Astri Nur Faizah, Daisuke Kobayashi, Faustus Akankperiwen Azerigyik, Ryo Matsumura, Izumi Kai, Yoshihide Maekawa, Yukiko Higa, Kentaro Itokawa, Toshinori Sasaki, Kris Cahyo Mulyatno, Sri Subekti, Maria Inge Lusida, Etik Ainun Rohmah, Yasuko Mori, Yusuf Ozbel, Chizu Sanjoba, Tran Vu Phong, Tran Cong Tu, Shinji Kasai, Kyoko Sawabe and Haruhiko Isawa
Emerging Microbes & Infections (EMI), 14(1)
2022年、オーストラリアで突如として日本脳炎ウイルス(JEV)遺伝子型IV型(GIV)のアウトブレイクが発生した。JEV GIVはこれまでインドネシアからのみ報告されていたマイナーな遺伝子型であったため、その媒介蚊を含めたウイルス性状に関する情報は限られてきた。そこで私たちは、独自に分離したJEV GIV株を用いて、ウイルス媒介蚊種の調査を行った。その結果、日本産の蚊種(コガタアカイエカ、ヒトスジシマカ)に加え、JEVの非流行地であるベトナム(ネッタイイエカ)やトルコ(チカイエカ)由来の蚊においても、JEV GIVの媒介性が確認された。このことから、本遺伝子型のJEVが、非流行地に持ち込まれた場合であっても、それらの地域に分布する様々な蚊種が流行を担う可能性があることが示唆された。
本研究は、AMEDやJICAの支援を受け、東大・神戸大、およびインドネシア・ベトナム・トルコ各国の研究機関との国際共同研究として実施されました。
Ishizaka A, Tamura A, Koga M, Mizutani T, Yamayoshi S, Iwatsuki-Horimoto K, Yasuhara A, Yamamoto S, Nagai H, Adachi E, Suzuki Y, Kawaoka Y and Yotsuyanagi H
Microbiol Spectrum e0099824. 2024
健康に大きく影響する腸内細菌叢のバランスの変化「dysbiosis」においてバクテリオファージ(ファージ)の果たす役割は不明である。本研究では、COVID-19感染症で観察されるdysbiosisにおける腸内細菌とファージの動態変化を解析した。病態発症直後の観察では細菌は遊離ファージと共に減少する一方で、遊離ファージを抑制して増加する細菌も存在した。回復期では遊離ファージの増加が先行し、細菌の増加を抑制するケースのほか、細菌とファージが交互に増殖と減少を繰り返すケースも観察された。これらの観察は、dysbiosisは細菌とファージの均衡破綻による複雑な相互作用の連鎖により形成されていることを示し、腸内細菌叢変化の分子基盤に関する新たな洞察を提供する。本研究は東京大学と共同で実施しました。
続きを読む: COVID-19における腸内細菌叢の変化は、腸内DNAファージの溶原性および溶菌性感染の動態と関連している
Kaho Shionoya, Jae-Hyun Park, Toru Ekimoto, Junko S. Takeuchi, Junki Mifune, Takeshi Morita, Naito Ishimoto, Haruka Umezawa, Kenichiro Yamamoto, Chisa Kobayashi, Atsuto Kusunoki, Norimichi Nomura, So Iwata, Masamichi Muramatsu, Jeremy R.H. Tame, Mitsunori Ikeguchi, Sam-Yong Park, Koichi Watashi
Nature Communications 15: 9241 (2024)
B型肝炎ウイルス(HBV)はヒトと系統的に近縁な旧世界ザルのmacaqueに感染しない。これは、macaqueのNTCPホモログ(mNTCP)がHBV表面のpreS1に認識されないことに起因するが、その原因は明らかでない。本研究では、mNTCPのクライオ電子顕微鏡構造を取得した。これにpreS1-ヒトNTCP複合体構造を重ね合わせることで、1) mNTCPの158番目アルギニンの大きな側鎖が、preS1とNTCP胆汁酸トンネルの結合を立体妨害していること、2) 86番目アスパラギンの小さな側鎖は、NTCP細胞外表面にpreS1を安定的に係留できないこと、が明らかとなった。このように、mNTCPは異なる2箇所のアミノ酸によってHBV認識から逃れていることを示した。これは、ウイルスの感染宿主動物の選択メカニズムの一つを明らかにしたものである。
