川瀬巴水展、盛況のうちに終了いたしました

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10月25日(木)午後1時から4時半まで、新発見の川瀬巴水水彩画「河口湖」の展示を中心にしたミニ巴水展が、茨城キリスト教大学図書館ラーニングコモンズで開かれ、盛況のうちに終了いたしました。

どれくらいの方が訪れたのか、統計を取りませんでしたので、分かりませんが、ほぼ満員の状況で会場(といっても狭いですが)がごったがえしていました(上の写真のような感じです)。

今回の眼玉は何と言っても、新発見の「河口湖」です。その全貌をお見せします。

どうです。実に清々しい富士の姿でしょう。とくに河口湖に映った逆さ富士が、何とも深いブルーで、その上にたなびく霞と相まって独特な味わいを醸し出しています。

同日、3時からのミニレクチャーでは、まず、この水彩画の発見の経緯について助川桂子さん(巴水の会幹事)からくわしい説明がありました。それによれば、一年以上の時間を経て、この水彩画に辿りついたとのこと。発見という結果だけみれば、それはいかにも単純単線な出会いのように思われてしまいますが、そこへ行くまで紆余曲折があり、実に大変だったことがよく伝わって参りました。(なお、巴水の版画作品に同名の「河口湖」があります[ポストカード型も]。昭和七年に制作されたものですが、この水彩画とは全く構図がことなります。また昭和十六年作「河口湖大石」という作品も巴水にはあり、これはこの水彩画と同じく河口湖の「うの島」〈作品右側手前の島〉が描き込まれています)

そして、今回はさらに大変な作品が会場の一郭を飾りました。巴水が今からちょうど100年前、最初に手掛けた版画、塩原三部作です。

それをお持ちいただいたのは、巴水の会顧問の鈴木昇氏です。鈴木さんは、先週まで、その塩原での巴水展(前のブログで紹介しました)を成功に導いた立て役者で、その折の話も含めて三十分ほどお話しいただきました。鈴木さんのお話によれば、今回お持ちいただいた三部作は、三部揃っているものとしては、国内唯一のものではないかとのことでした。

それを間近にみることが出来るなんて、この日に会場にいらした方は実にラッキーだったと思います。

鈴木さん、ありがとうございました。

それから、この「河口湖」が発見される過程で、様々な仲介の労を取ってくださった方の中に、「河口湖」をお持ちの方と同じ河原子にお住まいのMさんがいらっしゃいます。すこし前になりますが、そのMさんにお会いした時、たまたま色々な話から、Mさんが、渡邊木版画舗が毎年制作している「版画カレンダー」を全てお持ちだという話が飛び出しました。

それで、そのカレンダーも展示したら面白かろうといことで、Mさんにお願いをして、展示に至ったわけです。

今回の展示は大学で行ったので、学生も参加してくれました。その学生たちは異口同音に、この版画カレンダーが素敵だ、可愛いと言っておりました。

こうしてみると、ミニ版画展であったわけですが、実に中身の濃い展示が出来たと自画自賛いたします。これも巴水の会の方々を中心に、多くの方のご賛同とご協力があったお蔭と、改めて感謝もうしあげます。

最後に、今回展示会にいらした方にお配りした、展示概略を載せておきます。今回の水彩画を発見するきっかけとなった巴水の制作日誌の一部も載せましたので、参考にしてください。

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川瀬巴水展 展示作品について
染谷智幸(茨城キリスト教大学文学部教授、巴水の会会長)
2018年10月25日(木曜)

このたびは、巴水展まで足をお運びいただきありがとうございました。
こころより御礼をもうしあげます。

今回は、川瀬巴水関係の水彩画並びに版画を23点、渡邊木版画舗が30年間作り続けてきた版画カレンダーを展示させていただきました。まず版画を一覧しますと、

・河口湖〈水彩画〉(1点)*今回新たにT宅にて発見されたもの(1点)
・星月夜(宮嶋)、芝公園の雪(2点、初摺り) *水彩画とともにT宅にあったもの
・茨城キリスト教大学蔵作品:土浦乃朝、潮来乃夕暮、浮島柳縄、平潟東町、水木乃曇り日、水戸涸沼広浦、水戸涸沼之雪、河原子乃夜雨、桃浦、磯浜、五浦之月、金郷村(12点、全て初摺り)
・鈴木昇氏所蔵5枚、(うちに袋田之瀧)
・その他の作品、芝増上寺、駒形川岸(2点、覆刻)、大森海岸(1点、後摺り)

となります。以下、若干の説明を加えます。

巴水の制作日誌、昭和二十一年七月二十三日の条に「「多賀へ下車、TK君へ去年たのまれし肉筆二枚(わかめ、にぼしの礼)あげて」*とあります。巴水の会では、助川桂子氏を中心として、この肉筆二枚の在り処を探索してまいりました。その結果、まさにその「TK」氏のお宅から、上掲の「河口湖」が発見されました。巴水の会は発足してから、茨城県内の作品に関して多くの新知見を見出して来ましたが、この水彩画発見**はまさに快挙です。その理由を二つほど挙げておきます。

