2013年08月31日
北山公一『日本人が「世界で戦う」ために必要な話し方』
レビュープラスさんに献本いただきました。
[フレーム]
著者はかつて日本の金融機関に勤め、アメリカ支社勤務を経て、現在は欧州系投資銀行に勤められている方です。グローバル企業(異なる国籍の人達が多く働いている企業)に勤めて、通算で15年になるそうです。
最初の『世界標準のコミュニケーション 7つの「基本ルール」』に書かれていることは、留学であれなんであれ、一年以上海外経験のある方にはつまらなく感じるかもしれません。しかし、なのでそんなのだれでもわかってるだろ、なんて思っちゃう人はさらっと読み流しましょう。けど、念の為に読んでおきましょう。「こういうものだ」と思い込んでいても、あるいは「これくらい平気だ」と思っていても、意外とまずいことをやってしまっていることもあります。人の目を通してみれば世の中がより良く見えることもあります。
第2章からは企業におけるより具体的な話に入っていきます。僕自身はアメリカの大学しか経験がないので、なかなか、へ〜と思うことがありました。人間関係や企業でのコミュニケーション。会議術やメールと電話の使い方など、日本の企業と対比されながら話されていきます。日本の企業に勤めていても誤解していることがあるかもしれませんし、今の仕事をもっと効率化させるヒントが有るかもしれません。
ファーストネームで呼んじゃう
具体的に幾つか挙げてみましょう。たとえば、欧米では相手が誰であれ、ある程度打ち解けてしまえばファーストネームで呼び合うことが多いです。これは企業においても同じだそうです。ただしファーストネームで呼ぶからといって、あくまで会社ですから、友だちになったわけではありません。上司は上司です。日本では多くの場合、呼び方と関係が対応していますが、欧米では仕事を円滑にすすめるためにファーストネームで呼び合うことはありますが、それは合理的な理由であって、人間関係がそこに対応してくるわけではないそうです。気をつけましょう。
仏の顔も2度まで?
欧米では上司に対してであれ活発に議論したり、納得できなければ自分なりの考えを言うことが普通だそうです。これは大学において学生と教授が自由闊達に議論することと似ていることころがあるかもしれません。また会議では黙っているだけでは参加しているとはみなされないそうです。これは放送作家の鈴木おさむや、アメトーーク等で有名な加地倫も同じようなことを言っていたので欧米に限ったことではないでしょう。しかし、だからといって自分の意見をしつこく言っていいということではありません。まあ考えてみれば当然のことかもしれませんが、著者いわく、「同じ案件についての意見は、2回で留めるべき」だそうです。
欧米人はエスパーではない
私の感覚ではアメリカ人というのは教えるのが好きというイメージが有ります。ただしこれは、聞かれてもいないのに教えてくれる、というのとは違うかもしれません。著者によると、欧米では互いに違うというのが前提なので、勝手に「ここがわかっていないのかも」と推論して相手を助けることは失礼に取られることもあるそうです。したがって、自分が教えて欲しい時はまたずに積極的に聞きましょう。また、他の人が困っているように見えたとしても、あえて先回りをせずに「調子はどう?」くらいが適当なのかもしれません。
エレベーターが止まるまでに
エレベーターピッチという言葉はこれまで聞いたことはなかったのですが、面白いなと思いました。これは、起業家がとある会社のエレベーターで偶然、投資家と出くわし、エレベーターに乗っている間に必死に自分の起業プランを話したそうです。エレベーターが目的の階につく頃には投資家がその彼に投資する気になっていた、という逸話からきているそうです。
これは研究でも同じで、有名な研究者が立ち止まって何十分も自分の研究の話を聞いてくれることはそうありません。したがって1分ほどで簡潔に自分の研究の話をして、少なくとも分かってもらう、あわよくば興味を持ってもらい共同研究につなげる力が求められます。著者はそのための手順として、まず導入(話のタイトルとなるようなもの。○しろまる○しろまるについて話します)をする、背景と現状について説明する、主題を伝える、自分の意見を述べる、そして締める、というものを提唱しています。これを30秒から1分で出来るようにしておけば確かに強いなと思います。
とまあ、あげればキリがありませんが、生粋の日本企業に勤めている方であれ、グローバル企業を目指す方であれ、あるいは企業を目指す、または自営の方にもためになる本ではないかと思います。ただ、ここで言うグローバル企業は欧米企業なので、アジアのグローバル企業だとまたぜんぜん違う空気があるかもしれませんね。
目次(一部抜粋)
第1章 世界標準のコミュニケーション 7つの「基本ルール」
第2章 グローバル企業の「組織と人間関係」を知ろう
上司であっても「名前」で呼ぶ理由
上司の指示を疑い、積極的に意見せよ
仕事は自分で聞いて身につける
「週末、何してた?」と聞いてはいけない理由
第3章 世界て勝ち抜くコミュニケーション 「実践テクニック」
人を動かす3種の神器「数字、ファクト、ロジック」
「結論ファースト」を徹底する
癖のある英語にどう対応する?
第4章 必ず結論を出すグローバル企業の「会議」術
会議の決定事項には逆らえない
第5章 グローバル企業流「メールと電話」の使い方
アクションにつながらないメールに意味はない
英文メールは「定型」に頼りまくれ
メールで不用意に議論しない
メールでは安易に謝らない
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著者はかつて日本の金融機関に勤め、アメリカ支社勤務を経て、現在は欧州系投資銀行に勤められている方です。グローバル企業(異なる国籍の人達が多く働いている企業)に勤めて、通算で15年になるそうです。
最初の『世界標準のコミュニケーション 7つの「基本ルール」』に書かれていることは、留学であれなんであれ、一年以上海外経験のある方にはつまらなく感じるかもしれません。しかし、なのでそんなのだれでもわかってるだろ、なんて思っちゃう人はさらっと読み流しましょう。けど、念の為に読んでおきましょう。「こういうものだ」と思い込んでいても、あるいは「これくらい平気だ」と思っていても、意外とまずいことをやってしまっていることもあります。人の目を通してみれば世の中がより良く見えることもあります。
第2章からは企業におけるより具体的な話に入っていきます。僕自身はアメリカの大学しか経験がないので、なかなか、へ〜と思うことがありました。人間関係や企業でのコミュニケーション。会議術やメールと電話の使い方など、日本の企業と対比されながら話されていきます。日本の企業に勤めていても誤解していることがあるかもしれませんし、今の仕事をもっと効率化させるヒントが有るかもしれません。
ファーストネームで呼んじゃう
具体的に幾つか挙げてみましょう。たとえば、欧米では相手が誰であれ、ある程度打ち解けてしまえばファーストネームで呼び合うことが多いです。これは企業においても同じだそうです。ただしファーストネームで呼ぶからといって、あくまで会社ですから、友だちになったわけではありません。上司は上司です。日本では多くの場合、呼び方と関係が対応していますが、欧米では仕事を円滑にすすめるためにファーストネームで呼び合うことはありますが、それは合理的な理由であって、人間関係がそこに対応してくるわけではないそうです。気をつけましょう。
仏の顔も2度まで?
欧米では上司に対してであれ活発に議論したり、納得できなければ自分なりの考えを言うことが普通だそうです。これは大学において学生と教授が自由闊達に議論することと似ていることころがあるかもしれません。また会議では黙っているだけでは参加しているとはみなされないそうです。これは放送作家の鈴木おさむや、アメトーーク等で有名な加地倫も同じようなことを言っていたので欧米に限ったことではないでしょう。しかし、だからといって自分の意見をしつこく言っていいということではありません。まあ考えてみれば当然のことかもしれませんが、著者いわく、「同じ案件についての意見は、2回で留めるべき」だそうです。
欧米人はエスパーではない
私の感覚ではアメリカ人というのは教えるのが好きというイメージが有ります。ただしこれは、聞かれてもいないのに教えてくれる、というのとは違うかもしれません。著者によると、欧米では互いに違うというのが前提なので、勝手に「ここがわかっていないのかも」と推論して相手を助けることは失礼に取られることもあるそうです。したがって、自分が教えて欲しい時はまたずに積極的に聞きましょう。また、他の人が困っているように見えたとしても、あえて先回りをせずに「調子はどう?」くらいが適当なのかもしれません。
エレベーターが止まるまでに
エレベーターピッチという言葉はこれまで聞いたことはなかったのですが、面白いなと思いました。これは、起業家がとある会社のエレベーターで偶然、投資家と出くわし、エレベーターに乗っている間に必死に自分の起業プランを話したそうです。エレベーターが目的の階につく頃には投資家がその彼に投資する気になっていた、という逸話からきているそうです。
これは研究でも同じで、有名な研究者が立ち止まって何十分も自分の研究の話を聞いてくれることはそうありません。したがって1分ほどで簡潔に自分の研究の話をして、少なくとも分かってもらう、あわよくば興味を持ってもらい共同研究につなげる力が求められます。著者はそのための手順として、まず導入(話のタイトルとなるようなもの。○しろまる○しろまるについて話します)をする、背景と現状について説明する、主題を伝える、自分の意見を述べる、そして締める、というものを提唱しています。これを30秒から1分で出来るようにしておけば確かに強いなと思います。
とまあ、あげればキリがありませんが、生粋の日本企業に勤めている方であれ、グローバル企業を目指す方であれ、あるいは企業を目指す、または自営の方にもためになる本ではないかと思います。ただ、ここで言うグローバル企業は欧米企業なので、アジアのグローバル企業だとまたぜんぜん違う空気があるかもしれませんね。
目次(一部抜粋)
第1章 世界標準のコミュニケーション 7つの「基本ルール」
第2章 グローバル企業の「組織と人間関係」を知ろう
上司であっても「名前」で呼ぶ理由
上司の指示を疑い、積極的に意見せよ
仕事は自分で聞いて身につける
「週末、何してた?」と聞いてはいけない理由
第3章 世界て勝ち抜くコミュニケーション 「実践テクニック」
人を動かす3種の神器「数字、ファクト、ロジック」
「結論ファースト」を徹底する
癖のある英語にどう対応する?
