β2刺激薬吸入反復*1
ステロイド薬静注*2
アミノフィリン持続点滴*3 入院
イソプロテレノール持続吸入*4
酸素吸入、輸液
ステロイド薬静注反復*2
アミノフィリン持続点滴*3
加
治
療 β2刺激薬吸入反復*1 ステロイド薬投与
(静注、経口)*2
and/or
アミノフィリン点滴静注
・持続点滴*3
上記治療に対する反応を観察し、反応不十分な場合は入院治療考慮 イソプロテレノール持続吸入*4
ステロイド薬静注反復*2 イソプロテレノール持続吸入(イソプロテレノール増量考慮)*4
アシドーシス補正
気管内挿管
人工呼吸管理
麻酔薬(考慮)
- 発作を反復している症例では、発作の原因を検討し適切な生活指導を行い、長期管理薬の再検討を行う。
- ステロイド薬の頻回あるいは持続的な全身投与は副作用の恐れがある。短時間で中止すべきであり、漫然と使用しないことが大切である。必要ならば小児アレルギーの専門医に紹介する。
- 幼児ではアミノフィリン治療は小児喘息の治療に精通した医師のもとで行われることが望ましい。
この年齢ではβ2刺激薬吸入の多くはpMDIで十分である。ただし幼児ではマスク付きスペーサーの方が確実である。
10分程度かけて静注または30分程度かけて点滴静注する。
アミノフィリン持続点滴:テオフィリン血中濃度:8〜15μg/mL
アミノフィリン点滴静注は使用量を適切に守る。しかし2〜5歳の幼児では発熱時の使用は注意する。
テオフィリン製剤があらかじめ内服投与されていない時のアミノフィリンの初期投与量、維持投与量は表6に示すとおりである。また、乳児に使用する場合の注意事項は表7に示す。
表6 小児の喘息発作時のアミノフィリン投与量の目安
(ただし、あらかじめテオフィリン製剤が経口投与されていない場合の無熱時
表7 乳児喘息発作時のアミノフィリン注射薬使用に関する注意事項
- 大発作や呼吸不全に際し、β2刺激薬やステロイド薬の効果が十分でない場合には、テオフィリン薬に関する十分な知識を持った医師により使用が考慮されることが推奨される
- 熱性けいれんやてんかんなどのけいれん性疾患がある場合には原則として推奨されない
- 発熱時の使用は適用の有無を慎重に考慮する
- 血中濃度10μg/mLを目安に設定し、必要に応じて適宜、血中濃度をモニタリングする。必要に応じて15μg/mL程度を上限として投与量を調節する
- テオフィリンクリアランスは発熱、ウイルス感染、食事内容、併用薬などにより低下し、血中濃度が上昇することがある
pMDIの1本の噴霧回数は表8のようになっており、残量の確認は重要である。
表8 定量噴霧式吸入薬一覧
短期時間作用型吸入β2刺激薬
吸入ステロイド薬
シェリング・プラウ 100回
抗アレルギー薬
II.小児気管支喘息の長期管理における薬物療法
長期管理ではその重症度を正確に把握することが大前提である。
JPGL2005の喘息重症度は表9のようになっている。
表9 治療前の臨床症状に基づく喘息重症度
- 年に数回、季節性に咳嗽、軽度喘鳴が出現する
- ときに呼吸困難を伴うこともあるが、β2刺激薬の頓用で短期間で症状は改善し、持続しない
- 咳嗽、軽度喘鳴が1回/月以上、1回/週未満
- ときに呼吸困難を伴うが、持続は短く、日常生活が障害されることは少ない
- 咳嗽、軽度喘鳴が1回/週以上。毎日は持続しない
- ときに中・大発作となり日常生活が障害されることがある
- 咳嗽、軽度喘鳴が、毎日持続する
- 週に1〜2回、中・大発作となり日常生活や睡眠が障害される
(難治・最重症)
- 重症持続型に相当する治療を行っていても中等症持続型以上の症状が持続する
- しばしば夜間の中・大発作で時間外受診し、入退院を繰り返し、日常生活が制限される
