松山英樹・マスターズ2021制覇の影に「2度の悔し涙」、格闘の10年秘史
詳細はこちら
松山英樹が日本人初の偉業を成し遂げた。2011年の初出場から10回目の挑戦で、ついにマスターズを制覇したのである。特集『ゴルフ大全 ×ばつカネ』(全12回)の#2では、頂点に立つまでの10年、その知られざる格闘の日々を、松山をよく知るゴルフジャーナリストの舩越園子氏がつづる。栄冠の陰には2度の悔し涙があった。
「表彰式では僕が勝った」
同学年の石川遼にあからさまな対抗心
10年前。松山英樹が大学生のアマチュアにしてマスターズ・トーナメントに初出場し、見事、ローアマ※(注記)1に輝いたあのとき以降、彼を言い表す日本語として「鈍感力」という言葉が多用された時期があった。
それは、当時の日本ゴルフ界を席巻していた国民的スター、石川遼との対比でもあったのだと思う。明るい笑顔を輝かせながら饒舌に語る派手でアクティブな石川が「動」なら、黙々とプレーする松山は「静」であり、その場の空気を読んで上手に対応する石川が「器用」なら、細かいことに惑わされることなくデンと構える、いい意味での「鈍感」であり、その「鈍感力」こそが松山の持ち味だと評されていた。
しかし、2011年4月のマスターズで私が初めて目にした松山には、むしろ豊かな感受性が感じられた。喜怒哀楽にも富むエモーショナルな大学生だと私には思えた。
オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブで初めて臨んだ会見では、欧米メディアからの質問の大半が前月に起こったばかりの東日本大震災に関する事柄に集中した。被災地となった「第二の故郷」仙台や東北エリアへの複雑な思いを胸に抱いていた松山は、会見場の重苦しい空気を肌で感じ取り、険しい表情で壇上に座っていた。
どんな言葉で、どう答えたらいいのか。全てが初めての経験故に、対処の仕方が分からないという様子の松山は、困惑の色を露骨に表情で示していた。
しかし、会見が終わり、ひとたびコースに出ると、彼の表情は一変し、「会見が一番緊張する!」と口走るやいなや、弾けるような笑顔を見せ、意気揚々と球を打ち始めた。
夢にまで見たマスターズでこれから4日間、戦うのだという現実を五感で味わっていた松山からは、その喜びが溢れ出ていた。
「アーメンコーナー※(注記)2って、何が難しいのかな?」
ちょっぴり得意げな顔で、そう言ってのけた松山は、いざ試合が始まると、その言葉通り、オーガスタ・ナショナルの難所であるアーメンコーナーをものともしない堂々たるプレーぶりを披露した。
3日目のラウンド後、「この調子で最終日もがんばれば、ローアマも狙えるね」と声を掛けたら、松山は「全然気にしてません」と声を荒らげた。彼が思わず、むっとした表情を見せた理由は、ローアマというものの栄誉を彼自身がまだ知らなかったからだが、もう一つ「僕はアマチュアの中で一番になりたいのではなく、トッププロたちの中でどこまでやれるかを知りたい」と思っていたからだ。
最終日に27位タイに食い込み、いざローアマに輝いた松山は、前日とは一転して喜びを露わにした。そして、日本人として初めてマスターズの表彰式に臨み、笑顔を輝かせながら、こう言ったのだ。
「順位ではリョウに負けたけど、表彰式では僕が勝った」
そう、あのときの松山は、同い年の石川にあからさまに対抗心を燃やし、遭遇した出来事に敏感に反応して、笑ったり怒ったり得意げになったりもする無邪気な大学生だった。
しかし、その一方で、松山の視線はすでに気高き世界の頂点を見据えていた。
そうやって遠くを見据えながらも、すぐ目の前の目標を見つめ、クリアしようと努力する、いわば「遠近法」的な歩み方は、松山が東北福祉大学ゴルフ部の阿部靖彦監督から教えられたものだった。
※(注記)1 ローアマチュア。プロの大会に出場したアマチュア選手のうち、最も優秀な成績を上げた選手に与えられる称号
※(注記)2 マスターズが行われるオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブの11番、12番、13番ホールの総称。不規則な風が多くの選手を翻弄する
記事一覧
名門ゴルフ倶楽部で動く人脈、カネ、ビジネス...「エリートの最強社交場」の全貌
2021年6月7日
#1柳井正氏、孫正義氏、岡藤正広氏らが集い「ビジネスが動く」名門ゴルフ倶楽部の実名メンバーリスト
2021年6月7日
#2松山英樹・マスターズ2021制覇の影に「2度の悔し涙」、格闘の10年秘史
2021年6月7日
#3名門9大ゴルフ倶楽部「カネでは入会できない」厳格審査の内幕、霞ヶ関・廣野...
2021年6月8日
#4松山英樹の恩師が明かす、超一流選手を輩出できる東北福祉大ゴルフ部「3つの育成術」
2021年6月8日
#5関西の名門ゴルフ倶楽部"四天王"で絶対やってはいけない、唯一かつ意外な作法
2021年6月9日
#6慶應三田会の影も?五輪ゴルフ会場「霞ヶ関CC」決定を巡る大論争の舞台裏
2021年6月9日
#7名門ゴルフ倶楽部の会員に"普通の人"がなる極意、鍵を握る「ある数字」とは?
2021年6月10日
#8日本男子プロゴルフツアー「失われた30年」、サントリーは撤退でZOZOは米ツアーへ
2021年6月10日
#9青木功&倉本昌弘、ゴルフ界2大巨頭が日本男子ツアー「敗戦」の理由と復活の鍵を激白
2021年6月11日
#10ゴルフ女子ツアーの賞金総額が男子を上回る理由、大スポンサー・アース製薬の改革
2021年6月11日
#11日本女子プロゴルフ協会会長が女子ツアー「中央集権化」を熱烈に訴える理由
2021年6月12日
#12ゴルフ場が高級路線とコスパ重視に「二極化」する理由、生き残りへ究極の選択
2021年6月13日
あなたにおすすめ