2010年11月28日
フォーリン・アフェアーズ・リポート11月号
[フレーム]
R+さんからフォーリン・アフェアーズ・リポートの11月号を献本していただきました。
世界の動向に関心を持っている方なら名前くらいは聞いたことがある(らしい)、極めて情報化の高い外交専門誌です。そのレベルはほぼ学術誌に近いものがあるでしょう。
本当は今は非常に忙しいのでお断りしようかと思ったのですが、他でもないフォーリン・アフェアーズ・リポートの献本ですし、しかもレビューアーに選ばれたのが5名という、なんとも自尊心をくすぐる話だったのでお受けしました。
もう少しこの専門誌について説明しておきます。これは1922年にニューヨークの外交問題評議会によって創刊されたものです。過去に、冷戦の理論的支柱とされたジョージ・ケナンの「X論文」や、冷戦の大きなパラダイムの1つを提供したサミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」などの極めて重要な、時代を作ったともいえる論文を載せています。
この11月号の内容をエディターのジョームズ・ホーグ・ジュニアの言葉を借りながらみていきたいと思います。まず今月号のテーマは三つに分けることが出来ます。
一つ目は国家間そして人々の間のパワーバランスの変化、二つ目は切実な問題である気候変動、そして三つ目はアメリカの役割です。
論文寄稿者の見方のいくつかをいくつか拾い上げると、
「アジアの世界ステージへの復帰が時代を形づくる」
「互いの利害認識の隔たりが広がっていくにつれて、アメリカと中国の亀裂は大きくなる」
「気候変動を含む一連のグローバル・イシューへの国際協調は実現しそうにない」
「(テロ集団を含む)非国家アクターが、弱体な国家で力を増していく」
「市民にすぐれた教育を与える国が世界の経済競争で勝ち残る」
残念ながらどれも悲観的な見方を呈示しているといわざるを得ないと思います。いや、だからこそどれも知るべき問題であるともいえるでしょう。そのなかでも特に日本の内政にまでかかわりを持つと考えられる「人口と教育」の問題に焦点を当てている記事をここでは取り上げないと思います。
記事のタイトルは「新興国の少子化で世界経済の成長は減速する」。筆者はアメリカン・エンタープライズ研究所所属の政治経済学者、ニコラス・エバースタットです。
筆者はまず20世紀の人口増加について取り上げます。公衆衛生の劇的な拡大と改善により、1900年から2000年までの100年の間に世界の平均寿命は30歳から65歳まで延び、人口は16億人から61億人へと増大しました。
そして21世紀は出生率の低下が世界のトレンドになると主張します。日本を含む先進国の多くですでに人口減少が始まっていることが知られていますが、筆者はそのトレンドは新興国でも同様であるといいます。中国では一人っ子政策を超える少子化傾向が進んでおり、東アジア全域、東南アジア地域の多く、カリブ海周辺諸国、ラテンアメリカ地域、北アフリカから中東を経てアジアへと至る大イスラム地域、これら全ての地域で少子化傾向が出始めているといいます。まさに出生率の低下は世界中で今起こっている事態なのです。
そして、出生率の低下はそのまま生産年齢人口の規模の縮小を意味し、また高齢化社会の出現を意味します。しかも出生率の低下の原因はわかっていません。
また生産年齢人口の規模の縮小は消費支出の減少も同時に意味します。つまり、少ない人数で小さな経済を使って、たくさんの高齢者を支えなければいけない社会が世界規模で今後30年間の間にやってくることを意味するのです。
より具体的に日本の例をみてみましょう。今後20年間で日本の若い労働力は約25%減少すると考えられています。若い労働力とは15歳から29歳の人々を指します。この人々がなぜ重要かというと、世界的に見て一般にこの世代は教育レベルが高く、最新技術の知識も持っているため経済成長に大きく貢献できると考えられています。また健康状態も良いと考えられ、高年齢層の50歳〜64歳と比べると就業意欲も高いと考えられます。
今年の新卒採用率が57%程度であることを考えると、いっそ減った方がいいのでは?と考える方もいるかもしれません。しかし、若年労働力の就業率が低いということは、手にお金を持っている人が少ないことを意味し、消費が少ないことを意味します。消費が少なければ企業の収入は減り、ますます就業率は低下します。結果、経済は更に縮小するという負のスパイラルにすでに日本は片足、いやひょっとすると両足を突っ込んでいるのかもしれないのです。
