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2006年07月11日

DVと虐待

信田さよ子氏の「DVと虐待」(医学書院)を読んでみました。

あたりまえの親子関係、そしてあたりまえの夫婦関係が、どれだけあたりまえのものでないのか、ということが嫌というほど判る本です(←文章構造がややこしいな)。

たとえば、わたくし達の世代が思春期を迎える頃に盛んに取り沙汰された「家庭内暴力(思春期の少年少女による、主に親に対する暴力)」とか、昨今各メディアを賑わす「児童虐待」とか。最近も起こった「親殺し」とか。

そんなニュースがなぜセンセーショナルに扱われるのかといえば、それらはみな「許されない暴力」だからなのだと信田氏は書いています。

従来の(古典的な、と言い換えてもよい)家族観では、子は親に従うものと規定され、それに暗黙の了解が存在していました。
親⇒子の図式で示される、厳然とした支配構造が存在するという前提においてはじめて、支配者に逆らう被支配者という構図が成り立つ。
支配は絶対のものなのに、それに逆らう。暴力を振るう。
被支配層からの、それはいわば反逆。
反逆だからこそ許されないのです。
許されないからこそ「家庭内暴力」という言葉になるのでしょう。
家庭の中には親と子だけでなく、兄弟や夫婦という関係性もあるにもかかわらず、です。

穿った見かたをするならば、「家庭内での下克上はありえない。家長の言うことには従っておけ」という家長からのメッセージだとも取れなくはないですよね?

翻って支配者から被支配者への、親から子どもへの暴力はどうかというと。
古来(特に日本では)、愛のムチという名前でそれは肯定され、それどころか美化されさえしてきているのはご承知のとおり。
しかし、支配の特権は家長たる父のみに認められたものだったのでしょう。
母はただ無条件に子どもを慈しみ愛するものと決められていたのです。
母性本能という、実際に母になったものからみれば侮辱以下でしかない単語で子どもへの愛情を規定され、強制されているのが母なのです。

本能とは。
生まれついて持っている能力という意味以外を寡聞にしてわたくしは知りません。
それは基本的に個体維持本能と種族維持本能ぐらいが、そう呼ぶに値する能力でしょう(ちなみに、生物学の領域では基本的に本能という表現を使用しません。生得能力によるものと考えられる行動のみを限定して「本能行動」と称するのです。よーするに生物学じゃ認められてない考えなんですよね、本能って)。

異論はありましょうが、経験上、出産直後に子どもへの愛着はわかないとわたくしは断言します。
無論、庇護なしには一瞬の生命維持すら危うい存在に憎しみなど持つ謂れはありません。
でも、新生児室の中のわが子に対して、この子を守らねばならないという本能につき動かされるような経験はついぞ持てませんでした。
わたくしの場合、わが子に対しては「お互いよく頑張ったよね」という感覚が強かったですね。
陣痛で苦しんだのはたった5時間、難産だったお母様方からは剃刀でも送られそうな超安産でしたけど、それでも痛みのあまりに吐く程度には、わたくしの陣痛もきつかったです。それをともにくぐり抜けた同士、という感覚。わかるかなぁ。
そして退院後、ほにゃほにゃで泣くしかない子どもが手の中にいる事実に、まず途方にくれました。
もちろん子どもが産まれることを頭ではきちんとわかっていたし、ベビー用品なんかも揃っていたにもかかわらず、です。
母たる自覚が生じたのは、逆説的ですが、育児をしている己を自覚してからでした。
母性本能があるのならば、そしてそれが女性の生得本能であるというのならば、わたくしは見事に欠陥品だというわけで。
周囲のママ友達はみんなそうだったようなのですが、どーなんですかね。
たまたま1995年11月第一週あたりに現さいたま市で出産を迎えた女性のみ、宇宙からの電波の影響とか、太陽黒点の活動低下とか、大殺界とかの理由で母性本能が働かなかったとかでもいうんですかね(笑)
母達の普段の居住地も出生地も結構ばらばらでしたけどね。

閑話休題。

とにかく日本には、エビデンスのない(断言しちゃうよ)母性本能信仰があることは事実。
子どもが小さいうちは母親は家にいるべきだとか、いわゆる3歳児神話なんかもこの信仰から派生したもんだと言っても過言ではないと思う。
信田さんも書いているけど、戦争で死んでいった若者は、天皇陛下万歳ではなくお母さんと叫んだという。
どう考えてもお釈迦様の天上天下唯我独尊と同じ類の捏造(といって悪けりゃ創作と言い換える)だと思うんだけど、それがすんなり受け入れられてしまう土壌がこの国にはあるのだ。それは認めないわけにはいかない。つか、認めてくれなきゃ話が前に進まない(笑)

