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岡本法律事務所のブログ

岡山市北区にある岡本法律事務所のブログです。 1965年創立、現在2代めの岡本哲弁護士が所長をしています。 電話086-225-5881 月〜金 0930〜1700 電話が話中のときには3分くらいしてかけなおしください。

カテゴリ:憲法 > 社会保障法

旭紙業事件最高裁平成8年 両角ほか『労働法 第4版』有斐閣・2020年・16頁

労働判例百選 第8版 1事件 9版1事件 10版 1事件
菅野10版12版掲載 法学教室2022年8月号45頁

療養補償給付等不支給処分取消請求事件
最高裁判所第1小法廷判決/平成7年(行ツ)第65号

平成8年11月28日

【判示事項】車の持込み運転手(傭車運転手)が労働基準法及び労働者災害補償保険法上の労働者に当たらないとされた事例

【判決要旨】自己の所有するトラックを持ち込んで特定の会社の製品の運送業務に従事していた運転手が、自己の危険と計算の下に右業務に従事していた上、右会社は運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、右運転手の業務の遂行に関し特段の指揮監督を行っておらず、時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであったなど判示の事実関係の下においては、右運転手が、専属的に右会社の製品の運送業務に携わっており、同社の運送係の指示を拒否することはできず、毎日の始業時刻及び終業時刻は、右運送係の指示内容のいかんによって事実上決定され、その報酬は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも一割五分低い額とされていたなどの事情を考慮しても、右運転手は、労働基準法及び労働者災害補償保険法上の労働者に当たらない。

【参照条文】労働基準法9

労働者災害補償保険法7

【掲載誌】 訟務月報44巻2号211頁

最高裁判所裁判集民事180号857頁

判例タイムズ927号85頁

判例時報1589号136頁

労働判例714号14頁

労働経済判例速報1627号25頁

【評釈論文】季刊労働法184号177頁

訟務月報44巻2号87頁

訟務月報44巻2号212頁

判例タイムズ臨時増刊978号278頁

判例評論463号59頁

法律時報70巻4号119頁

法律時報71巻4号119頁

労働法律旬報1422号21頁

主 文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告代理人荒井新二、同森和雄、同鮎京眞知子、同横松昌典の上告理由第一について

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。

その余の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、首肯するに足り、その過程に所論の違法はない。

原審の適法に確定した事実関係によれば、上告人は、自己の所有するトラックを旭紙業株式会社の横浜工場に持ち込み、同社の運送係の指示に従い、同社の製品の運送業務に従事していた者であるが、(1)同社の上告人に対する業務の遂行に関する指示は、原則として、運送物品、運送先及び納入時刻に限られ、運転経路、出発時刻、運転方法等には及ばず、また、一回の運送業務を終えて次の運送業務の指示があるまでは、運送以外の別の仕事が指示されるということはなかった、(2)勤務時間については、同社の一般の従業員のように始業時刻及び終業時刻が定められていたわけではなく、当日の運送業務を終えた後は、翌日の最初の運送業務の指示を受け、その荷積みを終えたならば帰宅することができ、翌日は出社することなく、直接最初の運送先に対する運送業務を行うこととされていた、(3)報酬は、トラックの積載可能量と運送距離によって定まる運賃表により出来高が支払われていた、(4)上告人の所有するトラックの購入代金はもとより、ガソリン代、修理費、運送の際の高速道路料金等も、すべて上告人が負担していた、(5)上告人に対する報酬の支払に当たっては、所得税の源泉徴収並びに社会保険及び雇用保険の保険料の控除はされておらず、上告人は、右報酬を事業所得として確定申告をしたというのである。

右事実関係の下においては、上告人は、業務用機材であるトラックを所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事していたものである上、旭紙業は、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、上告人の業務の遂行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえず、時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであり、上告人が旭紙業の指揮監督の下で労務を提供していたと評価するには足りないものといわざるを得ない。そして、報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、上告人が労働基準法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない。そうであれば、上告人は、専属的に旭紙業の製品の運送業務に携わっており、同社の運送係の指示を拒否する自由はなかったこと、毎日の始業時刻及び就業時刻は、右運送係の指示内容のいかんによって事実上決定されることになること、右運賃表に定められた運賃は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも一割五分低い額とされていたことなど原審が適法に確定したその余の事実関係を考慮しても、上告人は、労働基準法上の労働者ということはできず、労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しないものというべきである。この点に関する原審の判断は、その結論において是認することができる。

論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、原判決の結論に影響しない説示部分を論難するに帰し、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官井嶋一友 裁判官小野幹雄 裁判官高橋久子 裁判官遠藤光男 裁判官藤井正雄)

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