最終的に重症度を判定するときには、以下に述べる治療ステップの4つの段階を加味して行うことになっている(表10)。これは例えば吸入ステロイドを400μg/日吸入していてほぼ症状がコントロールできていたケースを例にとって考えれば、この場合は本人も周囲も軽症と勘違いしてしまい日常生活管理や投薬プランがおろそかになり急性増悪を来すことがよくあるからである。このような症例はたとえほとんど症状がなくても「重症持続型」として取り扱うべきである。
表10 現在の治療ステップを考慮した喘息重症度の判断
- 年に数回、季節性に咳嗽、軽度喘鳴が出現する
- ときに呼吸困難を伴うこともあるが、β2刺激薬頓用で短期間で症状は改善し、持続しない
- 咳嗽、軽度喘鳴が1回/月以上、1回/週未満
- ときに呼吸困難を伴うが、持続は短く、日常生活が障害されることは少ない
- 咳嗽、軽度喘鳴が1回/週以上。毎日は持続しない
- ときに中・大発作となり日常生活や睡眠が障害されることがある
(難治・最重症)
- 咳嗽、軽度喘鳴が、毎日持続する
- 週に1〜2回、中・大発作となり日常生活や睡眠が障害される
(難治・最重症)
1. 乳児(2歳未満)の長期管理における薬物療法
乳児におけるプランは表11に示すようになっている。要は間欠型(ステップ1)では対症療法、軽症持続型(ステップ2)ではDSCG(disodium cromoglycate)やLTRA(leukotriene receptor antagonist)を含む抗アレルギー薬、中等症持続型(ステップ3)では吸入ステロイド薬(inhaled corticosteroid ICS)100μg/日、重症持続型(ステップ4)ではICS 150〜200μg/日にLTRAと(または)DSCGを併用するのを基本とする。テオフィリン徐放製剤使用時の留意点は表12に示す。
表11 乳児喘息の長期管理に関する薬物療法
本
治
療 なし
(発作の程度に応じた急性発作時治療を行う) 抗アレルギー薬*1 吸入ステロイド薬*4
(100μg/日) 吸入ステロイド薬*4
( 150〜200μg/日)
以下の1つまたは両者の併用
- ロイコトリエン受容体拮抗薬
- DSCG吸入*3(2〜4回/日)
加
治
療 抗アレルギー薬*1 DSCG吸入*2、*3
吸入ステロイド薬*4
(50μg/日) 以下の1つまたは複数の併用
- ロイコトリエン受容体拮抗薬
- DSCG吸入*3(2〜4回/日)
- β2刺激薬(就寝前貼付あるいは経口2回/日)*5
- テオフィリン徐放製剤(考慮)*6
(血中濃度5〜10μg/mL)
テオフィリン徐放製剤(考慮)*6
(血中濃度5〜10μg/mL)
DSCG吸入は現在の市販の液は等張液になっているので咳嗽誘発は少なくなっている。開始時はβ2刺激薬(ベネトリン(R)かメプチン(R))を少量0.05〜0.1mL混ぜて吸入した方がコンプライアンスはよい。
安定すればβ2刺激薬は抜いていく。
ICSはスペーサー付きマスクを用いればフルタイドエアー(R)、キュバール(R)が十分に使える。
2006年中にはパルミコート吸入懸濁液が上市される予定なのでここに入ってくるが力価が違い使用量がBDP、FPとは異なる。使用する吸入機器はジェット式ネブライザーで用いる。メッシュ式ネブライザーの使用の可否は今後の検討が必要である。
β2刺激薬の貼付薬は頻用されている。現在、長期使用における長期管理薬としての安全性は証明されていないので、長期間作用性吸入β2刺激薬のサルメテロールにおける注意と同様、長期間使用する時は必ず抗炎症薬、特にICSとの併用で用いなければならない。
表12 乳児喘息長期管理におけるテオフィリン徐放製剤の定期内服の位置づけと留意点
- 中等症持続型(ステップ3)以上の患者において考慮される追加治療の1つである
