常磐津ときわづ
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常磐津実演
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詞章
- それ五行子(ごぎょうし)にありと言う 彼(か)の紹興(しょうこう)の十四年
- 雨も頻(しき)りと古御所に 解語(かいご)の花の立ち姿
- さこそと光圀(みつくに)詰め寄って
- 「さてこそさてこそ。相馬錦(そうまにしき)のこの旗を、所持なすからは問うに及ばず。将門が忘れ形見、滝夜叉姫(たきやしゃひめ)であろうがナ」
「イイヤ知らぬ覚えはないぞ」
「ヤア覚えないとは卑怯(ひきょう)の一言(いちごん)。肉芝仙(にくしせん)より伝わりし蝦蟇(がま)の妖術習い覚え、この古御所に隠れ棲(す)むこと、叡聞(えいぶん)に達せし上は、最早免れぬおことが身の上、本名名乗つて降参なせ」
「チエエ残念や、口惜しや。斯(か)くなる上は何をか包まん、真(まこと)我こそ平親王(へいしんのう)将門が娘、滝夜叉なるわ」
「さてこそナ」
「一と器量ある汝(なんじ)故、命を助け味方にと、思う心が仇(あだ)となり、見顕(あら)わされし上からは、習い覚えし妖術にて光圀そちが命を絶つ。覚悟なせ」
光圀「何を小癪(こしゃく)な」
怒れる面色忽(たちま)ちに 柳眉(りゅうび)逆立ち吐(つ)く息は 炎となって焔々(えんえん)たる 妖術魔術の業通(ごうつう)に 流石の勇者もたじたじたじ 梢(こずえ)木の葉のさらさらさら 魔風と共に光圀が 襟髪掴(つか)んで宙宇(ちゅうう)の争い 怪し恐ろし世にうとう 時を絵本の忠義伝 歌舞伎に残す物語 拙(つたな)き筆に書き納む
※(注記)演奏は一部抜粋
「将門」(本名題「忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの」)
- 作詞
- 宝田寿助(たからだじゅすけ[1797-1838])
- 作曲
- 5代目岸澤式佐(きしざわしきさ[1806-1866])
- 出演
- 太夫 常磐津松希太夫、三味線 常磐津菊与志郎
〈常磐津といえば「将門」全編聴きどころ〉
聴きどころ・技法(太夫)について常磐津松希太夫さんに聞きました
本当にもう全編聴きどころと言っていいくらい、常磐津といえば「将門」というくらい、昔からおなじみの名曲中の名曲で、舞踊劇のお手本みたいな曲だとよく言われます。
最初の置浄瑠璃(おきじょうるり)
浄瑠璃(じょうるり)を地方(じかた)とする舞踊などで、立方(たちかた)が登場する前に場面の説明をするための前置きの演奏のこと。は演奏だけの部分ですが、そこも立派です。その後の滝夜叉姫が登場してくる「恋は曲者(くせもの)」という部分は、本当にいい曲がついていて、舞台で見ていても、よくこういうこと考えたな、という演出です。花道(はなみち)
歌舞伎の舞台機構のひとつ。観客席に設けられた通路をいい、俳優が舞台への出入りに使う。の七三(しちさん)
歌舞伎の花道(はなみち)の途中で、演者の見せ場として観客の注目を集める場所。花道全体の7対3の位置にあることから生まれた語。から、傘をさして迫(せり)上がってきて、後見(こうけん)
日本の伝統芸能において、演者の装束の直しや小道具の受け渡しなど、演技の手助けをする者。が持っている蝋燭(ろうそく)の明かりでぼーっと照らされるわけですよ。
それから今回演奏した「嵯峨(さが)や御室(おむろ)」という部分は、一番有名なところですね。その口説(くど)きの部分、昔はみんな知っていたというくらいで、その華やかな曲調も聴きどころです。全部、どこをとっても本当にいい曲ですね。
聴きどころ・技法(三味線)について常磐津菊与志郎さんに聞きました
常磐津の三味線は「将門」に限らず、それほど派手な技巧、テクニックを聴かせるみたいなところはあまりないですが、いろいろな要素や場面を楽しんでいただけるという点が聴きどころと言えるかもしれません。
中でも「将門」は曲自体の良さはもちろん、全体のバランスが良いというので、常磐津の中でも、ほかの三味線音楽の中でも名曲と言われています。
構成が大きく6つの要素でできていて、まず1「置(おき)
歌舞伎舞踊において、演目の冒頭で、演者が登場するまでの間に、場面や人物、状況などを説明する演奏のこと。 」があって、2「出の場面」、3「口説き(くどき)
平家琵琶(へいけびわ)では旋律的ではない説明的な部分、謡曲(ようきょく)では落ち着いた調子で悲嘆や述懐を表す語りの部分をいう。これに対して浄瑠璃(じょうるり)や歌舞伎(かぶき)音楽では、相手に思いを伝える聴かせどころをいい、美しく印象的な旋律が用いられることが多い。」、滝夜叉姫が光圀(みつくに)を誘惑するところ、4「物語り」で滝夜叉姫の本性を見破ろうとするところ、5「廓話(くるわばなし)」をしてごまかす場面、最後に6「対決する場面」で終わると。歌舞伎にはありがちなのですが、最後決着がつかずに、相対して最後どうなっちゃうのだろうっていうところで、幕が閉まっちゃう(笑)。この動画では一部のご紹介ですが、全体を通して聴いていただきたいです。
演奏方法
常磐津 太夫 演奏方法の解説
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常磐津 太夫の技法
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常磐津 三味線 演奏方法の解説
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常磐津 三味線の技法
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