Yamasaki M, Saso W, Yamamoto T, Sato M, Takagi H, Hasegawa T, Kozakura Y, Yokoi H, Ohashi H, Tsuchimoto K, Hashimoto R, Fukushi S, Uda A, Muramatsu M, Takayama K, Maeda K, Takahashi Y, Nagase T, Watashi K
Antiviral Research 230: 105992 (2024)
標的の配列情報を基に迅速に設計可能なアンチセンス核酸(ASO)は、新興再興感染症対応に有用な手段の一つとして期待される。本研究ではSARS-CoV-2ゲノムに対する292のギャップマー型ASOを設計し、培養細胞系での評価により、抗SARS-CoV-2活性を有するASO#41を同定した。ASO#41はメインプロテアーゼ領域RNAを標的としており、調べた全てのSARS-CoV-2バリアントに活性を示した。ASO#41は経鼻投与により肺組織に選択的に蓄積し、SARS-CoV-2感染マウスモデルで有意な抗ウイルス活性を認めた。さらにASO のwing RNA構造または塩基間架橋構造の置換により、さらに高い活性を示すASO#41誘導体を見出した。本研究成果は、アンチセンス核酸モダリティを用いた抗呼吸器ウイルス薬創出に有用な知見を提供するものである。
Kanda T, Li TC, Takahashi M, Nagashima S, Primadharsini PP, Kunita S, Sasaki-Tanaka R, Inoue J, Tsuchiya A, Nakamoto S, Abe R, Fujiwara K, Yokosuka O, Suzuki R, Ishii K, Yotsuyanagi H, Okamoto H; AMED HAV and HEV Study Group.
Hepatol Res., 54(8), 1-30, 2024
2000年代初頭に日本でE型肝炎ウイルス(HEV)遺伝子型3および4の感染が確認されるまでは、急性E型肝炎はまれな病気と考えられていました。日本の研究者による広範な研究により、E型肝炎は人獣共通感染症であり、ブタおよびイノシシやシカなどの野生動物がHEVのリザーバーとして極めて重要な役割を担っていることが明らかになりました。この総説は、E型肝炎の病態、感染経路、診断法、合併症、重症化因子、および現在研究が進められているワクチンや治療法について包括的に記載されており、HEV研究の最近の進歩と、HEV感染に対する日本の臨床診療ガイドラインを提示しています。
なお、本研究はAMEDの肝炎等克服実用化研究事業「経口感染によるウイルス性肝炎(A型及びE型)の感染防止、病態解明、治療等に関する研究」(グラント番号JP23fk0210132)により実施されたものです。
Minetaro Arita
J Virol, 2024, https://doi.org/10.1128/jvi.00523-24
ポリオウイルスが細胞に感染すると、1本の大きなウイルスタンパク質が作られます。この大きなウイルスタンパク質から機能を持った個々のウイルスタンパク質が切り出されて、ウイルスの複製を行います。しかし、ウイルスタンパク質の一部に欠陥があり、複製できないポリオウイルス変異体が、外から供給されるウイルスタンパク質を用いて複製できるかという点については、長年結論が出ていませんでした。今回の研究により、ウイルスゲノムRNAの複製を行うポリメラーゼ(ウイルスタンパク質3D)の活性は、外から与えることができてポリオウイルスの複製を効率よくレスキューすることが明らかにされました。興味深いことに、ポリメラーゼ本体ではなく、ポリメラーゼを含む前駆体ウイルスタンパク質(ウイルスタンパク質3CD)がこの活性に必要なこと、また一部のウイルスタンパク質は外から与えられたプロテアーゼでは切り出されないこともわかりました。ポリオウイルスはエンテロウイルスと頻繁に組換えを起こすことが知られており、今回得られた知見はポリオウイルスの複製やウイルス間の組換えの機構の解明につながることが期待されます。
本研究は、AEMD(課題番号:JP23fk0108627)およびJSPS(課題番号:JP22K07107)の支援を受けて行われました。
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