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書籍・雑誌

「けふこの本棚」の梅原猛氏

本年1月12日、哲学者の梅原猛氏が亡くなられました。

梅原氏の本を初めて読んだのは中学2年生の時、『隠された十字架』です。
確か、雑誌の「中学2年コース」の中の歴史ミステリーや謎の中で、「法隆寺は、聖徳太子の怨霊が封じ込められた寺」という説が紹介されていて、その元となっているのがこの本だと知り、どうしても読んでみたかったのです。

厚くて、値段もけっこう高くて(まだハードカバーしかなかった)、親に頼んで買ってもらった覚えがあります。
中学生にはまだまだ難しい内容でしたが、新説の持つ熱気に圧倒されて、何度も読み返しました。
日本では、恨みを持って亡くなった人を神として祀ることが多々あることを、この本を通して知りました。
そこから、梅原氏の新作が出るたびに、本棚に1冊ずつ本が増え(当然まだ全部ハードカバー)、万葉集の歌人たちや、藤原氏の周辺の人々、仏教や美術など、いろいろなジャンルに関心を持ちました。
大学生になって家を離れた時、自分の本棚の本は一部しか持っていかなかったのですが、梅原さんの本だけは置いていきたくなくて、全部持っていきました。本棚1段分近くあったような覚えがあります。
その後、三代目市川猿之助さん(現、二代目猿翁さん)のために書かれたスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」が観たくて、(実際に「ヤマトタケル」を観たのは再演で、最初に観たスーパー歌舞伎は「オグリ」)、そこから、スーパー歌舞伎、猿之助歌舞伎をたくさん観にいくようになりました。
梅原さんが猿之助さんを高く評価していたことが原因だと思います。
その後、いろいろな劇場に通うようになりましたが、やはり歌舞伎は大好きです。

梅原さんの説がすべて正しいわけではないと思いますが、梅原さんは多くのジャンルに目を向けさせ、いわゆる常識とは違う多様な考え方ができることを示してくれた、私の本棚に大きな影響を与えた方だと思います。
ありがとうございました。
ご冥福をお祈りいたします。

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2019年1月16日 (水) 書籍・雑誌 | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
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入院・療養中の大収穫 『キングダム』(原泰久)

交通事故の結果、入院、手術、退院後も自宅療養と、今までの人生で一番長いお休みになってしまいましたが、開き直って休んでいたので、たいしたことはしていません。
でも、たぶん入院していなかったら、私はこの作品に出会うことはなく終わったでしょう。
『キングダム』(原泰久/集英社ヤングジャンプ・コミックス)に。

手術が済んだ後、ネット環境がないし、新聞も部屋にあるわけではないので、しかたなくベッドでテレビを見ていました。
でも、日頃、昼のテレビは見る機会もないので、売店で「TVガイド」を買ってきて、何かないかな〜と見ていました。
そして、6月4日(月)のこと。
夜、7時は、運良く家にいればNHKのニュースを見ている時間ですが、たまたま目についたのが、NHKBSプレミアムで、
「新 アニメ キングダム『無名の少年』」
「新」だから、第1回なら話がよくわかっていいなと思いました。
でも、出ていた原作者も声優さんも知らないし、どんな話なのかなと、「TVガイド」のあちこちのページを見てみたのですが、
...何にも書いてない(泣)
BSではあるけれど、第1回だし、深夜でもないんだから、アニメ紹介ページにくらい出ていそうなものだけれど、ほんと、見事に無視({TVガイドはそれ以降も無視し続けてます...オイ マジメにやれ)
題だけでは、どういう話なのかまるで見当がつきません。

第1回なんだし、つまらなければやめればいいし、とそれでも見てみる気になったのは、よほど暇だったからとしか思えません。
普段見ているアニメが一本もないのに、です。

そうしたら、
おお〜! 舞台は中国、春秋戦国時代ですか!!
『三国志』が大好きな私、このあたりの時代は 『小説十八史略』(陳舜臣) レベルですけど、大好きよ。
主人公が「おバカな絶叫系」(ごめん...信)っていうのは私の好みではありませんし、なんかオープニングからアクションが大げさすぎる気がしますが、少年マンガ(...と思っていた)ならそんなもの?
初登場の時、人物の名前を漢字で出してほしいと、軽く苛立ち。
そうでなくても、漢字の名前って日本で発音すれば同音だらけなんだから、名前がイメージできなくて困る。
で、気に入っていたヒョウ君は、漢字が判明する前にいきなりお亡くなりになるし(泣)
何で、うるさい方が...(ごめん...信)
で、この少年が、秦王と出会い、成長しつつ大将軍への道を歩む話なんだろうなと理解しました。

アニメの方は帰ってからも続けて見ていましたが、なんとなく自分のイメージとずれていて、「これって、原作の方がおもしろいんじゃない?」と思いました。
けっこう巻数がありましたが(現在26巻)、『総集編』が出てることがわかり、様子を知りたいだけなんだからこっちでいいよね、と...(でも、これは単行本未収録作品があるので正解だった♪ ネット書店で売り切れてるし)
Iが来て、しばらくしてIIが出て、続きのコミックスを5冊くらいずつ買って(自宅にいながらにして買えるネット書店万歳!)、史記などの参考図書を集めて、...ヤングジャンプを配達してくれる本屋さんに頼んで(でも次号は休載で、待機じゃあ)、はい、もう心奪われまくりです。
元気なら夏コミにだって行っちゃいそう(ココココ 行きませんけどねェ 本当ですよォ)

