COPについて
11月10日〜21日、ブラジルのアマゾン入口に位置するベレンで国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第30回締約国会議(COP30)が開催されます。COPはUNFCCCの最高意思決定機関であり、京都議定書やパリ協定のほか、これまでの合意事項についての実施状況の確認や、新たな目標、取り組みが毎年議論されます。
昨年の交渉結果
昨年のCOP29では、1新たな気候資金の目標合意 2パリ協定第6条の交渉終結・完全運用化 という成果に加え、3適応に関する世界全体の目標(GGA)の達成状況を測る指標づくり 4損失と損害(ロス・ダメ)基金整備などに進展がありました。
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COP30について
今年のCOP30は、京都議定書発効から20年、パリ協定採択から10年という重要な節目になります。議長国であるブラジルは、COP30を「交渉の段階から実施の段階」への決定的な移行を示すものとして位置づけています。特に、パリ協定の目標達成に向けた全体の進捗状況と今後の方向性を確認した第1回グローバル・ストックテイク(GST)の成果を、「ミッション1.5」の羅針盤と位置づけ、その実施を支援するための6つの軸と30の項目からなるアクション・アジェンダを提示しています。
一方、締約国間では、GSTの成果をどうフォローアップするかについての合意には至っておらず、COP30でも論点となる見通しです。加えて、適応に関する世界全体の目標(GGA)指標の策定とその運用ガイダンスの決定が主要な交渉議題となるほか、ロス・ダメ基金なども継続して議論される予定です。
また、アマゾン地域で初めて開催されるCOPとして、ブラジルが森林を中心トピックかつ気候変動における重要な解決策と位置づけている点も注目されます。COP30にて、森林保護を目的とした新たな途上国向けの基金「レインフォレスト・フォーエバー基金(Rainforests Forever Fund)」を立ち上げる予定です。
COP30に向けて
COP29での交渉を経て、パリ協定は実施フェーズに入りました。1.5°C目標の達成に向け、各国は野心的な「国が決定する貢献(NDC)」を5年毎に提出・更新することが求められています。特に今回のNDCは、1.5°C目標の達成可能性を左右する重要なものとなります。しかし、2025年8月時点で提出済みの国は、締約国全体の約2割にとどまっています。UNFCCC事務局は、COP30に先立ち、各国のNDCをまとめた統合報告書を10月に公表する予定であり、各国に提出を強く促しています。9月下旬の国連総会ハイレベル・ウィークで開催される気候サミットや、COP30議長国による協議を通じて、各国がどのようにNDCに対応するのかに注目が集まります。
本特設ページでは、COP30の注目ポイントの解説や、IGESが関与するサイドイベント情報などを通じて、気候変動交渉の最新動向を紹介していきます。
最新情報
研究者の視点
進捗評価の新局面と国際交渉:COP30での気候変動適応指標の合意に向けて
2015年に採択されたパリ協定の、「緩和」、「資金」と並ぶ三本柱のひとつが「適応」であり、その核心をなす7条1項には、GGA(Global Goal on Adaptation:適応に関する世界全体の目標)が規定されています。GGAは「適応能力の向上」、「気候変動に対する強靱性の強化」、「脆弱性の低減」という、数値化が難しい三つの要素で構成されています。近年の国際交渉では、GGAの達成度をどう評価し可視化するかに議論の焦点が当てられてきました。今年開催のCOP30は、「指標に関するUAE-ベレン作業計画」 1 の終了年にあたり、GGAの進捗をグローバルに測定するための指標リストに関する合意の行方が注目されています。この指標を用いた各国による適応進捗の報告を、2028年に予定されている第2回グローバル・ストックテイク(GST)への具体的なインプットとし、世界全体の適応の推進における新たな節目とすることが目指されているのです。
そもそも、なぜ「指標」が必要なのでしょうか?指標は、目標達成への進捗(何をいつまでに)を具体的かつ客観的に「見える化」するための手段のひとつです。国際的な課題に取り組む際、現状把握や課題抽出、資源の最適配分を行うには、客観的に評価するための指標が不可欠となります。持続可能な開発目標(SDGs)や仙台防災枠組(SFDRR)、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)などの国際目標でも、達成度を評価するための「指標」が既に設定・運用されています。例えば、SDGsでは17のゴールごとに具体的な数値目標や進捗指標が明示され、SFDRRやGBFでも、災害リスクや生物多様性保全の進捗状況が定量的に可視化される仕組みが整備されています。これらの仕組みは、課題の現状把握や政策判断、資源配分の合理化に寄与しています。GGAについても同様に、気候変動適応分野の進捗を客観的に評価するための指標の策定が、より効果的な政策実施に結びつくと考えられています。特に開発途上国においては、自国の適応能力や脆弱性を数値的根拠に基づいて明示化することで、資金支援の拡充をより強く訴えたい、という政治的動機もあります。そうした国々にとっては、指標設計の在り方は、単なる評価の手段の域を超え、資金配分や意思決定に直結する重要な意味を持っています。
