このサイトではJavaScriptを使用したコンテンツ・機能を提供しています。JavaScriptを有効にするとご利用いただけます。
ページID:107579更新日:2023年1月21日
ここから本文です。
水素エンジンとは、水素の燃焼反応により生じるエネルギーを利用する内燃機関です。近年開発が進み、メディアで紹介されることも増えましたが、ガソリン車や電気自動車、燃料電池自動車とはどのように異なるか気になる方もいるでしょう。
この記事では、水素エンジンの基本情報に加え、水素エンジンの研究開発・実用化に向けて活用が期待される「グリーン水素」について紹介します。山梨県におけるグリーン水素生産についても触れるため、県民の皆さまはぜひご一読ください。
水素エンジンとは、水素の燃焼反応により動力を発生させる仕組みの内燃機関です。
水素の燃焼反応では水(H2O)と熱エネルギーが得られ、理論上は二酸化炭素(CO2)が発生しません。温室効果ガスの1つである二酸化炭素が発生しない水素エンジンは、環境負荷が低いと言われています。
水素の燃焼反応の化学反応式
2H2+O2=2H2O
以下では、水素を動力源とする水素エンジン車と、他動力方式の自動車との違いを説明します。
自動車と聞いたとき、多くの方がイメージするものが「ガソリン車」でしょう。
ガソリン車とは、ガソリンを動力源とする自動車です。ガソリンエンジンは、燃料のガソリンと空気を混合して燃焼させることで、動力を発生させる仕組みとなっています。
ガソリン(主成分:イソオクタン)の燃焼反応の化学反応式
C8H18+12.5O2=8CO2+9H2O
水素エンジン車とガソリン車の主な違いは、下記表のとおりです。
水素エンジン車 | ガソリン車 | |
---|---|---|
動力 | 水素エンジン | ガソリンエンジン |
燃料 | 水素 | ガソリン |
燃焼反応の生成物 | 水 | 二酸化炭素、水 |
走行時に、二酸化炭素を理論上は生成しない自動車が水素エンジン車、二酸化炭素を生成する自動車がガソリン車です。なお、いずれのエンジンでも水と二酸化炭素以外にも窒素酸化物などの有害物質が発生することがあります。
近年は「電気自動車」と呼ばれる自動車も登場しています。
電気自動車とは、蓄電池にたくわえられた電気を動力源として、モーターで駆動する自動車です。蓄電池は車体に搭載されており、充電プラグを通して外部から充電する仕組みとなっています。
水素エンジン車と電気自動車の主な違いは、下記表のとおりです。
水素エンジン車 | 電気自動車 | |
---|---|---|
動力 | 水素エンジン | 蓄電池とモーター |
燃料 | 水素 | なし |
燃焼反応の生成物 | 水 | なし |
電気自動車はそもそも内燃機関を持たないため燃料を必要とせず、燃焼反応の生成物もない点が、水素エンジン車との大きな違いです。
燃料電池自動車とは、燃料電池の発電によって得られる電力を動力源とする自動車です。燃料電池自動車には水素タンクが搭載されていて、水素タンクから供給される水素と空気中の酸素が起こす化学反応により、燃料電池は発電を行っています。
水素エンジン車と燃料電池自動車はどちらも水素燃料を使用し、動力を得る過程で水素と酸素を反応させる点も共通しています。
下記の表は、水素エンジン車と燃料電池自動車を4つのポイントで比較したものです。
水素エンジン車 | 燃料電池自動車 | |
---|---|---|
動力 | 水素エンジン | 燃料電池とモーター |
燃料 | 水素 | 水素 |
燃料の使用目的 | 水素の燃焼反応によりエンジンを駆動する | 水素と酸素の化学反応により発電し、モーターを駆動する |
燃焼反応(発電)の生成物 | 水 | 水 |
水素エンジン車は水素を燃焼させてエネルギーを生成するのに対し、燃料電池自動車は水素と酸素の化学反応により電気エネルギーを生成しており、水素を燃焼させるわけではありません。
水素エンジンは、自動車のカーボンニュートラル化における選択肢の1つとして、近年研究が進められているテクノロジーです。
日本では、トヨタ自動車が水素エンジン車の市販化を目標として研究開発を進めています。また海外では、ダイムラーやボッシュ、IAVなどの大手メーカー・自動車関連企業が水素エンジン開発を行っています。自動車分野以外では、大手航空機メーカーのエアバスが水素を燃料とする航空機の開発を進めており、2035年までの就航を目指す計画を発表しました。
