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新刊著者訪問 第41回
子どもと法 ― 子どもと大人の境界線をめぐる法社会学
著者:齋藤 宙治
東京大学出版会 2022年2月
このページでは、社研の研究活動の紹介を目的として、社研所員の最近の著作についてインタビューを行っています。
第41回は、齋藤 宙治『子どもと法 ― 子どもと大人の境界線をめぐる法社会学』(東京大学出版会2022年2月) をご紹介します。
――まず、本書の概要を教えていただけますか。
多くの人は、子どもと大人の扱いが違うのは当然だと思っています。しかし、それは固定観念に過ぎないかもしれません。本書は、子どもたちをマイノリティー集団の1つとして捉えたうえで、「子ども差別」という切り口から大人中心の社会のあり方に疑問を投げかけるものです。性差別や人種差別などと同様の発想です。子どもと大人の境界線は、近代の学校教育制度によって生じた人工的な創造物に過ぎないという説もあります。子どもと大人の区別を安易に絶対視するのではなく、もう少し慎重に検討してもよいのではないか、というのが本書のメッセージです。「チャイルディスト法学」という名称をつけて、このような問題意識からの法学を提案しています。
――最近、選挙権や成年年齢が18歳に引き下げられましたが、関連する話でしょうか。
はい、選挙権や成年年齢などのいわゆる法定年齢は、子どもと大人の区別・境界線の典型例です。「大人は〜できるが、子どもは〜できない」という事項が、法規範として定められています。実は、これらの法定年齢の引下げの経緯を憂慮したことも、本書の執筆背景の1つです。選挙権にせよ、成年年齢にせよ、結婚年齢にせよ、法定年齢の変更は、10代の青少年にとってその1つ1つに大きなインパクトがあります。しかし、実際の経緯を見ると、憲法改正手続を整備するための国民投票法が制定された際に、与野党間の政治的妥協の産物として国民投票権の年齢が何となく18歳になったことが発端でした。体系的な検討がなされることなく、そこからドミノ倒し的に各分野の年齢引下げに波及したわけです。子どもと大人の境界線がいかにも恣意的に設定されている(されてきた)ように感じます。
――「子ども差別」というのは、あまり聞き慣れない表現かと思います。
大人との対比で、子どもが不合理に区別されていないか、制度的不利益を被っていないかという問題意識です。差別というのは、いったん固定観念として定着してしまうと、なかなか意識されにくいのです。例えば、性差別については、現在の社会では多くの人が留意する視点になっていますが、ひと昔前を振り返ると男女の役割の区別が当然視されていた時代もあったわけです。そのため、本書では、「子ども差別」が存在するのではないかという問題提起をするところから始めました。人々の意識調査などを実施したうえで、子どもに対する差別的な態度や扱いが社会内に存在することを実証的に分析しています。
――子どもも大人と同じように扱うべきだとお考えなのでしょうか。
必ずしもそういうわけではありません。例えば、「3歳児が結婚できるようにすべきだと考えているのか」などといったご質問をいただくこともありますが、本書はそのような主張をしたいのではありません。たしかに、子どもの権利の分野では、子どもにも大人と全く同じ権利・義務を与えるべきだというイデオロギー的な理想論を主張する論者もいます。しかし、本書は、もっと精緻に法理論を提案しています。具体的には、国際的に広く共有された基本理念である《平等原則》に着目して、違憲審査基準をめぐる解釈論も交えながら、子どもと大人の区別を考えていく点に本書の特徴があります。これまで性別や人種などのあらゆるマイノリティー集団に適用されてきた平等原則の概念を用いて、子どもと大人の区別のあり方を論じています。
ごく簡単に平たくいうと、1子どもと大人の不合理な区別は許すべきではない、そして、2具体的な区別が本当に合理的かどうかをきちんと実質的に審査すべきである、というのが私の提案です。
――最後に読者へのメッセージをお願いします。
子どもと法というのは複雑な領域であり、子どもと法をどう考えるかについては多様な切り口があり得ます。本書では、1つの試みとして「子ども差別」という視座を提示しました。子どもと大人の区別・境界線のあり方を、真剣に考えていくきっかけになれば幸いです。
――どうもありがとうございました.
本書は、「UTokyo BiblioPlaza」内の「若手研究者による著作物」コーナーでも紹介されています。
また、著者によるエッセイが、東京大学出版会発行誌『UP』595号に掲載されています(「子どもと大人の境界線を問い直す―『子どもと法』の刊行に寄せて」)。
(2022年11月10日掲載)
齋藤宙治 (SAITO Hiroharu)
東京大学 社会科学研究所 准教授
専門分野:法社会学