一つは、 この作品が制作日誌の記述通りに出て来たことです。巴水の制作日誌が極めて信憑性の高いものであることが証明されたことになります。

もう一つは、この「河口湖」が水彩画として実に見事なことです。巴水が富士を描いた作品は多くあります。代表的なのは桜の枝越しに富士を描いた「西伊豆・木負(きしょい)」(あのスティーブ・ジョブズが最初に購入したと言われる作品)、積もった雪に夕日が深く差しこんだ「雪晴の吉田」などがありますが、清新な富士と言えば、この水彩画を第一に上げても良いのではないでしょうか。実にさわやかで奇をてらうことなく、富士を真正面から捉えた大作です。

ちなみに、この水彩画を巴水は「わかめ、にぼしの礼」と述べていますが、巴水のほのぼのとした素朴な人情味を伝えてくれています。この「わかめ、にぼし」がどの程度のものだったのか、今となっては分かりませんが、巴水はこのTKさんから他にも様々な援助やもてなしを受けたと想像されます。残念なのは、二枚あった肉筆の一枚しかTKさんのお宅には残っておらず、もう一枚はどこへ行ったのか分からないことです。

巴水が肉筆画を多く描き、それを販売、またお礼等に替えるなどしていたことは良く知られたことです。(版画は渡邊木版等との契約があり出来ませんでした)よって、茨城県に戦後中心に足繁く通った巴水が水彩画を茨城県の人たちに手渡したことは十分に推測されることです。この「河口湖」の発見とその告知が、そうした埋もれた作品の発掘に繋がることを祈るばかりです。(なお、巴水の版画作品に同名の「河口湖」があります[ポストカード型も]。昭和七年に制作されたものですが、この水彩画とは全く構図がことなります)

なお、今回は茨城キリスト教大学が新たに所蔵した巴水作品数点を含む13点を展示しましたので、ご鑑賞いただければと思います。最も新しいのは「平潟東町」で、侘びしくも暖かい生活のある漁村の一風景が、夕刻迫る暗がりとともに、何ともほの明るいタッチで描きだされています。

また、昨今、渡邊木版画舗で覆刻された「芝増上寺」「駒形川岸」も2点、展示いたしました。木版画と言うと、すぐに初摺りの価値の高さが指摘されます。それはもちろんのことですが、覆刻には覆刻の良さがあり、それを鑑賞するのも、版画鑑賞の醍醐味です。初摺りが「まことの花」であれば覆刻は「時分の花」の美しさと言っても良いでしょう(「まことの花」「時分の花」は世阿弥の言)。

なお、今回は水彩画ご所蔵のTK様へ仲介をしていただいたM様が、渡邊木版画舗の版画カレンダー30年分を全てお持ちだということが分かり、それもお借りして展示することにいたしました。この版画カレンダーは実に見事で、様々な絵師・彫り師、摺り師が参画しています。これも是非ご鑑賞ください。

最後になりましたが、今回、水彩画を私どもに快くお貸しいただいたTK氏、その仲介をしていただいたばかりか版画カレンダーまでご提供いただいたM氏に心より御礼を申し上げます。また、いつものことではありますが、遠いところから「袋田之瀧」***の巴水版画等をお持ちいただいた国際新版画協会長の鈴木昇氏にも心より御礼を申し上げます。
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* 実際には「TK」ではなく、名前が記されていますが、個人情報ですのでTKとしました。
** この「河口湖」の詳しい写真を渡邊木版画舗の社長である渡邊章一郎氏にお見せしたところ、間違いなく巴水の作品と認定していただきました。
*** この「袋田之瀧」は来年茨城キリスト教大学の所蔵になる予定です(あくまでも予定ですが・・・)。極めて摺りの良い作品です。そうなりましたら、改めてまたご披露の方法などを考えたいと思います。
以上



この記事へのコメント

  • 東京のリサイクルショップで働いております、野本と申します。

    はじめまして、他にご連絡先がわからず、突然にコメントをお送りさせて頂く失礼をお許しください。

    私は、東京の便利屋・リサイクルショップで働く者です。

    最近、こちらのブログでご紹介されています、川瀬巴水の水彩画にとても良く似た、川瀬巴水の版画作品(×ばつ17.7cm)が当方の職場の倉庫から出てきました。

    リサイクルショップですので、販売を目的に値段の相場を調べていたところ、こちらのブログに辿り着きました。

    当方はアートに関しまして、全くの無知です。
    インターネットにて、画像検索したところ辿り着いたのが、こちらのブログともう一件、中国の方が恐らく個人で運営されているブログ(2021年02月21日 付)で紹介されているものでした。

    中国の方が紹介されているのは、当職場が所有しております版画作品と恐らく同じ物のようです。

    この版画作品が真作かどうか、不明なのですが、全くご存知ない方に販売、お譲りさせて頂くよりは、お詳しい方にご連絡させて頂けないかと思い、このコメントを書き込ませて頂いております。

    真作かどうか、わからない上、職場の所有になりますので、無償でお譲りすることが難しい中、大変失礼なご連絡とは存じております。

    もちろん、ご不快に思われましたら、無視してくださって大丈夫です。

    もし、ご興味がございましたら、ぜひ、作品を写真に撮りましたものをメールにてご覧頂けないかと思っております。

    私個人のメールアドレスで大変申し訳ないのですが、ご連絡頂けますと嬉しいです。

    どうぞ、宜しくお願い致します。
    2021年06月22日 15:32