キングダムのどこまで史実なのかは、私にはよくわかりません。
そんなに詳しい資料は持っていないし、史書に出てきても「ナントカの戦いで誰が攻めて何万人死んだ」で片付けられたりしているわけだし、後世の人が、良くも悪くもいろいろつけ加えたり省略したりして史書になっていくわけだし。
それでもたまに、この時代にこんな言い方はなかったとか、このエピソードはありえないとか思うこともあるんですが、結局、そんなことはどうでもいいやと思わせるおもしろさ。
高校生の時、横山三国志を借りて少しだけ読んで(完結してなかった筈)、続きがどうしても知りたくて、図書室で吉川三国志を借りて、分厚い三冊本を、三日、二日、二日で、家に帰ってからひたすら読み耽った幸せな時間に勝るとも劣らない至福の時。
そもそも、吉川三国志だって三国志演義だって史実じゃないもんね。
ああ、入院してて良かった♪

これから、アニメの連続放送を見ます。

【キングダム 集中放送】
NHK BSプレミアム 23:45〜25:00
7月23日(月) 第1話、第2話
7月24日(火) 第3〜第5話
7月25日(水) 第6〜第8話

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2012年7月23日 (月) アニメ・コミック, 書籍・雑誌 | 固定リンク | コメント (4) | トラックバック (0)
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明治3年の鉛筆の呼び名 〜筆箱事情調査 番外〜

『はじめて学ぶ日本の絵本史I』 (鳥越信/ミネルヴァ書房)を読んでいたら、子ども向け絵本の草創期(明治初期)の本として『絵入智慧の環』という本が紹介されていました。
1870年〜1872年(明治3年〜5年)に発行された全8巻のうち、絵本と呼べるものは『初編上 詞の巻』『初編下 詞の巻』の2冊、いろはの文字とそれにつながる言葉で描かれた絵(例:「い」なら、ひらがなの「いぬ」 漢字の「犬」 「犬の絵」が1ますに書いてある)、簡単な文とそれにあった絵などでできているとのこと。
私の目をひいたのは、次の部分でした。

下巻の内容も似たような構成だが、(中略)一五ページにわたる「わたりもののなよせ」すなわち「外来品の名寄せ」として、「蒸気船」「自転車」「大砲」等々、欧米の先進的科学技術が生みだした物や、「せびろ」「ずぼん」といった日用品などを、絵で示しながらその名称を教えようとしている(図序-4)。

同書8ページより

図版に「たもと時計(懐中時計)」「寒暖計」「双眼鏡」「かけ時計」「望遠鏡」「晴雨計」がのっているページが出ていました。

外来品の名前が出ていて、子ども向きの本なら、筆箱はないまでも文具はあるだろうかと、『絵入智慧の環』の初編2冊を取り寄せてみました。(復刻版はないようなので、古書)

「わたりもののなよせ」のページで、文具のページは以下のようでした。
Photo_2


出ている絵は、ペン、鉛筆、石板、石筆の4種類。

ペンは確かに「ペン」と書いてありますが、鉛筆は「ペンシル」でない語が先に書いてあります。
しかも苦手な変体仮名で。

たぶん、聞いたことがないけれど「ぽっとろおど」であろうと思います。
なので、解説の文は「ぽっとろおど また ぺんしる とも いふ 石筆といふ ハ くろし」でしょうか。
(自信がないので、詳しい方教えてください)
追記:これは「石筆といふハ『くろし』ではなく、『わろし』と読むことがわかりました。(注記)後述

鉛筆が「ポットロード」と呼ばれ、しかも「ペンシル」より先にくるなんて不思議でした。
頼みの『日本国語大辞典』が今使えないので(足のけがをしているため、置いてある場所に行くのが困難)、普通に「鉛筆」をネットで検索しても、この語は出ない。
適当な綴りではネットでヒットせず、カタカナ「ポットロード」で検索したら...これはオランダ語の「鉛筆」だったんですね。
オランダ語の可能性は考えていましたが、単純にカタカナ検索でよかったのでした。
つづりは、「potlood」でした。

おそらく、蘭学で先にオランダ語の単語が入り、後から英語が入ってきたためにこうなっているのでしょう。

ただ、「石筆と言ふハ黒し」がよくわからない。
日本の石筆は白ですが、ヨーロッパに黒い石筆はあったので、輸入物しかなかった時代なら「黒いものが石筆」という概念だったのでしょうか。
ものの名前や文字を覚える本ですから、まだ珍しいものである「ポットロード」と「スレイトペンシル」の違いがわかるようにとの配慮だと思いますが、鉛筆だって黒く書けるのになあと、ちょっと特徴を表すのには不適切な気もします。
この『絵入智慧の環』の絵つきの名称で、別名が「〜ともいふ」のような書き方はいくつもありますが、こういう解説は他にないのです。
作者にもまだなじみがないものだったのかも。

便宜上「鉛筆」と書いていますが、ここには「鉛筆」という語は登場していません。
なので、明治3年(1870年)の鉛筆の呼び名は、「ポットロード」か「ペンシル」ということでしょう。

図版の鉛筆の軸の文字は、不鮮明ですが「EACLEN」の後に「S」の鏡文字と、「2」が書いてあるようです。

以前、このブログでとりあげた、明治時代の絵入り英語エキスト『世界商売往来』はシリーズがあって、『続世界商売往来』(明治5年 1872年)には、

Lead-pencil(リードペヌシル) 【訳】 鉛筆(ホットロート)

とあり、図版は、2ダースくらい紙で丸く束ねられたものとばらの鉛筆1本となっています。

Steelpen(スチールペヌ) 【訳】 銅筆 アカガネフデ

のように、ペンは「フデ」と訳しているのに、漢字は「鉛筆」でも、読みが「ナマリフデ」「エンピツ」ではなく「ホットロート」となっているあたり、鉛筆は鎖国のオランダ語時代に既に日本に入っていて、「ホットロート ポットロード ポットロート」などで通用していたのかもと思います。