GGAの進捗度を測るための指標の開発にあたっては、締約国と専門家らが密接に連携しながら、多段階の検討プロセスが進められてきました。UAE-ベレン作業計画の下で招集された78名の国際専門家が、2024年から1年以上にわたり、UAEフレームワークで規定された11個のターゲット2 ごとに締約国などから収集された指標候補を精査してきました。当初は約1万個あった指標案を、専門家らが締約国から示された技術的・政治的な基準に基づき、2025年9月時点で100個まで絞り込みました。これは、「UAE–ベレン作業計画の最終成果物として、締約国として管理可能な指標数として最大100項目の指標からなる最終リストをCOP30で採択する」というCOP29での決定に基づくプロセスです。これらはSDGsやSFDRRなどの既存指標との整合性をとりつつ、手法やデータの可用性、社会的包摂性、運用上の課題なども考慮したうえで選定されています。2025年10月に開催された、UAE-ベレン作業計画下での最終ワークショップは、COP30交渉の前哨戦ともなりました。「適応資金トラッキング指標の内容や位置づけ」、「国際第三者機関(カストディアン組織)の役割」、「指標策定後の運用体制」などが主な論点となり、先進国・開発途上国間の共通の理解の醸成に向けた様々な課題が浮き彫りになりました。数値での表現は客観的かつ明示的ですが、同じことを測定しようとしても、その測定・算出方法が明確でなければ、国によって結果が異なり、その数値自体の信頼を損ねてしまうリスクも孕んでいます。一方、正確さを求めるほど、詳細データの入手や高度な集計が困難となり、特に開発途上国にとっては報告負担が増加してしまう可能性もあります(なお、指標を用いた適応に関する報告は、すべて「任意」で行うことが、過去の交渉で決定しています)。COP30での集大成的な合意が期待される一方、グローバルに機能する「運用可能な共通指標」づくりの難しさと、「適応の評価」に対する各国の認識の差が生み出すダイナミズムが、一筋縄ではまとまらない交渉の状況に、色濃く反映されていると言えるでしょう。
今後、各国は、GGAの指標を用いた適応の進捗状況を、NDC(国が決定する貢献)やNAP(国別適応計画)、隔年透明性報告(BTR)を通じてUNFCCC(国連気候変動枠組条約)へ報告し、これらが2028年に予定されている第2回GSTによる世界全体の進捗評価へと繋がっていきます。また、パリ協定に基づく、強化された透明性枠組み(ETF)の下では、各国が提出するBTRにより、政策の実施状況や資金の流れ、技術支援の進展などが体系的に検証されます。これらの検証結果がGSTに反映され、その評価を受けて各国が次期NDCの更新を行う、という一連のPDCAサイクルが整備されているため、GGAの指標も、この国際的な評価と改善の仕組みの「共通言語」として位置づけられることが期待されています。さらに、GGAの指標は国際的な報告だけでなく、各国の適応政策の戦略立案や資金配分、現場レベルの具体的な適応行動の優先順位付けにも多層的に寄与し、公正な資金配分や持続可能な適応策の実施を支える重要な基盤となるでしょう。
COP30でGGAの指標に対する歴史的な合意が実現した場合、政府のみならず、適応事業の実務者や市民社会までが、適応行動の進捗測定に"世界共通のものさし"を活用できるようになります。その結果、従来は見えづらかった課題や進捗状況を各国・地域・主体間で共有できるようになり、政治的な対立軸を超えた、データを通じた対話による新たな時代が始まると言えるかもしれません。科学、政策、実務者、市民が一体となり、客観的データのもとに課題発見と解決が加速することで、世界各地の多様な適応行動の展開も後押しされる可能性があります。COP30での成果が、気候変動適応の強化に向けた国際社会全体の新たな礎となることを強く期待します。
1 GGA達成に向けた進捗を測るための指標開発に関する2年間の作業計画。UAEで開催されたCOP28で開始が決定し、ベレンで開催されるCOP30で終了予定となっている。作業計画下で実施されたワークショップや関連報告書は、UNFCCC公式サイトから閲覧可能。
2 GGAの達成を促進し、進捗を評価するためのものとして、7つの分野別ターゲット(水、食料・農業、健康、生物多様性、インフラ・居住、貧困、文化遺産)、4つの適応サイクル別ターゲット(リスク評価、計画、実施、モニタリング・評価・学習)毎に、2030年までの目標が設定されています。詳細は、IGESブリーフィングノート「2024年度の気候変動適応・損失と損害に関する国際動向ハイライト」をご参照ください。
※(注記)「研究者の視点」の内容は執筆者の見解であり、必ずしも IGES の見解を述べたものではありません。