IASR Vol. 45, No.11
(No. 537) November 2024
2023/24シーズン(2023年9月〜2024年8月)のインフルエンザは, 世界的には, 過去2シーズンにみられたはっきりとした二峰性のピークではなく, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)流行前のようなピークが1つの流行であった。流行のピークは, これまで多くの場合1月であったが, 今シーズンは12月にみられ, 若干早い流行であった。ウイルスの型としては, A型・B型ウイルスともに検出され, A型ウイルスの検出数がB型ウイルスのそれよりも多かった。国・地域により割合は異なるが, 全体としてはA型ウイルスではA(H3N2)が多く検出され, B型ウイルスはすべてがVictoria系統であった。日本の流行は, 冬の流行が3シーズンぶりにみられた2022/23シーズンのピーク(2023年第6週)後, 全国の定点当たり患者報告数は減少したが1.0以下になることなく, そのまま2023/24シーズンに入った。2023年第36週以降報告数は増加し, 第49週でピークとなり年末に向かって減少したが, 2024年第1週以降再び増加後, 第6週でピークとなり, それ以降減少するという二峰性のピークが確認された。亜型・系統別では, 2023年中はA/H3とA/H1pdm09が多く報告された(A/H3>A/H1pdm09)が, 年明けからB型(Victoria系統のみ)が多く報告された。
わが国におけるインフルエンザワクチン製造株は, 厚生労働省(厚労省)健康・生活衛生局感染症対策部の依頼に応じて, 2月中旬〜4月上旬にかけて3-4回に分けて国立感染症研究所(感染研)で開催される『インフルエンザワクチン株選定のための検討会議』で検討され推奨株候補を決定する。その結果を『厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会 季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会(以下, 小委員会)』へ報告し, 同小委員会において審議され決定される。その結果は厚労省感染症対策部長へ報告され感染症対策部長から決定通知が交付された。
A/H5亜型ウイルス
2023年9月以降, 家禽・野鳥・愛玩鳥等でのA/H5亜型ウイルス(N1, N2, N5, N6, N8NA亜型, NA亜型不明も含む)による高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生が欧州, アフリカ, アジア, 北米, 中米, 南米から報告されており, 2024年3月には南極大陸の北端で野鳥からH5亜型HPAIウイルスが検出され1), オセアニアを除く世界中へさらに感染拡大している。NA亜型別ではN1が欧州31カ国/地域, アフリカ6カ国, アジア12カ国/地域, 北米2カ国, 中米1カ国, 南米3カ国で, N2がメキシコで, N5がアイスランド, 英国, グリーンランド, フェロー諸島, ドイツ, ノルウェー, 日本, カナダで, N6が日本と韓国で, N8がドイツとエジプトでそれぞれ検出されている(2024年9月24日時点)2)。このうちN1, N2, N6亜型でヒト感染が報告されている3)(2024年9月27日時点)。
鳥インフルエンザウイルスは水禽類(カモ類)を自然宿主とし, ウイルスは消化管上皮細胞で増殖して水中に糞便とともに排出され, 他の水禽に伝播して野生水禽の間で循環して維持されている。1996年に中国広東省のガチョウ農場で検出されたH5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルス〔以下, A(H5N1)ウイルス〕は, 渡り鳥である野生水禽などを介して, 2003年末以降に東アジア・東南アジア・ヨーロッパ・アフリカなど様々な地域の野鳥・家禽へ感染が拡がった1)。2020年以降, クレード2.3.4.4bのA(H5N1)ウイルスによる野鳥・家禽への急激な感染拡大が起こり, 2021年には北米, 2022年には中南米, 2024年には南極でも感染が確認され, オセアニアを除く世界中の野鳥や家禽へと感染が拡大し, それにともない哺乳類での感染域も拡大して感染例数も増大した。