ただ、『続々世界商売往来』(明治6年 1873年)では、職業の一覧の中に、

Pencil-maker(ペヌシル メーカル) 【訳】 筆匠(フデシ)

という記載もあり、この場合は ペンシル=筆 です。
そのほうが本の使用者にはイメージしやすかったのかもしれません。

(注記) 「石筆といふは わろし」の読みが出ていたのは、『明治事物起源』(石井研堂)です。
この本に行きついたきっかけと、ポットロード等の詳しい内容は、また別に書きたいと思います。

【参考資料】

世界商売往来用語索引 (飛田良文 村山昌俊/武蔵野書院) ... 『世界商売往来』シリーズの用語索引ですが、原本の複製もついているので、元の絵や表記が楽しめます。

変体仮名とその覚え方(板倉聖宣/仮説社) ... 良く使われる変体仮名を整理し、特徴をわかりやすく説明している。明治17年の「讀方入門」の教科書の複製つき。

【このブログの関連記事】

明治6年の英語テキスト『世界商売往来』のpencase 〜筆箱事情調査シリーズ〜 ...今回も使った『世界商売往来』の中の筆入について書いています。

カテゴリー:筆箱事情調査 ... 筆箱がどこで生まれたのかを調べているシリーズですが、筆箱が出てこないこともあります。

シリーズ最初の記事は、
明治の舶来木製筆箱の図版 〜明治43年『伊東屋営業品目録』より〜 その3

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2012年7月 3日 (火) 書籍・雑誌, 文具〜書く・消す・描く〜, シリーズ:筆箱事情調査 | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
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プリントゴッコ初期の評判 その2 〜消耗品販売終了を惜しんで〜

(この記事は、プリントゴッコ初期の評判 その1 の続きです。)

雑誌「暮しの手帖」プリントゴッコが取り上げられたのは、1983年冬号(第2世紀 87号)です。
私たちの暮らしに密着した数々の商品テストを行い、性能に問題があれば「買うべきではない」とばっさり切ったこの雑誌の、プリントゴッコへの評価はどうだったでしょうか。

記事の題名は「家庭で印刷できる小さなキカイ」です。
プリントゴッコが発売されてから数年後の年賀状の様子から記事は始まります。

ここ、二、三年にいただいた年賀状をみると、おやっと思うことがあります。あいかわらずの紋切り型の文面、黒インクの一色だけで印刷されたものにまじって、その人の書き文字やイラストが印刷され、インクも赤や緑を使ったカラフルなものが目立つのです。
さぞかし、お金もかかることだろうと聞いてみると、プリントゴッコだよ、といいます。はじめは、一万円、うーん、ちょっと......と思ったが、何回も専門の印刷屋さんに頼むことを考えると、高くはない、といいます。
手づくりブームとやらで、年賀状やあいさつ状にも、見本をえらんで印刷屋さんに頼むよりも、自分で工夫しよう、自分だけのものを作ろうという時代になってきたのでしょうか。このプリントゴッコは、家庭でかんたんにカラー印刷がたのしめるということで、すでに、170万台以上も売れているそうです。ねだんは、ハガキサイズ(B6)の大きさで1セット9800円。
ほんとうに、かんたんに、手製の年賀状やあいさつ状がカラフルに印刷できるのか、また費用はどれくらいかかるのか、じっさいに使ってみた結果をご報告しましょう。

「ここ二、三年」の年賀状は、1981年〜1983年くらいのお正月のもので、すでにプリントゴッコの年賀状が広がりつつあることがわかります。
暮しの手帖の調べたいことは、操作、出来栄え、費用のようです。

小見出しを追って行くと、

「★かんたんにできる★ ★できばえはみごと★ ★維持費はかかるか★ ★必需品ではないが★」となっており、おおむねいい評価だと思います。
以下、要約をしてみます。

* * * * * * * *

★かんたんにできる★

・原理の説明(謄写版のような孔版印刷)
・原稿はカーボンが含んだ筆記具か黒く印刷されているものの切りばりでできる。
・製版は原稿の上に原紙を置いて光らせるだけ。
・インクは7色ついていて、混ぜて使うこともできる。
・原稿を作る時間を別にすると、印刷できるまで5分とかからない。

★できばえはみごと★

・黒一色や多色刷りでいろいろ印刷したが、思った以上にみごとなできばえ
自分で書いたものがまったく同じようにつぎつぎと印刷されてくるというのは、ちょっとした快感でもある。
・画数の多い文字はやや読みにくいようなので、あまり小さい字は避けた方が無難。
・一度インクをのせたらある程度まとまった枚数が刷れてほしいが、ふつうの原稿ならうまくインクをのせれば70枚から80枚ぐらいは一度に印刷できる。
・印刷を中断するときは、ビニールの袋に入れてほうっておいたが、3日後でもほんの少しインクがかすれる程度。
・インクが乾くまでに10分程度かかるので、狭い部屋だとどこに置いてよいか困る。そういうときは新聞紙や週刊誌にでもはさんでおく。
・かなりいろいろな技法が使える。(多版刷り、色の濃淡をつけるなど)
・写真から原稿をつくることもできるが、あまり鮮明にはいかない
・自分でうまく書けない人には、インスタントレタリングやカット集を切りばりする方法もある。

★維持費はかかるか★

・今、黒インク一色のハガキ印刷を印刷屋さんに頼むと、ざっと百枚で五千円くらいかかる(カットや色が加わればもっと)。プリントゴッコは何回も使えることを考えれば初めの一万円も高くはないだろう。
・1回製版すると、ランプが2個で196円、原紙が1枚で98円かかる。製版がうまくできようが失敗しようが、1回300円かかる。多版刷りにすると費用も2倍3倍になる。
・インク(40cc 250円)は、原稿全体に大きく印刷するためには半分近く使うこともある。

