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2021年02月07日

下北沢X物語(4181)―地球温暖化と「トロッコ少年ペドロ」―

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(一)四半世紀前に上梓した処女作に信じられないような値段がついている。理由は推測するしかない。心当たりは一つしかない。この本が熱帯雨林問題に言及していることだ。美しい森林の中で自然の恩恵を受けて自給自足生活をしていた部族がいた。が、そこに忽然とブルドーザーが現れ、木々をなぎ倒してしまう。熱帯雨林の伐採である、これらは建築材として日本に輸出された。マングローブの森も伐り倒された。エビの養殖場を作るためだ。日本人はエビ好きだ、この需要に応えるために熱帯雨林が破壊された。ここで養殖されたエビのほとんどは日本に輸出された。経済大国日本は東南アジアの熱帯雨林を建築材、食材を得るために破壊した。今地球温暖化と言うが四半世紀前に原因はあった。巨大台風、大雨洪水など天候異常に見舞われるようになった。これらの原因になったのは日本の我々の消費生活にあった。熱帯雨林破壊と日本人という環境問題を記録している本として価値が出てきているのではないだろうか?

(二)
トロッコ少年ペドロは、列車が通らないときの線路を活用して物を運んでいる。これによってスラムに住む家の家計を支えていた。この線路には豪華国際特急が走っていた。屋台などがひしめくところにその汽車がやってくる。

「ビィビィヒョ〜ン、ビィビィヒョ〜ン..............」
汽笛をたて続けに鳴らして、「インラオエクスプレス」は急にスピードをゆるめた。
「どうかしたのかしら。」
「屋台のかたづけが間に合わないんだよ。」
列車のゆくてを見る。そこにはおおあわてで屋台をたたんでいる人がジーゼルのヘッドライトに映し出される。小さなほったて小屋がぎっしりと建ち並んでいるスラム街では、線路のある空間は貴重なのだ。夜はそこに食べ物屋の屋台がなん軒も並んだ。その店の持ち主は機関車の汽笛を聞きつけてようやく店を移動させる。かたづけが間に合わなくて、列車が立往生する。よくあることだ。
スピードを落とした国際特急列車「インラオエクスプレス」は、ペドロの目の前をゆっくりと通過していった。先頭の荷物車、つぎは一等寝台、それが五両、七両目はレストランカーだ。シャンデリアがキロロンと光り輝いている。それがまぶしく目に映る。その窓の一つ一つには赤いシェードのスタンドランプがともっている。
「まあきれいね。」
ミルラが思わず声をあげる。
「................」
ペドロは、口を大きく開けて、ただもう見とれているばかりであった。
テーブルをはさんで着飾った乗客が食事をしている。そのテーブルの上にはいくつものグラスが乗っていてキララと光る。頭にターバンをまいたヒゲ面の男がフォークを口もとへもっていく。それが光線のかげんでキロリと輝く。
「あれはきっとインド人よ。」
つぎの席には黒いドレスを着た金髪の女の人、向かい合っているのはスーツを着たほりの深い顔立ちの紳士、どこの国の人であろうか。そしてそのつぎには目鼻立ちが平べったい、色の白い東洋人がすわっている。
「あれはニッポン人という顔立ちね。」
都会のまん中でさまざまな人間を相手に花売りをしているミルラは一目で人種がわかるのだ。じっさい「インラオエクスプレス」はニッポン人観光客に人気があった。そのことは、ペドロも聞き知っていた。


豪華寝台列車には日本からきた観光客が大勢乗っていた。


(三)
やがて、「インラオエクスプレス」はスピードをあげてバガマダ駅の構内をカラカラコットンと通り過ぎていった。最後部車両の赤いテールランプが目にまぶしい。それがしだいしだいに小さくなってゆき、そのうちに消え去った。だが、二人はそのあともつっ立ったまま列車が過ぎ去ったほうをしばらくの間みつめていた。
「なんかゴミためにゴクラクチョウが飛んできたみたいだったね。」
夢からさめたペドロが口をきいた。
「そうね....でもわたしたちの生活とは縁のない世界だわね。」
そのミルラのいいかたがペドロにはなんだか冷たく聞こえたのだ。
「そりゃあそうだけどさ....でもさ、勉強して、少年鉄道工員の試験に受かれば、いずれは鉄道員になれるよ。そしたらあのE300型機関車の運転士にだって、乗務員にだってなれるよ。」
もちろん、それはそう簡単にはかなえられそうにもない願望であった。
「ペドロごめんね。あなたが鉄道にあこがれていることをダメだといったわけではないのよ。わたしがいっているのはね、あそこに乗っていた人、ニッポンの人たちみたいにぜいたくはできないってことをいいたいの。あの人たちはわたしたちとはまったく世界がちがうのよ。」
おみやげ屋でもアルバイトをしているミルラは知っていた。観光客として来ているニッポン人のことをだ。高額紙幣を惜し気もなく出して、ブランドもののバックや洋服を買い求める人たちのことをである。しかし、そんなことはペドロは知らない。
「そうかなあ?。」
むしろペドロはニッポンには特別な親近感を抱いていた。ペドロの姉、パメラがニッポンの首都トウキョウにでかせぎに行っているからである。いつだったかそのパメラが帰ってきたとき、ニッポンについていろんな話を聞かせてくれたことがある。
「ニッポンという国にはね、ものすごく速い鉄道、シンカンセンが走っているんだって、ねえちゃん、トウキョウからシンオオサカまで乗ったんだってさ。そのシンカンセン、『ビョ〜ン』んて飛ぶように走っていくんだってさ。まるで陸を走る飛行機のようだったといっていたよ。それからね、すごいのはね、お店やさんにいけばものがなんでもあるんだってさ。着るものだって、食べるものだってね。ものがあふれているらしいんだ。だけどねえちゃんがいうには値段がとても高いってさ。それでもニッポンジンはお金持ちだからそれをどんどん買って、それがちょっとでも古くなれば捨てちゃうんだってさ。だからさ、ゴミ捨て場にはまだ使えそうな電気製品とか家具とかがさ、いっぱい捨ててあるんだってさ。それからね、ぼくらがいつも不自由している紙切れなんかはいくらだって落っこちているっていうんだよ。ねえちゃん、ゴミ捨て場はね、まるで宝の山みたいだといっていたよ。」
ペドロは、同じアジアの一角にあるニッポンという豊かな国にあこがれを抱いていた。一度は訪れて、シンカンセンに乗りたい、もっとも速いという「ノゾミ」号にねえちゃんといっしょに乗ってみたかった。


(四)
物語を引用したが、当時の日本の様子がよく分かる。
今でもそうだがゴミ捨て場に来てゴミ拾いをしている子どももいる。こういうふうに見てくるとやはり記録としての価値はあったのだと思う。




rail777 at 18:30│Comments(0)││学術&芸術 | 都市文化

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