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2012年05月20日

西川伸一・倉谷滋・上田泰己「生物のなかの時間―時計遺伝子から進化まで」

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知的興奮か困惑か。

理化学研究所の副センター長・西川、グループディレクター・倉谷、プロジェクトリーダー・上田がざっくばらんに「生物とは」について語り合うわけです。年齢にして、60代、50代、30代の三者三様がしゃべくるわけですが、それはまるで理研のラウンジの迷いこんでしまったようで専門用語がバンバン飛び交います。

一応、あとがきで倉谷さんが生命とは「時間の中で生まれ、紡がれ、伝えられていく情報」と定義しています。

とにかくこれほどまでに読者を選ぶ本がPHP新書から出ていいのかと思うわけですが、出版社の采配か、かなりこまかく語句の注釈が本文(余白ではなく)に書かれているのでどうにか、いらいらせずに読み進めることができます。

だからといって、すぐに興奮できるほど理解できるわけではなく、もうそれは困惑の渦に飲まれそうになります。その渦に飲まれるか乗れるかは読者次第といったところでしょうか。

例えば、福岡伸一さんが打ち出した「動的平衡」というテーマを引っ張りだしてきて(p.25)、西川さんが「動的平衡的なものは生命とは無関係に、科学的にもつくりうる。つまり、動的平衡は生命にとっての一つの条件ではあっても、それが生命を語るための本質的なベースにはならないと思う」と言えば、上田さんは「議論自体、僕らの世代にとってはもうそれはあまり刺激的ではない」とばっさり切ってしまうわけです。この本と一緒にたまたま借りた「動的平衡」というタイトルの本、読むべきかな。。

一点だけ、気に入らなかったのは、西川さんのわざとらしいというかあざとい感じの関西弁でしょうか。雰囲気を出すために残したのかもしれませんが、文章を読みにくくしています。本人も自覚があるのか後半になるとやや収まる傾向があります。

上田さんといえば、時計遺伝子や体内時計の研究で日本を代表する研究者(p.73)なんですが、その人曰く、人間ではほとんどの器官の細胞で時計遺伝子が発現しているそう。ところが、男性の精巣だけではそれが見つからないそうです。上田さんも理由はわかっていないと答えるのですが、「どうりで男性の性欲ってのは時と場所を選ばないのか」なんて妙に納得してしまったりもするわけですが。。

さらには立襟鞭毛虫が海綿になるのは、「七人の侍」だといったり、多細胞生物への進化は社会主義だと行ったり、天地創造の話が出てきて弥勒の話があって劫という時間概念が飛び出す。西川さんと倉谷さんはこの手の話が好きらしくよくそういう「文系的」例えば飛び出すんですが、上田さんはそういう話には興味が無いらしく「あれ?いる?」って思うくらい黙っている時間があります。

ですので、自分が最も共感できるタイプの人間からこの鼎談を観察するっていうのも本書の楽しみ方の一つかもしれません。まあ問題は、共感できるほどの知識量を持った読み手となるとかなり限られるのかなと思いますが。

目次(一部抜粋)
第一章 生命とは何か?
半分生きている存在 クマムシ
第二章 宇宙の時間
生物進化でも、エントロピーは増大している
「記憶」とエピジェネティックス
情報を捨てるシステム
第三章 細胞の時間
時計遺伝子の起源
生物の時計は温度に依存してはいけない
暗闇に生きる生物の時計
時計をつくる
第四章 時間の発明
生物が時間を必要とするようになった契機は?
第五章 発生の時間
「後付け」にしないと複雑化できない
胚はルールブックの「後付け部分」を読んでいない
第六章 形の時間・進化の時間
淘汰がゲノムに書き込まれているはず!
相互作用と共進化
実験進化学はどこまで可能か?
第七章 脳の時間
人間に言葉を教えるのは「構造」?
子どもがまねをすることもゲノムに書かれている
言語とDNA
文字ができた最大の意味
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