伝統音楽にふれる
日本の伝統音楽は、私たちの身近にあります。初めて聴く人も、まずは気軽に伝統音楽にふれてみてください。そして、自分の好きな伝統音楽を探してみてください。
ここでは、伝統音楽との出会い方や、知っておくとより楽しめる知識をご紹介します。
演奏はどこで聴くことができるの?
全国の劇場や地域の公民館などで、伝統音楽の演奏会や歌舞伎(かぶき)などの伝統芸能の公演が行われる機会があります。また、自宅で楽しめるテレビやラジオの放送に加え、最近ではインターネットでの配信もたくさん行われています。テレビCMやゲーム音楽、アニメのBGMなど、普段何気なく耳にする音楽にも伝統音楽が使われていることもあります。
「好きな演奏家+ジャンル」や「住んでいる地域+ジャンル」などで検索してみると、伝統音楽にふれる機会がたくさん見つかると思います。
伝統音楽について知らないけれど、公演を楽しめるの?
知らないから、と気おくれせずに気楽な気持ちで聴いてみてください。
公演に行く時の服装も特に決まりはなく自由ですし、かしこまる必要はありません。知識はなくても、気軽に聴いて楽しむことができます。ただし、客席ではおしゃべりしない、無用な音は立てない、などほかのお客さんに迷惑をかけないようにすることは大切です。 観光のついでに、近くにある劇場や能楽堂へ寄るのもおすすめです。歌舞伎や人形浄瑠璃文楽(にんぎょうじょうるりぶんらく)、能などさまざまな公演が行われています。中にはワークショップや解説などをつけて、より伝統音楽に親しむための工夫をしている公演もあります。
また、プログラムやイヤホンガイド、電光掲示板、さらにはスマホアプリなどを利用して、解説や字幕で公演の内容を詳しく知ることもできます。
どこで演奏の体験ができるの?
演奏家や各演奏団体が開いている音楽教室や、伝統音楽のワークショップなどで体験できます。またみなさんの住んでいる地域や学校に、伝統音楽の同好会や部活動などがあるかもしれません。
また、時期や場所によっては、「伝統文化親子教室」「キッズ伝統芸能体験」「大人のための伝統文化・芸能体験事業」など、伝統音楽の鑑賞と体験ができるイベントが開催されています。
伝統芸能に少しでも興味をもったら、芸術団体のホームページを探したり、「伝統音楽+体験教室」といった言葉で検索したりして、イベントや教室などの情報をチェックしてみましょう!
伝統音楽について自分で調べるにはどんな方法があるの?
伝統音楽を知るためのガイドブックや楽譜、CDやDVDがたくさん発行されています。近くの本屋さんや図書館で探してみてください。
インターネットにもいろいろな伝統音楽のジャンルを紹介・解説するサイトがたくさんあります。動画配信もたくさんありますので、「気になるジャンル+初心者」といった言葉で検索してみてください。
国立劇場各館の図書閲覧室には、伝統音楽に関する本がそろっています。視聴室で、国立劇場各館でこれまでに上演された公演の映像を観ることもできます。
どうしたら演奏家になれるの?
本格的に演奏家を目指すのであれば、音楽大学の邦楽科で学んだり、演奏家のもとで修行したりするなど、いろいろな方法があります。まずは自分からそういった環境に飛び込んでみてはいかがでしょうか。
「国立劇場伝統芸能伝承者養成所」では伝統芸能の伝承者の養成研修を行っています。詳しくは国立劇場伝統芸能伝承者養成所のホームページをご覧ください。SNSでも研修の様子などを更新していますので、チェックしてみてください。大切な日本の伝統芸能を未来へつないでみませんか。
伝統音楽の演奏家に関する研修分野をご紹介します。
歌舞伎音楽
「竹本(たけもと)」
歌舞伎の舞台で、義太夫節の演奏をする人たちのことです。太夫(たゆう)
日本の古典芸能において、その集団の長や主に与えられた称号。浄瑠璃では、語り手をさす言葉として用いられる。は語りを、三味線弾きは太棹(ふとざお)三味線の演奏などを学びます。
鳴物(なりもの)
歌舞伎の舞台で演じられる芝居のために舞台袖に設置された囲いの中で楽器を演奏する人たちのことです。出囃子(でばやし)
歌舞伎において、長唄や囃子方が舞台上で演奏すること。また寄席(よせ)などでは、出演者が舞台に出るときに演奏される音楽のこと。という演出では舞台上に出て演奏します。笛・小鼓(こつづみ)・大鼓(おおつづみ)・太鼓(たいこ)・大太鼓(おおだいこ)といった楽器の演奏などを学びます。
長唄(ながうた)
歌舞伎の舞台で、長唄を演奏する人たちのことです。高音で歌う唄や軽快な音を奏でる細棹(ほそざお)三味線、そして舞台裏で演奏する黒御簾音楽(くろみすおんがく)
