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2015年7月 3日 (金)

「基礎学テ」をセ試改編の「高大接続テスト」に

文部科学省の「高大接続システム改革会議」が先月、新設する二つの新テストに関する「論点整理(検討・たたき台)」を示した。とりわけ高校版全国学力テストである「高等学校基礎学力テスト(仮称)」は平均的な学力層や底上げが必要な層を念頭に、円滑な導入を目指して当初は国語、数学、英語の3教科に絞るという。一方で専門家からは、依然としてテストの制度設計に対する困難性の指摘が止まない。

本社は基本的に、今回の高大接続改革を必要不可欠なものとして支持してきた。細部には違和感がないでもなかったが、ストレートニュースの配信を優先して改革の必要性を訴えてきたつもりである。

総論賛成の立場は変わらない。また、同会議が工程表に従って実現可能な方向性を打ち出そうとしているのも理解できる。その上で、あえて具体的な提案に踏み切りたい。現行の大学入試センター試験を基礎学力テストに改編すること、もっと言えば「高大接続テスト」構想の復活である。

3教科に絞っては、それらの出題範囲さえやればいいという間違ったメッセージを高校教育界に送りかねない。まさに小・中学校の学テで起こっている負の教訓を高校教育にも拡大するだけである。少なくとも6教科には、センター試験の蓄積があるではないか。

目標準拠型の、教科書に掲載されるような基本的な問題で、1点刻みではない評価に基づき、複数回の受験が可能で、異なる問題セットでも達成度評価が可能な標準化されたテスト――。昨年の高大接続答申ではない。2010年に文科省委託で北海道大学がまとめた「高大接続テスト」の提言である。

5年前の提言が、少しも色あせていない。というより先の「たたき台」を見るにつけ、時間のロスを惜しむばかりである。

難関大学も含めた入学者選抜にも耐えうるという現行の出題ターゲットを下げて、高校の学力ボリュームゾーンを対象にする。問題作成委員を大学教員から徐々に高校教員へとシフトし、内容も高校教育を基本としたものにし、同時に問題をストックしていく。当初は同一問題の一斉実施でもやむを得ないが、蓄積を待ってランダムに出題する「IRT方式」を目指す。成績提供は「たたき台」通り「10段階以上」とし、大学側が高校教育の成果として入学者選抜に活用することを妨げない――。

一方で、大学教育を受けるに足る思考力・判断力・表現力を主に測る「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の開発は急ぐべきだろう。そのためにも大学関係者の労力はこちらに割き、基礎学力テストは高校関係者による高校関係者のためのテストに明確化すべきだ。そうなれば会場や監督者の問題も必然的に解消されよう。

知識・理解面を高校の成績だけで判定する大学があってもいい。いや、むしろそれが正道だろう。その上で高校の教育目標とは必ずしも整合していなかった大学教育を受けるに足る能力は、学力評価テストで問えばいい。一刻も早く具体的な問題例として正しいメッセージを発することこそが高大接続改革の本丸である「教育接続」を促すであろうことは、小・中学校の学テの正の教訓である。

素人考えであることは分かっている。しかしゼロベースよりは実現可能性が高いのではないか。というより実現可能性を考慮して構想された高大接続テスト構想にいったん戻した方が、高校・大学双方の混乱を少なくするだけでなく「段階的に実施する」とした高大接続答申の本義にもかなう気がしている。

【過去の社説】
高大接続テスト 先送りでも済まない「全入時代」の入学者選抜 (2010年11月25日)
大学入試の抜本改革はセンター試験の廃止から (2011年1月16日)
「終焉」した大学入試に対応が急務だ (2012年2月11日)
大学改革実行プラン 「衝撃」は軽視できない (2012年6月8日)
高大接続諮問 受験競争が無になる大改革だ (2012年9月2日)
実行会議4次提言 半年遅らせただけの「大改革」論議(2013年11月2日)
大学入試改革 「人物本位」は誤解を招く(2013年11月9日)
大学入試改革 各方面で「覚悟」を(2013年11月21日)
「発展レベル」テスト まずは必要性と緊急性の共通認識を(2014年6月21日)
〔戦後100年へ3〕高大接続改革 「入試」から決別する時だ
(2016年1月4日)

