2025年08月27日
法定養育費と養育費等の先取特権の対象額が固まる
「法定養育費」月額2万円とする省令案まとめる 法務省 | NHK www3.nhk.or.jp/news/html/2025
「法定養育費」について、子どもの最低限度の生活を維持するのに必要な標準的な費用の額として、子ども1人当たり月額2万円としています。
また、養育費の支払いが滞った場合は財産を差し押さえて、子ども1人当たり月額8万円までを上限として、優先的に弁済を受けることができるとしています。
Mamabebe 記事によれば、子ども一人あたりの法定養育費が2万円ということで、最低限度という点では多いとも少ないとも評価しづらい微妙な線になったといえる。もちろん同居親にとっては少なすぎるという反応になるだろうけど。
また記事によれば、一般の先取特権の対象となる養育費の金額は1人当たり月額8万円ということなので、法定養育費と同額という予想をかなり覆した。これも同居親が債権回収の手続負担を負う事自体に不満がありうるが、それは自治体などの立替え給付制度を求めるしかないので、別論とすると、それなりに優先権が確保され、しかも債務名義無しで財産調査手続を開始できるところも重要だ。
ただ、それにつけても同居親本人が手続を執るのは難しいので、手続代理権をひとり親支援団体に付与するとかの法的仕組みが必要だ。せめて法テラスや困難女性支援のための機関がサポートすべき。
最初の法定養育費に戻ると、記事に「子どもの最低限度の生活を維持するのに必要な標準的な費用の額」とあるが、これは不正確で、民法766条の3によれば「標準的な費用の額その他の事情を勘案して子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額」なので、法定養育費が標準額ではない。
(子の監護に要する費用の分担の定めがない場合の特例)
第七百六十六条の三 父母が子の監護に要する費用の分担についての定めをすることなく協議上の離婚をした場合には、父母の一方であって離婚の時から引き続きその子の監護を主として行うものは、他の一方に対し、離婚の日から、次に掲げる日のいずれか早い日までの間、毎月末に、その子の監護に要する費用の分担として、父母の扶養を受けるべき子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額の支払を請求することができる。ただし、当該他の一方は、支払能力を欠くためにその支払をすることができないこと又はその支払をすることによってその生活が著しく窮迫することを証明したときは、その全部又は一部の支払を拒むことができる。
一 父母がその協議により子の監護に要する費用の分担についての定めをした日
二 子の監護に要する費用の分担についての審判が確定した日
三 子が成年に達した日
2 離婚の日の属する月又は前項各号に掲げる日のいずれか早い日の属する月における同項の額は、法務省令で定めるところにより日割りで計算する。
3 家庭裁判所は、第七百六十六条第二項又は第三項の規定により子の監護に要する費用の分担についての定めをし又はその定めを変更する場合には、第一項の規定による債務を負う他の一方の支払能力を考慮して、当該債務の全部若しくは一部の免除又は支払の猶予その他相当な処分を命ずることができる。
それから当然ながら貧乏で払えない別居親には支払拒否権が766条の3第1項但書にある。(これは執行開始要件となるのかな?)
もちろん別居親の支払能力や同居親の養育の必要に応じて、標準的またはそれ以上の額を調停・審判で決めていくのが本筋ではある。先取特権が月額8万円というのは、そういう場合に意味がある。
改正法の適用と離婚の時期については奇妙な齟齬がある。
養育費等の一般の先取特権の規定は、改正法施行後に発生する養育費等について適用されるが、法定養育費の発生は改正法施行後に「離婚」した場合に限られる。手続法と実体法とで分けたということかな?
令和6年法律33号附則3条参照。
附 則 (令和六年五月二四日法律第三三号) 抄
(子の監護費用に関する経過措置)
第三条 新民法第三百六条第三号及び第三百八条の二の規定は、同条に規定する定期金債権のうちこの法律の施行の日(以下「施行日」という。)以後に生じた各期の定期金について適用する。
2 新民法第七百六十六条の三(新民法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定は、施行日前に離婚し、婚姻が取り消され、又は認知した場合については、適用しない。
なお、金額面での検討は、法務省の検討会の議論をそのまま反映したものと言うことができる。
特に第三回議事概要参照。
2025年08月27日 法と女性 | 固定リンク
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