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新刊著者訪問 第4回

『希望のつくり方』
著者:玄田有史
岩波書店 2010年: 760円(税別)

このページでは、社研の研究活動の紹介を目的として、社研所員の最近の著作についてインタビューを行っています。

第4回となる今回は、労働経済学を専門分野とする玄田有史教授の『希望のつくり方』(岩波書店)をご紹介します。

<目次>
はじめに
第1章 希望とは何か
第2章 希望はなぜ失われたのか
第3章 希望という物語
第4章 希望を取り戻せ
おわりに―希望をつくる8つのヒント
あとがき/参考文献

――この本を書かれた動機を教えてください。

ずっと社研で2005年から「希望学」という少々怪しげな(?)研究を、みんなでやってきました(笑)。「希望がない」とか、「希望が持てる人と持てない人の格差」とか、いわれてきましたけど、じゃあ希望はどうすれば持てるんだろう、と。それを愚直に考えてみようじゃないかと、始まったのが希望学でした。

希望学は、2009年に成果として4巻の分厚い本を、東京大学出版会から刊行しました。そちらが、すこし研究者とか、学生向けに書いた内容だったので、今度は、希望学の成果をより多くの人に知ってもらいたいと思って書いたのが、この本です。

希望学の事務をずっと手伝ってくれた女性がいて、その方から「私にも読めるような本を書いてほしい」といわれたことがあったことも、頭の片すみにずっとありました。

――希望を「持つ」ではなく「つくる」としたのはどうしてでしょうか。

大学生にかぎらず、たまに中学生とか、高校生とかに、授業や講演でお話したりする機会があります。私はそのときに「希望を持ちましょう」といった話をしません。家庭の環境やその他の様々な理由で、希望を持ちたくても持てない人たちも、若い人のなかにもたくさんいます。そんな人たちは、希望を持つことをあきらめていることもあるような気がします。そうなのに「希望を持てばいいんだ」というのは、酷なように思うんです。

かわりに、希望学の成果をふまえて、こんな話をします。希望は英語でHopeといいますが、Hope is a Wish for Something to Come True by Actionだと。つまり、希望には「気持ち(Wish)」と、自分にとっての大切な「何か(Something)」、それがどうすれば叶うのかという「実現(Come True)」に向けた手立て、そして何より自分の足で「行動(Action)」するという4つの柱から成り立っているんだ、と。だから、本当は希望を持ちたいとしたら、その4つのうち、今の自分には何がみつかっていないかから、考えてみようよ、といいます。

そうすると、自分には行動が足りなかったとか、今の自分にとって大切な何かを決めたいと思うとか、そんなことが、すこしずつ浮かびあがってくるようなんです。それは、若い人に限らず、だれにでもいえることかもしれないですね。

――3.11の震災後「希望」はますます重要になりますね。

さっき、4本柱と言ったんですけど、本当は柱は5本かもしれない。希望は一人だけでつくれば4つの柱かもしれないけれど、震災を通じて、希望はみんなでつくっていくものなんだ、という思いが強まっているように思います。

だとすれば、希望の5本目の柱は何か。それは「お互いに(Each Other)」ということなんです。お互いさまという気持ちで、被災地内の人と人や、被災地内外の人がつながることで、一人ではむずかしい希望も、なんとかなるかもしれない。

今回の被災地でもある岩手県の釜石市で、希望についての調査をしてきたんですけど、そこではたくさんの素敵な言葉に出会いました。そのひとつが「希望は伝播する」というものです。誰かが希望を持って行動すると、それが誰かに伝わっていく。そんな動きが風になってつながることで、地域全体に希望を広げることができるんです。私はそのことを希望学で学んだこともあって、釜石をはじめ、被災地はきっと希望をもって再興していくと、信じてるんです。

――今後、釜石の人々とはどのようにかかわっていく予定でしょうか?

釜石で約束していることが、ありましてね。それはこれから先、なにがあっても「釜石のことを応援し続ける」と。だから、それをやっていかないと。具体的には、この試練を釜石の人たちが、どのようにして乗り越えていったのかを、未来の世代のために調べて、記録して、伝えることが、釜石での希望学調査でお世話になってきた私たちの責任だと思っています。

――初めての書き下ろし新書と伺いました。どのような点にご苦労なさいましたか?

そうそう。何人かで、書いたことはあったんですけど、ひとりで書くのは、はじめてでしたからね。苦労ですか。正直、そんなになかったと思う。あまり最初から細かい計画を立てずに、希望学で学んだことを、思い出しながら書いたんで。書き始めてから、思いの他はやく草稿が完成したんで、担当してくれていた岩波新書の小田野さんに連絡したら、ものすごくビックリされちゃって。

[画像:玄田先生]
玄田有史(げんだゆうじ)

東京大学社会科学研究所教授

専門分野 : 労働経済学

主要業績
『仕事のなかの曖昧な不安』中央公論新社, 2001年12月.(受賞 第45回日経・経済図書文化賞2002年、サントリー学芸賞(政治・経済部門)2002年)
『ジョブ・クリエイション』日本経済新聞社, 2004年3月.(受賞 第45回エコノミスト賞、第27回労働関係図書優秀賞)
『人間に格はない-石川経夫と2000年代の労働市場』ミネルヴァ書房, 2010年2月.

ただ、新書は、学術本とか、学術論文とかとは、全然違うものだということは、よくわかりました。たとえば、この新書では、一つひとつの文章が、とても短いです。たぶん一文で三行以上になる文章って、ほとんどないんじゃないかな。そんなことは、自分なりに意識して書きました。

――これからこの本を手にとられる方々へのメッセージをお願いします。

この本を書いたのは去年の夏から秋にかけてで、震災のことなど、まったく予想できませんでした。でも、このあいだ、岩手日報という岩手の地元新聞の友人から、盛岡の本屋さんで、震災後に「希望のつくり方」がたくさん並ぶようになったようだ、と聞かされて、正直、とてもうれしかったです。この本が、震災を乗り越えて、自分たちの力で希望をつくっていこうとしている人たちの、少しでも応援になれば、書き手としてこれ以上のことはありません。

本を読んでくださった方から「これからが、希望学の出番ですね」といわれたこともあります。その言葉を忘れずに、これからにつなげていきたいと思います。

(2011年5月9日掲載)

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