赤青眼鏡(アナグリフ)の話
2025年8月15日 (金) 投稿者: メディア技術コース
1年生の前期にある"視聴覚情報処理"という授業の中で"立体視"の話をする機会があった。
人間の視覚は結構いい加減で、左右の目に入る映像のズレを人工的に作ることでいわゆる"立体を見ている"という感覚を騙して作り出すことができる。これがいわゆる"立体視"というもので、対象までの距離が変わらない平面にもかかわらず、奥行きの間隔が生じる。
この原理で左右に"視差"を考慮した画像を見せて立体風に見せる技術は結構古く、写真が発明されてからちょっとしたおもちゃで実現されていた(1860年代にはすでにあったとか)。
映画の歴史的にもこの"立体視"を利用した作品は目新しさも手伝って、1950年代、1980年代、2010年代あたりの30年周期でいわゆるブームが起きている。虎が襲ってきたり、モリが突き出たり、ギロチンがこちらに飛んでくるなど、特殊効果の臨場感的な目新しさもあるが、特に1950年代だと、当時のスター俳優が立体で見られるのが、全般的な映画ファンとしてはなんともありがたい(例えば、「ダイヤルMを廻せ!(1954)」のグレース・ケリーや、「キス・ミー・ケイト(1953)」のアン・ミラーの華麗なタップダンスなど、動く様を立体で見ることが出来る。)
さて、安価な立体視の装置として、アナグリフという技術がある。年齢が上の方ならなじみがあるかもしれないが、いわゆる赤青のフィルターを左右に入れたメガネである。
左右の赤青のフィルターを通して両目に視差を伴う違う映像が入ることで、見ているものを立体に感じる仕組みだが、筆者が子供の頃は安易に作れるため、雑誌の付録などによく付いていた。"高級な"劇場の立体映画はもっぱら偏光板で左右の目の映像を切り替えるものが多いが(その分設備が必要)、赤青というのは眼鏡を配ればよいだけなので、特別な設備は必要ない。ただし見ていて疲れやすいので、"お手軽"さを前面に出した売り方も多い印象だった。(一部、映画では赤青眼鏡方式の3Dを使った劇場用映画として、ロバート・ロドリゲス監督の2000年代の「スパイキッズ3ーD:ゲームオーバー(2003)」「シャークボーイ&マグマガール 3-D(2005)」あたりはあります。もっと古くには「飛びだす冒険映画 赤影(1969)」のような"東映まんがまつり"的なプログラムの中の作品もあり)。
なお、映画館の観客席にギミックを持ち込んだウィリアム・キャッスルの「13ゴースト(1960)」などのように、観客に赤青のセロハンフィルターを配り、"どちらを通してスクリーンを見るか"で、見える映像が変わる、という立体視以外の使い方がされた例もあるようです("イリュージョン・オー"とか名付けた手法だそうな)。
さて、赤青眼鏡の映像は左右の目に入る映像の色をそれぞれの色(赤フィルタ:左目で青色の画像が見え、青フィルタ:右目で赤色の画像が見える)にすればよいので比較的簡単に(安価に)制作できる。
実際の画像例をこのページに載せておくので、興味がある人は眼鏡を作って試してみると良い。下の映像は単純に赤青二つの立方体の間隔を変えたGIF動画である(クリックで動くかも)。
Photo_20250813150402
Photo_20250813150401
この画像、赤青眼鏡をかけずに見ていると単純だが、眼鏡をかけて試してみると画面の中にひとつの立方体が浮かぶような感覚が生じる。ただ、観察するともう一つの効果に気が付く。つまり、立体視をしている時の感覚として、同じ大きさのものが手前に来る場合と、奥に来る場合で、その大きさの実感が(画面上の大きさは変わらないにもかかわらず)変わるのだ。奥に行くほど立方体を大きく感じ、手前に来るほど立方体が小さく感じる効果が生じる。この現象はつまり、脳内で遠くにあるものほど"実際の大きさは大きく"近くにあるものほど"実際の大きさは小さい"という自動判定がなされていることに起因する。まあ、自然界ではその推論は当たり前なのだが、"騙された"視覚体験の後に、眼鏡をはずしてスクリーンに投影されているだけの2次元の映像を見るとなんとも奇妙な感覚になる。
(以上文責 「視聴覚情報処理の基礎」担当 永田)
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