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新刊著者訪問 第13回

『デモクラシーの擁護 再帰化する現代社会で』
著者:宇野重規・田村哲樹・山崎望
ナカニシヤ出版 2011年:2800円(税別)

『社会統合と宗教的なもの 十九世紀フランスの経験』
宇野重規・伊達聖伸・髙山裕二 編
白水社 2011年:2600円(税別)

『実践する政治哲学』
宇野重規・井上彰・山崎望 編
ナカニシヤ出版 2012年:3000円(税別)

このページでは、社研の研究活動の紹介を目的として、社研所員の最近の著作についてインタビューを行っています。

第13回となる今回は、政治思想史・政治哲学を専門分野とする宇野重規教授の共著『デモクラシーの擁護 再帰化する現代社会で』(ナカニシヤ出版)、編著『社会統合と宗教的なもの 十九世紀フランスの経験』(白水社)、同じく編著『実践する政治哲学』(ナカニシヤ出版)の3冊をご紹介します。

デモクラシーの擁護
<目次>
一 共同綱領――デモクラシーの擁護に向けて
宇野重規/田村哲樹/山崎望
二 政治共同体の構成と現代デモクラシー論
山崎望(駒澤大学法学部准教授)
三 デモクラシーのためのアーキテクチャ、アーキテクチャをめぐるデモクラシー
田村哲樹 (名古屋大学大学院法学研究科教授)
四 再帰性とデモクラシー――もう一つの起源
宇野重規
参考文献/事項索引/人名索引
社会統合と宗教的なもの
I 新たな宗教を求めて
第一章 商業社会・宗教感情・連帯 ─ コンスタンとボナルド
古城毅(立教大学非常勤講師)
第二章 民衆・宗教・社会学 ─ サン=シモンとコント
杉本隆司 (一橋大学大学院社会学研究科特別研究員)
第三章 民主主義と宗教 ─ ラムネとトクヴィル
髙山裕二(早稲田大学政治経済学術院助教)
II 人間の地平へ
第四章 神と「正義」 ─ プルードンの場合
金山準 (北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授)
第五章 宗教革命としての民衆教育 ─ キネの宗教的自由主義と共和主義
伊達聖伸 (上智大学外国語学部准教授)
第六章 見出された信仰 ─ シャルル・ルヌーヴィエの共和思想
北垣徹 (西南学院大学文学部教授)
終章 「人格」と社会的連帯 ─ 十九世紀社会科学史におけるデュルケム
田中拓道 (一橋大学大学院社会学研究科准教授)
実践する政治哲学
第I部 社会を読み解く
1 喫煙の自由とその限界
児玉 聡(東京大学大学院医学系研究科専任講師)
2 〈私〉時代の教育と政治
宇野重規
3 ポスト世俗主義のアイデンティティ・ポリティクス
高田宏史(早稲田大学政治経済学術院助教)
4 永住外国人の参政権
遠藤知子(関西学院大学人間福祉学部助教)
第II部 国境を越える
5 平和主義の実践的可能性
松元雅和(島根大学教育学部講師)
6 グローバルな正義の義務と非遵守
上原賢司(早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程在籍)
7 ポスト9・11/9・15の安全保障と社会保障
山崎望(駒澤大学法学部准教授)
8 ポスト・デモクラシーと新たな政治の生成
五野井郁夫(立教大学法学部助教)
第III部 理論的地平をひらく
9 自然の有限性と自由主義の転回
桑田学(東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍)
10 熟議民主主義と政治的平等
山田陽(東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍)
11 正義としての責任原理
井上彰(群馬大学社会情報学部講師)
事項索引/人名索引

――ここ数年、若い研究仲間の方々とコラボレーションを重ねてこられたそうですが、その成果が次々刊行されましたね。今回はそれらの中から3冊ご紹介したいと思います。まずは、それぞれのきっかけや問題関心について教えて下さい。

昨年度は、何だか共著や共編著をたくさん出した一年でした。それだけ時間とエネルギーがあるなら、自分の単著を書けよと言われそうですね(笑)。

でも、実をいえば、刊行が同時に集まったのは偶然で、それぞれの本ごとに事情もばらばらです。いちばん時間がかかったのは『デモクラシーの擁護』かな。これは年齢も専門も違う若い政治学者3人で何か一緒に書きたいね、ということで始まった企画です。でも、どんな本にしようかと思ったときに社会学者のベック、ギデンズ、ラッシュの『再帰的近代化』という本をお手本にしようという話になったんです。そうこうしているうちに、本の形式だけでなく、内容面でも「再帰性」という概念を中核にすべきではないかということで、まとまった本です。