★必需品ではないが★

ここで、比較品として、堀井謄写堂のマイプリンターという小型謄写版が出てきます。
現物を見たことはありませんが、小型の謄写版の上部に2色のインクつぼ?がついていて、ローラーとインク板とのセットになっています。

マイプリンターの特徴

・ハガキサイズのローラー式の謄写版
・青いボールペン原紙を使う。
・付属のボールペンや筆ペンで字や絵を書いて印刷する。(←ボールペン原紙用の筆 はどういうものか興味があります)
・プリントゴッコほどではないにしてもまずまずのできばえ。
・カラーインクもあり、多色刷りも可能。
・枚数はたくさん刷れるが、インクの乾きが遅く、手が汚れたり、後始末が厄介。
・切りばり原稿は使えない。
・本体3500円、原紙1枚20円と安い。

文字だけの印刷なら、それなりに使える、という評価。

結論は、これらの小型印刷機は毎日使う必需品ではなく、年賀状は手書きに限るという人もいるということを述べた上で、

どなたにでも、というものではありませんが、ひとつ今年は年賀状を自分で印刷してやろうと意気込んでいる人とか、しょっちゅう幹事役を引きうけるという人には、こういった印刷機は役に立つでしょう。

となっています。

無駄なものを排斥する「暮しの手帖」が、文字だけならマイプリンターでいいと言いつつも、プリントゴッコの簡単さと印刷品質を目にした後では、評価が「十分」でなく「まずまず」や「それなりに」になってしまっているのがわかります。
自分の書いたものが次々に印刷される「快感」という言葉に、実際の使用者の素直な感想が出ていると思います。

当時、私はまだ学生で、1万円という価格にはとても手が出なかったのですが、黒一色イラストなしの印刷にも5千円かけていた人たちには、十分元が取れる商品だったのだろうと思います。
もちろん、自由にイラストを書いて印刷したい人、自分でカラー印刷をしたい人には、新しい表現の道具として。
誰にでもできるカラー印刷を普及させたプリントゴッコの功績はとても大きいと思います。

この時に、「暮しの手帖」が挙げた不満点は、価格以外は対策が取られたように思います。
それは、多くのユーザーからの希望でもあったと思います。

・小さな文字がつぶれる、写真が不鮮明 → ハイメッシュマスターハイメッシュインク

・印刷したハガキを乾くまで並べる場所がない → ゴッコカードラック に並べる

そのほかにも、誤って原紙をはさまずに製版してしまった場合の透明プラスチックの交換できる部品とか(←実際、自分がやって交換しました)、スポンジ状の台が劣化した時の交換用とか、高い本体の買い直しをしないまま快適に維持できたことは、とても省資源な製品だったように思います。
取りだすのは年に1度であっても、十分役に立ち、また、楽しい商品でした。
多版刷りの仕上がりが、いつもできてみるまでわからず、色合いや刷り順をどうしたものかと考えるのも毎度のことでした。
ねらった通りの効果に仕上がった時は、とてもうれしかったものです。

私たちは手軽にいつでもカラー印刷をすることができるパソコンとプリンターという道具を手に入れましたが、そこに「手づくり」の味わいを出すことは逆に難しくなりました。
お仕着せではなく自分らしさを求めていったはずが、市販品に近いものになるのは不思議なことです。

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プリントゴッコ初期の評判 その1 〜消耗品販売終了を惜しんで〜

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2011年9月24日 (土) 書籍・雑誌, 文具, 文具〜書く・消す・描く〜, 昭和レトロ, 文具〜スタンプ関係 シール〜, 暮しの手帖 | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
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プリントゴッコ初期の評判 その1 〜消耗品販売終了を惜しんで〜

理想科学工業のプリントゴッコの消耗品の販売が、ついに、2012年12月末で終了するそうです。
以下は、ITmediaニュースの記事です。

「プリントゴッコ」、完全に終了 消耗品販売も打ち切りへ

既に本体の販売は終了している「プリントゴッコ」。消耗品販売も2012年いっぱいで終了する。
2011年09月20日 17時27分 更新

理想科学工業は9月20日、「プリントゴッコ」事業を2012年12月末で終了すると発表した。3年前に本体のメーカー販売を終了しており、消耗品の販売のみを続けていたが、需要減が一層進み、消耗品の継続生産が難しく、事業継続が困難と判断した。

プリントゴッコは1977年に発売。年賀状プリントなどに活躍してきたが、PCとインクジェットプリンタの普及に押され、08年6月に本体の販売を終了していた。その後もランプやインク、マスターなどの関連消耗品販売とサポートを継続してきたが、完全に終了する。

本体の生産中止もさびしい限りでしたが、とても残念です。
こればかりは、需要と供給の問題なので、メーカーに無理を言うこともできません。

とはいえ、プリントゴッコが画期的な商品だったということを、過去の資料から振り返ってみたいと思います。
プリントゴッコが生まれたのは1977年、ブームになったのはもう少し後のようです。

今回は、『文房具の研究』 別冊暮しの設計NO.6 中央公論社 S.56(1981).3.10 の記事をとりあげます。

記事の最初の惹句が、「1875年、エディソンが謄写版(ミメオグラフ)を発明。1世紀ぶりのセンセーショナルな発展が『プリントゴッコ』だった。RISOGRAPH(リソグラフ)は『印刷』というものを私たちの身近にもひきつける、あたらしい高性能マシーンだ」 と、その誕生をたたえています。

1、エジソンの発明した謄写版は、やがて、タイプライターの活字で原紙に穴が開けられるようになり、アルファベットなどを使う表音文字圏ではタイプライターで原紙を作れるようになった。

