情報伝達技術(ICT)の発達・普及に伴いパソコンやインターネットが身近なものとなっていることから、著作権教育はすべての人にとって重要になっているといわれています。
企業内でも、環境問題や個人情報保護の問題と並び法令遵守教育のひとつとして著作権に関する研修が行われるようになってきています。著作物を商品として製作したり流通させたりする事業者はもちろん、直接的に著作物を取引の対象として扱わない分野の事業者においても、他人の著作権を侵害する行為はその事業者の社会的信用に大きく影響するため、その重要性が再認識されているようです。
このような社会の変化に対応した時代の要請には、学校現場においても応えていくことが必要です。この冊子において解説しているとおり、学校現場で行われるような行為については様々な例外規定が定められているため、著作権者の許諾を得ずに他人の著作物をコピーしたりすることができる場合が多いわけですが、それらの例外規定が適用される要件を正しく理解しておく必要があります。そして、例外を理解するためにはまず原則を正しく把握していなければなりません。この原則の部分は民間企業等で働く人とまったく同じであり、すべての社会人が身に付けておきたい内容です。
そこで、著作権制度の原則的な内容とはどのようなものでしょう。おおむね次のような事項が基本的なものとして考えられます。
これらの原則的な内容を理解した上で、例外規定の内容や要件を知っていれば、本来、著作権者の許諾を得なければならないところを例外規定を活用して無許諾で他人の著作物を利用できる場合があるということに気づけるのではないかと思われます。
ところで、児童生徒に対する著作権教育についてはどう考えればよいでしょう。著作権のような知的財産権を保護する制度の意義(形のないものに対する価値)については抽象性が高く、発達段階によっては的確に認識することは難しいと思われますし、法律としての体系的な学習も容易ではありません。
したがって、必ずしも上記の1.〜4.などにとらわれることなく、児童生徒の発達段階を踏まえた上で、著作物やその著作者の創作行為に対して敬意を払うことができるように指導・支援することが重要と考えられます。具体的には、「作品には作者の気持ちが込められており、それを傷つけることは許されないこと(人格権)」、「他人の持ち物を借りるときにはその持ち主の了解を得る必要があるのと同様に、人が作った作品を借りる(=表現を利用する)ときにも了解を得ること(財産権)」などといった内容を体験的に学習させるといった観点から様々な教育活動の場で指導することが考えられます。現行の学習指導要領においても、中学校「技術・家庭科」、高等学校の「情報科」の内容に著作権や知的財産に関する事項が掲げられ、また、「音楽」や「美術」の教科・科目の内容の取扱いとして著作権への配慮についての記述が盛り込まれるとともに、著作権を含む情報モラルについて学校の教育活動全体を通じて指導することが記述されています(いずれにしても児童生徒に対する著作権教育の中では、例えば教員の活動に適用されるような例外規定を学習するとか、著作権法の体系を学習するといったことは必ずしも中心的な内容にはならないものと思われます。)。
以上のように、一言で著作権教育といっても、その人の立場により学習する内容や視点が異なってきますので、目的や対象に応じて題材や教材などを工夫することが重要です。
なお、小学校、中学校、高等学校の様々な教科の指導の過程で、ちょっとした場面で簡単な働きかけをすることにより、児童・生徒に著作権に関する興味や関心を抱かせることが出来る教材が開発され、インターネットを通じて入手できるようになっています。
「5分で出来る著作権教育」
また、文化庁のホームページでも著作権教育のための教材や資料が入手できるようになっています。
情報伝達技術(ICT)の発達・普及や国際的な動向の変化に対応して、著作権法はしばしば改正されています。過去十数年だけをさかのぼってみても次の表のような改正が行われており、とくに近年はネットワークを利用した著作物等の利用に関し、権利を強化したり逆に権利を制限したりする内容が多くなってきています。
改正年 | 主な改正内容 |
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平成15年 | 映画の著作物の保護期間を公表後50年から公表後70年に延長。 教育機関における複製等に関する例外規定の改正。 |
平成16年 | 書籍の貸与に係る暫定規定の改正(書籍にも貸与権を付与)。商業用レコードの還流防止規定の導入。罰則の強化。 |
平成18年 | 視覚障害者のための例外規定の改正(録音物の自動公衆送信)。機器等の保守・管理のための例外規定の追加。罰則の強化。 |
平成19年 | 「映画の盗撮の防止に関する法律」の制定。 |
平成20年 | 「教科書バリアフリー法」に基づく障害者等の利用のための例外規定の改正。 |
