Aa Haeruman Azam, Kohei Kondo, Kotaro Chihara, Tomohiro Nakamura, Shinjiro Ojima, Wenhan Nie, Azumi Tamura, Wakana Yamashita, Yo Sugawara, Motoyuki Sugai, Longzhu Cui, Yoshimasa Takahashi, Koichi Watashi, and Kotaro Kiga
Nature Communications 15:9586, 2024
細菌はファージと呼ばれるウイルスに感染します。ファージは細菌内で増殖し、細菌を死滅させることがあり、長い進化の歴史の中で細菌とファージは攻防を繰り広げてきました。本研究では、細菌の防御システムであるretron-Eco7が、ファージ感染時にtRNA-Tyrを分解し、増殖を阻止する仕組みを解明しました。しかし、ファージは逆にtRNAを多量に生成し、この防御を回避する戦略を持つことがわかりました。これにより、細菌とファージの共進化による高度な戦略が明らかになりました。本研究は、ファージを用いた新しい抗菌治療の開発や効果的な殺菌方法の設計に貢献する可能性があります。
本内容は日本学術振興会、AMEDの研究支援を受けて実施しました。
Nakao R, Takatsuka A, Mandokoro K, Narisawa N, Ikeda T, Takai H, Ogata Y.
Microbiology Spectrum.
DOI: https://doi.org/10.1128/spectrum. 03426-23 0:e03426-23.
歯周病は、日本人が歯を喪失する最大の原因となっており、新たな予防および治療法の開発が望まれている。本論文において、抹茶は歯周病原細菌Porphyromonas gingivalisの菌体表層の正常な構造と機能を喪失させる効果と、同菌のFimA線毛に作用して菌同士を凝集させる効果を有することが明らかとなった。また、抹茶に含まれる増殖阻害活性等を示す主要なカテキン類が同定された。さらに、アズレン、麦茶、抹茶の含嗽による歯周病に対する効果を調べた所、抹茶で含嗽を行った患者のみが、介入前と比べてP. gingivalisの菌数を有意に減少させて、4〜5 mmの深さの歯周ポケットを改善させる傾向を認めた。以上より、抹茶の多面的な抗菌活性に立脚した新しい歯周病の制御手段の確立が期待される。
本研究は、抹茶と健康研究会及びJSPSの支援を受けて実施された。
Chisato Sakuma, Sayaka Shizukuishi, Michinaga Ogawa, Yuko Honjo, Haruko Takeyama, Jun-Lin Guan, Jeffery Weiser, Miwa Sasai, Masahiro Yamamoto, Makoto Ohnishi & Yukihiro Akeda
Cell Reports 43, 114131, May 28, 2024
doi.org/10.1016/j.celrep.2024.114131 (2024)
侵襲性肺炎球菌感染症の発症メカニズムの一つとして、鼻咽頭上皮細胞などの宿主細胞へ定着した肺炎球菌がエンドサイトーシス経路を利用して細胞内に侵入する経路がある。上皮細胞における自然免疫ではゼノファジーと呼ばれる2重膜からなる典型的なオートファジーと、conjugation of Atg8s to single membranes(CASM)と呼ばれる1重膜からなる非典型的なオートファジーが細胞内に侵入した細菌を排除している。これまでに、我々は、細胞内の肺炎球菌がCASMの惹起とその消失、それに続くゼノファジーの発動という3つのステップからなるユニークな多層的・階層的オートファジーを誘導することを報告している。
今回、我々は、オートファゴソーム形成の主要因子である6つのAtg8パラログ(LC3A/B/C/GBRP/GBRPL1/GATE16)のノックダウン、ノックアウト細胞における表現型を多面的に解析するオートファジーマトリクスを構築し、肺炎球菌が誘導する階層的オートファジーの分子機構について網羅的な解析を行った。その結果、機能的リダンダンシーが存在すると考えられてきた各Atg8パラログが肺炎球菌の感染時間に伴い異なる局在パターンを示すこと、LC3AとGBRPL1がCASM誘導に、GATE16がCASMの消失に、GBRPがゼノファジー誘導に、それぞれ関与することを見いだした。さらに、菌側の解析を行った結果、CASMの消失には肺炎球菌が宿主細胞内で産生するH2O2とその下流で働くCa2+シグナルが関与することも明らかとなり、host、pathogen両方の視点から階層的オートファジーの作動原理の一端が明らかとなった。
本研究はJSPS科研費の支援を受けて実施された。