第4章 必ず結論を出すグローバル企業の「会議」術
会議の決定事項には逆らえない
第5章 グローバル企業流「メールと電話」の使い方
アクションにつながらないメールに意味はない
英文メールは「定型」に頼りまくれ
メールで不用意に議論しない
メールでは安易に謝らない
2013年08月13日
山本正明『奇跡の営業』
レビュープラスさんより献本いただきました。
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kindle版はコチラ
現場監督、営業マンになる
著者は周りからの反対に合いながらも44歳でソニー生命に転職された保険の営業マンの方です。元は何の仕事をされていたかというとゼネコンの現場監督。保険とは関係がないどころか、営業職ですらないのです。
なぜそんな方がよりによって保険の営業マンになったかというと、収入をあげたかったから。なんとも率直な理由です。しかし収入をあげたかった理由が泣かせる。奥さんが乳がんにかかり、子どもは四人。さらに住宅ローンの滞納があり、消費者金融にまで手を出す。その借金は何とか乗り切ったものの、不況で年収は20%まで減少。このままではまずい、何とか収入をあげたいとの思いから転職を決意されたそうです(それ以外にも理由はあるのですが、それは本書で。)。
ただ、私もこの本を読んで始めて知ったのですが、ソニー生命の営業マンはフルコミッション制。保険が売れなければ、お給料はなし。なんてリスキーな賭けなんでしょう。保険を売る人間が、もう少し自分の人生に保険をかけることを考えた方が良いのではないでしょうか。しかし、トップクラスの営業マンは年収数千万だそうで。夢があるといえば夢のある仕事です。
書名の「奇跡」というのは、奇跡的な展開で営業が成功していくという意味ではありません。奇跡が起きているとすれば、まったく営業に向いていないと思われた人が、460週連続で新規契約を取り続けていることでしょう。本書はそのノウハウを紹介しています。
ノウハウは「続けること」
具体的な内容は本書で確認していただければいいのですが、それができれば苦労はしないですよ、ってものだったり、そんなことで本当にうまくいくの?、そんなことで本当にお客さんは喜んでくれるの?、っていうような内容です。
ただ、著者が強調するのは、少しでもいいなと思ったら、素直に今日から実践すること。愚直に続けることです。うまくいかなければやめればいいですが、知るだけ知ってやらなければもちろん売り上げにはつながらない。著者が言うには、実践する人があまりにも少ないから、結果につながる人も少ないのだそうです。私が一つ実践してみたいなと思ったのは、嬉しいことは言葉で発し、がっかりしたことは態度で示せということです。がっかりを言葉で発すると、非難しているようなニュアンスを与える可能性があるからだそうです。何かするべきだけど何をすればいいかわからないという人にはオススメの本かもしれません。
雑談で掴む
保険の営業とはいえ、保険の話ばかりするわけではないそうです。むしろ、それ以外の話で、自分に親近感を持ってもらう、人間関係を築く、印象付けることが重要だと著者は言います。これは確かにその通りで、営業職ではない私には、著者が、ウケがいいと紹介した、音読エピソードとニューロ・ロジカル・レベルの話が1番、へーー、と思いました。詳しくは本書で、あるいはウェブで。著者曰く、お客さんにためになる、他の人にも教えてあげたいと思わせる話をして、じゃあ私がお話させていただくのでご友人を紹介してください、とつなげるのがポイントだそうです。
アンケートも営業の一部
著者の営業の相棒はアンケート用紙です。私はアンケート用紙のようなものを使って実験や調査を行っているので、商談を正しく分析するツールに使っているのかなと最初思いました。しかし実際は、かなりバイアスのかかった結果が出るようにあらかじめ設計されたアンケートをあえて使っているのだなという印象を受けました。
例えばイエスという回答が出やすい質問を並べることで、友人を紹介してもらいやすくするとか、自己肯定感を高めるために、商談の良かったところを挙げてもらうとか。商談の良かったところを挙げてもらうのは他にも、それによってお客さんの満足感をあげるという効果も狙っているそうです。
つまるところ、アンケートも商談、営業の一部なわけです。自己分析は次の商談をより上手くやるのに役立つでしょうが、今の商談をより良いものにする手段があるのなら、それを実践すべきでしょう。そのためにアンケートを活用しているのです。
楽しくなければ、○しろまる○しろまるじゃない!
最後に1番印象に残ったのは、仕事は楽しまなければいけないということです。それも趣味のように楽しむのではなく、苦しさを乗り越える楽しさを仕事から得るべきだと言います。そうすることで、困難に立ち向かうモチベーションを得ることができ、ぶれること無く仕事に向き合えるということなのかもしれません。
以前とあるテレビで、競馬の騎手の福永祐一さんが、「努力すれば勝てると思っていたけど、楽しんでるやつには勝てない」という話をされていたのを思い出しました。一流の人はその経験を通して同じような考えに至るものなのでしょうね。
営業職に限らず、仕事に行き詰まりを感じている人は一度読んでみてください。
目次(一部)
第1章 営業での成功は「紹介]なくしてありえない
・営業マンなら、山は五合目から登りなさい
・「離婚する]と言われても転職した、泥臭い理由
・新人賞獲得の転機となった黒部ダムの「60%」の話
・五〇〇〇円の交通費が生んだ「非効率の効率」
・「お願い」は二度目も三度目も遠慮してはいけない
・「紹介まで要求するのは申し訳ない」こそ失礼な行為と心得よ
・即決で契約を結ぶ人はまだまだ半人前
・商談はどんなに盛り上がっても「二時間まで」がいい
第2章 うまく話せない人ほど紹介は生まれる
・「人間力が紹介を生む」はまったくの誤解
・商品トークはまず「中学生」に聞いてもらいなさい
・「オウム返し」で得られた小さな成功体験とは?
・毎日の仕事に「点数」をつけると、じつは仕事がラクになる
・価格をアピールすれば例外なく不安が生まれる
・「いい質問ですね!」は魔法のキーワード
・会場を超満員にする劇団NANTAはなぜ「キャベツ」をばらまくのか?
・帰るときは「本音が聞こえる」までお辞儀しろ
第3章 アンケート用紙一枚で成績が劇的に伸びる
・YES、YESをくり返すと紹介も「YES」になる
・「誰でもいいのでご紹介ください」と言えば「誰も紹介できない」と返される
・断られたら必ず「がっかり感」を示しなさい
第4章 楽しくなけりゃ、営業じゃない!
・一流の人ほど仕事を楽しんでいる
・社内イベントにはむりしてでも参加したほうがいい
・地道に続けることは、道を極めること
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kindle版はコチラ
現場監督、営業マンになる
著者は周りからの反対に合いながらも44歳でソニー生命に転職された保険の営業マンの方です。元は何の仕事をされていたかというとゼネコンの現場監督。保険とは関係がないどころか、営業職ですらないのです。
なぜそんな方がよりによって保険の営業マンになったかというと、収入をあげたかったから。なんとも率直な理由です。しかし収入をあげたかった理由が泣かせる。奥さんが乳がんにかかり、子どもは四人。さらに住宅ローンの滞納があり、消費者金融にまで手を出す。その借金は何とか乗り切ったものの、不況で年収は20%まで減少。このままではまずい、何とか収入をあげたいとの思いから転職を決意されたそうです(それ以外にも理由はあるのですが、それは本書で。)。
ただ、私もこの本を読んで始めて知ったのですが、ソニー生命の営業マンはフルコミッション制。保険が売れなければ、お給料はなし。なんてリスキーな賭けなんでしょう。保険を売る人間が、もう少し自分の人生に保険をかけることを考えた方が良いのではないでしょうか。しかし、トップクラスの営業マンは年収数千万だそうで。夢があるといえば夢のある仕事です。
書名の「奇跡」というのは、奇跡的な展開で営業が成功していくという意味ではありません。奇跡が起きているとすれば、まったく営業に向いていないと思われた人が、460週連続で新規契約を取り続けていることでしょう。本書はそのノウハウを紹介しています。
ノウハウは「続けること」
具体的な内容は本書で確認していただければいいのですが、それができれば苦労はしないですよ、ってものだったり、そんなことで本当にうまくいくの?、そんなことで本当にお客さんは喜んでくれるの?、っていうような内容です。
ただ、著者が強調するのは、少しでもいいなと思ったら、素直に今日から実践すること。愚直に続けることです。うまくいかなければやめればいいですが、知るだけ知ってやらなければもちろん売り上げにはつながらない。著者が言うには、実践する人があまりにも少ないから、結果につながる人も少ないのだそうです。私が一つ実践してみたいなと思ったのは、嬉しいことは言葉で発し、がっかりしたことは態度で示せということです。がっかりを言葉で発すると、非難しているようなニュアンスを与える可能性があるからだそうです。何かするべきだけど何をすればいいかわからないという人にはオススメの本かもしれません。
雑談で掴む
保険の営業とはいえ、保険の話ばかりするわけではないそうです。むしろ、それ以外の話で、自分に親近感を持ってもらう、人間関係を築く、印象付けることが重要だと著者は言います。これは確かにその通りで、営業職ではない私には、著者が、ウケがいいと紹介した、音読エピソードとニューロ・ロジカル・レベルの話が1番、へーー、と思いました。詳しくは本書で、あるいはウェブで。著者曰く、お客さんにためになる、他の人にも教えてあげたいと思わせる話をして、じゃあ私がお話させていただくのでご友人を紹介してください、とつなげるのがポイントだそうです。
アンケートも営業の一部
著者の営業の相棒はアンケート用紙です。私はアンケート用紙のようなものを使って実験や調査を行っているので、商談を正しく分析するツールに使っているのかなと最初思いました。しかし実際は、かなりバイアスのかかった結果が出るようにあらかじめ設計されたアンケートをあえて使っているのだなという印象を受けました。
例えばイエスという回答が出やすい質問を並べることで、友人を紹介してもらいやすくするとか、自己肯定感を高めるために、商談の良かったところを挙げてもらうとか。商談の良かったところを挙げてもらうのは他にも、それによってお客さんの満足感をあげるという効果も狙っているそうです。
つまるところ、アンケートも商談、営業の一部なわけです。自己分析は次の商談をより上手くやるのに役立つでしょうが、今の商談をより良いものにする手段があるのなら、それを実践すべきでしょう。そのためにアンケートを活用しているのです。
楽しくなければ、○しろまる○しろまるじゃない!
