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2010年03月20日

村上春樹「中国行きのスロウ・ボート」


中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1997/04
  • メディア: 文庫




タイトルからすると、村上春樹の中国旅の紀行文かと思いますが、短編集です。

タイトルは以下のとおり。
・中国行きのスロウ・ボート
・貧乏な叔母さんの話
・ニューヨーク炭鉱の悲劇
・カンガルー通信
・午後の最後の芝生
・土の中の彼女の小さな犬
・シドニーのグリーン・ストリート

やっぱり、ブックレビューは読んですぐにやらないといけません。ということで、今回は抜書きだけ。
ニューヨーク炭鉱の悲劇
詩人は21で死ぬし、革命家とロックンローラーは24で死ぬ。それさえ過ぎちまえば、当分はなんとかうまくやっていけるだろう、というのが我々の大方の予測だった。p.98


ニューヨーク炭鉱の悲劇
「テレビには少なくともひとつだけ優れた点がある」しばらく考えたあとで彼はそう言った。「好きな時に消せる」p.107


午後の最後の芝生
記憶というのは小説に似ている、あるいは小説というのは記憶に似ている。(中略)どれだけきちんとした形に整えようと努力してみても、文脈はあっちに行ったりこっちに行ったりして、最後には文脈ですらなくなってしまう。なんだかまるでくったりした子猫を何匹か積みかさねたみたいだ。生あたたかくて、しかも不安定だ。そんなものが商品になるなんて―商品だよ―すごく恥ずかしいことだと僕はときどき思う。本当に顔が赤らむことだってある。僕が顔を赤らめると、世界中が顔を赤らめる。p.151


シドニーのグリーン・ストリート
「この世界には、たぶんあなたは御存じないと思うのですが、約三千人の羊男が住んでおります」
「アラスカにもボリヴィアにもタンザニアにもアイスランドにも、いたるところに羊男がおります。しかしこれは秘密結社とか革命組織とか宗教団体とかいったようなものではありません。会議があったり機関紙があったりするわけでもありません。要するに我々はただの羊男でありまして、羊男として平和に暮らしたいと願っているだけなのです。羊男としてものを考え、羊男として食事をとり、羊男として家庭を持ちたいのです。だからこそ我々は羊男なのです。お分かりでしょうか?」
「しかし我々の行く手に立ちはだかる人々も何人かいます。その代表的な人間がこの羊博士なんです。羊博士の本名も歳も国籍もわかりません。それが一人の人間なのか、複数の人間なのかもわかりません。しかし相当な老人であることはたしかです。そして羊博士の生きがいは羊男の耳をちぎってコレクションすることなのです」
「羊博士には羊男の行き方が気に入らないのです。だからいやがらせに耳をちぎっちゃうんです。そして喜んでいるんです」pp.268-269

2010年03月02日

村上春樹・佐々木マキ「ふしぎな図書館」


ふしぎな図書館 (講談社文庫)

ふしぎな図書館 (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008年01月16日
  • メディア: 文庫



またまた村上春樹づいています。

ある少年が不思議な図書館に迷い込んで、老人やきれいな女の子や、おなじみの羊男と出会う話です。

ポップな絵にごまかされそうになりますが、とっても悲しい話です。救いがありません。気づかれないように、村上作品の悲しい部分だけを集めて、お話をつむいでいくような感じです。

村上作品の話の筋だけを凝縮すると、こうなるのか、という感じです。だけど、筋だけだから、感心するような言葉も教訓もありません。これが人生だ、とは思いたくない。

ひょっとすると読むと損するかもしれません。

2010年03月01日

村上春樹「アフターダーク」


アフターダーク

アフターダーク

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004年09月07日
  • メディア: 単行本



村上春樹のアフターダークを読みました。

ある日の、日付が変わる直前から朝が空けるまでの一晩に、少女に起こった出来事の話です。

19歳のマリは家に帰りたくない事情があって、ファミレスで時間をつぶしています。そこにマリのお姉さんのエリの同級生である高橋が通りかかる。高橋もまた、バンドの練習で一晩を都会の中で過ごしています。マリは中国語がしゃべれるという理由で、ちょっとした「出来事」に巻き込まれます。また同じように一晩を都会の中で過ごしている白川というサラリーマンも登場します。やがて、マリと高橋は少しずつ仲良くなっていき、エリが「少し眠る」といったま二ヶ月も眠り続けていることも明かされます。

村上春樹の作品としてはちょっと珍しいかなと思うのですが、ほとんど何も起こりません。いくつかの伏線らしきものも提示されますが、ほとんど回収されません。なぞの「視点」についても何の説明も与えられません。
こういう一晩の出来事を小説にするスタイルってのは割とあることかなと思いますが、「村上さんもこういうこと、やりたかったんだな」ってのが正直な感想です。

読んでとくに損はしませんが、得もしないかな。まあ、読むことは楽しめるのでそういう意味では得できます。


いいなと思った箇所を引用。
「どうして?」とマリは尋ねる。
「それはつまり、本当に答えを聞きたくて質問しているわけ?」
「もちろん。だって答えを聞きたいから質問するんでしょう、普通」
「理屈としてはね。でもさ、中にはただ儀礼的に質問する人もいる」
「よくわからないんだけど、私がどうしてあなたに、儀礼的に質問をしなくちゃならないけ?」
「それはまあそうだ」。p.135
高橋が言っていることをちょっと最近考えていたので、くすっとしてしまいました。
「とにかくその日を境にして、こう考えるようになった。ひとつ法律をまじめに勉強してみようって。そこには何か、僕の探し求めるべきものがあるのかもしれない。法律を勉強するのは、音楽をやるほど楽しくないかもしれないけど、しょうがない、それが人生だ。それが大人になるということだ。」p.141
村上さんは登場人物によく人生について語らせます。「それが大人になるということ」の「それ」は「楽しいことばかりはしていれない」って意味と、「探し求めるべきものを探す」という意味があるなと思いました。
「ゆっくり歩け、たくさん水を飲め」p.203
高橋の人生のモットー。マリが間違えて「たくさん歩け、ゆっくり水を飲め」と言ったけど、それでも大して変わらないらしい。
高橋は電話を切って、折り畳んでポケットにしまう。ベンチから立ち上がり、ひとつ大きく伸びをして、それから空を見上げる。空はまだ暗い。さっきと同じ三日月が空に浮かんでいる。明け方近い都会の一角から見上げると、そんな大きな物体が無償で空に浮かんでいること自体、不思議に思える。p.261
月が無償で空に浮かんでいることを不思議に思う。今までなかった考えですが、そう考えてみると、月が浮かんでいてくれることは感謝ですよね。

こうやって抜き出してみると、全部、高橋の発言でした。
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