2、日本では漢字+かなで文字数が非常に多いため、ヤスリと鉄筆によるガリ版が主流となり広まったものの、各家庭に一台というほどではなく、コストはかかってもゼロックスのようなコピー・マシーンが謄写版の領域を侵そうとしていた。

3、インクメーカーだった理想科学工業は、エマルジョンインクを開発し、インクの売り上げをさらにのばすため、「タイプでなく、熱線を使って、もっと早く、秒単位で製版すれば、それだけインクの消費もふえる」のでは? と考えた。

4、フィルムと紙を貼り合わせ、感熱原紙を発明した。

熱線に感じやすいフィルムを紙と貼り合わせることを考え、市販のフィルムを使って実験がはじまった。羽山さん(注:当時の社長)は文房具店でルーペをひとつ買った。どうするか、というと、いたずら少年がよくやるように、晴れた日に、ルーペで太陽光線をあつめて、次から次へともやしてみたのだ、という。
実験結果は、「ポリ塩化ビニリデン」がよさそうだということになり、このフィルムを「サランラップ」の名で製造販売している旭ダウ社に共同開発を申し入れた。
それからあとは......? 日本じゅうの文房具店で人気の「プリントゴッコ」がすべてを語ってくれる。
ストロボの普及で頭をかかえていたフラッシュ・バルブのメーカーが息をふきかえしたともいわれる。

同書P136〜137より

5、プリントゴッコは取り扱いのやさしさから、いまや世界各国に普及し始めた。それも、小・中学生が自分で買って使うケースが多い。(←これにはちょっと疑問です...)

記事の最後は、プリントゴッコと同じ原理で製版・高速印刷をするリソグラフ(当時は、製版機と印刷機は別々だった)に言及し、これからのオフィスには、PPC複写機とリソグラフの2本立てにするのが合理的だろうとコストなどについても述べています。

プリントゴッコの製版システムがそれまでになく画期的であり、しかも誰にでもできる易しさであることがヒットの原因であることがわかります。
個人的には「インクを売るため」に開発されたということや、ヒットのおかげで「フラッシュ・バルブメーカーが息を吹き返した」というのが意外で、記憶に残っていた部分でした。

私の職場では、コピー機とリソグラフを両方使用しています。
コスト面から、10枚を超えるもの(機種により多少前後)はリソグラフを使うようになっています。
現在のリソグラフは、製版・印刷が一台ででき、原稿もカーボンで書いてある必要はなく、あっという間に刷り上がり、インクで手も汚れない、仕事にはなくてはならない機械になっています。

次回は、商品についてシビアな評価を下すこともある、「暮しの手帖」の記事を取り上げます。

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プリントゴッコ初期の評判 その2 〜消耗品販売終了を惜しんで〜 ... この記事の続きです。

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2011年9月22日 (木) 書籍・雑誌, 文具 | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
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東日本大震災支援企画 『浅田真央チャリティブック』&『ニッポンの嵐 ポケット版』発売

フィギュアスケートの浅田真央選手のチャリティブック 『浅田真央 Book for Charity』 が販売されます。
内容は、今年の全日本選手権?(「復活」)から世界選手権を経て現在までになる模様。
販売による収益金は、全額、日本赤十字社を通して東北地方太平洋沖地震への義捐金になります。
今回の販売は、募金金額を最大限にするために、書店を通さず受注生産で、ショップ.学研でのみ購入できます。
申し込み期限は5月31日(17:00まで)と短いので、気になる人はお早めに。
あまり一般のニュースになっていなくて、私は Mizumizuのライフスタイル・ブログ で知りました。
寄付金や義捐金の報道でも、国や人によってずいぶん温度差があるように思います。
チャリティで多くの人が参加できて通販限定という今回みたいなものこそ、たくさん取り上げてほしいと思います。
浅田真央 Book for Charity の特設ページへ

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また、昨年9月に寄贈限定本として発行された『ニッポンの嵐』が、一般向けのポケット版として発売されることになりました。(昨年の寄贈については カレントスクエアネス ポータル へ)
これも、収益金は被災地支援に使われます。
全国の小中高の学校図書館に2冊ずつ寄贈されたこの本は、観光立国ナビゲーターに協力している嵐が、日本全国の魅力や各地の課題を語るという趣旨ですが、ハードカバーで厚く、メンバーの写真満載の豪華本で、ファンなら絶対欲しいだろうという構成でありながら、寄贈のみで購入のできない本で、小中高に伝手がなければ見ることもできない本でした。
今回、メンバーの希望で、被災地支援に役立てたいということで、ポケット版の発売が決まったそうです。
一般販売がないためにオークションで高値取引されるなどの問題も起こした本、小型になるのは残念ですが、今度は多くの人の手に渡るのではないでしょうか。
発行は、角川グループパブリッシングです。
(5月22日現在、(削除) アマゾンにはまだ受付がなく (削除ここまで)、楽天とビーケーワンなどで予約を受け付けています。)
【追記】 22日朝、アマゾンでも『ニッポンの嵐』予約受付が始まりました。

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2011年5月22日 (日) 書籍・雑誌 | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
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知的生産の技術・梅棹忠夫さんの訃報

梅棹忠夫さんの訃報を携帯電話のニュースで知りました。
亡くなられたのは7月3日、老衰のためで、葬儀は近親者で行われ、後日、お別れの会が開かれるようです。

以前にも書きましたが、私は、梅棹さんの岩波新書『知的生産の技術』にとても影響を受けました。

この本に学生時代に出会えたことは大きな財産でした。
×ばつ3カードのほか、スクラップ記事の整理をするとき、スクラップブックではなく、同じ大きさの紙に「1件1枚」で貼ることは、今も仕事で応用しているスキルです。
勉強そのものではなく勉強のしかたを教えてくれた、貴重な本でした。

