入学試験や、中間・期末の試験において、たとえば国語や音楽の出題の中に、既存の著作物を利用することは多いと思われます。その場合、厳正な試験を行うためには、事前に著作権者と連絡をとり、利用の許諾を得るということは不可能でしょう。そこで、このような場合、著作権法では、次のような規定を設けています。
公表された著作物については、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題として複製し、又は公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあっては送信可能化を含む。次項において同じ。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
例えば、文芸作品、新聞の社説、音楽作品、美術作品等を「複製」や「公衆送信」によって試験の出題に利用する場合は、この規定により、著作権者の許諾を得る必要がありません。ただし、以下のような点に注意する必要があります。
出題方法のうち、まず他人の著作物の「複製」による場合について考えると、許諾を得ずに複製できるのは、「試験又は検定の目的上必要と認められる限度」に限られますので、出題と直接関係のないものを複製することはこれに当たりません。
また、他人の著作物を利用して出題する場合には、著作者人格権にも留意することが必要です。これは、著作権者に無断で利用できる例外規定は「著作権(財産権)」について設けられているのであって、「著作者人格権」についても適用されるものではないからです。したがって、試験としての出題の際には、試験問題としての性格上真にやむを得ない改変である場合を除き、原文のまま利用することが原則であると考える必要があります。この場合、真にやむを得ない改変としてどのようなものが該当するかについては、明確な基準を定めるのは困難であるため、個別の具体的事例ごとに総合的に判断する必要がありますが、例えば、いわゆる「虫喰い」問題に正しい語を答えさせるとか、分解した文章を正しい順序に並べさせるなどのような出題については、やむを得ない改変として認められると考えられます。逆に、例えば、難解な表現の原文を平易な表現に修正して出題するとか、途中の部分を省略した旨を明示せずに省略して出題するなどの場合については、同一性保持権の侵害を問われる可能性があると思われます。
試験問題として他人の著作物を許諾を得ずに複製できる場合であっても、出所の明示が義務づけられていますので、著名な作品の題号や著作者名を問うような場合を除き、適切な出所明示をする必要があります。
なお、中間・期末の試験については、教育課程の実施(授業)の一環として、第35条の規定の適用を受けて、許諾を得ずに利用できるという側面もあります(Q2、Q5参照)。
次に、他人の著作物を「公衆送信」することによって行う試験について考えます。近年、インターネットなどを利用した遠隔試験も行われるようになっており、厳正な試験を実施できるようにする観点から、「複製」の場合と同様に、試験に他人の著作物を用いて「公衆送信」することについても著作権者の許諾を得る必要がないとされています。
その要件については、「複製」の場合とほとんど同様です。したがって、受信者(受験者)の求めに応じて、インターネットなどにより自動的に、又はファクシミリなどにより手動で試験問題を送信する場合に、他人の著作物を用いても許諾を得る必要がないことになります。しかし、公衆送信であっても放送又は有線放送を除くこととされていますので、受信者(受験者)の求めがなくても送信されるような形態であれば無断で公衆送信することはできません。また、著作物の「種類」や「用途」に照らして「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」にも無断で公衆送信することはできませんので、例えば、ソフトウェアを受験者に送信したり、既存の問題集で編集著作物であるものをそのまま送信したりすることについても無断では行えません。さらに、「公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」も無断で公衆送信することはできませんので、例えば、ホームページ上に常時掲載したままで、求めがあれば試験に関係のない者に対しても送信できる(アクセスすれば誰でも閲覧することができる)ような態様であれば、許諾を得る必要があります。
ところで、試験の中には、学校等で行われる入学試験や定期試験のようなものばかりでなく、教材会社等の行う模擬試験などもあります。この場合にも同様に、複製や公衆送信の許諾を得る必要はありませんが、営利目的の場合には、事後に著作権者に対して通常の使用料に相当する額の補償金を支払わなければならないことになっています。
