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668359 田中洋子編著『動く、ドイツ 生活と仕事を支える10の改革 』(晃洋書房)をお送りいただきました。労働社会保障関係のドイツ専門家11名による内容の濃い本です。
https://www.koyoshobo.co.jp/book/b668359.html
ドイツはどう動いたのか?
どう動いていくのか?
基礎保障(ベーシックセキュリティ),全国民向け継続教育(リスキリグ),労使共同決定,最低賃金2200円,協同組合住宅・・・・・・
思い切った法制度改革,現場発の新しい試み.日本が改革に踏み出せず停滞していた間に,ドイツは次々と社会の仕組みを変えてきた.
刻々と変わる状況の中で,人々の生活をリスクや浮き沈みからどう守るのか.時代に沿ったよりよい働き方を,対等な話し合いでつくれないか.社会国家というグランドデザインの下,ドイツの改革は生活と仕事をどう変えてきたかを描き出す.躍進する「ドイツ・ファースト」の党AfDの分析も必見.
詳細目次は下記の通りですが、この間断片的に紹介されてきた近年のドイツ労働社会政策の動向が、極めて手際よく整理されていて、大変勉強になります。
ただ、あとがきにあるように、事情があって出版が延びた間に、今年の総選挙で極右政党のAfD(ドイツのための選択肢)が大躍進したため、そっちの分析も急遽付け加えたために、読後感がいささか複雑なものになってしまう感はあります。
序 章 ドイツはどう動いてきたのか [田中洋子]
第1節 2025年 動くドイツの政治
第2節 「失われた30年」の間に改革が進んだドイツ
第3節 ドイツが目指す社会像とは?――社会国家
第4節 社会的保障はどう展開したのか――生活を支える改革
第5節 社会的公正はどう展開したのか――仕事を支える改革
第1章 生活保障+教育支援としての基礎保障 [田中洋子]
第1節 ベーシックセキュリティVS ベーシックインカム
第2節 基礎保障として何が保障されるのか
第3節 ジョブセンターの組織と活動
第4節 教育訓練支援を通じた経済的自立の事例
第5節 難民・移民の場合
第6節 基礎保障制度の限界
第7節 ベーシックセキュリティの意義と課題
第2章 求職者基礎保障制度改革=市民手当(Bürgergeld) [布川日佐史]
第1節 市民手当への改革と変化
第2節 基準需要額の引き上げ
第3節 制度の性格の転換
第4節 巻き返しの中で
第3章 生涯にわたる職業訓練を国が支える仕組み [大重光太郎]
――継続職業訓練政策の現状と展望――
第1節 なぜドイツの継続職業訓練に注目するのか?
第2節 継続訓練政策の流れ 1969―2023年
第3節 失業者,求職者への支援
第4節 個人のイニシアチヴへの支援
第5節 企業レベルでの教育訓練
第6節 まとめと日本への示唆
第4章 ドイツの介護保険と家族介護 [森周子]
第1節 家族介護に配慮したドイツの介護保険
第2節 介護保険制度の概要
第3節 家族介護の現状
第4節 家族介護者への配慮と負担軽減のための対応
第5節 介護手当のみの受給者数が多い理由
第6節 家族介護のさらなる負担軽減に向けた取り組み
第7節 家族介護の持続可能性を高めるために
第5章 高齢者の自立した居住に向けた非営利住宅組織の試み [永山のどか]
――日々の暮らしを社会が支える仕組み――
第1節 日本は営利,ドイツは非営利で―高齢者の自立した居住に向けて
第2節 非営利住宅組合から生まれた日常生活支援サービス
第3節 非営利住宅組合による「サービス付き住居」事業
第4節 非営利住宅企業から生まれた「サービス付き住居」――「ビーレフェルト・モデル」事業
第5節 非営利住宅組織を起点にして拡大する居住福祉ネットワーク
コラム1 ドイツは100万人の難民をどうやって受け入れたのか? [田中洋子]
――2015-16年のベルリンの現場から――
第6章 ドイツ企業の共同決定の進化 [石塚史樹]
――「未来協約」を通じた企業組織変革――
第1節 経営側と対等に交渉する従業員代表委員会
第2節 従業員代表委員会はなぜ行動を起こしたのか
第3節 従業員代表委員会はどのような対応を行ったのか
第4節 従業員代表委員会はどのような成果を得たのか
第5節 組織変革の形成に関与する従業員代表委員会
第7章 法定最低賃金をめぐるポリティクス [岩佐卓也]
第1節 最賃を大きく引き上げたドイツ
第2節 疑似協約交渉・協約準拠方式の展開
第3節 「疑似協約交渉・協約準拠」の限界と法改正
第4節 おわりに――「ポリティクス」から見えてくるもの
第8章 ドイツにおける柔軟な労働時間 [ハルトムート・ザイフェルト(田中洋子訳)]
第1節 労働時間の可変的な配置
第2節 労働時間の柔軟化
第3節 労働時間口座
第4節 選択労働時間制
第5節 合理化手段か,それとも時間主権か?