水素エンジンは実用化や普及におけるさまざまな課題があります。しかし、自動車業界を中心として研究開発が世界規模で進められており、将来性のあるテクノロジーと言えるでしょう。
水素エンジンの課題としては、水素を貯蔵・車載するタンクの構造が挙げられます。
水素は常温では気体で存在する、密度がとても小さい物質です。密度が小さいままでは収納性が悪いため、貯蔵の際は水素に圧力をかけて密度を大きくするか、極低温で冷やして液体水素にする必要があります。
水素貯蔵用の高圧水素タンクはすでに開発されており、700気圧という高圧で圧縮して保管が可能です。しかし、高圧水素タンクはサイズが大型化しやすく、車両のスペースを圧迫してしまいます。
また、液体水素で貯蔵する方法については、水素は-253°C以下の極低温でなければ液化しないため、貯蔵タンクに冷却・断熱構造が必要となる点が課題です。
他にも、水素が金属部品をもろくする「水素脆性」への対策や、「窒素酸化物(NOx)」の排出量抑制も、水素エンジンの課題として挙げられています。
近年は水素エンジンの研究開発とともに、水素エンジンでのグリーン水素の活用にも注目が集まっています。
グリーン水素とは、再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解することにより生産された水素のことです。グリーン水素は製造時に化石燃料を使用せず、二酸化炭素が排出されないため、生産過程においてもクリーンなエネルギーと言えます。
水素エンジンでのグリーン水素の活用は、二酸化炭素の排出を一貫して抑えることが可能であり、カーボンニュートラルの実現に大きく貢献できる点が特徴です。
山梨県は以前から水素を活用した燃料電池の研究開発が盛んであり、山梨県燃料電池自動車普及促進計画の策定などにより、水素の活用・普及を促進してきました。
近年では、山梨県内でグリーン水素を生産・活用する事業にも力を入れている状況です。グリーン水素の効率的な生産設備開発や、グリーン水素を活用した脱炭素エネルギーネットワークのモデル開発事業などがすでに進められています。
また2022年3月から11月にかけて開催された、耐久レースに参戦したトヨタ自動車の水素エンジン車に山梨県産の水素が活用され、山梨県のグリーン水素への取り組みが広く評価されました。
山梨県内で生み出されるグリーン水素は、将来的に工業用の電力や熱を発生させるためのエネルギーとして活用されることを想定しています。電力を多く消費する工場などでグリーン水素を活用したエネルギーシステムが導入されることで、化石燃料からのエネルギー転換を図れるでしょう。
山梨県のグリーン水素に関する取り組みとしては、P2Gシステムの技術開発および実証実験の推進が挙げられます。P2GシステムのP2Gとは「Power to Gas」の意味で、水の電気分解から水素を製造する技術であり、カーボンニュートラル社会の実現に向け、再生可能エネルギーの導入と温室効果ガスの削減において、世界的に期待されています。
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、気象条件によって発電量が大きく変動し、発電量が電力需要を上回るケースもあります。再生可能エネルギーの余剰電力で水の電気分解を行って水素を生産・貯蔵し、電力需要が高まる時期に水素をエネルギーとして活用することが、P2Gシステムの基本構想です。
P2Gシステムで生産されたグリーン水素は、もちろん水素エンジン車や燃料電池自動車の燃料としても活用できます。燃料電池自動車や水素エンジン車が広く普及し、カーボンニュートラルを実現した未来では、P2Gシステムで生産されたグリーン水素が重要な役割を担うでしょう。
水素エンジンは、水素の燃焼によるエネルギーを動力とするエンジンです。カーボンニュートラル化の方法の一つとして、研究開発が進む分野であり、自動車や航空機・船舶などへの活用が期待されています。水素エンジンの開発や実用化・普及に際しては、再生可能エネルギーを使ったグリーン水素の活用が注目されています。
山梨県では、再生可能エネルギーの電力から水素を製造して貯蔵・活用するP2Gシステムの開発に力を入れ、グリーン水素の生産を行っている状況です。今後も燃料電池自動車や水素エンジン車の実用化や普及などを含む、カーボンニュートラルの実現に貢献してまいります。