斬新だったのは、ひらがなタイプライターの使用です。
手書きの手紙は出してしまえば手元に控えは残らないけれど、タイプライターならカーボン紙をはさんで打てば、まったく同じものが控えとして自分の元に残る、という発想です。
ぱっと見て読みにくいローマ字やカタカナでなく、ひらがなだけでわかりやすい文章を書くというのは、日本語には漢字が必要だと思っている私にもおもしろい考え方でした。

ひらがなタイプライターこそ入手できませんでしたが、その後開発されたワープロに親近感を持ってすぐになじめたのも、素地をこの本が作っていたからだと思います。

現代はパソコンを初め、もっといろいろな知的生産にかかわるものが開発されていますが、基礎の基礎の部分はいつまでも応用がきくものだなと『知的生産の技術』は思わせてくれます。

梅棹忠夫さん、学生だった私にいろいろな方法を教えてくださってありがとうございました。
ご冥福をお祈りいたします。

【関連サイト】

webM旅 旅の本 知的生産の技術

この本の内容が詳しく評論されています。目次もあり。

【以前の関連記事】

×ばつ3カードは1件1枚

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2010年7月 7日 (水) 日記・コラム・つぶやき, 書籍・雑誌, 文具 | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
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御殿場高原 時の栖 の憩い 〜美術館と本屋さん〜

クリスマス〜バレンタインデーを中心に、毎年、イルミネーションに力を入れてにぎわっている、御殿場の時の栖(すみか)に先日行ってきました。

今回の一番のお目当てだったのは、実はイルミネーションでも高原ビールのバイキングでもなく、そこにある前島秀章さんの彫刻の美術館です。(→ 時の栖美術館 へ)

Photo_2 館内に一歩入ると、さわやかな木の香りに包まれました。
前島さんの彫刻のほとんどは、クスノキの大木からできています。
長年かけて巨木に成長したクスノキは、芯がだんだん空洞化して弱り、ある日台風などに耐えきれず倒れます。
そういう風倒木が市場に出て彫刻家とめぐりあい、作品になるのだとか。

その彫刻を作るときのクスノキの削り屑が館内のかごにたっぷり盛られて、それが芳香を放っているのでした。
クスノキから採る樟脳よりもずっとやさしく、すがすがしい感じです。
この木の屑は、受付でお願いすると分けてもらうことができます。
普通に放置しておくと香りが飛んでしまうので、たぶん前島さんが作品を作るそばから削り屑は運び込まれ、交換されているのでしょう。

大作だけでなく、表情豊かな小さな作品がたくさん並べてあるのもまたおもしろいものです。
個人的には、あまり凝った命名のものは好きではないのですが、お地蔵さま、天邪鬼、観音様の像があると思うと、大国主命やお稲荷様やマリア様がいたりと、特定の宗教のものばかりではありません。
ころんとした三頭身くらいの子どもやお年寄りなどは、表情が豊かでかわいかったです。
小学生からの作品がきちんと保存されているのもすごいですが、小学校低学年で上手な木の工作や木彫りが出てくるのにもびっくりしました。
絵葉書やポストイットなどのミュージアムグッズも少々あります。

受付で言われた通り、次々とドアを開けて奥の展示室へと向かっていき、最後に木のトンネルをくぐって出た先は、何と本屋さんでした。
いや、本屋さんというべきなのか...
だってそこには、大きな木やたくさんの木彫作品だけではなく、あちこちにすわるソファがあり、喫茶室がついていて、お客さんは座って本に読みふけっていたり、子どもに本を読んでいたりするのですもの。
棚の上に出ている本は自由に読み聞かせしてくださってけっこうです、というような表示がありましたが、ええと、これは何の本でもOKなわけ?
(→ ブックス&カフェ へ)

それにしても、たくさんの本。
しかも、おもいきり趣味本ばかりが集めてある印象です。
普通の週刊誌やコミックス、ベストセラーの類は置いてありません。
そのかわり、クラフト系、手芸、郷土、園芸、食材、骨董、民芸、昭和レトロ、デザイン、絵本、児童書、音楽、郷土...こんな本があったのか、という目新しさいっぱい!
いつも近所になくてアマゾン頼みの文具の本(たとえば、文具王高畑正幸さんの『究極の文具カタログ』や、「ステーショナリーマガジン」のバックナンバーなど)もかたまっていろいろ置いてありました。
いつもと違うタイプの本を買い込み、平置きにしてあった給食の本も買おうかなと思っていたら、少し目を離した隙に誰かが持って行ってしまって残念でした。
本の状態があまりよくない場合は、買うときにこれでよいかとレジで確認があります。

さらに、木の模型コーナーもあり、『隠された十字架』以来、私の大好きな、法隆寺中門の木製モデルがあった!(法隆寺の五重塔もあった...九輪に鎌がついていればこっちも買ったかもしれない。ちょっと残念)
これは、ウッディジョーというレーザー加工のキットで、木製モデルですが初心者にも作りやすくなっているようです。(中門の製作時間は5時間程度だそうです)

ここには作業台もあり、買った模型を組み立てることも自由にできます。
そのためか、木工用ボンドをおまけに入れてくれました。
朝、模型を購入して、作業して、お腹がすいたらそこで食事もできて、と、混雑具合にもよるでしょうけどそんな一日を過ごすこともできそうな作りです。
実際には、個人が注目を浴びながら繊細な作業をするのは大変かもしれませんが、カミカラみたいな実演販売をするときにはとてもいいかもしれないと思いました。