第6節 時間自律性の実現
第9章 ドイツ労働時間法制の新たな動向 [山本陽大]
――労働時間の把握・記録をめぐる法と政策――
第1節 労働時間の把握・記録義務をめぐって「動く,ドイツ」
第2節 関連法制の概説
第3節 CCOO 事件欧州司法裁判所先決裁定
第4節 その後の政策動向――モバイルワーク法案
第5節 2022年9月13日連邦労働裁判所決定
第6節 労働時間法改正案
第7節 今後の見通しは?――2025年連立協定
第10章 取引先の働き方にも責任をもつ仕組み [松丸和夫]
第1節 サプライチェーンに対するグローバル規制の必要性
第2節 経済のグローバル化の先に見えてきたもの
第3節 遅れて始まったドイツの立法化への対応
第4節 ILO の「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」
第5節 ドイツの代表的企業の「ビジネスと人権原則」への取組
第6節 LkSG の目指すもの
第7節 LkSG 施行から2年を経て
第8節 市場経済における公正競争と公正取引
コラム2 派遣労働の現場 [ヨナタン・クラウター(田中洋子 監修)]
終 章 2025年までのドイツ,2025年からのドイツ [田中洋子]
第1節 改革が社会を変えてきたドイツ
第2節 AfD はどんな政党なのか?
第3節 AfD の労働・社会保障政策とは?
第4節 「AfD のパラドックス」とその行方
結 語
あとがき
AfDは、移民政策では過激な排斥論を展開する一方で、労働社会政策では従来の改革路線に沿っていたのですが、2020年のコロナ禍をきっかけとして、他政党とは一線を画した反体制的な抗議政党となり、これまでの政府の政策に全面的に反対し、それによって既成政治に不満を持つ人びとを引きつける方向に進んできたといいます。
それは、党の中心に資産所有者を位置づけ、外国人、移民、難民だけではなくドイツ国民も含め基礎保障、市民手当の削減、最低賃金の柔軟化など、新自由主義的な方向に転換しており、これは経済的に厳しい状況にある労働者・失業者が多い支持者との乖離を広げているが、それでもこれらの人びとは、自分たちの苦しい状況を移民に対する憎しみに結びつけ、範囲民政策を掲げる唯一の政党であるAfDこそがこの状況を改善してくれる存在だと考えており、AfDが伸長すればするほどその支持者が経済的に苦しくなる「AfDのパラドックス」は今後も続くと予想しています。
2025年9月30日 (火) | 固定リンク
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たいへん興味深い本をご紹介いただきまして、どうもありがとうございます。いずれ熟読させてもらいたいです。
それにしても、最後の「AfDのパラドックス」というのは、完全なトランプ共和党のコピー路線ですね。トランプは早速、富裕層に減税を行う一方で、社会保障予算を削減しています。「極右インターナショナル」が存在する、ということなのでしょう。
参政党はこれらの政党との交流を強化しており、高市氏など自民党内右派もこれに接近しようとしていますが、日本にはどのような形で影響が及ぶことになるのか、注視していきたいです。
投稿: SATO | 2025年9月30日 (火) 12時10分