星野リゾート代表が「インバウンドの富裕層は狙わない」と断言!独自の"逆張り"戦略を開陳

星野佳路・星野リゾート代表インタビュー

ダイヤモンド編集部
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狂乱バブル ホテル大戦争#18Photo by Masato Kato

ホテル業界はインバウンドのさらなる増加に期待を寄せるが、星野リゾートの星野佳路代表は「注意が必要だ」と警鐘を鳴らす。日本が真の観光立国になるためには何が必要か。特集『狂乱バブル ホテル大戦争』の#18では、観光業界や交通インフラが抱える課題から、自社の会員・ブランド戦略まで、星野氏が独白した。(聞き手/ダイヤモンド編集部 下本菜実)

インバウンドは偏在が顕著に
ホテルは供給過多の可能性も

――円安が追い風となり、月間の訪日外国人旅行者数は2024年3月から3カ月連続で300万人を超えました。一方で、急激な観光客の増加により、地元住民の生活や自然環境に悪影響が出る「オーバーツーリズム」が問題視されています。

世界で言われているようなオーバーツーリズムは、日本ではまだ起こっていないと考えています。日本では、特定の地域や時期に旅行客が集中することで、年間100日のオーバーツーリズムと年間265日のアンダーツーリズムが起こっている。

分かりやすいのが、ゴールデンウイークの有名観光地です。私が星野温泉旅館に入社した33年前から、長野県の軽井沢ではゴールデンウイークには20キロの渋滞が発生していましたし、通常時の3倍の宿泊価格でも満室になっていました。

オーバーツーリズムを解決するには、休みの時期を分散させることが有効です。昨年、愛知県は11月21日から、県民の日である11月27日までの1週間のうち、1日を学校休業日として、休暇取得を促進する「あいちウィーク」をスタートさせました。

これまでも、政府主導で休み方改革の議論がされていましたが、なかなか進んでこなかった。今回、自治体から変化が始まったことは、大きな一歩だと思います。

――インバウンド(訪日外国人観光客)の集客には、新型コロナウイルスの感染拡大前と比べて変化がありますか。

インバウンドの数は19年比で戻ってきていますが、当時の課題が残されたまま、とにかく数字だけが戻っている状況。課題というのは、一部地域への集客の偏りです。

(観光庁が調査した観光統計によると)19年の上位5都道府県は東京、京都、大阪、北海道、沖縄。これら5つの都道府県で外国人宿泊者数の65%を占めていました。

23年度の調査では、トップ5が変わって、東京、京都、大阪、北海道、福岡になった。そして、これら五つの都道府県を合わせた外国人宿泊者数が、全体の70%を超えました。特定の地域への偏りは、19年より顕著になっているのです。

この状況は、われわれの業況にも反映されており、東京はインバウンドが8割を占めます。逆に高知県のOMO7高知、山口県の界 長門、青森県の界 津軽などはインバウンド比率が低い。界 津軽のインバウンド比率は2%ほどです。地方にインバウンドを呼び込み、偏りを是正することが必要だと考えています。

――東京は8割ですか。

予約の状況を分析すると、インバウンドが7〜8割を占めます。一方で、星のや東京では、日本人比率をマーケティング上の目標にしており、インバウンド比率は5割にとどめることを目指しています。

星のや東京のコンセプトは「都市に通用する日本旅館」です。(旅館に宿泊した経験が少ない)海外の方は、日本旅館としてのレベルを評価することがなかなか難しい。なので、日本の目利き層の方に泊まっていただいて、サービスの内容について評価していただき、フィードバックを生かして進化させていくことが大切だと考えています。

――外資系のホテルオペレーターは会員基盤から成る集客力を武器に、日本のデベロッパーやオーナーを引き付けています。星野リゾートはどのように対抗しますか。

われわれはインバウンドに対して、特別な戦略を掲げていません。(ほかの外資系ホテルのように)富裕層をターゲットにしようとは思っていませんし、富裕層というマーケットセグメントがあるとも思っていない。

各施設の魅力を伝えて、国籍にかかわらず需要を最大にしていくことが、RevPAR(販売可能な客室1室当たりの収益)の最大化につながると考えています。

外資系のホテルオペレーターとの違いで言えば、私たちは魅力をつくることで施設や地域を再生してきました。インバウンドの需要があるからホテルを造るのではなく、需要を生もうとしている。そういった特徴から、私たちはこれから観光地として育てていこうという施設や地域から声を掛けてもらうことが多いです。

――コロナ禍でオフィスビルの需要が陰り、デベロッパーがホテルを造る流れが加速しました。

世界的に見て、ホテルの数はオーバーサプライとアンダーサプライを繰り返しています。なぜなら、ホテルの供給が足りないと開発に乗り出す会社が一気に増えて供給過剰になり、その後10年ほどで需要が追い抜くと再び開発が始まる。この流れを繰り返すのです。

ですから、今後の日本のホテルのマーケットは供給過多になる可能性があると思っています。日本は30年ぶりくらいに、需要が急増しました。デベロッパーがホテルに注目してくださるのはうれしいのですが、注意が必要だと考えています。

――6月20日、千葉県浦安市に星野リゾート 1955東京ベイを開業しました。付近には、東京ディズニーリゾートの利用客をターゲットにしたホテルが複数あります。どのような勝算があるでしょうか。

これまで、勝算がある案件は一つもないんです。(山梨県の)リゾナーレ八ヶ岳も勝算はなかったですし、北海道のリゾナーレトマムも最初は大赤字でした。私はオーナーや利用者にとって、正しいことをやっていけば、いずれしっかりと業績につながるはずだと考えています。

1955東京ベイは、23年12月まで東京ベイ東急ホテルとして運営されていた施設を改装し、オープンしました。改装前にまず行ったのは、ディズニー周辺に泊まっている人の満足度や困り事の調査です。

調査で判明したディズニー旅の大変さは想像以上でした。例えば、パークで遊んで帰ってきた後の子どもの食事や、地方から3世代で遊びにきている人は祖父母の疲れもケアしなければならない。このホテルでは、ディズニー旅で困っている人の役に立つホテルになることが、正しいことだと考えました。

――1955東京ベイのオープンに当たり、宿泊フロアで改装したのは、16階から最上階である18階までの3フロアのみでした。オーナーとの契約に当たり、建築費の高騰で全館改装がかなわなかったのでしょうか。

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