イルミネーションは4時半頃、日が暮れてからの点灯ですが、その頃には道路も混雑します。
それぞれの好みにもよりますが、早く来て、ゆっくりこういうところで時間を過ごすのもいいかも。
手づくり工房でいろいろ食料品を買い込むのも楽しみです。
今回初めて買ったくるみあんぱんがおいしかった^^
木村屋のあんバターみたいにフランスパンの生地のあんぱんで、つぶしあんにくるみの粒が混じっています。

今回は、昼食をとるところからのスタートでした。
御殿場高原ビールレストランのグランテーブルの中も、イルミネーション風電飾でした。Photo_3 時の栖のイルミネーションは白中心ですが、こちらは入口のピンク系のトンネルがかわいかったです。

メニューでは、「25分」のように書いてあるものが時間のかかるものらしく(混み具合にもよると思いますが)、そのほかの料理を頼んだので割と待たされずに出てきました。
クリスマスを意識してか、オルゴール音のクリスマスソングがかかっていました。

Photo_4 4時半頃、イルミネーションが点灯され、待っていた人たちから「おお〜」と歓声が上がりました。
今年のイルミネーションは、トナカイとそりがた〜くさん。
これは、写真を撮るのに奪い合いにならないためだと思われます。
トナカイの背がけっこう高いので、子どもが怖がるのではないかと思いましたが、案の定、「おりる〜」と叫んでいる子どももいました。(大多数は大丈夫で喜んでポーズしていましたが)
大人は乗れないことになっていますが、トナカイの背が高いので、実際、自力で乗るのは難しそうです。
Photo_5 Photo_6

Photo_7 私がいた時間はまだ薄明かりが残っていましたが、暗くなるほどに光は一層美しく輝くようになりました。

明日はクリスマス・イブ。
きっと、たくさんの人でにぎわうことでしょう。

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2009年12月23日 (水) 文化・芸術, 旅行・地域, 書籍・雑誌 | 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (0)
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学年誌で育った世代 〜「学習」「科学」の休刊に寄せて〜

ニフティニュースによれば、学年誌「学習」「科学」が休刊になるそうです。

学研の「科学」「学習」が休刊へ

2009年12月3日(木)16時51分配信 共同通信

学研ホールディングスは3日、学習雑誌の草分け的存在で学年別小学生向けの「科学」と「学習」を09年度末までに休刊することを発表した。「科学」(月刊)は来年2月発売の3月号で、「学習」(季刊)は今月発売の冬号で休刊。同社は休刊の理由について、出版不況に加え「少子化という社会構造の変化や子供たちの価値観が多様化したことで、学年別雑誌が時代のニーズに合わなくなった」としている。

これより前に、小学館の学年誌「小学五年生」「小学六年生」も休刊が決まっています。
(→ 詳しくは、ウィキニュース小学館、学年別雑誌「小学五年生」「小学六年生」を休刊 へ)
私はどれも読んでいました。
今、それらを読んでいるわけではないけれど、自分が読んで育った雑誌がなくなってしまうのはさびしいことです。
当時は、「学習」「科学」は学校で配られていて、毎月、持って帰るのが楽しみでした。

右とじの「学習」と左とじの「科学」では、たぶん多くの人と同じく、印象深いのは「科学」のほう。
「学習」は、読み物特集号が読みでがあっておもしろかったことくらいしか覚えていません。
世は科学の時代、人類は月に降り、将来は宇宙旅行ができるようになるかしら、と夢が描ける時代に、「科学」の雑誌はぴったりだったのです。

魅力的なのは何と言ってもそのふろくでした。
学研のマークが型押しされた数々のプラスチック容器は、持っているだけで満足できるものでした。
ファスナーつきの小袋に貴重品めいて入っている試薬は、なくなるのが惜しくてなかなか使えませんでした。
色水を作るための小さなすり鉢や寒天を溶かして入れるケースなどは、他の実験道具と一緒に、高校生くらいまで使っていました。(今もさがせばそれらと一緒に収納されているかも)
指紋検出セットで、細かいでんぷんの粉などがセットになっているものは、ついに使えないまま終わったと思います。

現在は、日常の道具のしくみも見えにくくなり、できた製品を使いこなすだけで終わりがちですが、稚拙でも、自分の手で何かを組み立てて動かしたり変化させたりすることは、やってみれば楽しいことです。
「学年」という枠が邪魔でも、「科学」を作ってきた会社の蓄積を毎月子どもに伝える場がなくなってしまうのは残念です。
もっと老舗の「子供の科学」のように、「科学」を生かして学年枠を超えた新しい雑誌ができたらいいのにと思います。

個人的に「科学」の読み物ですごかったと思うのは、『花岡青洲の妻』とか、『芙蓉の人』などを、マンガ化してのせていたことです。
大人の世界では話題作であったでしょうが、小学生の私はそんな本があることも知りませんでした。
でも、その中の「江戸時代に、全身麻酔で手術をしたお医者さんがいて、その実験のために奥さんは目が見えなくなった」とか、「冬の富士山頂で、夫婦で気象観測を命がけで行った人がいた」など、子どもに理解できる部分だけをとりあげ、感動的なドラマとして伝えてくれたのはすごいと思います。
それらはきちんと記憶に残り、やがて、それらの作品を読んだときの驚き。
「科学」は、これを小学生にも伝えようとしてくれたんだ、と感激しました。
当時の学習漫画には、そういう気概がありました。
(例えば、最初の歴史学習漫画は集英社の「日本の歴史」ですが、高校の資料集で初めて出典を知ったような資料をふんだんに使って構成をしていました。)
科学にのったマンガの作品は、単行本にはならなかったのでは?
その時期、その学年だけが読めたぜいたくだったのかもしれません。