ここで話は本題に戻る。
母は子どもを慈しみ無条件で愛するものと相場が決められている。
なのにその母が子どもに暴力を振るう場合。
「本能」に逆らう行動なわけだから当然の帰結として、それは虐待という名前を与えられるわけで。

話をさらにややこしくするけど。
アダルトチルドレン(AC)という存在をご存知でしょうか。
現在の自分の生き辛さが親との関係に起因すると自ら認めた人、というのが本来の定義(念のためいうけど、概略ですからね。アウトラインよ?あくまでも)。
日本では単語だけが一人歩きした結果、石を投げればAC(を自認する人)に当たると言っても過言ではないと思います。
しかも中途半端な理解がACへの誤解を深め、カムアウトした人の中には、まるでACであることがすべての免罪符であるかのように振舞う大勘違い者もいるわけで。
私はACなんです。だから私がこんな性格なのは親が悪いんです。私はあなたを傷つけたとしても責任は取りません。だって私はACだから。全部親が悪いんです。
これ、すべて実際に自称ACの元友人(縁切りました)に投げつけられた言葉。
この経験故にわたくしは、自らがACだとカムアウトするどころか、ACという概念自体に憎悪さえ覚えていました(あちこちのブログを覘いた感想では、結構こういう人多いみたいね。勘違いな振舞いの自称ACも、その「被害者」も)。

で、そっちの勘違い理解に歩調をあわせるように「親のせいにするのは本人の自立を妨げる」とか「親がかわいそう」とか、最終的には「甘えだ」のひと言で切って捨てる論調が、「なぜか(あえてなぜかと言うぞ)」男性を中心に根強くある。


被支配者たる子ども。そして家長のもとで母性本能をベースに慈愛深く生きる母。
なおかつ家族は互いに支えあって生きているのだという、この一見矛盾に満ち溢れた幻想に縛り付けられた「家族」という概念。
そして、生きにくさを親との関係に起因すると認めるのは甘えだという批判。

これは。
この三題噺は一体、何を意味する??


信田氏はここで「DVという暴力の存在」をぽんと読者に投げてくる。

DV=ドメスティック・バイオレンス。
配偶者間の暴力、それも多くは夫⇒妻の暴力である。

家庭内暴力は、そして児童虐待はセンセーショナルに扱われる。
家庭内暴力に悩んだ親が子どもを殺した場合は悲劇として語られ、むしろ親は同情の対象となる。

じゃあ、DVは?


信田さよ子氏は臨床心理士として高名だが、ストーリーテラーとしても最高の腕を持っていると思う。
カウンセリングを生業とする以上、クライアントの相談内容を「ナラティヴ(=物語化)」として再構築する場も一再ではないだろうから、当然といえば当然なのだけれど。

DVとはどんな暴力なのか。とか。
近代的家族がいかに幻想の上にしか基盤を持っていないのか、とか。
この本を読めばきっと、よーくわかります。


DVと虐待
この記事へのコメント
相変わらず冴えた内容紹介で感嘆しております。
うちでも関連書籍の紹介をしましたのでトラバさせていただきますね。
Posted by いもっち at 2006年07月12日 14:02
こんにちは。いもっちさんのブログからお邪魔しました。
しばらく前にいもっちさんからDVやモラスハラスメントなどの
話をうかがう機会があって、夕顔さんがブログで書かれて
いらっしゃると伺ったので拝見したのですが、とても
読みやすくわかりやすいですね...!

自分では結構呑気に生きているつもりでも(笑)囚われて
いることがあるんだなとか、拝見していると気付きます。

日常のあれこれって呟く場所や機会が必要ですよね。
ブログを拝見していると溜め込まなくていいんだよ、
それは苦しくて当然なんだからと言ってもらえている
ような気がします。別に今は何かあるわけではないんですが、
道が見えてるのかそうでないのかだけでもずいぶん違う
のだと最近思います。
Posted by りゅー at 2006年07月15日 11:28
りゅーさんようこそ〜。
もー...おいでいただくならお茶のひとつも用意しましたものをっ(汗)
で、コメントありがとうございます(レスが激しく亀なことはひらにご容赦ください)。
しんどさを自覚できることって、結構大事だと思います。苦しさや辛さを自覚できないと、その次の行動に移ることってなかなかできないですから。
そして、あれやこれやを吐き出せる場所の大切さも。
「本当の自分」とか胡散臭いキーワードは嫌いですが、自分が一番深呼吸できる(繕わないですむ)友達とか、仲間の存在は本当にありがたいと思うわけで。
今度ぜひ、そこらへんを飲んで語りましょーよ。
Posted by 夕顔 at 2006年07月19日 15:27
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家族機能関係の書籍
Excerpt: AC関連書籍の紹介記事です。
Weblog: むさしのの茶畑
Tracked: 2006年07月12日 14:08

しかく買えば買うほど、虐待された子を救える本
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Tracked: 2009年10月29日 09:46
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