最後に1番印象に残ったのは、仕事は楽しまなければいけないということです。それも趣味のように楽しむのではなく、苦しさを乗り越える楽しさを仕事から得るべきだと言います。そうすることで、困難に立ち向かうモチベーションを得ることができ、ぶれること無く仕事に向き合えるということなのかもしれません。
以前とあるテレビで、競馬の騎手の福永祐一さんが、「努力すれば勝てると思っていたけど、楽しんでるやつには勝てない」という話をされていたのを思い出しました。一流の人はその経験を通して同じような考えに至るものなのでしょうね。
営業職に限らず、仕事に行き詰まりを感じている人は一度読んでみてください。
目次(一部)
第1章 営業での成功は「紹介]なくしてありえない
・営業マンなら、山は五合目から登りなさい
・「離婚する]と言われても転職した、泥臭い理由
・新人賞獲得の転機となった黒部ダムの「60%」の話
・五〇〇〇円の交通費が生んだ「非効率の効率」
・「お願い」は二度目も三度目も遠慮してはいけない
・「紹介まで要求するのは申し訳ない」こそ失礼な行為と心得よ
・即決で契約を結ぶ人はまだまだ半人前
・商談はどんなに盛り上がっても「二時間まで」がいい
第2章 うまく話せない人ほど紹介は生まれる
・「人間力が紹介を生む」はまったくの誤解
・商品トークはまず「中学生」に聞いてもらいなさい
・「オウム返し」で得られた小さな成功体験とは?
・毎日の仕事に「点数」をつけると、じつは仕事がラクになる
・価格をアピールすれば例外なく不安が生まれる
・「いい質問ですね!」は魔法のキーワード
・会場を超満員にする劇団NANTAはなぜ「キャベツ」をばらまくのか?
・帰るときは「本音が聞こえる」までお辞儀しろ
第3章 アンケート用紙一枚で成績が劇的に伸びる
・YES、YESをくり返すと紹介も「YES」になる
・「誰でもいいのでご紹介ください」と言えば「誰も紹介できない」と返される
・断られたら必ず「がっかり感」を示しなさい
第4章 楽しくなけりゃ、営業じゃない!
・一流の人ほど仕事を楽しんでいる
・社内イベントにはむりしてでも参加したほうがいい
・地道に続けることは、道を極めること
2013年03月15日
若林 計志『MBA流 チームが勝手に結果を出す仕組み リーダーはたった3つの武器があればいい』
レビュープラスさんからご献本いただきました。
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まず、最初に断わっておこうと思います。タイトルの「たった」を取った方がいい。この本のいいところは、読んだらすぐに問題解決というような、いわゆるハウツー本とは違います。この本を読んで、知って、学んで、考えて、経験して、失敗して、ようやく少し光が見えてくる、それくらいの本です。しかし、きっと光は見える。だから読んでみる価値はあるのではないでしょうか。
まず目次をみてみましょう。
第1部 人を動かす3つの力
第1章 自由かスパルタか―永遠のテーマに終止符を打つ
岡田監督の悩み
求められるリーダー像が異なる
トップダウンが通用しない理由
第2章 なぜ今、マネジメントコントロールが必要か
あうんの呼吸はもう通用しない
第3章 行動コントロール
小売りのカリスマ再建人
モチベーションに依存しない仕組み
等々。。。
良くも悪くも、目次をみてもよくわからない。読んでみたいとは思うが、目次を見ただけではどんなことが書いてあるのかよくわからない。それでいいと思うんです。わかってしまう、いわゆるハウツー本はぼくはやはり価値がないと思うんです。読まなきゃわからない程度の本じゃないと本当の効き目はきっとない。
しかしながら、第1章はあんまり読む必要無いと思います。著者の経歴が後々で利いてこないので、薄めに抑えられているのでしょうが、それのせいでなんだかうすっぺらい。いっそのこと全くなしでもよかったのでは、と思ってしまう。
あえて抜き書きするなら、こんなエピソードがあります(p.40)。ある会社の社員研修でコーチングを使って「あなたは人生で何を達成したいですか?」「どんな価値観を大切にしたいですか?」と問いを繰り返していたら、「研修を受けた社員の半分近くが『自分の本当にやりたいことは、この会社にはなかった』と気づいて、退職してしまった」そうです。まあなんだか眉唾チックな話ですが(この辺がなんだか薄っぺらさを感じさせるんですが)、ようは社員に考えさせれば、それでいいというわけではないというのがここで伝えたいメッセージです。これが第1章の最後3ページくらいに書いてあるので時間のない人はここから読み始めてもいいでしょう。
さて、第2章からガッツリ読んで勉強するぞ、と思うのですが、ここもそんなに熱心に読む必要はありません。「戦略を考えること」と「戦略を実行すること」を本書では「戦略」と「実行」と呼びます、なんて説明があるのですが、これが何とも分かりにくい。どちらにも「戦略」という言葉が入っているのに、一方を戦略で、他方を実行だなんて(そのあとに出てくる外科手術と漢方薬の例えなんてもうお手上げ。なぜ外科手術が戦略を考えることなのだろう。。)。いっそ、「思考(あるいは著者も言っている「立案」)」と「実行」でいいのでは、と思ってしまうのですが、ご心配なく。この区別は本書の残りではほとんど出てきません。本書の主眼は「考え(られ)た戦略をいかに実行に移すか、そのためにいかに3つの力を使い分けるか」です。そのことが理解できればOK。
だったら、第2章もまるまる読まなくていいかというと、図や青字くらいはぱらぱらと見ておくと後の理解の助けになるかもしれません。そしてp.53くらいから真面目に読み始めましょう。特にこの章で僕が大事だなと思ったのは、「マネージャーはメッセンジャーではない」(p.60)というところです。上からメッセージを受け取ってその内容が違わないように下にメッセージを届ける人ではなく、メッセージをタスクに分解し、下に具体的な行動(あるいは目標)を打ち出すのがマネージャーというわけです。
おっと、本書を最初から通して読まれた方はとっくにお気づきのことと思うが、本書はマネージャー向けに書かれた本です。けど、個人が読むのにも十分に適した本だと思います。いかに自分の仕事の「行動」「結果」「環境」をコントロールするか。また、自分の「行動」「結果」「環境」がマネージャーにどのように期待され、コントロールされているかを意識するだけで、仕事のやりやすさがかなり変わるのではないかと思います。
そして63ページにはいよいよ3つの力について簡単な解説がある。その解説は本書に譲るが、その3つの力とはそれぞれ、「行動コントロール」「結果コントロール」「環境コントロール」というらしい。
本書にちょこちょこ実名の企業が例として挙げられているのもわかりやすくてありがたい。マクドナルドや、QBハウス(1000円カットハウス)、ブックオフや、ガリバー(中古車販売)などがその一例です。
各章にはそれぞれのコントロールのやり方と、メリット、デメリットが書いてあります。ただ、どれかを使えばいいというわけではなく、それを組み合わせるのが効果的だそうです。たとえばグーグルは「仕事時間の20%を自分の担当業務以外に使う『20%ルール』を義務づけている」そうですが、これは時間の使い方を具体的に指定するという「行動コントロール」を行うことで、イノベーションをもたらしなさいという「結果コントロール」につなげている例といえます(p.124)。
「環境コントロール」というのは理念や、風土、規律、福利厚生を整えるのことに当たるそうですが、たとえば何を褒めるか、なにを奨励し評価するか、といったことも環境コントロールの一例にあてはまるそうです。本書の例では、「ホンダ創業者の本田宗一郎氏は、会社が小さい頃から『ホンダはいつまでも修理屋でなく、世界を目指すぞ』と熱弁」していたそうですが、「実際に、『世界視点でものを考えよう』という言葉を聞いて、吹き出したヤツがいたと、本田氏自身も語って」いたそうです(p.144)。ただ、このようにして理念を口に出すことで、それに共感する人は努力をするし、それに共感できない人は会社を辞めていく。そうすることで、良い意味で努力し、切磋琢磨し合える風土が作れるわけです。
他の例では、グーグルが無料で高品質の社員食堂を持っていることはいまや有名な話になりましたが、これもただそういう福利厚生に惹かれてくる良い社員を集めようというわけではないと、著者は言っています(p.142)。写真食堂という場(環境)を提供することで、会議などのオフィシャルな場ではない社員同士の日常会話を通して会社の理念や夢、あるいはノウハウや情報といったものを共有してもらうことが狙いなわけです。そうすることで、戦略を実行に移しやすくすることができるわけです。
第2部は実践編ということで、具体的な企業を上げて3つのコントロールの観点から分析を加えています。願わくばもう少し厚く詳しく解説してほしかったです。しかし、JAL、吉田カバン、サイゼリヤ、行政機関/地方公共団体など、なかなか面白い事例が載っていますので、こちらもぜひ読んでみてください。
途中で、人を動かすマネージャー向きの本でありながら、そのような立場にない人が読んでもためになる本だと書きました。もっと具体的に自分の仕事をマネージしたいと思ったなら、著者の前著「プロフェッショナルを演じる仕事術 (PHPビジネス新書)」
も読んでみると面白いかもしれません。
[フレーム]
まず、最初に断わっておこうと思います。タイトルの「たった」を取った方がいい。この本のいいところは、読んだらすぐに問題解決というような、いわゆるハウツー本とは違います。この本を読んで、知って、学んで、考えて、経験して、失敗して、ようやく少し光が見えてくる、それくらいの本です。しかし、きっと光は見える。だから読んでみる価値はあるのではないでしょうか。
まず目次をみてみましょう。
第1部 人を動かす3つの力
第1章 自由かスパルタか―永遠のテーマに終止符を打つ
岡田監督の悩み
求められるリーダー像が異なる
トップダウンが通用しない理由
第2章 なぜ今、マネジメントコントロールが必要か
あうんの呼吸はもう通用しない
第3章 行動コントロール
小売りのカリスマ再建人
モチベーションに依存しない仕組み
等々。。。
