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2023年01月06日

#訴訟記録 から紛争の相手方の住所を知り、殺害に及んだとされる事例

報道によれば、茅ヶ崎での殺人事件の犯人として出頭し、逮捕された被疑者が、次のように供述しているという。

神奈川県茅ケ崎市で男性を刺殺したとして逮捕された男が「裁判記録で住所を知った」との趣旨の供述をしたことが6日、捜査関係者への取材で分かった。男は家賃を滞納して物件を所有していた男性に提訴されていた。

© 一般社団法人共同通信社

身柄拘束中の警察発表のことなので、真偽は不明だが、仮に報じられているとおりだとすると、訴訟記録や判決書の公開に対する大きな向かい風となる可能性のある出来事で、憂慮せざるを得ない。

来月20日に施行予定の民事訴訟法改正では、訴訟の相手方に対する住所氏名の秘匿が可能となる規定が設けられているのだが、その要件は以下の通り。

第百三十三条 申立て等をする者又はその法定代理人の住所、居所その他その通常所在する場所(以下この項及び次項において「住所等」という。)の全部又は一部が当事者に知られることによって当該申立て等をする者又は当該法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることにつき疎明があった場合には、裁判所は、申立てにより、決定で、住所等の全部又は一部を秘匿する旨の裁判をすることができる。申立て等をする者又はその法定代理人の氏名その他当該者を特定するに足りる事項(次項において「氏名等」という。)についても、同様とする。

これは、例えばDV被害者が加害者から逃げ出した上で、離婚請求や損害賠償請求等の法的手段を採るという場合に用いられることが想定されているし、さらに氏名も秘匿するということになると、もともと面識のない者が危険な相手に対して訴訟等の申立てをする場合が考えられる。例えば性犯罪の被害者が加害者に対して損害賠償請求等の法的手段を取る場合などである。

960x614_sortjeunesentremainsjusticeillus そのような理解を前提にすれば、今回の殺人事件の被害者が加害者に対する訴訟において、改正後の133条の申立てをするということはおよそ考えにくい。となると、今回の改正法では防げないので、より一般的な当事者の住所氏名の秘匿が必要という話になりかねない。

今回の殺人事件のケースは、やはり報道によれば、不動産賃貸の賃貸人が賃料を滞納した賃借人に対して、立退きを求める訴訟を提起したということのようである。そうだとすれば、そもそも今回逮捕された被疑者が賃貸人の住所を裁判記録に依らなくても知っていた、少なくともそれが書かれた資料があったということがいえそうである。ただし、不動産取引業者や管理会社を経由した取引の場合に、賃貸人の住所氏名が賃借人に伝えられない可能性はないわけではない。その場合は訴訟記録から賃貸人の住所氏名を知って犯行に及んだということが言えるかもしれない。

しかしながら、その可能性を慮って氏名住所の秘匿が必要と言いだしたら、およそほとんどの場合に同じことが言えそうであって、きりがない。むしろ、訴訟手続の進行上は、住所氏名が当事者相互に明らかになることは必然と言える。

なお、この問題は、訴訟記録の当事者間での閲覧の場面に限らず、第三者の閲覧可能性という場面でも取り上げられそうであるし、さらには判決のオープンデータ化の議論にも影響を及ぼしそうである。しかし、いずれも、秘匿の利益に対して、訴訟記録を閲覧することができなければ裁判の公開が実質的に空洞化するという問題があるし、また判決の公開に関しては裁判の公開のみならず法の解釈適用例にアクセスすることで広く一般国民が法へのコントロールを可能にすること、ひいては民主主義とか国民主権といった価値にもかかわる重要な要素であって、いたずらな制約はこうした価値を損なうものという問題がある。

特に危険性があるとか、特に保護されるべき法的利益があるという場合を除けば、訴訟などの法的アクションにおいては、氏名等が一定範囲で公表されることは覚悟すべきなのである。

2023年01月06日 法情報学, 裁判の公開 | 固定リンク
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