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新刊著者訪問 第18回
『ワーク・ライフ・バランス支援の課題
―人材多様化時代における企業の対応』
編者:佐藤博樹・武石恵美子 編
東京大学出版会 2014年:3800円(税別)
このページでは、社研の研究活動の紹介を目的として、社研所員の最近の著作についてインタビューを行っています。
第18回となる今回は、人的資源管理・産業社会学・社会調査を専門分野とする佐藤博樹教授の編著『ワーク・ライフ・バランス支援の課題―人材多様化時代における企業の対応』(東京大学出版会 2014)をご紹介します。
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- 関連書籍
- 佐藤博樹・武石恵美子著『職場のワーク・ライフ・バランス』日経文庫,2010年.
- 佐藤博樹・武石恵美子編著『ワーク・ライフ・バランスと働き方改革』勁草書房,2011年.
- 佐藤博樹・武石恵美子著『男性の育児休業』中公新書,2004年.
――まずはこの本の概要を教えて下さい。また、社研を拠点として活動されてきた「ワーク・ライフ・バランス(WLB)推進・研究プロジェクト」についてもお話し下さい。
本書は、2008年10月から民間企業との共同研究として活動しているワーク・ライフ・バランス推進・研究プロジェクトの研究成果で、2冊目の研究書です。プロジェクトを設置したのは、WLBに関する研究を実施したり、政府の仕事と生活の調和に関する憲章の作成に参加したりする中で、日本ではWLBに関する研究機関が大学に存在しないことや、学術的な研究成果を企業へ普及させる仕組みがほとんどないことに課題があると考えたからです。そのため、プロジェクトでは、参加企業との共同研究の成果を他企業にも広く普及させる仕組みとして調査研究を提言として公表したり、成果報告会を毎年1回開催したりすることで、WLB推進にとって有益な情報を多くの企業に提供しています。成果報告会には、300人から400人の企業関係者が参加しています。プロジェクトの企業メンバー以外には、研究者だけでなく、WLBのコンサルタントも加わり、研究と実務との連携も重視しています。
本書の内容は、女性の活躍の場の拡大、仕事と介護の両立支援、WLBを実現するための働き方改革の3つのテーマを扱っています。働き方改革はWLBを実現できる職場の構築に不可欠なもので、プロジェクトを設置した当初から継続的に取り組んでいるテーマです。1冊目の研究書(佐藤博樹・武石恵美子編著『ワーク・ライフ・バランスと働き方改革』勁草書房2011年)は、この点に焦点を当てています。
2冊目の本書は、WLB支援を包含するダイバシティ・マネジメントの取り組みの最重要課題である女性の活躍の場の拡大に加えて、WLBの新課題として仕事と介護の両立を取り上げています。WLB支援というと子育て中の女性支援との誤解が根強いですが、仕事と介護の両立では、介護の課題に直面するのが、40歳代後半以降の男性や管理職が多いため、WLBを実現できる職場の構築が、男性や管理職の課題であることを理解してもらうためのいい機会と考えています。
プロジェクトが取り扱うテーマの拡大から、今年度から「ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクト」へ名称を変更しました。また、2015年4月からは中央大学大学院戦略経営研究科に活動拠点を移転しました。HPはhttp://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~WLB/です。
――このプロジェクトは多くの企業の参画によって進められてきましたが、ワーク・ライフ・バランス政策の現状について教えて下さい。
WLBという言葉の認知度は高まりました。しかし、すでにお話ししたように子育て支援であるとか、育児休業など両立支援のための制度を導入・充実することでWLBを実現できると誤解している企業関係者も少なくないのが現状です。WLBを実現できる職場作りは、男女ともに年齢に関係なく必要なことであるとの理解が弱いわけです。また、WLBを実現できる職場を構築するためには、両立支援制度も大事ですが、不可欠なのは働き方改革です。しかし、この点に関する理解も弱いのです。具体的には、時間制約のある社員も活躍できる職場とする働き方改革が不可欠なのです。こうした働き方改革を欠いた両立支援制度のみでWLBを実現できると考えている企業では、子育てや介護の課題に社員が直面しても仕事を継続できるものの、能力を発揮できる活躍の場を得ることができなくなります。とりわけ働き方改革を欠いた両立支援制度のみのWLB支援は、女性の活躍の場の拡大を阻害することにもなるのです。
――なるほど、正しい理解がなければWLB実現は難しいですね。先ほど本書では、仕事と子育てに加えて仕事と介護を新たな課題として取り上げたとおっしゃっていましたが、それはどういうわけですか?