良くも悪くも、目次をみてもよくわからない。読んでみたいとは思うが、目次を見ただけではどんなことが書いてあるのかよくわからない。それでいいと思うんです。わかってしまう、いわゆるハウツー本はぼくはやはり価値がないと思うんです。読まなきゃわからない程度の本じゃないと本当の効き目はきっとない。
しかしながら、第1章はあんまり読む必要無いと思います。著者の経歴が後々で利いてこないので、薄めに抑えられているのでしょうが、それのせいでなんだかうすっぺらい。いっそのこと全くなしでもよかったのでは、と思ってしまう。
あえて抜き書きするなら、こんなエピソードがあります(p.40)。ある会社の社員研修でコーチングを使って「あなたは人生で何を達成したいですか?」「どんな価値観を大切にしたいですか?」と問いを繰り返していたら、「研修を受けた社員の半分近くが『自分の本当にやりたいことは、この会社にはなかった』と気づいて、退職してしまった」そうです。まあなんだか眉唾チックな話ですが(この辺がなんだか薄っぺらさを感じさせるんですが)、ようは社員に考えさせれば、それでいいというわけではないというのがここで伝えたいメッセージです。これが第1章の最後3ページくらいに書いてあるので時間のない人はここから読み始めてもいいでしょう。
さて、第2章からガッツリ読んで勉強するぞ、と思うのですが、ここもそんなに熱心に読む必要はありません。「戦略を考えること」と「戦略を実行すること」を本書では「戦略」と「実行」と呼びます、なんて説明があるのですが、これが何とも分かりにくい。どちらにも「戦略」という言葉が入っているのに、一方を戦略で、他方を実行だなんて(そのあとに出てくる外科手術と漢方薬の例えなんてもうお手上げ。なぜ外科手術が戦略を考えることなのだろう。。)。いっそ、「思考(あるいは著者も言っている「立案」)」と「実行」でいいのでは、と思ってしまうのですが、ご心配なく。この区別は本書の残りではほとんど出てきません。本書の主眼は「考え(られ)た戦略をいかに実行に移すか、そのためにいかに3つの力を使い分けるか」です。そのことが理解できればOK。
だったら、第2章もまるまる読まなくていいかというと、図や青字くらいはぱらぱらと見ておくと後の理解の助けになるかもしれません。そしてp.53くらいから真面目に読み始めましょう。特にこの章で僕が大事だなと思ったのは、「マネージャーはメッセンジャーではない」(p.60)というところです。上からメッセージを受け取ってその内容が違わないように下にメッセージを届ける人ではなく、メッセージをタスクに分解し、下に具体的な行動(あるいは目標)を打ち出すのがマネージャーというわけです。
おっと、本書を最初から通して読まれた方はとっくにお気づきのことと思うが、本書はマネージャー向けに書かれた本です。けど、個人が読むのにも十分に適した本だと思います。いかに自分の仕事の「行動」「結果」「環境」をコントロールするか。また、自分の「行動」「結果」「環境」がマネージャーにどのように期待され、コントロールされているかを意識するだけで、仕事のやりやすさがかなり変わるのではないかと思います。
そして63ページにはいよいよ3つの力について簡単な解説がある。その解説は本書に譲るが、その3つの力とはそれぞれ、「行動コントロール」「結果コントロール」「環境コントロール」というらしい。
本書にちょこちょこ実名の企業が例として挙げられているのもわかりやすくてありがたい。マクドナルドや、QBハウス(1000円カットハウス)、ブックオフや、ガリバー(中古車販売)などがその一例です。
各章にはそれぞれのコントロールのやり方と、メリット、デメリットが書いてあります。ただ、どれかを使えばいいというわけではなく、それを組み合わせるのが効果的だそうです。たとえばグーグルは「仕事時間の20%を自分の担当業務以外に使う『20%ルール』を義務づけている」そうですが、これは時間の使い方を具体的に指定するという「行動コントロール」を行うことで、イノベーションをもたらしなさいという「結果コントロール」につなげている例といえます(p.124)。
「環境コントロール」というのは理念や、風土、規律、福利厚生を整えるのことに当たるそうですが、たとえば何を褒めるか、なにを奨励し評価するか、といったことも環境コントロールの一例にあてはまるそうです。本書の例では、「ホンダ創業者の本田宗一郎氏は、会社が小さい頃から『ホンダはいつまでも修理屋でなく、世界を目指すぞ』と熱弁」していたそうですが、「実際に、『世界視点でものを考えよう』という言葉を聞いて、吹き出したヤツがいたと、本田氏自身も語って」いたそうです(p.144)。ただ、このようにして理念を口に出すことで、それに共感する人は努力をするし、それに共感できない人は会社を辞めていく。そうすることで、良い意味で努力し、切磋琢磨し合える風土が作れるわけです。
他の例では、グーグルが無料で高品質の社員食堂を持っていることはいまや有名な話になりましたが、これもただそういう福利厚生に惹かれてくる良い社員を集めようというわけではないと、著者は言っています(p.142)。写真食堂という場(環境)を提供することで、会議などのオフィシャルな場ではない社員同士の日常会話を通して会社の理念や夢、あるいはノウハウや情報といったものを共有してもらうことが狙いなわけです。そうすることで、戦略を実行に移しやすくすることができるわけです。
第2部は実践編ということで、具体的な企業を上げて3つのコントロールの観点から分析を加えています。願わくばもう少し厚く詳しく解説してほしかったです。しかし、JAL、吉田カバン、サイゼリヤ、行政機関/地方公共団体など、なかなか面白い事例が載っていますので、こちらもぜひ読んでみてください。
途中で、人を動かすマネージャー向きの本でありながら、そのような立場にない人が読んでもためになる本だと書きました。もっと具体的に自分の仕事をマネージしたいと思ったなら、著者の前著「プロフェッショナルを演じる仕事術 (PHPビジネス新書)」
も読んでみると面白いかもしれません。
2012年11月18日
大前研一「進化する教育」
[フレーム]
R+さんから献本いただきました。
初の電子本の献本です。
あの大前研一さんが書かれた本で、「進化する教育-あなたの脳力は進化する」というタイトルです。表紙は意味深に類人猿がやがてホモサピエンスに進化し、直立歩行するような絵が書かれていますが、別に、そういった生物学的進化や類人猿とは重要な関係はありません。
本の主題は大前研一さんが創立された大学(文科省から認可されたとありますが、学士や修士が取れるのかは今ひとつ不確か)についてです。この学校は完全にオンラインで授業を受講し、世界中どこにいても勉強できることが売りとなっています。また、大前研一さんの作られた大学らしく、高卒よりも社会人の学生が多いことも特徴のようです。
最初に「大前研一さんが書かれた」と言いましたが、その実態はどうも口頭で話された内容のものをそのまま文章におこしているらしく、はっきりいって読みにくいです。豊富なグラフや表なども挿入されていますが、本文との関連が曖昧であったり、本文からページが離れており、あまり有用に活用されていないという印象を受けました。自前の出版局からの出版といことで、プロの手が入っていないのか、悪い意味で電子書籍らしい仕上がりとなってしまっています。(紙書籍版もありようですが)
では全く読む価値がないかというとそんなことはありません。大前研一さんが実際に子供にどのような教育をされたのかについて(かなりユニークな)具体例が挙げられており、自分の子どもの教育に不安を抱えている方や、当たり前の教育に危機感を覚えている方には、一つの提案になるかと思います。
また、大前研一さんが作られた学校で行われている、H.I.S.や経済産業省を招いてのアイデアコンテストは大学関係者にはぜひ参考にしていただきたく、自分の学生を売り込む、また学生を本気にさせる素晴らしい機会だと感じました。
本書の中で、度々、「答えのない時代」といった表現が出てくるのですが、具体的にどのような問題について答えがないのかは、述べられていないように感じました。あるいは、複数解があるということなのか、「正解」がないだけで、最適解はだせる時代なのか、とにかく、論が尽くされていないなという印象を受けました。
いずれにせよ、そういった時代には、teachでは対応できず、learn(の力?経験?)が必要ということも繰り返し語られていました。大前研一さんが作られた学校のようにすでに大学を一度出ており、会社等で充分なteachを受けてこられた方にはそれでいいのかもしれませんが、高卒で入ってすぐの人がそれで適切な教育を受けれるのかということに疑問を感じました。つまり、高卒後の他機関におけるteachなくして、大前さんの学校におけるlearnが充分な結果を生み出せるのか。このことに関しては、もっと十分に議論していただきたかったし、大学関係者が真似しようと思った時にぜひ注意していただきたい点であると思います。
教育は進化するかも、しれない。けどそれは、自然淘汰の法則ではなく、活発で入念な議論の先にあるものでありたい。そう思います。
2012年07月15日
片瀬京子・田島篤 著、野中郁次郎 解説「挑む力 世界一を獲った富士通の流儀」
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レビュープラスさんから献本いただきました。
正直、富士通っていうと、「パソコンの会社かな?」というイメージしかなかったのですが、こんなに手広くやられているなんて知らなかったです。いや、けして手広いわけではなくて、富士通の主幹業務はICT(情報通信技術)だそうです。
著者の言葉を引用すると「(富士通の)売上の中核を占めるのは、起業や官公庁にICT分野の各種サービスを提供するテクノロジーソリューション」「その分野では国内一位、世界三位となる『世界最大級の日本企業』」(p.3)なのだそうだ。知らなかった。個人向けのパソコン販売分野では、正直ぱっとしない印象があったのに、とても強くて大きな会社だったのです。
本書で紹介されている富士通が「ICTサービスを提供した事業」のいくつかを挙げると、スーパーコンピューター京、東証株式売買システム「アローヘッド」、すばる望遠鏡、アルマ望遠鏡、小惑星探査機はやぶさ、とまあ錚々たる、世界を代表するような仕事に携わってらっしゃるのです。