平成21年 | 国立国会図書館資料の電子化、インターネット・オークション等に係る例外規定の追加。違法サイトからのダウンロードの違法化。 |
平成24年 | いわゆる「写り込み」、検討の過程における利用、実用化試験のための利用、国立国会図書館による図書館資料の自動公衆送信等に係る例外規定の追加。違法サイトからのダウンロード行為の罰則化。 |
平成26年 | いわゆる電子出版に係る出版権に関する改正 |
平成28年 | 原則的な保護期間を50年から70年に延長、技術的利用制限手段回避行為のみなし侵害化、有償著作物等の利益侵害目的の著作権侵害の非親告罪化等、環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う改正。 |
平成30年 | 思想・感情の享受を目的としない利用、教育機関における複製・公衆送信、障害者の情報アクセス機会を充実させるための利用、美術館等の展示作品の紹介のための電子化、コンピュータの利用に附随する利用、情報処理に附随する軽微な利用等に係る権利制限規定の整備。 |
令和2年 | 違法サイトへの誘導行為のみなし侵害化。違法サイトからのダウンロードの規制範囲の拡大。「写り込み」、「行政手続」に係る権利制限規定の整備。ライセンシーの地位に係る対抗制度の導入。侵害訴訟における手続規定の整備。アクセスコントロールの規制対象の明確化。 |
令和3年 | 国立国会図書館や公共図書館による送信サービス、放送番組のインターネットを通じた同時配信等に係る許諾推定 |
平成24年の改正では、その附則において「国及び地方公共団体は、未成年者があらゆる機会を通じて特定侵害行為(著者注・違法サイトであることを知りながら私的使用の目的で有償著作物をダウンロードする行為)の防止の重要性に対する理解を深めることができるよう、学校その他の様々な場を通じて特定侵害行為の防止に関する教育の充実を図らなければならない。」(改正附則第7条第2項)と規定し、学校における啓発を義務付けています。
ここで大切なのは、改正された個別規定の内容の理解もさることながら、その部分のみに著作権教育の内容を特化させるのではなく、著作物や著作者の尊重、契約の意味など著作権制度の基本的な内容をまず理解させることが前提だということです。もちろん、例えば生徒がすでに著作権制度の仕組みを十分に理解できているような場合には、発展的な内容として法改正の具体的事項を理解する学習を深めることもあり得ましょうが、一般的には、情報モラル教育の一環として前述(Q13参照)のような基本的事項を身に付けるように指導することが期待されます。
学習指導要領において「内容」として著作権が明示されているのは、中学校の「技術・家庭」や高等学校の「情報」ですが、知識・技能にとどまらず思考力・判断力・表現力や学びに向かう力といった資質・能力の育成を目指す観点からは、他の教科等の領域でも、例えば中学校学習指導要領の「音楽」や「美術」の「内容の取扱い」に記述されているような視点をもって児童生徒の学びを支援することが必要です。その際、「著作権」という言葉を必ず用いなければならないのではなく、作品に触れることを通じて自他を尊重したり、文化的所産の意義や価値に気付かせたりすることに重きを置くことも著作権教育として意味があるものと思われます。
著作権に関する理解が深まってくると、著作物の利用にあたっては、たとえ営利を目的としていない場合であっても著作権者の許諾を得なければならない場合があることに気付きます。
許諾を得るとは、複製などの利用について著作権者に了解してもらう契約を結ぶことですが、わが国では契約には方式は問われず、当事者の合意(申込と承諾)があれば口頭であっても成立することになっています。ただ、著作権の契約とは形のない財産に係るものであり、利用の方法も様々なものがあり得ますので、合意の内容はできるだけ文書にしておくほうが望ましいと考えられます。その際には、利用方法(複製なのか、演奏なのか、ホームページへの掲載なのかなど)、利用期間、利用の場所、二次利用の有無(コピーして配布した後にホームページにも掲載したりするなど)、その他の条件(対価を徴収して提供するのか否か、著作物使用料をどう扱うのかなど)を明確にしておく必要があるでしょう。文化庁のホームページに「誰でもできる著作権契約」のサイトを設けて様々な例が紹介されていますので、参考にしてください。
