Google Earthは分かりやすく言えば、電子地球儀である。
Google Mapの衛星写真を専用のアプリケーションにしたもので、ビヨーンと空を飛んで目的地へ行ったりできるので、距離感がつかめて面白い。ウルトラマンかなんかになった気分である。
最初は、お約束、自分の家を探してみたり、平壌やら北京やら見て喜んでいた。都市だとパリが面白かった。あんなところに住んだら、絶対に自分の家に帰れなくなるな。
山などの地形はポリゴンで示されるので、斜めから見ると、起伏が分かる。実写からポリゴンへ自然と移るので、地図と地形の関係がよく分かるのがすばらしい。
ビヨーン、ビヨーンとGoogle Earthで遊んでいるうちに、ちょっと面白い使い方を思いついた。
古典で飛ぶといえば、国宝『信貴山縁起絵巻』の飛び倉である。ご存知ない方のために、あらすじを紹介しておく。
信貴山の命蓮(みょうれん)は、いつも長者のもとへ、自分の鉢をピューッと飛ばして、お布施をもらっていた。ある日、長者が倉をあけていると、例の鉢が飛んできた。長者は「いつもいつもウザい鉢だ」と思って、この鉢を倉にしまってしまった。ところが、しばらくして、倉はぐらぐらとゆらぎ、空へ飛んでいってしまった。
びっくりしたのは長者様。あわてて飛んでいく倉を追いかける。ついたところが命蓮が修行していた信貴山である。
長者様、命蓮に「かくかくしかじかで鉢をしまったら倉が飛んでしまった。倉を返してくれ」と頼む。命蓮は「倉は飛んできたものだから返せない。それに、ここには倉もないので便利だ。だが、中身はいらないので返しましょう」という。「倉の中身は千石あります。どうやって持って帰りましょう」というと、命蓮は一俵だけ鉢に乗せて飛ばすと、残りの俵も、まるで雁が連なって飛ぶように飛んでいってしまった。
ということで、Google Earthを使えば、飛んだ倉(または鉢)の目線が味わえるわけだ。
『信貴山縁起絵巻』の巻1は「山崎長者の巻(飛び倉の巻とも)」といわれ、長者の家はサントリーの工場で有名な大山崎である。大山崎のどこかは分からないが、どこでも大して変わらないので駅をスタート地点にする。飛んでいった先は、信貴山の朝護孫子寺。ほぼ山頂だから、「信貴山」でOK。みなさんもやってみましょう。ピューッ。ちょっと高すぎるか・・・。
この飛び倉目線、なかなか爽快なのだが、長者が馬で追いかけて行ったにしてはちょっと遠すぎやしませんか?Google Earthは距離も測れる。測ってみると、直線距離で約31キロだった。
倉がどのくらいのスピードで飛んでいたのか分からないが、長者は馬で走っても最高で時速30キロぐらいだろう。走りっぱなしで1時間はかかる。ただし、当時の馬は、今のポニーくらいのサイズだから、とてもじゃないが走りっぱなしで信貴山まではいけない。休ませたりして平均時速にしたらせいぜい平均時速5〜10キロぐらいじゃないだろうか。
倉は飛んでいるので障害物はない。しかし、長者は道を行かなきゃいけないから、距離はもっと長くなる。淀川を渡し舟かなんかで渡らなくてはいけないし、信貴山は標高437メートルだから、登るのもちょっとした登山である。倉はご丁寧に長者を待っていてくれたのだろうか。それとも、ものすごくゆっくり飛んでいったんだろうか。
『信貴山縁起絵巻』の説話は『古本説話集』65話と『宇治拾遺物語』101話に入っているのだが、実はどちらにも「山崎」という地名は出てこない。『古本説話集』では「
やまさとに下衆人とて、いみじき徳人ありけり」、『宇治拾遺物語』では「
此山のふもとに、いみじき下す徳人ありけり」となっている。
絵巻の方はというと、最初の詞書が失われている。では、なぜ山崎かというと、『諸寺略記』に山崎とあること、絵巻に当時の山崎の産業だった油を絞る道具が描かれていることと、淀川(らしき大河)が描かれていることからである。
これは『古本説話集』で「やまさと(山里)」となっているのがカギである。信貴山の山里(どこかわからないけど)から飛んでいったのなら、十分追いかけられる。「と」と「き」はよく似ているので間違えやすい。おそらく、『古本説話集』そのものか、その元になったものを参照して絵巻が作られたのだろう。
というわけで、Google Earthの飛び倉気分も、あんまり意味がなかったというお話。
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