日本の若い労働力が今後20年間で25%減少する一方、中国では30%、約一億人が減少するといわれています。日本に比べて中国は特に地方において教育レベルが低く、公衆衛生の問題も抱えています。また一人っ子政策のため一般的な社会で男子103〜105人に対して女子100人という男女構成比率が、中国では男子120人に対して女子100人という状態になっているそうです。
若年労働層の減少、経済の縮小、結婚難、そこから導き出される更なる人口減少。日本以上に今後成長が期待される新興国、中国の問題は深いように感じられます。
これらの問題に対して筆者が挙げる解決は端的に言って次の二点。
「教育の機会を拡大して人的資源の強化に務める」
「人々の健康状態を改善し、世界の貴重な人的資源がより効率的により多くを生産できるような経済環境を作り出す」
また筆者は特に低所得地域での教育の機会と質の改善が、地域、そしてグローバルな成長の見込みを大いに高めると論じています。
先進国においても、高齢化する社会が、健康を維持しつつ年を重ねていけるようにすることが重要であり、引退年齢を超えて働くことに否定的な認識を変える必要があると主張します。
まず一点。こういう話を聞くと「そこまでして経済は拡大しなければならないのか」という疑問を持つ方がいるかと思いますが、むしろ問題は「より少ない人数で現在の経済は維持できるか」ということです。経済は生産と消費によって支えられています。出生率の低下は生産力の低下と消費の減少を意味します。にもかかわらず、その少なくなった人々と経済によってより多くの高齢者を支えなければならないのです。したがって「経済の拡大」というよりも「維持」ができるかという問題すら危ういのです。
その上で日本の問題を考えますと、まず筆者が見落としているのは教育レベルの低下です。国内においては今さら言うまでもありませんが、就活期間の長期化によって日本の大学教育の質の低下はかなり現実化しています。私が大学で持っている授業でもよく学生が「就活に行っていたのでこの前の授業の欠席は取り消して欲しい」と言ってきます。気持ちはよく分かりますが、それが学生のため、社会のため、国のため、世界のためになるのかは疑問です。
人口減少の世界的トレンドは今や否定しがたき事実です。そして人口の問題は10年、20年の規模で津波のように我々の生活を襲います。今まさに手を打つ必要の問題です。20年後の世界を守るためにも今の教育とそれを取り巻く環境が非常に重要であることを改めて考えさせられる論文でした。
R+さんからフォーリン・アフェアーズ・リポートの11月号を献本していただきました。
世界の動向に関心を持っている方なら名前くらいは聞いたことがある(らしい)、極めて情報化の高い外交専門誌です。そのレベルはほぼ学術誌に近いものがあるでしょう。
本当は今は非常に忙しいのでお断りしようかと思ったのですが、他でもないフォーリン・アフェアーズ・リポートの献本ですし、しかもレビューアーに選ばれたのが5名という、なんとも自尊心をくすぐる話だったのでお受けしました。
もう少しこの専門誌について説明しておきます。これは1922年にニューヨークの外交問題評議会によって創刊されたものです。過去に、冷戦の理論的支柱とされたジョージ・ケナンの「X論文」や、冷戦の大きなパラダイムの1つを提供したサミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」などの極めて重要な、時代を作ったともいえる論文を載せています。
この11月号の内容をエディターのジョームズ・ホーグ・ジュニアの言葉を借りながらみていきたいと思います。まず今月号のテーマは三つに分けることが出来ます。
一つ目は国家間そして人々の間のパワーバランスの変化、二つ目は切実な問題である気候変動、そして三つ目はアメリカの役割です。
論文寄稿者の見方のいくつかをいくつか拾い上げると、
「アジアの世界ステージへの復帰が時代を形づくる」
「互いの利害認識の隔たりが広がっていくにつれて、アメリカと中国の亀裂は大きくなる」
「気候変動を含む一連のグローバル・イシューへの国際協調は実現しそうにない」
「(テロ集団を含む)非国家アクターが、弱体な国家で力を増していく」
「市民にすぐれた教育を与える国が世界の経済競争で勝ち残る」
残念ながらどれも悲観的な見方を呈示しているといわざるを得ないと思います。いや、だからこそどれも知るべき問題であるともいえるでしょう。そのなかでも特に日本の内政にまでかかわりを持つと考えられる「人口と教育」の問題に焦点を当てている記事をここでは取り上げないと思います。
記事のタイトルは「新興国の少子化で世界経済の成長は減速する」。筆者はアメリカン・エンタープライズ研究所所属の政治経済学者、ニコラス・エバースタットです。