舞台下手(しもて)の黒い簾(すだれ)のかかった小部屋で演奏する音楽のこと。芝居の雰囲気を作る音楽や、雪などの効果音を演奏する。「陰囃子(かげばやし)」ともいう。などを学びます。
大衆芸能
寄席囃子(よせばやし)
寄席(よせ)
落語(らくご)や講談(こうだん)などの大衆芸能を上演する演芸場のこと。人を寄せる場所という意味の「寄せ場」を略した言葉といわれる。で、出演者の舞台の出入りの時に三味線や太鼓を演奏する人たちのことです。三味線や鳴物などを学びます。
能楽
囃子方(はやしかた)
能や狂言(きょうげん)の舞台で、立方(たちかた)や地謡(じうたい)
能において、謡本で「地」「地謡」と指定されている部分を大勢で斉唱するシテ方およびその謡。狂言では、謡の部分を大勢で謡うことをいう。とともに四拍子(しびょうし)の演奏をする人たちのことです。能管(のうかん)・小鼓・大鼓・太鼓などを学びます。
文楽
太夫(たゆう)
文楽の舞台で演奏される義太夫節の語りをする人たちのことです。おもに語りなどを学びます。
三味線(しゃみせん)
文楽の舞台で演奏される義太夫節の三味線演奏をする人たちのことです。おもに太棹三味線の演奏などを学びます。
組踊
地方(じかた)
組踊(くみおどり)の舞台で演奏する人たちのことです。組踊で演奏される楽器などを学びます。
演奏家は舞台のどこで演奏するの?
歌舞伎や日本舞踊などで演奏する場合と、音楽のみで演奏する場合では、演奏する場所や並び順は変わります。音楽のみの演奏会では、舞台の中央に山台(やまだい)
伝統芸能の舞台で使われる大道具の一つ。長唄(ながうた)や常磐津節(ときわづぶし)、清元節(きよもとぶし)などの演奏者が舞台で演奏する時に座る台をいう。を設けて演奏することが多くあります。演目や曲目によって異なる場合もありますが、ここではいくつかの例をご紹介します。
雅楽
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管絃(かんげん:楽器のみの演奏)では、最前列に打楽器(右から鞨鼓(かっこ)
雅楽(唐楽・左舞)の演奏で用いる、両面打ちの太鼓。演奏では指揮役を担う。、楽太鼓(がくだいこ)、鉦鼓(しょうこ))、中央列に絃楽器(右から楽琵琶(がくびわ)、楽箏(がくそう))、最後列に管楽器(右から笙(しょう)
雅楽演奏で用いられる管楽器のひとつ。長さの異なる17本の竹管を匏(ほう)の上に円形に立てて、息を吹いたり吸ったりして音を鳴らす。5〜6つの音を同時に鳴らして和音を奏でる。、篳篥(ひちりき)
雅楽(ががく)の演奏で用いられる管楽器のひとつ。竹筒に蘆(よし)を削って作ったリードを差し込んで演奏する9孔の縦笛。大きな音量と音程をスライドさせながら変える奏法に特色がある。雅楽の演奏ではおもに主旋律を担う。、龍笛(りゅうてき))と並ぶことが多いです。
能楽
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舞台の上手(かみて:客席から舞台に向かって右側)に地謡座(じうたいざ)、舞台後方の後座(あとざ)があります。地謡座には地謡、後座には四拍子(右から、能管(笛)、小鼓、大鼓、太鼓)が位置します。
義太夫節(人形浄瑠璃文楽)
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おもに舞台の上手に客席まで張り出した床とよばれる演奏場所を設けて演奏します。右側に三味線弾き、左側に太夫が座ります。床には太夫と三味線弾きが座ったまま出入りができる「文楽廻し(ぶんらくまわし)」という仕掛けがあります。
義太夫節(竹本)
おもに舞台の上手に設けられた出語り(でがたり)
歌舞伎において、義太夫節(ぎだゆうぶし)、常磐津節(ときわづぶし)、清元節(きよもとぶし)などの浄瑠璃(じょうるり)演奏者が、舞台上で姿を見せて演奏することをいう。床で演奏します。右側に三味線弾き、左側に太夫が座ります。
長唄
歌舞伎や舞踊において出囃子で演奏するときは、おもに舞台の正面奥に設けられた山台で演奏します。右側に三味線方、左側に唄方(うたかた)
歌いものの三味線音楽で、唄を専門とする人。が並びます。
常磐津節
歌舞伎や舞踊において出囃子で演奏するときは、おもに舞台上手か下手に設けられた山台で演奏します。右側に三味線弾き、左側に太夫が並びます。
清元節
歌舞伎や舞踊において出囃子で演奏するときは、おもに舞台の上手か下手に設けられた山台で演奏します。右側に三味線弾き、左側に太夫が並びます。
演奏するときの服装は決まっているの?