【関連本社配信記事】
「高大接続テスト」はどうなったの? (ベネッセ教育情報サイト 2010年12月2日)
「高大接続テスト」は「入試」ではない!?(同 2010年12月16日)
1点刻みの「入試」は不要に? 全入時代の大学入学 (同 2010年12月22日)
「21世紀型」大学入試が世界の潮流に!? (ベネッセ教育情報サイト 2012年1月16日)
「学生に勉強させる」大学に 中教審が提言 (同 2012年5月10日)
いずれはセンター試験の存廃も課題に!? (同 2012年5月24日)
入試に依存した高校教育は衰退する―「高大接続テスト」提唱者・佐々木隆生氏に聞く― (月刊高校教育2012年6月号)
大学入試を大改革へ......「一発勝負」「1点刻み」なくなる!?(ベネッセ教育情報サイト 2012年7月5日)
教えて!「中教審に高大接続の新部会」
(キャリアガイダンス.net 2012年8月29日)
大学入試、わずか1年で「大改革」を提案?(ベネッセ教育情報サイト 2012年9月13日)

センター試験はどうなる? 大学入試の「大改革」検討 (同 2012年11月1日)
2013年の大学入試「大改革」はどうなる‐渡辺敦司‐(同 2013年1月7日)
高校版「全国学力テスト」を大学入試にも活用?-渡辺敦司- (同 2013年2月7日)
教えて!「センター試験が廃止される?」 (キャリアガイダンス.net 2013年6月18日)
センター試験「廃止」は本当か‐渡辺敦司‐ (ベネッセ教育情報サイト 2013年6月27日)
入試以外でも変革を......必要な大学と高校の「教育」改革‐渡辺敦司‐ (同 2013年10月6日)
教えて!「大学入試は今後どうなる?(第4次提言を受けて)」 ?」(キャリアガイダンス.net 2013年11月19日)
大学入試の「1点刻み」見直し、なぜ必要? ‐渡辺敦司‐ (ベネッセ教育情報サイト 2013年12月11日)
東大の推薦入試は「教育再生実行会議」の先取り? ‐渡辺敦司‐ (同 2014年2月26日)
教えて!「達成度テストって何?」 (キャリアガイダンス.net 2014年3月19日)
2021年度からの「発展レベル」テスト まだ姿は見えず‐渡辺敦司‐ (ベネッセ教育情報サイト 2014年7月9日)
「発展レベル」テスト、勉強の姿勢も変える必要‐渡辺敦司‐ (同 2014年7月11日)
大学入試改革は高校・大学の「教育」を変えるため‐渡辺敦司‐ (同 2014年11月14日)
教えて!「いつからどんな? 二つの新たな学力テスト」 (キャリアガイダンス.net 2014年11月19日)
大学入試が「公平」でなくなる!?-渡辺敦司- (ベネッセ教育情報サイト 2014年11月21日)
なぜ国は入試改革を急ぐのか‐渡辺敦司‐ (同 2014年12月5日)
「新テスト」検討上の課題指摘 大学入試センターが「専門的見地」からシンポ(
内外教育 2014年12月9日)
大学教育の改革、入試改革より早く進む?-渡辺敦司- (ベネッセ教育情報サイト 2014年12月26日)
中教審で何が論議され、何が論議されなかったのか (月刊高校教育2015.2月号)
2016年度には「新テスト」の作問イメージ 文科省が実行プラン‐渡辺敦司‐ (ベネッセ教育情報サイト 2015年1月28日)
京大の「特色入試」に見る国の「高大接続」改革-渡辺敦司- (同 2015年2月4日)
教えて!「大学の『個別』入試はどうなる?」 (キャリアガイダンス.net 2015年2月17日)
大学入学の「新テスト」、夏までに方向性-渡辺敦司- (ベネッセ教育情報サイト 2015年4月1日)
大学入試、既に変わりつつある? 「高大接続」先取り‐渡辺敦司‐ (同 2015年5月27日)
重要なのは「主体性」の育成 くろまる安西祐一郎氏が講演─教育EXPO(上)(内外教育 2015年6月23日)
新テストは「軽量化」が必要 くろまる高大接続改革セミナーで─教育EXPO(下)(同 2015年7月3日)

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