スーパーコンピューター京が世界一の処理速度を達成して報道されたことはいまだ記憶に新しいかと思いますが、そのタイムラインを聞いて改めて驚きました。スパコンの概念設計の議論をする場が設けられたのが2006年の中頃。その議論が10ヶ月にわたって続けられ、開発が進められていく。2009年5月にはCPUの動作実験が行われている。2009年の9月にはCPUの稼働試験に成功し、システム全体も立ち上がっていた。そしてその年の11月。あの言葉が大きく報道されたのです。
「2位じゃダメなんでしょうか」
この言葉は関係者に大きな衝撃を与えたそうです。もの造り、開発の現場において、1番を目指さずにやる意味がそもそもわからない。世界中が1番を目指しているから人類益にかなう物が作れるのではないか。現場の士気も下げかねない発言だったわけですが、そんな逆風に負けず、社長の支持と一般の人々からの応援を受けて世界一を目指す流れがいよいよ強まっていくわけです。
2010年末には当初6ペタフロップス(1ペタフロップスは1秒間に1000兆回の浮動小数点数演算を実行できるスピード)の処理速度を目指していたものの、中国の猛追をかわし切るために、8ペタを目指すことが発表される。もはや1位じゃなきゃダメなんだという空気が上層部だけでなく、現場にもしっかりと染み渡っていたのです。
副社長も「で、これで必ず一番は獲れるんだな!」という問いに、8ペタを目指すことを決めたプロジェクトのトップ、伊藤さんは「獲りますよ」(p.31)の一言。かっこいい。2011年の6月時点の評価で8ペタの処理速度を出して世界一を獲ることが決まったのです。
しかし、2011年の3月にあの東日本大震災が起こります。3.11の前にも大きな地震が起きていたらしく、スパコンに必要なケーブルを製造する宮城の工場へは「大変でしょうけれど、よろしくお願いします」と電話を入れていたそうです。そして3.11。当日は連絡が取れず、2日ほどして連絡が取れると、工場の社長は、
「わかってますよ、6月でしょう。私たちが足を引っ張るわけにはいきません。それに、この状態から世界一になれば、それが復興への足がかりになります」(p.32)との言葉。もはや世界一は富士通の目標にとどまらず、関連会社の目標であり、自分たち、そして世界中の人達のための目標となっていたのです。
かくしてスーパーコンピューター京は世界一を獲ったわけです。開発現場のリーダーを務めた吉田さんはこう言います。
「神の手と言われる外科医でも、1日10人も手術できませんよね。でも、京を創薬に必要なシミュレーションに使ってもらって新しい薬が開発され、それで例えば何百万人が助かるとなると、嬉しいじゃないですか」「世界一速いことではなく、世界一役に立つことに意味があるんですよ。役に立ったとわかると、また次にいいものを開発しようと思うはずなんですよね、絶対に」(p.35)
本のタイトルから想像できるように、プロジェクトXとプロフェッショナルを足したような本です。けどその期待に十分応えうる一書だと思います。この他にもいろいろな開発の苦労や挑戦、ぶるっとくるような上司と部下の話が出てきます。「世界一」を獲るために必要な思いや行動を学べる本です。最後に、国産初の本格的なコンピューターの開発に挑み、世界初のマルチコアプロセッサーシステムを採用したコンピューターを開発した池田敏雄さんの言葉を紹介したいと思います。(p.199)
「挑戦者に無理という言葉はない」
目次(一部)
第1章 絶対にNo.1を目指す ( スーパーコンピューター「京」)
第2章 覚悟を決めて立ち向かう (株式売買システム「アローヘッド」)
第3章 妄想を構想に変える (すばる望遠鏡/アルマ望遠鏡)
第4章 誰よりも速く (復興支援)
第5章 人を幸せにするものをつくる (「らくらくホン」シリーズ)
第6章 泥にまみれる (農業クラウド)
第7章 仲間の強みを活かす (次世代電子カルテ)
第8章 世界を変える志を持つ (ブラジル/手のひら静脈認証)
2012年07月09日
ポール・ブルーム(訳:小松淳子)「喜びはどれほど深い?―心の根源にあるもの」
[フレーム]
イェール大学の心理学部教授で発達心理学者であり、「赤ちゃんはどこまで人間なのか(Descartes’Baby)」の著者が、本著の著者です。
「"見た目ではわからない本質がものには宿っている"という認識」(p.296)である本質主義という観点から、なぜ人が絵画に喜びを感じるのか、その一方でその絵画が贋作であるとわかった途端、喜びを薄れるのか。
またなぜカニバリズムが世の中には存在するのか、なぜ子どもはごっご遊びをするのか、ホラーにハマるのか、といった人間の喜びの不思議(あるいは「なぜ?」)を本質主義という観点から説明していきます。そのポイントは、進化論から説明される適応説ではなく、進化の副産物によって我々は他の動物とは違うものにまで喜びを見出すのだという点です。
まあ全体として、本質主義からの喜びの説明なのか、進化の副産物視点からの喜びの視点なのか、全体としての一貫性は読解が難しいところです。そういうことが不安になっちゃう人は、巻末に記されている解説から読むことをおすすめします。ここを読めば、少なくともどのように一貫していると読めばいいかは分かるでしょう。その視点を持っていれば批判的な読み方も多少楽になるかもしれません。
本書で面白いなと思った視点は、普通、社会心理学などでは「本来本質の存在しない」モノ(人種や民族)に本質的な違い(血、DNAなど)があると認識することを本質主義といいます。しかし著者のポイントは、モノの見た目には現れてこない「来歴」にこそ、そのモノの価値があると認識することを本質主義といいます。
これは重要な視点で、「本質があるかないか」はしばしば不毛な議論に陥ってしまいますが(つまり何が本質かという議論は科学的議論に沿わない)、「来歴を認められるかどうか」はその判断が比較的容易で、その判断基準に従って人の価値判断がどう変化するかは案外簡単に調べることができるわけです。事実、著者はそこに関するデータは非常に豊富に紹介してくれます。
本書の素晴らしい点は、実は巻末の文献リストではないかと思います。ページごととアルファベット順(章をまたいですべてをアルファベット順にしている点が素晴らしい!)の両方で文献を探すことができます。なので、通読しなければいけない本と言うよりは、リファレンスブックとしての価値も高い本かと思います。
目次(一部省略)
はじめに 人間であることの核心
第1章 見えない"本質"がそこにある(喜びの本質)
ナチとフェルメール 外見が変わっても、虎は虎 偏見を生み出すもの
子どもは生まれながらの本質主義者
第2章 魂のお味はいかが?(食の喜び)
日常に潜むカニバリズム 勇気とミネラル・ウォーター
第3章 魅力の招待ってなに?(愛とセックスの喜び)
人間の性愛はハプニング よりよいペニスに進化?
第4章 有名人の着た服が高額で売れるわけ(物を愛する喜び)
お母さんを複製する?
第5章 なぜアートに見せられるのか?(芸術・スポーツの喜び)
音楽の運動性 性選択説を超えて IKEA効果
第6章 空想の役割(想像の喜び)
ごっこ遊び メタ表彰に注目! 偽念
第7章 怖いモノ見たさの謎を解く(安全と苦痛の喜び)
ホラーのパラドックス マゾヒズムの目的
第8章 科学と宗教、限りなさと畏怖(超越する喜び)
畏怖のシステム
イェール大学の心理学部教授で発達心理学者であり、「赤ちゃんはどこまで人間なのか(Descartes’Baby)」の著者が、本著の著者です。
「"見た目ではわからない本質がものには宿っている"という認識」(p.296)である本質主義という観点から、なぜ人が絵画に喜びを感じるのか、その一方でその絵画が贋作であるとわかった途端、喜びを薄れるのか。
またなぜカニバリズムが世の中には存在するのか、なぜ子どもはごっご遊びをするのか、ホラーにハマるのか、といった人間の喜びの不思議(あるいは「なぜ?」)を本質主義という観点から説明していきます。そのポイントは、進化論から説明される適応説ではなく、進化の副産物によって我々は他の動物とは違うものにまで喜びを見出すのだという点です。
まあ全体として、本質主義からの喜びの説明なのか、進化の副産物視点からの喜びの視点なのか、全体としての一貫性は読解が難しいところです。そういうことが不安になっちゃう人は、巻末に記されている解説から読むことをおすすめします。ここを読めば、少なくともどのように一貫していると読めばいいかは分かるでしょう。その視点を持っていれば批判的な読み方も多少楽になるかもしれません。
本書で面白いなと思った視点は、普通、社会心理学などでは「本来本質の存在しない」モノ(人種や民族)に本質的な違い(血、DNAなど)があると認識することを本質主義といいます。しかし著者のポイントは、モノの見た目には現れてこない「来歴」にこそ、そのモノの価値があると認識することを本質主義といいます。
これは重要な視点で、「本質があるかないか」はしばしば不毛な議論に陥ってしまいますが(つまり何が本質かという議論は科学的議論に沿わない)、「来歴を認められるかどうか」はその判断が比較的容易で、その判断基準に従って人の価値判断がどう変化するかは案外簡単に調べることができるわけです。事実、著者はそこに関するデータは非常に豊富に紹介してくれます。
本書の素晴らしい点は、実は巻末の文献リストではないかと思います。ページごととアルファベット順(章をまたいですべてをアルファベット順にしている点が素晴らしい!)の両方で文献を探すことができます。なので、通読しなければいけない本と言うよりは、リファレンスブックとしての価値も高い本かと思います。
目次(一部省略)
はじめに 人間であることの核心
第1章 見えない"本質"がそこにある(喜びの本質)
ナチとフェルメール 外見が変わっても、虎は虎 偏見を生み出すもの
子どもは生まれながらの本質主義者
第2章 魂のお味はいかが?(食の喜び)
日常に潜むカニバリズム 勇気とミネラル・ウォーター
第3章 魅力の招待ってなに?(愛とセックスの喜び)
人間の性愛はハプニング よりよいペニスに進化?
第4章 有名人の着た服が高額で売れるわけ(物を愛する喜び)
お母さんを複製する?