科学の進歩の結果、生まれた時から電子おもちゃがあるのが当たり前の現代の子どもたち。
科学ってすごいんだ、と無邪気に目を見張っていた昔の子供の方が幸せだったような気がするのはおかしなものです。

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2009年12月 3日 (木) 書籍・雑誌 | 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (0)
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オルゴールメリーのエッセイ 〜金魚袋のビニールひも 番外〜

金魚袋のビニールひも(金魚すくいの袋に通してある赤やピンクの中空のビニールチューブ)を編んだ手芸「ビニール編み」の材料や編み方について調べています。

先日、このビニール手芸をネットショップで通販していらっしゃるシミズさんからコメントをいただきました。
シミズさんは、ビニールひも手芸を復活させるべく、ネットショップでキットや材料を販売されている方です。(詳しくは、記事ビニールひもの編み方の参考本 〜金魚袋のビニールひも5〜 のコメント欄をご覧ください。)

シミズさんのネットショップ レトロポップベビー の画像を見ていたら、完成品の中にかわいいものを見つけました。

ベッドメリー というシリーズ。
ビニール編みのかごにキューピーさんが寝ていて、上にオルゴールメリーが吊るしてあるシリーズです。
オルゴールメリー、今はあまりこの形はないように思います。
プラスチックの赤やピンクの花形をつないで長くぶらさげた形。
天井から吊るして、回すと、ころんころんという音と、プラスチックのこすれる音が広がるあれ。

オルゴールメリー、懐かしいなあと思い、誰かのエッセイでこれに関する素敵な文章があったことを思い出しました。
オルゴールメリーを見つめる赤ちゃんの目、それを見る人の幸せ、やがてはオルゴールメリーが不要物となりほこりをかぶってけっこう面倒だったと捨てられてしまうまでを描き、自分がオルゴールメリーを買ってもらったことは忘れてもその思いは残る、というような、抒情に流れず、でも温かい美しい文章。
そうなったら気になってしまい、本棚をあちこちひっくり返して、その文章を見つけました。

増田れい子さんの『一枚のキルト』(北洋社)です。(1976年の本なので、図書館などの方が見つかるかも)
細かい花柄などの美しい小さい布をひし形に切って組み合わせたキューブキルトを、写真に撮って柔らかいもみ紙風の紙に印刷した装丁の小型本できれいです。(このパッチワークキルトに関するエッセイもあります)

その中の「オルゴール・メリーのある窓」という文章でした。
削るところのないような文章で、一部引用が難しいほど。

まず、冒頭。

それを短くメリーさんと呼ぶ人もいる。赤ちゃんのための、ちゃらちゃらとまわるつるしおもちゃ。赤や黄やピンクといったおさない彩りのセルロイド(もっともこのころはプラスチックである)で花のかたちを切り抜き、それをいくつもつないで花づなのようにしたのを、何本もとりあわせて、房のようにしてある。それを生まれたばかりの赤ちゃんが、ふと目を見開いて空を眺めまわしたとき、さっとその瞳がとらえるように、天井からつるしておく。赤や黄やピンクの房が、くるくるとまわると、いっしょに「ゆりかごの唄」や「青い目のお人形」などの、やさしいうたが、ボロロン、ボロロンと、少し頼りなげに湧き出してくる。赤ん坊の黒い小さなひとみのなかに、セルロイドの赤や黄が、虹のかけらのようにくだける。赤ん坊は、ほんとうに見えているのかしら、どんなふうに見えているのかしら......おとなたちは、赤ん坊のひとみのなかの虹に見入るのだ。(同書 p.59〜 60より)

赤ちゃんと一緒に喜ぶ親の姿、オルゴールメリーの簡単な歴史、赤ちゃんに美しいものを見せたいという共通の願い、オルゴールメリーは「赤ん坊がはじめて見るこの世の花」。
窓辺にオルゴール・メリーの回る姿を見つけたり、オルゴール・メリーの音を聞くたびに、そこに赤ちゃんが生まれたのだという幸せを感じる作者。
そこに、「幸せ」という言葉は使われていないけれど、感じ取れます。
「オルゴール・メリーのある窓は、虹いろの雲がいっぱいにかかったようで、どんなぜいをつくした窓も、かなわない。」

やがて、赤ちゃんは、オルゴールメリーを見ているだけでは飽き足らなくなって、花をひっぱったりして壊してしまう。
ほこりにまみれたその破片は、分別ゴミの収集日に戸外に出してしまってそれでおしまい。

ひとはたいてい、赤ん坊のころ、親がつるしてくれた虹いろのオルゴール・メリーを記憶しない。だが、赤ん坊のためにそれをつるす。おとなになってはじめてオリゴール・メリーに触れ、そのとき突然自分もかつて親に愛されたのであろうというこそばゆく甘い思いの雲にふわりと乗るのである。(同書p.63)

今、読んでみてもやっぱり好きな文章です。
ほかにも、「手縫いのびろうど靴」「ぬり絵の喜一さん」「印花布の夏」「めりんすの匂い」「刺し子の布」「南京玉やビーズ玉」「花嫁のリボン」など、手芸や昭和レトロを扱った内容、そこに反戦の思いもしっかり込められたエッセイ集です。

ああ、何の本だったか見つけられてとてもうれしい^^

【金魚袋のビニールひも関連記事】

君の名は? 〜金魚袋のビニールひも〜

釣具屋は素材の宝庫☆ 〜金魚袋のビニールひも 追記〜

昔のビニール手芸の材料 〜金魚袋のビニールひも 関連〜

GETした金魚ひもは外国生まれ 〜金魚袋のビニールひも4〜

ビニールひもの編み方の参考本 〜金魚袋のビニールひも5〜

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2009年11月 2日 (月) 書籍・雑誌, 雑貨 おもちゃ, 昭和レトロ | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
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