続きを読む: オートファジーマトリクス解析から見えてきた宿主の6つのAtg8 パラログと細胞内で肺炎球菌が産生するH2O2の新たな機能
Sayaka Shizukuishi, Michinaga Ogawa, Eisuke Kuroda, Shigeto Hamaguchi, Chisato Sakuma, Soichiro Kakuta, Isei Tanida, Yasuo Uchiyama, Yukihiro Akeda, Akihide Ryo & Makoto Ohnishi
Cell Reports 43, 113962 (2024)
肺炎球菌は主にヒトの鼻咽頭に常在し、小児や免疫力が低下した高齢者に対して敗血症や髄膜炎といった侵襲性肺炎球菌感染症を引き起こすことがある。その発症経路の一つとして、宿主細胞に侵入した菌が膜孔形成毒素Pneumolysin(Ply)によってエンドソーム膜を損傷させることでエンドサイトーシスによる殺菌を逃れ、血中や髄液へと移行する経路が明らかとなってきた。このようにPlyは肺炎球菌の宿主細胞内生存に必須の病原因子であるが、一方で、過度なエンドソーム損傷は宿主殺菌機構であるオートファジー誘導のきっかけとなる。したがって、肺炎球菌は宿主内生存のためにPlyの活性を適切に調節する必要がある。今回、我々は、Plyが膜に作用する際の足場となるシアル酸を肺炎球菌自身が産生するシアリダーゼNanAが刈り取ることで、肺炎球菌はPlyによる過度のエンドソーム膜損傷とそれに伴う菌の排除を回避していることを見いだした。本成果はシアリダーゼ阻害剤等による肺炎球菌の新規治療法開発に貢献することが期待される。
続きを読む: 肺炎球菌はエンドソーム膜上のシアル酸を刈り取ることで自身が産生する膜孔形成毒素の過剰な働きを抑制し、宿主細胞による排除から身を守る
Chiaki Ikenoue, Mari Matsui, Yuba Inamine, Daisuke Yoneoka, Motoyuki Sugai, Satowa Suzuki and the Antimicrobial-Resistant Bacteria Research Group of Public Health Institutes
BMC Infectious Diseases (2024) 24:209
感染症発生動向調査におけるカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)感染症の届出基準の妥当性を検証するため、届出情報および分離株を解析した。
届出315例のうち、146株(46.3%)が「メロペネム基準」:メロペネムMIC≥2 mg/Lを満たし、169株(53.7%)は「イミペネム基準」:イミペネムMIC≥2 mg/LかつセフメタゾールMIC≥64 mg/L のみを満たしていた。
「イミペネム基準」のみを満たす株はすべてカルバペネマーゼ遺伝子陰性、多剤耐性率1.2%で、「メロペネム基準」を満たす株は67.8%がカルバペネマーゼ遺伝子陽性、多剤耐性率65.8%であった。
以上の結果から公衆衛生学的に問題となるカルバペネマーゼ産生株による感染症の届出に重点を置く場合は届出基準は「メロペネム基準」単独とするのが妥当と考えられた。
本研究は日本医療研究開発機構(AMED) 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 薬剤耐性菌のサーベイランス強化および薬剤耐性菌の総合的な対策に資する研究(研究代表者 菅井基行)により実施された。
続きを読む: カルバペネム耐性腸内細菌目細菌のサーベイランス届出基準におけるメロペネム耐性の重要性: ナショナルサーベイランスの解析より
Keigo Abe, Nobuo Koizumi, Shuichi Nakamura
Nature Communications 14: 7703, 2023.
病原微生物の細胞上や組織内での動態を解析するためには,微生物に蛍光マーカーを付けて細胞と区別する手法が一般的ですが,蛍光物質による生理機能阻害の可能性があり,使える微生物種は限られます.本研究では,腎臓細胞上の細菌(レプトスピラ)の動きを,蛍光標識を使うことなく,機械学習で自動追跡する手法を開発しました(図I)(https://youtu.be/HnGkaJcm_AU).これにより,保菌動物であるラットの腎臓細胞に感染したレプトスピラの多くは細胞への付着性が高い一方でクロウリング運動性が低く,重症化しやすい犬の腎臓細胞に感染したレプトスピラは付着性が低い一方でクロウリング運動性が高い傾向にあり,レプトスピラの付着性とクロウリング運動性が逆相関の関係にあることがわかりました.
本研究は東北大学と感染研の共同で,科研費(JP19K07571, JP21H02727, JP22K07062)およびAIEの助成により行われました.
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