2010年08月14日
海堂 尊「医学のたまご」
医学のたまご (ミステリーYA!)
- 作者: 海堂 尊
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 2008年01月17日
- メディア: 単行本
チーム・バチスタの栄光シリーズで人気の海堂 尊さんが書いた中高生向けの小説です。といっても、連載は日経メディカルという専門医が読む雑誌上で行われたそうです。
主人公は中学一年生の男の子。要領はいいが成績は下のほう。彼の父親は世界的に有名なゲーム理論の研究者。ある日、学校で行われた潜在能力試験でそんな彼が全国一位の成績を取ってしまいます。彼の潜在能力が買われて、なんと大学の医学部で医学の研究をすることになってしまうのです。
しかし彼が一位を取ったのは彼の潜在能力が優れていたわけではなく、その試験を作ったのが彼の父親であったため。その試験の内容や問題の解き方をつぶさに聞かされていたのです。
周りにちやほやされ期待にこたえようとして、彼はそのからくりについては明かさずに周りの友人の力を借りてなんと、世紀の発見をしてしまいます。
彼の能力を買った教授は大喜びでネイチャーに論文を掲載しようとします。しかし、その発見は追試(実験結果を再現すること)がされていませんでした。教授はそれは実験助手の責任だと無理難題を押し付け、とにかく成果を急ぎます。教授は真摯に真実を求める研究者どころか、金と名声と自分の地位が大事なだけの人間だったのです。彼はそんな教授に利用されていただけなのでした。
やがて論文の不備を指摘され、彼は大学を追い出されそうになるのですが、彼の父親や周りに友人が彼を助けてくれて、事態をなんとか解決しようとするのですが。。。その顛末は本を読んでみてください。
とんでもないことに少年が巻き込まれていくなかで、友人との付き合い方、大人との付き合い方、研究の重要性、難しさなどを身をもって学びながら成長していきます。
また研究の現場についても垣間見せてくれます。
筆者の海堂さんはあとがきの中で述べています。
医療は病気を治すことが最終目的ですが、それだけで成り立つほど単純なものではありません。病人を治せば医学研究なんてどうでもいいと考えるのは大きな間違い。研究という思考法を身につけないと、客観的な治療を行うセンスを獲得することは難しいからです。研究は公平な心で行わなければならない。藤田教授のような気持ちで研究をしては絶対にいけません。もっとも現実には、藤田教授みたいな医師は少ないのですが。
中高生向けに書かれた本ではありますが、研究に向かう上での基本的な姿勢を改めて考えさせてくれます。
目次
第1章 「世界は呪文と魔方陣からできている」と、パパは言った。
第2章 「扉を開けたときには、勝負がついている」と、パパは言った。
第3章 「初めての場所でまず捜すべきは、身を隠す場所だ」と、パパは言った。
第4章 「エラーは気づいた瞬間に直すのが、最速で最良だ」と、パパは言った。
第5章 「ムダにはムダの意味がある」と、パパは言った。
第6章 「閉じた世界は必ず腐っていく」と、パパは言った。
第7章 「名前が立派なものほど、中身は空っぽ」と、藤田教授は言った。
第8章 「悪意と無能は区別がつかないし、つける必要もない」と、パパは言った。
第9章 「一度できた流れは、簡単には変わらない」と、パパは言った。
第10章 「世の中で一番大変なのは、ゴールの見えない我慢だ」と、パパは言った。
第11章 「心に飼っているサソリを解き放て」と、パパは言った。
第12章 「道は自分の目の前に広がっている」と、僕は言った。