「五月病の予防は連休前の過ごし方が重要」。精神科医が"ゴールデンウイーク明けを楽にするコツ"を伝授
ゴールデンウイーク明けの5月は、メンタル不調が起こりやすいと聞きます。大型連休が終わる最終日は「会社行きたくない」「仕事したくない」と憂うつな気持ちになる人も多いのでは。
こうした、いわゆる五月病の疑問や対処法について、出雲いいじまクリニック院長・飯島慶郎先生が回答しています。ズバリ、五月病を予防するカギは、連休前の3月〜5月前半にあると言います。
Q.「五月病」という言葉は昔から聞きますが、実際、GW明けに体調を崩す人は多いのでしょうか。
A.ご指摘の通りです。小中高の子どもたちの不登校の始まる時期として、夏休み明けと並んで多いように思います。
大人の場合は、憂鬱な気分を訴える人はいるものの、真に病的な反応を呈するケースは少ないように思います。
Q.この時期に不調が起こる原因や身体的メカニズムについて教えてください。
A.「五月病」というのは正式な医学用語ではありません。五月病そのものを研究対象とした医学的な文献は極めて少なく、臨床家の「論考」といったものしか見当たりません。ですから、私も論考という形で私見を述べさせていただきます。
ネットを検索すると、一般に言われている五月病の症状は以下のようなものと考えられます。
- やる気が出ない
- 憂鬱な気分になる
- 集中力がなくなる
- 疲労感
- 眠りが浅くなる
- 身体症状(胃痛、食欲不振、頭痛、めまい、動悸など)
これらは、精神科・心療内科医がみると、病態としてうつ病性の症状だとすぐに感じられます。
しかしながら、全体としてうつ病と言えるほどの重篤さ(症状の重さのこと)や持続期間がないというのもまた事実です。
そのため、私は五月病については診断域値以下の「軽症」のうつ病だと考えるのが自然だと思っています。さらに悪化すれば、うつ病そのものと診断されることもあるでしょう。
こうした「軽症」のうつ病は、臨床上はたくさん存在していますが、昨今の診断基準(DSM-5やICD-10)を用いた場合、五月病に関しては診断がつかず、病気として扱わないことになります。
しかし、診断基準を用いない伝統的・慣習的な診断法を用いますと、五月病のうち身体症状がないタイプを「小うつ病」、身体症状が前に出ているタイプを「仮面うつ病」と診断することもできます(症状がある程度の期間続いていることが必要です)。
Q.こうした軽症のうつ状態が5月に起こるのはなぜでしょうか。
A.これに関しても学術的な研究はなされていません。学問的な答えはないのですが、私の臨床経験からお答えさせていただきます。
まず、人間の「ストレス反応」についてお話いたします。
加わったストレスが極めて軽度の場合、その疲労は一晩で完全に回復できます。しかしある程度の強さのストレスが加わった場合は、一晩では完全に回復できず、次の日に疲労を残すことになります。
その場合、毎日同じようなストレスがかかると、疲労が徐々に積み重なっていく状態になります。疲労の持ち越しです。
ただ、この時点ではまだ本人に不調の認識はありません。
生理学でいうところの「ストレス反応」(病名として用いられるストレス反応・ストレス障害とは別物です)という、ストレスを一時的にしのぎ、対抗するための反応が起きるからです。
脳神経系の興奮を高め、疲労感を覆い隠してしまう反応ですね。
これが生体に備わっているため、たとえ疲労を持ち越していてもパフォーマンスを落とさないで活動できるのです。
このため、知らず知らずのうちに疲労が積もり積もっている人がかなりいるはずです。こういう人たちは、五月病やうつ病の発症予備軍と考えられます。
フル稼働で疲労を覆い隠してくれていたストレス反応は、あくまでも一時しのぎのためのシステムであり、ゴールデンウイークのような比較的長期の休息により、一旦終了すると考えられます。
しかし、休み明けの時期になっても、積み重ねてきた疲労の回復が追いつかず、疲れを抱えたまま再び仕事や学校に戻る必要が出てきます。
しかしこのときはストレス反応系自体も疲労しており、すぐに再起動ができずに疲労を覆い隠せなくなっているのでしょう。
つまり、回復できずに残った疲労と疲労感だけが全面に出てしまうことになり、一時的なうつ類似状態をきたすことになる。というのが私の考える五月病のメカニズムです。
ストレス反応の観点からみると、うつ病自体もストレス反応系の長期にわたる破綻と捉えることもできます。したがって、以下のように理解できるというのが筆者の感覚です。
- 五月病=ストレス反応系の再起動に時間がかかっている状態
- うつ病=ストレス反応系の再起動がまったく起きない状態
Q.GW明けの不調を起こさないために、休暇に入る以前にしておくといいこと、休暇の過ごし方、有効なリラックス法などがあれば教えてください。
A.五月病の予防は、休暇に入る前の過ごし方がいちばん大切だと思っています。
先に述べた通り五月病は、卒業・進学・進級・就職・転勤など行事が多い3月〜5月前半に生じた疲労の蓄積もとになっていると考えられます。
ここで大切なのは嬉しいこと、楽しいこと、おめでたいことも疲労とストレス反応を引き起こすという視点です。
とくに祝い事などはなおさら疲労感を感じにくく、自分が疲労しているということはなかなか気づきにくいでしょう。ストレスは「変化」に対して生じるのです。
そうしたことを理解したうえで、この時期の疲労の蓄積をいかに予防するかということが大切です。
「疲労感は感じていなくても疲労はあるのだ」ということを自覚し、自分が興奮しすぎていないか(興奮は疲労を隠します)をときどきチェックし、意図的な休息をしっかり取りましょう。
すこし興奮しすぎているな(≒ストレス反応が起こっている)と気づいたときは、目を閉じて深呼吸をするのがおすすめです。
- 4秒かけて吸い込む
- その状態で4秒止める
- 4秒かけて吐き出す
4秒はあくまで目安であり、3秒でも5秒でも構いません。
吐くときに体中のちからが抜けるようにイメージしてみましょう。深呼吸の回数を重ねるほど体から力が抜けていくのがわかると思います。
まとめ
✓ 3月〜5月前半は変化が多く疲労が溜まりやすい時期である
✓ ストレスが積み重なっても「ストレス反応」が作動し、疲労(ストレス)を感じにくくさせている
✓ 「ストレス反応」は長期休みでいったん停止してしまうが、積もり積もった疲労は回復しておらず、休み明けは疲れが前面に出てしまう
✓ 3月〜5月前半にこまめにストレスケアを行うことが、五月病対策のカギ
✓ 「目を閉じて深呼吸を行う」は有効なリラックス法である
執筆・監修者プロフィール
飯島慶郎(いいじま よしろう)
精神科医・総合診療医・漢方医・臨床心理士。不登校/こどもの大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック院長。診療科の垣根を超えた総合的な心身医療を行う。他院で解決できない複雑な病態、とくに不登校児の診療や不定愁訴(心身におこる様々な原因不明の症状)を得意とする。全国で初めての「不登校専門クリニック」を開設し、社会問題の解決に尽力中。
<Edit:編集部>
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