(「築地明石河岸より佃島を望む」『日本及び日本人』一九二五〈大正十四〉年)
『日本及び日本人』に寄せた巴水のスケッチの一葉(一九二五〈大正十四〉年)で、築地側から佃島を眺めた風景です。特徴的なのは、手前の小さな運搬船とその奥に見える白い大型の船舶の対比でしょう。大型の船舶は和船か洋船か分かりませんが、白色の基調が美しく、周囲を魅了する体で停泊しています。ひょっとすると大正時代に多く姿を...
(川瀬巴水「平泉金色堂」1957〈昭和32〉年、茨城キリスト教大学蔵)
川瀬巴水の絶筆となった「平泉金色堂」。
巴水はなぜ最後の作に平泉を選んだのでしょうか。
それは、言うまでもなく、旅を愛し旅に死んだ先人、松尾芭蕉を思ってのことでしょう。
芭蕉の『奥の細道』はすでに多くの学者・識者が語ったように、奥州平泉探訪が旅の大きな目的の一つでした。
『奥の細道』の原文を読み...
(川瀬巴水「東京十二題・駒形河岸」一九一九(大正八)年制作。初摺、後摺でなく覆刻。染谷蔵)
馬の曳く荷車。その下に輝く地面の強烈な黄色。夏の陽の光がストレートに伝わってくる一作です。
木版画は、一般的には、後摺や覆刻に比べて、初摺の価値が高いと言われます。巴水は彫師・摺師に任せっきりでなく、その工程にもよく同席したと言われます。とすれば、巴水がその目で確認したと言えますから、初...