◇ 18. 愛知用水二期事業の水路改築
中部圏に対する農業用水や都市用水の安定供給を図るには、牧尾ダムだけでは、その効果を十分に果すことは不可能であり、兼山取水口、導水施設、幹線水路(延長112.10?q)、支線水路(延長1,063?q)、調整池等水資源開発施設の機能が当然必要とされる。これらの施設は、殆んど昭和36年に完成している。だが、通水から20年経て、新たな都市用水の需要増加と水路等の老朽化が進んだ。これらに対処するために愛知用水二期事業として水路施設の全面改築が、昭和56年度から平成16年度にかけて行われた。23年間の歳月を費やしている。さらにその間、水需要増加対策のために愛知用水の新たな水源施設として、木曽川上流に味噌川ダム(平成8年完成)、阿木川ダム(平成3年完成)が建設された。水路等改築について、水資源機構愛知用水総合事業部編・発行『愛知用水二期事業工事誌 水路編』(平成17年)、同『愛知用水二期事業工事誌 水路施工例』(平成17年)により、主な施設改良と新設をみてみたい。
『愛知用水二期事業工事誌 水路編』
『愛知用水二期事業工事誌 水路施工例』
◇ 19. 愛知用水の水利用変遷
愛知用水の受益地では、昭和30代の始めころから製造業中心とする産業が盛んであった。昭和36年愛知用水施設の供用開始を機に二・三次産業も一段と加速した。
水利用の変遷をみてみると、愛知用水の年間使用量は、昭和38年度1.4億m3であったのが、平成17年度には4.6億m3と、実に3.3倍に増加している。一方、農業用水と都市用水(水道用水・工業用水)の使用水量割合は、昭和38年度では、農業用水65%、都市用水35%であったが、平成17年度では、それが逆転し、農業用水23%、都市用水77%と、大きく変化している。
もう少し、それぞれの用水利用の変遷を追ってみる。
?@ 農業用水
愛知用水通水後の受益地域は、基盤整備の進捗に伴って、生産性の高い露地野菜、施設園芸、果樹、畜産等を主体とした計画的な営農が可能となった。
愛知用水地域の農業産出額について対比すると、昭和38年度約255.7億円であったが、平成16年度には664.1億円となった。とくに、果実は約12.8億円から約75.8億円に、花卉は、約2.6億円から約75.5億円と大きく増加している。
?A 水道用水
愛知用水の通水初期にあたる昭和38年度の給水人口は、愛知県瀬戸市から南知多町に及ぶ10市4町の人口20万人であった。その後、愛知用水地域の給水人口は、周辺地域の人口増加と長良導水の利用も含めた水道事業の整備・普及により、平成16年度には、12市7町の約126万人に増加している。
このうち愛知用水を通じての供給は約83万人である。また、愛知用水の水源である牧尾ダムからは、岐阜県の東濃地域約30万人にも供給されている。
?B 工業用水
岐阜県可児市と愛知県の名古屋市南部及び名古屋市南部臨海工業地帯を含む、6市3町の約80の事業所に供給し、鉄鋼業をはじめ化学工業等の諸産業の水需要に対応している。愛知用水通水後、企業進出は著しく、昭和38年度の愛知用水関係市町製造品出荷額は、約3,259億円であったが、平成16年度は3兆6,000億円に達している。
このように愛知用水の水利用の変遷をたどってみると、久野庄太郎らが始めた愛知用水運動はここに大きく稔り、中部圏の文化と経済発展の大基盤を創り上げたといえる。