高安の里と大阪平野が一望できる展望施設から、保全活動を実践する加納義彦さん(左)と 大橋一輝さん(右)
高安の里と大阪平野が一望できる展望施設から、
保全活動を実践する加納義彦さん(左)と大橋一輝さん(右)
ニッポンバラタナゴの保全活動を通じて
都市と農山漁村が共生する次代の社会を目指す
環境省から絶滅危惧種に指定されているニッポンバラタナゴ(地元名:キンタイ)。
この希少な淡水魚の保護に取り組んでいるのが、ニッポンバラタナゴ高安研究会です。「1982年頃、私は大阪市内の高校教師で、生物部の指導をしていました。自宅近くのため池にはタナゴがたくさん生息していて、淡水二枚貝に卵を産みつける珍しい生態を持っていることを知り、私は生物部の生徒たちと高安地域のため池調査を始めました。
しかし、在来種のニッポンバラタナゴが生息するため池は放置され、外来種であるタイリクバラタナゴとの交雑が進み、ニッポンバラタナゴは減少する一方でした。
このままでは日本固有のタナゴ種が絶滅してしまう。そんな危機感を持って、私は40年にわたり、高安地区のニッポンバラタナゴの研究と保全活動を続けています。」(加納さん)
研究会では、キンタイを保護するための保護池を10カ所持っていますが、池の水が枯れてしまったことがあり、水源である森林を保全するための整備活動を始めました。また、畑でまかれた農薬が保護池に入り、キンタイが全滅してしまう経験もしたため、地域全体の活動への理解と協働の重要性を強く感じ、自然と人が共生できるまちづくりに取り組むようになりました。
キンタイを含む生物多様性を保全するために、保護池の改修工事とため池のドビ流し(池干しの地元の呼び名)を実施し、維持・管理は地元住民と協力して行われています。その水を利用し、キンタイの保護池周辺では、地域の農家と協働した河かわち内木綿の有機栽培や無農薬有機野菜づくりが行われ、商品化が進んでいます。また、保護池の水で栽培したキンタイ米のブランド化も推進し、地域を活性化する持続可能なライフスタイルの形成に取り組んでいます。
こうした活動を多くの人に知ってもらうために、高安まちづくり協議会と協働して、廃校を利用した里づくりの拠点となる「きんたい廃校博物館(きんぱく)」や、河内木綿を伝承する「もめんカフェ」、高安山の森林資源を利用した「木育教室」、農業をベースにした近未来のライフスタイルを体験し、環境についても学べる「タナゴファーム」の活用など、地域の新たな魅力づくりに取り組んでいます。キンタイの保護から始まったこうした活動の全てに、地球環境基金の助成金が活かされています。
まちづくりの中核として活動を推進しているのが、15名の若手メンバーです。高安まちづくり協議会の会議の席上で、加納さんが淡水魚の保護につながる新しいまちづくりを提案したところ、共感した若手メンバーが集まり、その友人を中心に共感がひろがっていきました。キンタイに興味があり、ネットで調べて連絡をくれた地元の人もいます。今では活動ごとにチームができていて、それぞれに協働相手がおり、若者を中心とした活動の輪が大きくひろがっているのを実感できます。「こうした若手メンバーの力は想像を超えていました。高安まちづくり協議会から管理を任された旧中学校の実験室に水槽を並べてタナゴを飼育していたら、若手メンバーたちが『きんぱく』を創造してしまいました。また、アウトドアウェアメーカーや不動産会社の社員も参加してくれ、そのノウハウで新しいイベントや、古民家を再利用した若い世代の移住が始まっています。」(加納さん)
若い力の参画と協働により、キンタイの保護から始まる地域づくりは、新しいかたちに進化しようとしています。
地元住民や行政との協働が何よりのポイントです。現在でもキンタイの保護とまちづくりの関係を意識している地元住民は非常に少ないでしょう。しかし、一部の農家や行政、企業のメンバーが共感してくれることで、協働ができるようになってきていて、畑の一部をキンタイ米栽培のために提供してくれる農家も増えてきています。環境保全にとどまらず、まちづくりという大きな視点を持つことが、地域との協働につながったと思います。(加納義彦さん)
ニッポンバラタナゴ高安研究会の次の目標は、ニッポンバラタナゴを含む生物多様性を保全するための"高安地域循環共生圏"を構築することです。"高安地域循環共生圏"を実現するため、キンタイを保護している池めぐりと「きんぱく」を組み合わせたエコツーリズムを計画。また、「タナゴファーム」で水や食料やエネルギーを自給する新しいライフスタイルを体験できるツアーなど、都市と地域が循環し、共生するための試みが次々と行われています。これらのエコツーリズムを確立し、高安地域の魅力を体験してもらうことで、地域と関わる人を増やし、将来的には子育て世代のIターンによる移住を増やしていくための取り組みも進めています。「今は団体の役員も若手メンバーに引継ぎ、世代交代をしました。次の世代である若者たちが住みやすい地域にするには、若者たちが主体性を持って地域や活動に関わることが大切です。そうすることで、若い世代が住みやすい地域が自然とできますよね。僕はそれを応援し、焚きつけるのが役割です。」(加納さん)
ニッポンバラタナゴの保護に始まり、地域と協働する新しいまちづくりは、次の世代へと受け継がれていきます。
*地域循環共生圏
環境省が提唱する、農山漁村が自然を活かした資源やサービスを提供し、都市部が資金・人材などを提供する、お互いの強みを活かして補完しあう社会。
都市と農山村が支えあう、地域循環共生圏*の創生への説明図
ニッポンバラタナゴの保護活動から派生して、地域を巻き込みながら、多岐にわたる活動を展開している点は素晴らしいと思います。これらの活動を発展させて「地域循環共生圏」のためのプラットホームづくりを開始するなど、SDGs(持続可能な開発目標)の可視化が近づいてきように見えます。今後も一層の活躍を期待したいです。(地球環境基金 福田)