また、多くの人に利用される可能性が高い著作物の著作権者は、自分の権利を団体に委託している場合があります。その場合であれば、当該団体を通じて一定の手続きにより許諾が得られます。このような業務を行う団体は著作権等管理事業者と呼ばれ、法律の規定により「正当な理由がなければ許諾を拒んではならない」とされています。著作権者である個人が自ら著作権を行使する場合には、他人に利用されたくないと拒否されることもあり得ますが、このような団体が預かっている場合には原則として許諾されることになりますので、利用者にとっても便利です。例えば、校内の合唱コンクールの模様をビデオ撮影してDVDにコピーし思い出の記録として保護者に配布したり、学校説明会で教育活動の状況を説明するためのビデオ映像に背景音楽を入れたりする場合、本来であれば、コピーする楽曲(音楽の著作物)ごとに作詞家や作曲家と連絡をとって許諾を得る交渉をしなければならないわけですが、著作権等管理事業者である一般社団法人日本音楽著作権協会と契約を結ぶことにより、ほとんどの楽曲のコピーについて許諾が得られることになります。そのほかにどのような著作権等管理事業者があるかについても文化庁のホームページに掲載されていますので、必要に応じて確認してください。
これらの方法以外でも、簡便な手続きにより利用できるようにするため団体間で教育現場の実情に応じたルールを作成するという方法も考えられます。そのようなルールを作成していくためには、学校教育関係者全体における著作権に関する意識を高めながら相手方の団体との信頼関係を強化し、双方が「権利の保護」と「円滑な利用」の調和に向けて取り組んでいくことが大切であると考えられます。
なお、許諾を得るために著作権者を捜したものの、相当な努力を払っても見つからなかった場合には、文化庁長官に対して利用の裁定を申請することができるという制度もあります(著作権法第67条〜第70条)。この手続きについては、従来、裁定を受けるまでの間は利用できないなどの課題がありましたが、担保金を供託することにより早期の利用が可能となるなど制度が改善されました。
著作権に関する相談窓口としては以下のようなところがあります。
著作権全般
公益社団法人 著作権情報センターCRIC) 〔著作権相談室〕 |
〒164-0012 東京都中野区本町1-32-2 ハーモニータワー22階 |
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紛争の可能性がある場合
日本司法支援センター 〔通称:法テラス〕 |
無料で問題解決のための道案内をしてもらえます。 各地域に地方事務所があります。 |
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著作物の分野ごとの団体
音楽、文芸、美術、写真、映画、コンピュータ・プログラム、放送、実演、レコード、書籍、新聞などの分野ごとに組織されている団体に、その分野における慣行などを確認することもできます。多くの場合、権利者としての立場からの助言や情報提供であること、その分野における考え方であることなどを念頭に置いて相談すると、参考になる情報が得られるでしょう。
放送
日本放送協会 (NHK) | 〒150-8001 東京都渋谷区神南2-2-1 03(3465)1111 |
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一般社団法人 日本民間放送連盟 (JBA) |
〒102-8577 東京都千代田区紀尾井町3-23 03(5213)7717 |
コンピュータ・プログラム
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 (ACCS) |
〒112-0012 東京都文京区大塚5-40-18 友成フォーサイトビル5階 03(5976)5175 |
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ビデオ
一般社団法人 日本映像ソフト協会 (JVA) |
〒104-0045 東京都中央区築地2-12-10 築地MFビル26号館3階 03(3542)4433 |
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株式会社 日本国際映画著作権協会 (JIMCA) |
〒102-0082 東京都千代田区一番町23-3 第一生命一番町ビル6階 03(3265)1401 |
出版
一般社団法人 日本書籍出版協会 (JBPA) |
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-32 出版クラブビル5F 03(6273)7061 |
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写真
一般社団法人 日本写真著作権協会 (JPCA) |
〒102-0082 東京都千代田区一番町25 JCIIビル3階 403(3221)6655 |
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著作権等管理事業者
権利を集中的に管理し、権利の許諾を行っている団体(例えば、「音楽」や「文献複写」に関して許諾業務を行っている一般社団法人日本音楽著作権協会、公益社団法人日本複製権センターなど)がありますが、最新の著作権等管理事業者の情報は、文化庁のホームページをご確認ください。