- 6ヵ月未満の児は原則としてテオフィリン徐放製剤による長期管理の対象とならない
- 6ヵ月以上でも、てんかんや熱性けいれんなどのけいれん性疾患を有する児には、原則として推奨されない
- けいれん性疾患の家族歴を有する児への投与は注意が必要である
- 発熱出現時には、一時減量あるいは中止するのかをあらかじめ指導しておくことが望ましい
- テオフィリン徐放製剤投与中は、テオフィリンクリアランスを抑制して血中濃度を上昇させる薬物(エリスロマイシン、クラリスロマイシンなど)の併用には十分な注意が必要である
- けいれん閾値を下げる可能性が報告されている中枢神経系への移行性の高いヒスタミンH1拮抗作用を主とする抗アレルギー薬との併用は、乳児喘息においては注意が必要であるかもしれない
- 定期内服中の坐薬の使用は推奨できない
2. 幼児の長期管理の薬物治療
2〜5歳の幼児の治療は表13に示す。
間欠型(ステップ1)では対症療法、軽症持続型(ステップ2)はDSCG、LTRAを含む抗アレルギー薬、またはICS 50〜100μg/日、中等症持続型(ステップ3)ではICS 100〜150μg/日、重症持続型ではICS 150〜300μg/日にLTRA、DSCG、テオフィリン徐放製剤(SRT)、LABA(long acting β2agonist)のいずれか複数となる。
表13 小児気管支喘息の長期管理に関する薬物療法プラン(幼児 2〜5歳)
本
治
療 発作に応じた薬物療法 抗アレルギー薬*1、*5
あるいは吸入ステロイド薬(考慮)*2
(50〜100μg/日) 吸入ステロイド薬*2
(100〜150μg/日) 吸入ステロイド薬*2、*4
(150〜300μg/日)
以下の1つまたは複数の併用
- ロイコトリエン受容体拮抗薬
- DSCG*5、*6
- テオフィリン徐放製剤*3
- 長時間作用性吸入β2刺激薬*7
加
治
療 抗アレルギー薬*1 テオフィリン徐放製剤*3 以下の1つまたは複数の併用
- ロイコトリエン受容体拮抗薬
- DSCG*5、*6
- テオフィリン徐放製剤*3
- β2刺激薬(就寝前貼付あるいは経口2回/日)*6
- 長時間作用性吸入β2刺激薬*7
幼児でも4、5歳になるとサルメテロール(セレベント25(R))のドライパウダー吸入(DPI)ができるので用いてもよいが必ずICSとの併用が必要である。
3. 年長児(6〜15歳)における長期管理の薬物療法
年長児におけるプランは表14に示す。
幼児と変わるところはステップ2でICSが抗アレルギー薬より上にきており、ステップ3、4で吸入LABAが併用薬の上位に上がっているところが主な点である。
表14 小児気管支喘息の長期管理に関する薬物療法プラン(年長児 6〜15歳)
本
治
療 発作に応じた薬物療法 吸入ステロイド薬*2
(100μg/日)
あるいは抗アレルギー薬*1 吸入ステロイド薬*2
(100〜200μg/日) 吸入ステロイド薬*2、*3
(200〜400μg/日)
以下の1つまたは複数の併用
- ロイコトリエン受容体拮抗薬
- テオフィリン徐放製剤
- 長時間作動型吸入β2刺激薬
- DSCG
- 貼付β2刺激薬
加
治
療 抗アレルギー薬*1 テオフィリン徐放製剤 以下の1つまたは複数の併用
- ロイコトリエン受容体拮抗薬
- テオフィリン徐放製剤
- 長時間作動型吸入β2刺激薬
- DSCG
- 貼付β2刺激薬
(短時間・間欠考慮)
施設入院療法
(考慮)
お知らせ
医薬品・医療機器等安全性情報は、医薬品医療機器情報提供ホームページ(https://www.pmda.go.jp/)又は厚生労働省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/)からも入手可能です。