なお、他人の著作物を利用して入学試験を実施した後に、当該学校等がいわゆる過去問として、その試験問題を冊子にして配付したりホームページに掲載したりする場合については、Q7をご覧ください。
当コーナーの文中で「複製」と説明している行為には、複写機やスキャナーなどで写真的に(画像として)再製するもののほか、テキストデータとして入力し直したり手書きで書き写したりすることも含まれます。「無断でコピーしてはいけないが、手書きなら問題ない」という誤解をしないよう注意が必要です。
まず、入試問題が著作物であるかどうかを検討する必要があります。たとえば、単純な数式を解く問題や、漢字の読み、書き取りの問題であればその問題自体は著作物とは考えがたいと思われます。しかし、著作物と考えがたいものであっても、それらを素材として、その素材の選択、配列によって、創作性を有するものであれば、全体として編集著作物と考えることができる場合もあります。
また、いわゆる事例問題のように、場面や条件を文章で解説したうえで解答させる問題の場合、出題者が記述した解説の文章が言語の著作物と認められる場合もあります。
このように、仮にその試験問題が著作物である場合には、その問題を作成した学校が著作者であり、かつ、著作権者であると位置付けられる場合が多いでしょう。したがって、問題集を発行しようとしている出版社に対して、学校は著作権者の立場で、条件を示して利用の許諾をするとか、逆に申し出を断るということもできるわけです。
次に、入試問題の中に、文芸作品、新聞の社説、音楽等の著作物が利用されているかどうかによってさらに対応が必要な場合もあります。つまり、他人の著作物を複製して入試問題ができあがっている場合には、学校だけでその利用の許諾を与えることはできないからです。入試問題に既存の著作物が利用されている場合には、試験問題の利用を申し出た出版社に対して、素材の著作物の著作権者からの許諾を得ることを条件にしたうえで、学校としての許諾を与えるなどの配慮が必要でしょう。
なお、入試を行った学校自らがその後に問題集などを作成することについても同様に考える必要があります。つまり、学校自らが著作権者である場合には、自らの判断で問題集を作成すればよいのですが、問題の中に他人の著作物が利用されている場合には、学校がその素材の著作物の著作権者からの許諾を得る必要があります。これは「試験を行う」という行為と「(入試後に)問題集を作成する」という行為とでは、性質が異なるためであり、後者にはQ6で紹介した ような例外規定が適用されないからです。そこで、他人の著作物を利用した入試問題を用いて問題集を作成したり、それをホームページに掲載したりすることについて、学校関係者が団体を作って著作権者の団体と交渉し、簡便な手続きで、かつ低廉な使用料で著作権者の許諾を得る取組が進められています。(著作権利用等に係る教育NPO)。
当コーナーの文中で「複製」と説明している行為には、複写機やスキャナーなどで写真的に(画像として)再製するもののほか、テキストデータとして入力し直したり手書きで書き写したりすることも含まれます。「無断でコピーしてはいけないが、手書きなら問題ない」という誤解をしないよう注意が必要です。
基本的にはQ7の応用問題です。中学校などの中間・期末テストの問題が著作物であるかどうか、テストの問題に他人の著作物が用いられているかどうかなどを整理したうえで、学校に著作権があるとすれば、著作権者としてその権利をどう行使するかは著作権者自身が判断することになります。その際、他人の著作物が利用されている場合には、その著作権者の意向を確認しておくことも必要でしょう。
なお、テストの問題が著作物であり、学校に著作権があり、その学習塾で用いられている演習教材が学校のテスト問題によく似たものであったとしても、相手方から「学校のテスト問題には依拠しておらず、偶然似たものになっただけだ」と反論される可能性は、理論的にはあり得ます。
仮にそれが無断で行われている(学校が持つ著作権を侵害している)とした場合、本校の試験問題を無断で利用しないでほしいという利用の差し止めを求めることもあるでしょうし、手続きをとってもらえば承諾するということもあるでしょう。承諾をする場合、何らかの条件を付すことも可能です(もっとも、公立学校の場合、歳入の取扱いに関しては学校が単独で決めることはできません。)。