第5章 なぜアートに見せられるのか?(芸術・スポーツの喜び)
音楽の運動性 性選択説を超えて IKEA効果
第6章 空想の役割(想像の喜び)
ごっこ遊び メタ表彰に注目! 偽念
第7章 怖いモノ見たさの謎を解く(安全と苦痛の喜び)
ホラーのパラドックス マゾヒズムの目的
第8章 科学と宗教、限りなさと畏怖(超越する喜び)
畏怖のシステム
2012年06月09日
坂口さゆり「佐川萌え」
[フレーム]
レビュープラスさんから献本して頂きました。
佐川萌えというタイトルからして、僕に書評が書けるような本なのだろうかと思っていましたが、届いて本を見てみたら「もしドラ」のようなアニメ風のタッチで描かれた佐川ドライバーの表紙。むむむ、これは、、、と思っていましたが、読んでみればこれは佐川急便という素晴らしい会社が、なぜ素晴らしい会社であるのかを明らかにした本であるということが分かりました。
佐川急便ではドライバーのことを、セールスドライバーと読んでいるそうです。「単に荷物を集配するだけでなく、各々が与えられた担当エリアにおいて、セールス活動、集配業務、物流提案、料金回収」(p.2)までするのが、佐川のドライバーだそうです。
佐川急便とは、1957年に佐川清が手がけた飛脚業(p.49)から始まったそうです。それがいまや5万人の社員を擁する大企業なのです。
佐川といえば、縞シャツ。それに加え、佐川という社名もいいと思うんですよね。縞シャツを見れば「佐川急便だ」とすぐにわかるし、セールスドライバーは「佐川さん」と呼べばその人を呼びかけているようにも聞こえるし、会社全体にも言及しているように見える。そのため、セールスドライバーは常に見られているという意識が生まれ、「挨拶が良くて、いつも爽やかな佐川さんでいなければ」という意識までもが生まれてくるのでしょう。
しかし、東京店の主任、齋藤さん(この人がまたイケメン!)によれば「佐川さん」と呼ばれている間は半人前だそうです。担当ドライバーがお客様に名前で呼ばれてこそ「しっかりお客様との関係が結ばれている」(p.122)ということになるそうです。まず、集団(佐川急便)として意識されていることを意識し、その上で、個人として相手と付き合うことを意識する。この全体と個の意識が両立するところに佐川の強さがあるのかもしれません。
その佐川の強さは新人研修にあるそうなのですが、その新人研修で時代が変わっても変わらず伝えているのが?@「飛脚の精神(常にお客様に誠心誠意尽くすこと)」を理解し、伝承していくこと、?A挨拶・礼儀を体得すること、?B「やればできる」という信念を体得すること、の3点だそうです。それに加えて最近では、「思いやりを形にする」こと、「チームワーク力を強める」ことを教えているそうです。(p.64)
他にも研修では講師たちは先に誉めることを意識している(p.85)だとか、配達の際、インターフォンを押すのは一回までと会社の規定で決めているだとか(p.123)、毎朝の朝礼で行われる「今日のやるぞ宣言」(p.139)、ハイタッチ朝礼(p.140)など、へ〜と思わせることや、仕事をする上で、部下を束ねる上でためになること勉強になることがたくさん書かれています。
また第5章では今年(2012年)に初登場した女性店長の奮闘記も読み応えがあります。筆者は本当はこういう、女性が仕事で輝くだとか頑張ってる話を通して女性が元気になるような本を書きたいのじゃないかなと思うほどです。
さらに第7章では震災が発生した年の3月17日には当方地方でのサービスを開始したエピソードが描かれています。当時の社長が指示したことは「社是にもとづいて行動すればいい」とのただ一つだったそうです。(p.177) そして、自身も被災者であったセールスドライバーもまた、普段の仕事と同じ思いで、お客様に誠心誠意尽くすことを貫いたからこそ、大惨事の場にあっても人々のために動けたのではないでしょうか。
自身の働き方に悩んでいる人や、部下とどうせっせればいいのか、どう部下をまとめればいいのかと迷っている人に、おすすめの一冊です。
レビュープラスさんから献本して頂きました。
佐川萌えというタイトルからして、僕に書評が書けるような本なのだろうかと思っていましたが、届いて本を見てみたら「もしドラ」のようなアニメ風のタッチで描かれた佐川ドライバーの表紙。むむむ、これは、、、と思っていましたが、読んでみればこれは佐川急便という素晴らしい会社が、なぜ素晴らしい会社であるのかを明らかにした本であるということが分かりました。
佐川急便ではドライバーのことを、セールスドライバーと読んでいるそうです。「単に荷物を集配するだけでなく、各々が与えられた担当エリアにおいて、セールス活動、集配業務、物流提案、料金回収」(p.2)までするのが、佐川のドライバーだそうです。
佐川急便とは、1957年に佐川清が手がけた飛脚業(p.49)から始まったそうです。それがいまや5万人の社員を擁する大企業なのです。
佐川といえば、縞シャツ。それに加え、佐川という社名もいいと思うんですよね。縞シャツを見れば「佐川急便だ」とすぐにわかるし、セールスドライバーは「佐川さん」と呼べばその人を呼びかけているようにも聞こえるし、会社全体にも言及しているように見える。そのため、セールスドライバーは常に見られているという意識が生まれ、「挨拶が良くて、いつも爽やかな佐川さんでいなければ」という意識までもが生まれてくるのでしょう。
しかし、東京店の主任、齋藤さん(この人がまたイケメン!)によれば「佐川さん」と呼ばれている間は半人前だそうです。担当ドライバーがお客様に名前で呼ばれてこそ「しっかりお客様との関係が結ばれている」(p.122)ということになるそうです。まず、集団(佐川急便)として意識されていることを意識し、その上で、個人として相手と付き合うことを意識する。この全体と個の意識が両立するところに佐川の強さがあるのかもしれません。
その佐川の強さは新人研修にあるそうなのですが、その新人研修で時代が変わっても変わらず伝えているのが?@「飛脚の精神(常にお客様に誠心誠意尽くすこと)」を理解し、伝承していくこと、?A挨拶・礼儀を体得すること、?B「やればできる」という信念を体得すること、の3点だそうです。それに加えて最近では、「思いやりを形にする」こと、「チームワーク力を強める」ことを教えているそうです。(p.64)
他にも研修では講師たちは先に誉めることを意識している(p.85)だとか、配達の際、インターフォンを押すのは一回までと会社の規定で決めているだとか(p.123)、毎朝の朝礼で行われる「今日のやるぞ宣言」(p.139)、ハイタッチ朝礼(p.140)など、へ〜と思わせることや、仕事をする上で、部下を束ねる上でためになること勉強になることがたくさん書かれています。
また第5章では今年(2012年)に初登場した女性店長の奮闘記も読み応えがあります。筆者は本当はこういう、女性が仕事で輝くだとか頑張ってる話を通して女性が元気になるような本を書きたいのじゃないかなと思うほどです。
さらに第7章では震災が発生した年の3月17日には当方地方でのサービスを開始したエピソードが描かれています。当時の社長が指示したことは「社是にもとづいて行動すればいい」とのただ一つだったそうです。(p.177) そして、自身も被災者であったセールスドライバーもまた、普段の仕事と同じ思いで、お客様に誠心誠意尽くすことを貫いたからこそ、大惨事の場にあっても人々のために動けたのではないでしょうか。
自身の働き方に悩んでいる人や、部下とどうせっせればいいのか、どう部下をまとめればいいのかと迷っている人に、おすすめの一冊です。
2012年05月20日
西川伸一・倉谷滋・上田泰己「生物のなかの時間―時計遺伝子から進化まで」
[フレーム]
知的興奮か困惑か。
理化学研究所の副センター長・西川、グループディレクター・倉谷、プロジェクトリーダー・上田がざっくばらんに「生物とは」について語り合うわけです。年齢にして、60代、50代、30代の三者三様がしゃべくるわけですが、それはまるで理研のラウンジの迷いこんでしまったようで専門用語がバンバン飛び交います。
一応、あとがきで倉谷さんが生命とは「時間の中で生まれ、紡がれ、伝えられていく情報」と定義しています。
とにかくこれほどまでに読者を選ぶ本がPHP新書から出ていいのかと思うわけですが、出版社の采配か、かなりこまかく語句の注釈が本文(余白ではなく)に書かれているのでどうにか、いらいらせずに読み進めることができます。
だからといって、すぐに興奮できるほど理解できるわけではなく、もうそれは困惑の渦に飲まれそうになります。その渦に飲まれるか乗れるかは読者次第といったところでしょうか。
例えば、福岡伸一さんが打ち出した「動的平衡」というテーマを引っ張りだしてきて(p.25)、西川さんが「動的平衡的なものは生命とは無関係に、科学的にもつくりうる。つまり、動的平衡は生命にとっての一つの条件ではあっても、それが生命を語るための本質的なベースにはならないと思う」と言えば、上田さんは「議論自体、僕らの世代にとってはもうそれはあまり刺激的ではない」とばっさり切ってしまうわけです。この本と一緒にたまたま借りた「動的平衡」というタイトルの本、読むべきかな。。
一点だけ、気に入らなかったのは、西川さんのわざとらしいというかあざとい感じの関西弁でしょうか。雰囲気を出すために残したのかもしれませんが、文章を読みにくくしています。本人も自覚があるのか後半になるとやや収まる傾向があります。
上田さんといえば、時計遺伝子や体内時計の研究で日本を代表する研究者(p.73)なんですが、その人曰く、人間ではほとんどの器官の細胞で時計遺伝子が発現しているそう。ところが、男性の精巣だけではそれが見つからないそうです。上田さんも理由はわかっていないと答えるのですが、「どうりで男性の性欲ってのは時と場所を選ばないのか」なんて妙に納得してしまったりもするわけですが。。
さらには立襟鞭毛虫が海綿になるのは、「七人の侍」だといったり、多細胞生物への進化は社会主義だと行ったり、天地創造の話が出てきて弥勒の話があって劫という時間概念が飛び出す。西川さんと倉谷さんはこの手の話が好きらしくよくそういう「文系的」例えば飛び出すんですが、上田さんはそういう話には興味が無いらしく「あれ?いる?」って思うくらい黙っている時間があります。
ですので、自分が最も共感できるタイプの人間からこの鼎談を観察するっていうのも本書の楽しみ方の一つかもしれません。まあ問題は、共感できるほどの知識量を持った読み手となるとかなり限られるのかなと思いますが。
目次(一部抜粋)
第一章 生命とは何か?