すでにご説明しましたが、WLBを実現するための働き方改革にまで取り組んでいる企業がまだ少数です。しかしその重要性に関する認識は浸透しつつあります。また、仕事と介護の両立支援に関する必要性の認識も高まりつつあり、仕事と介護の両立支援を仕事と子育ての両立支援と同様に取り組もうと考えている企業が多数を占めます。しかし、働き方改革など両者には共通する部分もありますが、支援の考え方は異なるものになります。
仕事と子育ての両立支援では、男女ともに社員が子育てを担えるように支援するのに対して、仕事と介護の両立では、社員が介護を直接担うことなく両立をマネジメントできるように支援する必要がありますが、この相違を理解していないのです。介護休業制度の役割に関しても、介護の課題に直面した社員が休業を取得して直接介護をするためのものとの誤解があります。介護休業は、社員が介護を直接担うための制度ではなく、仕事と介護の両立のための準備をするためのものなのです。この点を社員が理解していないと、介護休業を取得し、介護を社員が担うことになり、そのため仕事に復帰できずに、最悪の場合は離職を余儀なくされることになります。その理由は、介護に要する期間は事前に確定できないからです。本書で仕事と介護の両立支援の課題を取り上げたのは、こうした誤解を解消し、正しい理解の浸透を考えたためです。
――行政主導の支援策として「次世代法」の施行や「次世代認定マーク(くるみん)」の表示などがありますが、企業のWLB取り組みのきっかけとして効果は上がりましたか?それにしても、シンボルマークはずいぶんたくさんあるんですね。
(左から 内閣府「イクメンプロジェクト」ロゴマーク、内閣府「カエル!ジャパン」シンボルマーク、厚生労働省東京労働局「次世代認定マーク(愛称:くるみん)」、厚生労働省「仕事と介護の両立支援」シンボルマーク(愛称:トモニン)、内閣府「子ども・子育て支援新制度」シンボルマーク(すくすくジャパン!)、八都県市「仕事と家庭生活の調和」推進キャンペーンシンボルマーク)
次世代法は、企業による社員の仕事と子育ての両立支援の取り組みの必要性に関する理解を促進し、取り組みを促進した政策効果があったと思います。しかし、認定マークの認定基準は両立支援制度の充実を評価する部分の比重が大きく、働き方改革を促進する効果は弱ったと思います。恒常的な長時間残業を解消し、時間制約のある社員にも活躍の場を提供できるような働き方改革が実現できれば、両立支援制度は法定水準でもいいのですが、この点が理解されずに、両立支援制度の充実に企業の取り組みが偏るマイナスの効果もあったと思います。
――最後に読者へのメッセージをお願いします。
WLBを実現できる職場とするためには、企業の取り組みのみでは難しいのです。職場の管理職や社員の皆さんが、仕事に投入できる時間が有限であることを自覚し、その時間の中で効率的な働き方に取り組むことが不可欠です。同時に、そのためには仕事以外の生活で大事にしたいことを明確にし、その時間を確保するためにメリハリのある働き方を目指していただきたいと思います。
(2014年8月11日掲載)
佐藤先生
佐藤博樹(さとうひろき)
東京大学社会科学研究所社会調査・データアーカイブ研究センター教授
専門分野:人的資源管理・産業社会学・社会調査
過去の新刊著者訪問
『結婚の壁』(2011年9月30日)