著作権制度は、著作物の利用を禁じる法制度ではなく、その著作物の利用に関して権利者と利用者とが話し合い、契約によって一定の秩序を形成しようとするものです(話し合いの結果、著作権者が利用を許諾しないということはあります。)。教員研修などを考える際、このような事例は、自分が持つ著作権を侵害されたときにどう思うか、それを解決するためにはどうすればよいかを考えるにはよい題材かもしれません。
講演も言語の著作物であり、著名人でなくても著作権を有することになりますので、その講演の利用については、あらかじめ想定される利用行為を含めた許諾を得ておく必要があります。
講演会に外部の人を招き、一定のテーマで講演をしてもらう場合には、その当初の依頼の時点で、条件は何であるかを明確にしておかなければ、後々のトラブルにならないとも限りません。
たとえば、講演だけを行ってもらうという条件で開催したところ、内容が評判となったため、たまたま録音していたテープを元に、テープ起こしをした講演録や録音テープのコピーを希望者に無料で配付したとします。
講演者にしてみれば、講演のコピーが広く配付されると次の講演の機会が失われると考えて、そのようなことまでは認めていなかったと主張する場合もあるかもしれません。また、そのような複製物を配付するのであれば、内容や表現のチェックをしたいと考えるでしょうから、仮に事前の了解もなく行われてしまえば、著作権侵害を主張したくなる場合もあります。
主催者側には、しばしば次のような誤解があり、問題がこじれることがあります。
など、これらはいずれも誤りであり、たとえば、講演のテープをとる場合、又はそのテープを元に、印刷やダビングをする場合、さらにはその講演の模様を中継や録画で放送する場合などの利用行為を行うことが明らかであれば、すべて事前に、講演者の許諾を得ておく必要があります。また、当初予定しなかった利用を行う場合には、その都度交渉することも当然に必要です。
なお、講演者の顔や姿の写真撮影については、著作権法上の権利ではありませんが、判例の蓄積により確立されつつある「肖像権」の関係も生じますので、利用にあたっては事前にその目的や方法を説明したうえで承諾を得ておくべきでしょう。
講演会などを開催する場合の著作権に関する契約については、文化庁のホームページに「誰でもできる著作権契約」の入門編や実践編が掲載されていますので、参考になるでしょう。
設問の事例は、先にある発想を元にして著作物を創作した場合に、後から同様の発想により別の著作物を創作、頒布しようとする者に対し、何らかの権利主張ができないかというものですが、アイディアについて、著作権法上の権利主張をすることはできません。
近年、教育へのコンピュータの利用が一般化し、市販ソフトだけでなく、教員自身が開発したソフトを用いて学習を行わせる教育も見られるようです。
こうしたコンピュータ・プログラム(ソフトウェア)も小説や音楽などと同様に著作物であり、それを作成した教員(又は教育機関等)はそのプログラムの著作物の著作権者となります。
しかし、著作権法は、創作者の創意・工夫に基づく「表現」を保護しているので、その表現の背後にある「アイディア(発想)」等については、著作権法の保護が及びません。したがって、例えば、数学のある定理を学習させるために、アニメーションによって理論を図解するソフトを開発した場合、同じ発想を持った別の人が、同じ機能を持つソフトを作成したとしても、その機能を果たさせるための表現(プログラム言語による命令の記述)をコピーしない限り、著作権の侵害にはならないのです。
もっとも、アニメーションによって映し出されるキャラクターの姿形や細かい動きまでそっくり同じで、プログラムの表現は全く異なるというものはほとんどあり得ないでしょうか ら、ディスプレイの出力(画面表示)により、ある程度は判断ができると思われます。
新聞や雑誌の記事を複製するときは新聞社や雑誌社の許諾を得る(新聞社や雑誌社がすべての著作権を持っている)と考えがちですが、必ずしもそうではありません。新聞や雑誌の多くはその全体に着目して「編集著作物」といわれることもありますが、編集著作物とは、素材の選択又は配列によって創作性を有する編集物のことであり、その素材自体が著作物である場合には、素材の著作権と編集物の著作権を区別して考える必要があります。
すなわち、新聞や雑誌に掲載されている報道や解説の記事、論文・論説、イラスト、写真などのひとつひとつが著作物として権利を認められていますので、複製しようとしている記事を誰が創作したのかを考えなければなりません。もちろん当該新聞の社内記者が執筆した場合もあるでしょうが、教育関係の記事であれば、教育評論家や大学の研究者が寄稿したものかもしれません。したがってそれを職員会議で配布するのであれば、その創作者(著作者)から、資料として複製すること及び会議のメンバーに配付する意味で譲渡することについて許諾を得る必要があるということになります。