半分生きている存在 クマムシ
第二章 宇宙の時間
生物進化でも、エントロピーは増大している
「記憶」とエピジェネティックス
情報を捨てるシステム
第三章 細胞の時間
時計遺伝子の起源
生物の時計は温度に依存してはいけない
暗闇に生きる生物の時計
時計をつくる
第四章 時間の発明
生物が時間を必要とするようになった契機は?
第五章 発生の時間
「後付け」にしないと複雑化できない
胚はルールブックの「後付け部分」を読んでいない
第六章 形の時間・進化の時間
淘汰がゲノムに書き込まれているはず!
相互作用と共進化
実験進化学はどこまで可能か?
第七章 脳の時間
人間に言葉を教えるのは「構造」?
子どもがまねをすることもゲノムに書かれている
言語とDNA
文字ができた最大の意味
知的興奮か困惑か。
理化学研究所の副センター長・西川、グループディレクター・倉谷、プロジェクトリーダー・上田がざっくばらんに「生物とは」について語り合うわけです。年齢にして、60代、50代、30代の三者三様がしゃべくるわけですが、それはまるで理研のラウンジの迷いこんでしまったようで専門用語がバンバン飛び交います。
一応、あとがきで倉谷さんが生命とは「時間の中で生まれ、紡がれ、伝えられていく情報」と定義しています。
とにかくこれほどまでに読者を選ぶ本がPHP新書から出ていいのかと思うわけですが、出版社の采配か、かなりこまかく語句の注釈が本文(余白ではなく)に書かれているのでどうにか、いらいらせずに読み進めることができます。
だからといって、すぐに興奮できるほど理解できるわけではなく、もうそれは困惑の渦に飲まれそうになります。その渦に飲まれるか乗れるかは読者次第といったところでしょうか。
例えば、福岡伸一さんが打ち出した「動的平衡」というテーマを引っ張りだしてきて(p.25)、西川さんが「動的平衡的なものは生命とは無関係に、科学的にもつくりうる。つまり、動的平衡は生命にとっての一つの条件ではあっても、それが生命を語るための本質的なベースにはならないと思う」と言えば、上田さんは「議論自体、僕らの世代にとってはもうそれはあまり刺激的ではない」とばっさり切ってしまうわけです。この本と一緒にたまたま借りた「動的平衡」というタイトルの本、読むべきかな。。
一点だけ、気に入らなかったのは、西川さんのわざとらしいというかあざとい感じの関西弁でしょうか。雰囲気を出すために残したのかもしれませんが、文章を読みにくくしています。本人も自覚があるのか後半になるとやや収まる傾向があります。
上田さんといえば、時計遺伝子や体内時計の研究で日本を代表する研究者(p.73)なんですが、その人曰く、人間ではほとんどの器官の細胞で時計遺伝子が発現しているそう。ところが、男性の精巣だけではそれが見つからないそうです。上田さんも理由はわかっていないと答えるのですが、「どうりで男性の性欲ってのは時と場所を選ばないのか」なんて妙に納得してしまったりもするわけですが。。
さらには立襟鞭毛虫が海綿になるのは、「七人の侍」だといったり、多細胞生物への進化は社会主義だと行ったり、天地創造の話が出てきて弥勒の話があって劫という時間概念が飛び出す。西川さんと倉谷さんはこの手の話が好きらしくよくそういう「文系的」例えば飛び出すんですが、上田さんはそういう話には興味が無いらしく「あれ?いる?」って思うくらい黙っている時間があります。
ですので、自分が最も共感できるタイプの人間からこの鼎談を観察するっていうのも本書の楽しみ方の一つかもしれません。まあ問題は、共感できるほどの知識量を持った読み手となるとかなり限られるのかなと思いますが。
目次(一部抜粋)
第一章 生命とは何か?
半分生きている存在 クマムシ
第二章 宇宙の時間
生物進化でも、エントロピーは増大している
「記憶」とエピジェネティックス
情報を捨てるシステム
第三章 細胞の時間
時計遺伝子の起源
生物の時計は温度に依存してはいけない
暗闇に生きる生物の時計
時計をつくる
第四章 時間の発明
生物が時間を必要とするようになった契機は?
第五章 発生の時間
「後付け」にしないと複雑化できない
胚はルールブックの「後付け部分」を読んでいない
第六章 形の時間・進化の時間
淘汰がゲノムに書き込まれているはず!
相互作用と共進化
実験進化学はどこまで可能か?
第七章 脳の時間
人間に言葉を教えるのは「構造」?
子どもがまねをすることもゲノムに書かれている
言語とDNA
文字ができた最大の意味
2012年04月25日
佐々木俊尚『キュレーションの時代―「つながり」の情報革命が始まる』
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まず本書の中心的問題であるはずの「キュレーター」とはなにかを、本書から拾って行きたいと思います。
いささか大量になりましたが「キュレーターってなに?」という質問の答を知りたい方はこれで十分かと思います。もう少し具体的に、あるいは詳しく知りたいい方は本書の第4章から読み始めることをお薦めします。
最近の新書などの本は科学作文が浸透しているといいますか、最初に本の内容の目的を伝えて、主な概念の定義をして、最重要の仮説、あるいは主張・主題を伝えて、それを証明するためにこのような手順で本書をは進んでいきますよ、ということを書くのが一般的になっていると思うのです。
しかし、この人は(あるいはこの本は?)いきなりエピソードではじめます。そしてずっとエピソードをだしてきます。それこそキュレーターの定義が第4章まで出てこないほどです。
インターネットの「つながり」が情報のタコツボ化(好きな人どうしが集まる、あるいは欲しい情報のみにアクセスを可能にするから)を引き起こすのではなく、むしろセレンディピティの元になるという議論はなかなか秀逸だなと思いました。筆者いわく、インターネットは情報を引き出す場ではなく、人とつながる場となる。そしてつながった関係を通して情報がもたらされる。好きな人や友人をtwitterでフォローして、その人の思いもかけなかった趣味や体験に触れて、自分では到底検索しなかったであろう情報に触れるというのがこれに当たります。
また、第1章、2章で展開されるマス消費とマスメディアの終焉と、消費が生むつながりとキュレーターというあらたなメディアの存在は考えさせるものがあります。いかに伝えるべき情報を伝えるべき人に伝えるかを論じたポイントは広告業界や、広報の仕事をされてらっしゃる方にはためになる話ではないでしょうか。詳しくは本書を読んでいただくとして、facebookやtwitterといったあらたなメディア(筆者の言葉で言えばプラットフォーム)を「マスメディア」として捉えてはいけない。複雑な人間関係のネットワークが張り巡らされた、つながりのメディアであるということ。facebookやtwitterに情報を流せばそれで広報はOKではない、ということが筆者の伝えたいことではないかと僕は理解しました。
ただ、全体としてはエピソードに偏重しすぎて、議論がやや散漫になってしまった印象があります。また震災直前の出版ということもあってすこし議論が古いかなあという感じがします。それは筆者が時代を作る人間というよりは時代を先読みする人だからかもしれません。急速にテクノロジーが変化して、その一方で大きな事件や事故によって人々の思想やパラダイムががらっと変化してしまう、ある意味では危うく不安定な現代にあっては時代を先読みすることは困難で、自ら作ることでしか予測はできないのかもしれません。
そうは言っても、学ぶことがないわけではありません。キュレーターが重要な役割を果たすことは今後も間違いありませんし、前述したように広告業界にお勤めの方はぜひ読んでいただいて自分の広告方法、広報方法を考えなおすきっかけにして頂ければと思います。「キュレーション」という言葉に引っかかった人は、第4章から読み始めれば、キュレーターの定義を手に入れることができると同時に「○しろまる章で述べたように」と逐一前の章への言及があるので気になったところだけ読むといいかもしれません。
目次(一部省略しています)
プロローグ ジョゼフ・ヨアキムの物語
第1章 無数のビオトープが生まれている
「ジスモンチを日本に呼べないかな」
第2章 背伸び記号消費の終焉
マス幻想に引きづられる映画業界 DVDバブルは来なかった 「アンビエント化」がバブルの背景に
あった HMV渋谷が閉店に追い込まれた本当の理由
第3章 「視座にチェックインする」という新たなパラダイム
「もっと新しい広告を!」 暗黙か、明示か チェックインはプライバシー不安を解消する
第4章 的外れな「タコツボ化」批判
第5章 私たちはグローバルな世界とつながっていく
マスメディアが衰退し、多様な文化が発信される時代に 中間文化はすでに消滅した プラット
フォームは文化の多様性を保護する
あとがき
まず本書の中心的問題であるはずの「キュレーター」とはなにかを、本書から拾って行きたいと思います。
「日本では博物館や美術館の「学芸員」の意味」「世界中にあるさまざまな芸術作品の情報を収集し、それらを借りてくるなどして集め、それらに一貫した何らかの意味を与えて、企画展としてなり立たせる仕事」p.210
「『作品を選び、それらを何らかの方法で他者に見せる場を生み出す行為』を通じて、アートをめぐる新たな意味や解釈、『物語』を作り出す語り手」p.211
「情報のノイズの海からあるコンテキストに沿って情報を拾い上げ、クチコミのようにしてソーシャルメディア上で流通させる行い」「情報を司る存在」p.211
「情報のノイズの海の中から、特定のコンテキストを付与することによって新たな情報を生み出す存在」p.241
「キュレーターの定義とは、収集し、選別し、そこに新たな意味やづけを与えて、共有すること」p.252
いささか大量になりましたが「キュレーターってなに?」という質問の答を知りたい方はこれで十分かと思います。もう少し具体的に、あるいは詳しく知りたいい方は本書の第4章から読み始めることをお薦めします。
最近の新書などの本は科学作文が浸透しているといいますか、最初に本の内容の目的を伝えて、主な概念の定義をして、最重要の仮説、あるいは主張・主題を伝えて、それを証明するためにこのような手順で本書をは進んでいきますよ、ということを書くのが一般的になっていると思うのです。
