2024年3月以降, 米国でA(H5N1)亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスが, 複数の州で乳牛に感染し, 猫や人への伝播も報告された。従前, A型インフルエンザウイルスの牛への感受性は低いと認識されていたが, 本事例はその宿主域の拡がりを懸念させる。一方, 2016年にInternational Committee on Taxonomy of Viruses(ICTV: 国際ウイルス分類委員会)に登録されたD型インフルエンザウイルスは牛を主要な宿主とする1,2)。さらに最近になって, ヒトの病原体として知られるC型インフルエンザウイルスが牛に感染することがわかってきた2,3)。C型およびD型インフルエンザウイルスは, A型やB型インフルエンザウイルスと異なり, 7分節ゲノムで構成され, エンベロープにそれぞれ単一血清型とされるhemagglutinin-esterase-fusion(HEF)タンパク質をもつ。C型とD型インフルエンザウイルスのHEF間に抗原交叉性はない。
インフルエンザは, オルソミクソウイルス科に属するインフルエンザウイルス, 特にA型とB型のヒトへの感染により, 主に冬季に流行する急性呼吸器感染症である。多くの感染者は軽症だが, 若年小児や高齢者では重症化することがある。米国では高齢者の入院, 死亡の最多要因となるなど, インフルエンザは, 社会・医療・経済への影響が大きい1)。インフルエンザウイルスの主要表面抗原タンパク, ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)が持続的に変化を起こすため(抗原ドリフト), 常に感受性者が存在し, 毎年世界の全人口の3-18%が感染するとされる1,2)。またインフルエンザウイルスは, これまでヒトに感染性・伝播性がなかったHAとNAの組み合わせを持つウイルスがこれらの性状を持った場合(抗原シフト), 世界的な大流行を引き起こすことがある。このため, インフルエンザのサーベイランスと有効なワクチン戦略は, 公衆衛生上重要である。季節性インフルエンザワクチンとして, 日本国内では, 不活化ワクチンの「インフルエンザHAワクチン」と経鼻弱毒生ワクチンの「フルミスト®点鼻液」が薬事承認済みであり, 現在, 高用量インフルエンザワクチン4価および経鼻不活化ワクチンの薬事承認申請が提出されている3-6)(表)。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックを契機に, 国際的にも急性呼吸器感染症(ARI)に関する包括的なサーベイランス体制への移行が求められている。本邦においても, 将来のパンデミックに備え, 「インフルエンザに関する特定感染症予防指針」をインフルエンザウイルスだけでなく, COVID-19, RSウイルス(RSV)感染症を含むARI全体に拡大する包括的な策定が議論されている。本稿では, 特にリスクが高い「重症」急性呼吸器感染症(SARI)について, 諸外国の状況と日本の取り組みを紹介する。なお, SARIの症例定義は以下としている。
*データは報告数集計の速報値として公開するものであり、後日感染症発生動向調査 週報 、さらには確定データとしての年報において修正される場合があります。また発生動向に関するコメント、その他詳細についても週報をご参照ください。
一〜五類感染症の全数把握疾患についての各週の報告数、および当年第1週からの累積報告数です。
※(注記)累積報告数は再集計されています。