あとの2冊はどちらも研究会の成果です。社研の部屋を借りてやったので、社研の成果物です(笑)。一つはフランス政治哲学の研究会で、東大では文学部や駒場、あと早稲田などの宗教学、社会学、哲学の若手研究者で始めた読書会からスタートしました。随分、専門が違うのでどうかなと思っていたのですが、実はかなり興味や関心が近いことに気づきました。今回はとくに「宗教的なもの」(宗教ではないのがポイント!)をテーマに論文集をまとめましたが、いつか「政治的なもの」とか「社会的なもの」でも、本を企画したいですね。

もう一つの研究会は、どちらかといえば、英米系の政治哲学を研究する若手によるものです。やはりいろんな大学から人が集まりました。ご存知の通り、マイケル・サンデルの『白熱講義』以来、ある種の政治哲学的ブームがありますが、単なるブームに終わらせないためにも、自分たちの日常のテーマをとりあげ、政治哲学的に考察するとどんなことがいえるかを考えたのがこの本です。喫煙の自由やエコの話から戦争や外国人参政権の問題まで、幅広い問題を扱う本になりました。僕も教育について、一章を書きました。

宇野先生

――刊行にあたり、執筆者間の議論は相当盛り上がったと思います。編者としてずいぶん苦労なさったのでは? それぞれのポイントはどこに置かれたのでしょうか?

う〜ん、苦労はなかったです。どれも楽しかった記憶しかありません(のど元を過ぎただけかな?)。『デモクラシーの擁護』のポイントは、いったい何に対してデモクラシーを擁護するかですね。もちろん、具体的には過剰なナショナリズムやリベラリズムに対し、デモクラシーを擁護しています。とはいえ、一番意識したのは「デモクラシーなんて、どうせ意味ないよ」という声に、いかに反論するかということでした。僕たちの答えは「といっても、僕らにはデモクラシーしかないんだ。自分たちで問題を引き受けるしかないんだ」というものでした。当たり前過ぎですかね(笑)。

『社会統合と宗教的なもの』については、問題は日本人の「宗教」への抵抗感ですね。日本人は初詣に行ったり、クリスマスを祝ったり、スピリチュアルなものが好きなくせに、どうも宗教に対し拒否感がある(笑)。でも、どんな社会にも「宗教的なもの」って、あるんです。そしてそれが政治と深く結びついている。アメリカなんてかなり宗教的な社会なんですが、フランスという、ある意味で宗教を徹底的に退けつつ、だけどしっかり宗教的なものに影響されている社会と比較することで、日本のケースを考えました。

『実践する政治哲学』は、若い研究者が多いだけに、難しい論文集にしないのが一番の苦労でした(苦笑)。やはり「実践する」のだから、机上の空論にしてはいけない。でも、みんな勉強熱心だから、知っていることはみんな書きたい。ということで、タイトル通りの本にするのが結構たいへんでした。

――先ほどもお話にでましたが、サンデル教授以来、政治哲学はブームになっています。人々の関心の高まる中で、これらの本はどういう役割を担っているとお考えですか?

やっぱりブームはブームに過ぎません。ただ、人々が無意識に感じているのは、世の中にきれいな答えはないということです。一つのロジックですっぱり切れるくらいなら、たいした問題ではない(笑)。それでもいろいろな問題に対して、僕たちは判断をしないといけない。だとしたら、場当たり的にやるのではなく、少なくとも問題を考える上でどのような原理的な対立があるかをはっきりさせたい。その上で、どちらを選ぶと何を得て何を失うか、自覚した上で決断したい。そういう思いが政治哲学ブームを支えていると思います。そのような思いに、政治哲学や政治理論を研究している人間は応えていきたい。そう考えています。

――『<私>時代のデモクラシー』(宇野重規著 岩波書店 2010年4月)という単著も出されていますが、最後にあえて端的に教えて下さい。先生にとってデモクラシーとは?

<私>時代のデモクラシー

う〜ん、僕はトクヴィルの研究者ですので、彼のデモクラシーという言葉の使い方に影響を受けています。彼は「よくわからないけど、世の中にはデモクラシーというものがある。それはいいことも悪いこともするのだけど、ともかく猛威をふるっている。だとしたら文句をいっても始まらない。ともかくデモクラシーという怪物を理解しよう」というのです。ひょっとしたら、不平等だけど、それぞれの人の役割がはっきりしていた昔の社会の方が良かったかもしれない。少なくとも悩まなくてすんだかもしれない。でも、デモクラシーの社会というのは、何ごとも自分たちで決めないといけない社会です。それはつらいけど、すばらしいことでもある。デモクラシーという怪物を何とか自分たちのものにする、それしか道はないと思います。政治学はそのための道具です。

(2013年3月14日掲載)

宇野先生

宇野重規(うのしげき)

東京大学社会科学研究所教授

専門分野:政治思想史・政治哲学

主要業績
『政治哲学へ- 現代フランスとの対話』(東京大学出版会、2004年)
『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社、2007年)
『<私>時代のデモクラシー』(岩波新書、2010年)

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