増税時のポイント還元策は消費を下支えするものの
終了後に"反動"の可能性
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キャッシュレス決済時の
ポイント還元制度を利用する場合の
消費者への還元率
キャッシュレス決済時のポイント還元制度が、消費増税対策として2019年10月に実施される。期間は20年6月までの9カ月間。参加する中小の小売店や旅館、生協等の各種組合、コンビニ等のフランチャイズチェーンなどでキャッシュレス決済を行うと、最大5%のポイントが消費者に還元されるのだ。
消費増税時には軽減税率制度が導入され、外食等を除く飲食料品は現在の税率8%で据え置かれる。さらにポイント還元制度の加盟店でキャッシュレス決済を行えば、増税前よりも実質的に最大5%安く購入できる。日用品や衣料品、家電などの購入時にもポイントが付与され、実店舗だけでなくオンラインショップも制度の対象となることから、かなり多くの消費者が制度の恩恵を受けられる。
その上、取得するポイントに一律の上限は設けられておらず、所得水準に関係なく誰でも制度を利用できる。制度の対象外である大手小売店などが売り上げの減少を抑えようと、独自にポイントを上乗せすることも考えられる。世界経済の先行き不透明感が強い中、ポイント還元制度は増税後の家計消費を下支えするだろう。
だが、この制度は良い面ばかりではない。消費刺激効果が大きいほど懸念されるのが、制度終了後の需要減だ。需要平準化策の一つとして実施されるにもかかわらず、制度が需要変動を増幅させ、東京五輪が開催される20年7月以降に大幅な需要減が生じる恐れがある。それを回避しようと、制度を延長することにもなりかねない。
もう一つの懸念は、消費増税への理解を低下させることだ。増税幅を上回る還元率でのポイント付与は、一体何のための消費増税なのか分からなくさせる。赤字国債に依存する社会保障制度の持続性の確保には、給付抑制だけでは限界があり、消費税率をいずれ10%超へ引き上げていかざるを得ない。その際、増税の必要性を広く共有することが困難になれば、議論が先に進みにくくなる。
ポイント還元制度は家計や企業の経済活動に強く影響を及ぼす可能性があるものの、実施期間やその後の動向には注意が必要だ。
(大和総研シニアエコノミスト 神田慶司)
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