しかし、この人は(あるいはこの本は?)いきなりエピソードではじめます。そしてずっとエピソードをだしてきます。それこそキュレーターの定義が第4章まで出てこないほどです。
インターネットの「つながり」が情報のタコツボ化(好きな人どうしが集まる、あるいは欲しい情報のみにアクセスを可能にするから)を引き起こすのではなく、むしろセレンディピティの元になるという議論はなかなか秀逸だなと思いました。筆者いわく、インターネットは情報を引き出す場ではなく、人とつながる場となる。そしてつながった関係を通して情報がもたらされる。好きな人や友人をtwitterでフォローして、その人の思いもかけなかった趣味や体験に触れて、自分では到底検索しなかったであろう情報に触れるというのがこれに当たります。
また、第1章、2章で展開されるマス消費とマスメディアの終焉と、消費が生むつながりとキュレーターというあらたなメディアの存在は考えさせるものがあります。いかに伝えるべき情報を伝えるべき人に伝えるかを論じたポイントは広告業界や、広報の仕事をされてらっしゃる方にはためになる話ではないでしょうか。詳しくは本書を読んでいただくとして、facebookやtwitterといったあらたなメディア(筆者の言葉で言えばプラットフォーム)を「マスメディア」として捉えてはいけない。複雑な人間関係のネットワークが張り巡らされた、つながりのメディアであるということ。facebookやtwitterに情報を流せばそれで広報はOKではない、ということが筆者の伝えたいことではないかと僕は理解しました。
ただ、全体としてはエピソードに偏重しすぎて、議論がやや散漫になってしまった印象があります。また震災直前の出版ということもあってすこし議論が古いかなあという感じがします。それは筆者が時代を作る人間というよりは時代を先読みする人だからかもしれません。急速にテクノロジーが変化して、その一方で大きな事件や事故によって人々の思想やパラダイムががらっと変化してしまう、ある意味では危うく不安定な現代にあっては時代を先読みすることは困難で、自ら作ることでしか予測はできないのかもしれません。
そうは言っても、学ぶことがないわけではありません。キュレーターが重要な役割を果たすことは今後も間違いありませんし、前述したように広告業界にお勤めの方はぜひ読んでいただいて自分の広告方法、広報方法を考えなおすきっかけにして頂ければと思います。「キュレーション」という言葉に引っかかった人は、第4章から読み始めれば、キュレーターの定義を手に入れることができると同時に「○しろまる章で述べたように」と逐一前の章への言及があるので気になったところだけ読むといいかもしれません。
目次(一部省略しています)
プロローグ ジョゼフ・ヨアキムの物語
第1章 無数のビオトープが生まれている
「ジスモンチを日本に呼べないかな」
第2章 背伸び記号消費の終焉
マス幻想に引きづられる映画業界 DVDバブルは来なかった 「アンビエント化」がバブルの背景に
あった HMV渋谷が閉店に追い込まれた本当の理由
第3章 「視座にチェックインする」という新たなパラダイム
「もっと新しい広告を!」 暗黙か、明示か チェックインはプライバシー不安を解消する
第4章 的外れな「タコツボ化」批判
第5章 私たちはグローバルな世界とつながっていく
マスメディアが衰退し、多様な文化が発信される時代に 中間文化はすでに消滅した プラット
フォームは文化の多様性を保護する
あとがき
2012年04月17日
上田一生「ペンギンのしらべかた」
[フレーム]
そんなニッチな、、と思われるかもしれません。僕だってそう思います。Honzで紹介されていなければ、僕も読まなかったと思います。
しかし、そこはさすがのペンギンです。なにかと面白いネタがあるのです。あるいは筆者のなせる技なのかもしれません。こんなニッチな本を執筆し、1988年に開催された第一回国際ペンギン会議に「ただ一人のアジア人」として参加し、BBCの番組の日本語版の制作にも関わったりしてらっしゃるのですが、ご職業な高校の先生なのです。だから素人に話すのが美味いのかもしれない。
本書は、これまでのペンギン学によってわかってきた様々な知見を紹介しつつ、どのようにしてその知見が得られてきたのかについても紹介してくれています。とにかくネタが多い。
例えば「エンペラーペンギンは564メートルもの深度に達し、27分36秒間も潜水することが(p.27)」できる、とか。ペンギンは、鳥ですからね!! 胴体の最も太いところで180ミリあるヒゲペンギンが水中で受ける水の抵抗力は、直径15ミリのコインを水中で動かすときの抵抗力と同じ、とか。
ペンギンは、小さくて可愛いという印象をみなさんお持ちかもしれません。しかし、どうも半端無く食うらしいのです。ギャル曽根もびっくり。たとえば、世界中を合わせた人間の漁獲量は年間7000万トンらしいのですが(19990年代半ば)、それに対して、世界中のペンギンはなんと毎年2000万トンもの魚介類を消費しているそうです。人間の28%以上(!)なのです(p.39)。すっごい食べるのね。。
しかしながらペンギンも楽ではなくて、カッショクペリカンは満腹で帰ってきた親鳥を驚かせ、食べ物を吐かせてそれを奪うらしい。オオトウゾクカモメ(名前からして!)やオオフルマカモメは、親鳥から餌をもらったばかりのヒナを驚かせて吐かせて、餌を奪うそうです。さらにサヤハシチドリは、親鳥が、ヒナへ餌を口移ししようとしているくちばしの間に、自分のくちばしを割り込ませて餌を奪うのだそうです。ちなみに、その時に奪いそこねた餌は人間が集めてペンギンが何を食べてるのかの研究に使うそうです。(p.43)
ここだけ読むと、意外と人間は穏健なやり方で研究をしているなとおもわれるかもしれません。しかし、「ペンギンの胃の中に何がどれくらい詰まっているかを確認するために、いきなり解剖用のメスを取り出す研究者はもういない(p.41)」という記述からして、過去そして現在の研究方法は推して知るべしなわけです。気になったらぜひ本書を。
他にも、どうやってつがいになるかを説明した箇所では、低音で長く歌えるペンギンがモテるとか、体が大きくてメタボなオスがモテるとか(この2つは相関関係にあるらしい)。もしペンギンパレードなんかで、オスが伸び上がって歩いているのを見たらそれは「どう?俺かっこいいでしょ」のアピールですからぜひ褒めてあげてください。また、エンペラーとキングペンギンは、首の後にあるパッチがモテポイントらしく、それを調べるために、研究者は塗ってみたりと、まあほんとにいろんなことをしています。p.84
とにかく、この本をしっかり熟読して覚えればペンギン研究者になるための準備はもちろんのこと、そこまで専門的にやるつもりがなくても、ペンギン好きが集まる合コンでモテること間違い無いです!
さーて、そんなニッチな合コンがどこにあるかをまず探す必要がありますね。。
そんなニッチな、、と思われるかもしれません。僕だってそう思います。Honzで紹介されていなければ、僕も読まなかったと思います。
しかし、そこはさすがのペンギンです。なにかと面白いネタがあるのです。あるいは筆者のなせる技なのかもしれません。こんなニッチな本を執筆し、1988年に開催された第一回国際ペンギン会議に「ただ一人のアジア人」として参加し、BBCの番組の日本語版の制作にも関わったりしてらっしゃるのですが、ご職業な高校の先生なのです。だから素人に話すのが美味いのかもしれない。
本書は、これまでのペンギン学によってわかってきた様々な知見を紹介しつつ、どのようにしてその知見が得られてきたのかについても紹介してくれています。とにかくネタが多い。
例えば「エンペラーペンギンは564メートルもの深度に達し、27分36秒間も潜水することが(p.27)」できる、とか。ペンギンは、鳥ですからね!! 胴体の最も太いところで180ミリあるヒゲペンギンが水中で受ける水の抵抗力は、直径15ミリのコインを水中で動かすときの抵抗力と同じ、とか。
ペンギンは、小さくて可愛いという印象をみなさんお持ちかもしれません。しかし、どうも半端無く食うらしいのです。ギャル曽根もびっくり。たとえば、世界中を合わせた人間の漁獲量は年間7000万トンらしいのですが(19990年代半ば)、それに対して、世界中のペンギンはなんと毎年2000万トンもの魚介類を消費しているそうです。人間の28%以上(!)なのです(p.39)。すっごい食べるのね。。
しかしながらペンギンも楽ではなくて、カッショクペリカンは満腹で帰ってきた親鳥を驚かせ、食べ物を吐かせてそれを奪うらしい。オオトウゾクカモメ(名前からして!)やオオフルマカモメは、親鳥から餌をもらったばかりのヒナを驚かせて吐かせて、餌を奪うそうです。さらにサヤハシチドリは、親鳥が、ヒナへ餌を口移ししようとしているくちばしの間に、自分のくちばしを割り込ませて餌を奪うのだそうです。ちなみに、その時に奪いそこねた餌は人間が集めてペンギンが何を食べてるのかの研究に使うそうです。(p.43)
ここだけ読むと、意外と人間は穏健なやり方で研究をしているなとおもわれるかもしれません。しかし、「ペンギンの胃の中に何がどれくらい詰まっているかを確認するために、いきなり解剖用のメスを取り出す研究者はもういない(p.41)」という記述からして、過去そして現在の研究方法は推して知るべしなわけです。気になったらぜひ本書を。
他にも、どうやってつがいになるかを説明した箇所では、低音で長く歌えるペンギンがモテるとか、体が大きくてメタボなオスがモテるとか(この2つは相関関係にあるらしい)。もしペンギンパレードなんかで、オスが伸び上がって歩いているのを見たらそれは「どう?俺かっこいいでしょ」のアピールですからぜひ褒めてあげてください。また、エンペラーとキングペンギンは、首の後にあるパッチがモテポイントらしく、それを調べるために、研究者は塗ってみたりと、まあほんとにいろんなことをしています。p.84
とにかく、この本をしっかり熟読して覚えればペンギン研究者になるための準備はもちろんのこと、そこまで専門的にやるつもりがなくても、ペンギン好きが集まる合コンでモテること間違い無いです!
さーて、そんなニッチな合コンがどこにあるかをまず探す必要がありますね。。