筆者はまず20世紀の人口増加について取り上げます。公衆衛生の劇的な拡大と改善により、1900年から2000年までの100年の間に世界の平均寿命は30歳から65歳まで延び、人口は16億人から61億人へと増大しました。
そして21世紀は出生率の低下が世界のトレンドになると主張します。日本を含む先進国の多くですでに人口減少が始まっていることが知られていますが、筆者はそのトレンドは新興国でも同様であるといいます。中国では一人っ子政策を超える少子化傾向が進んでおり、東アジア全域、東南アジア地域の多く、カリブ海周辺諸国、ラテンアメリカ地域、北アフリカから中東を経てアジアへと至る大イスラム地域、これら全ての地域で少子化傾向が出始めているといいます。まさに出生率の低下は世界中で今起こっている事態なのです。
そして、出生率の低下はそのまま生産年齢人口の規模の縮小を意味し、また高齢化社会の出現を意味します。しかも出生率の低下の原因はわかっていません。
また生産年齢人口の規模の縮小は消費支出の減少も同時に意味します。つまり、少ない人数で小さな経済を使って、たくさんの高齢者を支えなければいけない社会が世界規模で今後30年間の間にやってくることを意味するのです。
より具体的に日本の例をみてみましょう。今後20年間で日本の若い労働力は約25%減少すると考えられています。若い労働力とは15歳から29歳の人々を指します。この人々がなぜ重要かというと、世界的に見て一般にこの世代は教育レベルが高く、最新技術の知識も持っているため経済成長に大きく貢献できると考えられています。また健康状態も良いと考えられ、高年齢層の50歳〜64歳と比べると就業意欲も高いと考えられます。
今年の新卒採用率が57%程度であることを考えると、いっそ減った方がいいのでは?と考える方もいるかもしれません。しかし、若年労働力の就業率が低いということは、手にお金を持っている人が少ないことを意味し、消費が少ないことを意味します。消費が少なければ企業の収入は減り、ますます就業率は低下します。結果、経済は更に縮小するという負のスパイラルにすでに日本は片足、いやひょっとすると両足を突っ込んでいるのかもしれないのです。
日本の若い労働力が今後20年間で25%減少する一方、中国では30%、約一億人が減少するといわれています。日本に比べて中国は特に地方において教育レベルが低く、公衆衛生の問題も抱えています。また一人っ子政策のため一般的な社会で男子103〜105人に対して女子100人という男女構成比率が、中国では男子120人に対して女子100人という状態になっているそうです。
若年労働層の減少、経済の縮小、結婚難、そこから導き出される更なる人口減少。日本以上に今後成長が期待される新興国、中国の問題は深いように感じられます。
これらの問題に対して筆者が挙げる解決は端的に言って次の二点。
「教育の機会を拡大して人的資源の強化に務める」
「人々の健康状態を改善し、世界の貴重な人的資源がより効率的により多くを生産できるような経済環境を作り出す」
また筆者は特に低所得地域での教育の機会と質の改善が、地域、そしてグローバルな成長の見込みを大いに高めると論じています。
先進国においても、高齢化する社会が、健康を維持しつつ年を重ねていけるようにすることが重要であり、引退年齢を超えて働くことに否定的な認識を変える必要があると主張します。
まず一点。こういう話を聞くと「そこまでして経済は拡大しなければならないのか」という疑問を持つ方がいるかと思いますが、むしろ問題は「より少ない人数で現在の経済は維持できるか」ということです。経済は生産と消費によって支えられています。出生率の低下は生産力の低下と消費の減少を意味します。にもかかわらず、その少なくなった人々と経済によってより多くの高齢者を支えなければならないのです。したがって「経済の拡大」というよりも「維持」ができるかという問題すら危ういのです。
その上で日本の問題を考えますと、まず筆者が見落としているのは教育レベルの低下です。国内においては今さら言うまでもありませんが、就活期間の長期化によって日本の大学教育の質の低下はかなり現実化しています。私が大学で持っている授業でもよく学生が「就活に行っていたのでこの前の授業の欠席は取り消して欲しい」と言ってきます。気持ちはよく分かりますが、それが学生のため、社会のため、国のため、世界のためになるのかは疑問です。
人口減少の世界的トレンドは今や否定しがたき事実です。そして人口の問題は10年、20年の規模で津波のように我々の生活を襲います。今まさに手を打つ必要の問題です。20年後の世界を守るためにも今の教育とそれを取り巻く環境が非常に重要であることを改めて考えさせられる論文でした。