このような文献複写は学校の職員会議だけでなく、官庁や企業など社会の多くの場面でも行われているようですが、複製されている文献は、新聞や雑誌に日々掲載される様々な記事の中から必要度に応じて特定される著作物であり(新聞、雑誌などを丸ごと複製するようなことはない)、複製の部数も当該部署の構成員に限られているという実態もあることから、複製の都度、対象となる著作物の著作権者と連絡をとって許諾を得ることは実務上非常に煩雑です。そこで、出版物に利用される著作物に係る多くの著作権者から権利の委託を受け、官庁や企業などの組織内で行われる文献複写について、簡便な手続により許諾するシステムができています。
具体的には、新聞、雑誌など多様な文献を日常的に複製して組織内に配付する場合には、著作権等管理事業者である公益社団法人日本複製権センターと契約を結ぶことにより、ほとんどの文献の複製について包括的な許諾が得られる(個々の著作物ごとに、又は複製を行うたびに、著作権者と連絡をとって契約を結ぶ必要がない)ことになっており、同センターでは、契約の方式についても組織における複製の実態に応じて複数の方式から選択できるなど、利用者の便宜を考慮した権利処理体制をとっています(同センターをはじめとした著作権等管理事業者に関する情報は、文化庁のホームページに掲載されています。)。
この設問でいう「コピー」は「複製」と同義であり、その行為には、複写機やスキャナーなどで写真的に(画像として)再製するもののほか、テキストデータとして入力し直したり手書きで書き写したりすることも含まれます。「無断でコピーしてはいけないが、手書きなら問題ない」という誤解をしないよう注意が必要です。
学校では、児童生徒のための活動のほか、家庭や地域社会に向けた広報や情報発信も重要です。学校だよりなどの「通信」は、紙媒体だけでなく、学校ホームページ等を通じて発行する学校も増えているようです。
学校での様々な取組を紹介したり報告したりする場合、当該学校の教職員が記事を書き下ろすのがほとんどでしょうが、内容によっては専門的な文献資料から引用しながら説明することもあるでしょう。この「引用」については、「出所(出典)さえ表示しておけばよい」という誤解が時折見られます。
著作権法では、「公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」であれば、例外的に著作権者の許諾を得なくてもよい(第32条)とされ、許諾を得なくてよい場合であっても、利用の態様に応じ出所を明示しなければならない(第48条)とされています。つまり、出典を表示することによって無断で利用できるのではなく、「公正な慣行に合致」「引用の目的上正当な範囲内」という要件を満たすことが必要で、それを満たした場合でも出所を明示する義務があるということになります。
これらの要件については、これまでの裁判例の蓄積によって、引用するものと引用されるものの間で適切な主従関係があること、引用部分の区分が明瞭であること、引用の必然性があることという考え方が定着しています。
したがって、学校の各種通信の記事において他の文献等から引用する場合には、学校の記事が「主」として存在し、それを補足したり説明したりするために「従」として他人の著作物が用いられ、引用された部分を「 」でくくったり文字のポイントやフォントを変更したりして本文との区別を明確にし、学校が執筆する記事の内容との関係性がある部分が引用されているのであれば、適切な引用と認められることになります。その上で、出所を明示する義務が課されます。
このように考えると、カット集に載っているイラストを通信の紙面に使うことはどうでしょう。学校の記事としてそのイラストそのものを批評したり研究したりするのであれば引用と言えるかもしれませんが、紙面のいろどりといった利用目的であれば、無断で利用できる規定の適用は難しいでしょう。もっとも、カット集などであれば、そもそもそのような目的で発行されている場合もありますので、利用規約や説明文を確認すれば権利侵害とならない範囲が分かるでしょう。インターネットを通じて入手できるイラスト等でも、著作権者が一定の範囲での利用をあらかじめ許諾して流通させているものもあります。
著作権法上の例外的な取り扱いとしての「引用」にはルールがあり、安易に拡大解釈をすることは問題です。他方、引用の規定に該当しない場合であっても、著作権者が利用を許諾する意思表示をしているものをその指定された条件で利用すれば権利侵害の心配をする必要はなく、今日ではそのような形で提供されているコンテンツも多くなっていることも知っておくと便利です。