おもに日本の伝統的な服装である着物を着用します。男性は黒紋付(くろもんつき)に袴(はかま)、女性は黒紋付や色紋付などを着ることが多いです。
ジャンルによっては、着物の上に肩衣(かたぎぬ)を付けることもあります。肩衣と袴をあわせて裃(かみしも)ともいいます。裃は、江戸時代の武士の礼装でした。義太夫節では太夫と三味線弾きが演目にあわせて、揃いのデザインの裃を着用します。歌舞伎では、常磐津節は柿色、清元節は萌黄色の裃を着用することが多く、それぞれの違いにも注目してみてください。
名字が同じ出演家が多いのはなぜ?
演奏家になる時、入門した師匠と同じ名字を名乗ることが多いからで、名字はそのジャンルの創始者や大成させた人などが名乗った大切なものとして後世に継がれています。また特に大きな功績を残した先人の名は、名前ごと次代の者に受け継がれています。名前の前に「〇代」「〇世」などとある方は、代々受け継がれてきた大切な名前です。
伝統音楽の楽器はどんな材料でできているの?
伝統楽器は、木や竹といった植物や、動物の皮や角など、自然の恵みからできているものが多くあります。そのため、同じように作られた楽器でも一つ一つに微妙な違いがでてきます。特に、伝統的な手法で職人が作る楽器は、材料選びから加工までその技術がつまっていて、世界に一つしかない貴重な楽器となります。
伝統音楽の演奏には、演奏家の技術だけでなく、楽器とそれらを作る楽器職人たちの熟練の技術が受け継がれているのです。
楽譜はあるの?
ジャンルごとに、それぞれ独自の記譜法(きふほう)
楽譜として音を記すための規則のこと。日本の伝統音楽では、それぞれのジャンルや楽器ごとに、独自の規則で楽譜が記されている。で書かれた楽譜があります。演奏者自身が手書きしたものや、出版されているものもあります。
日本の伝統音楽の譜面は、縦書きで音について文字や記号を用いて書かれているものが多く、五線譜に慣れた人には難しく感じるかもしれませんが、見比べてみるだけでも面白いと思います。近年では、五線譜で表すことも増えています。
ちなみに、長唄の唄方や義太夫節の太夫など自身の声を使う演奏者は本を置いて演奏しますが、楽器で伴奏する演奏者は譜面を見ずに演奏することが多いです。
伝統音楽の公演プログラムって何が書いてあるの?
公演プログラム(解説書)は、その公演の情報をわかりやすく説明しています。公演プログラムには写真やイラストが入る場合もあり、初めて伝統音楽を聴く方にもわかりやすい内容です。プログラムを読んでみると、公演がより面白くなると思います!
ここでは、国立劇場の邦楽公演プログラムの例をご紹介します。ジャンルや公演によって、公演プログラムの内容は異なりますが、出演者の情報や、あらすじ、歴史背景、聴きどころ、詞章(ししょう)
文字で表現された詩歌や文章、また謡曲や浄瑠璃(じょうるり)などの音楽的な要素のある演劇作品の文章のこと。(歌詞)など、内容は盛りだくさんです。どのようなことが書いてあるかを知っておくと、より理解が深まるかもしれません。
- 1 公演の年月や場所
- 2 公演のタイトル。テーマを設けて上演されることが多くあります。
- 3 ジャンル名。どのようなジャンルが演奏されるのかが、ここを見れば分かります。
- 4 演目のタイトル。上演される曲の題名が、記されています。
- 5 演奏するパート。浄瑠璃や唄、三味線や箏など、どのようなパートの人がいるのか、ここを見れば分かります。
- 6 出演者。出演する人たちの姓名が記されています。