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次世代を育む手術動画解析AIシステムの開発 より良い医療へ加速するイノベーション

[ 2024年12月2日 05:00 ]

生駒成彦医師
Photo By 提供写真

がん治療の最前線、米国で働く日本人医師が現場から最新の情報を届ける「USA発 日本人スーパードクター これが最新がん治療」。テキサス州ヒューストンにある米がん研究最大の拠点「MDアンダーソンがんセンター」で勤務する腫瘍外科医、生駒成彦医師のリポート第7回は「ロボット手術で加速するイノベーション」です。

【ロボット手術の無限の可能性】
歴史的に見てもテクノロジーの開発やイノベーションというものは、とあるきっかけで硬直状態を脱し、急激に加速します。分かりやすい例では、エネルギー技術の開発によって、それを動力とする産業・工業が革新的に発展しました。

日本でも2017年に公開された米映画「ドリーム」では、20世紀半ばにIBMコンピューターが開発され、ヒューストンにあるNASAでの宇宙開発が革新される様子が描かれています(それまでは手計算で宇宙船を飛ばしていたというのも驚きです)。コンピューター技術の進化は現代のスマートフォンに象徴される小型・携帯技術を可能にし、それに伴ったソフトウエアが次々と導入され、全てのものがインターネットでつながり、我々の生活は10年前とは全く違うものになっています。それと同じような、加速する技術革新が手術室でも起きているのです。

ロボット手術器具「ダビンチ」は、ロボットの「手」をガンダムの操縦のように操って手術をすることで、小さい傷から精密な手術を可能にする機械です。それだけではありません。このロボット手術というデザインには、次のイノベーションを加速させる無限大の可能性が秘められているのです。例えば、ロボットの「目」となる3D内視鏡カメラには、ワンクリックでオン/オフを切り替えることができる蛍光画像システムが搭載されており、前回お話ししたように、手術中にがん細胞を光らせることが可能となりつつあります。

手術ロボットの「手」や「指」には"震え"キャンセリング機能が搭載されているので、ほぼ必ず存在する外科医の手の震えは調整され、圧倒的に精密な手術が可能となります。手術ロボットに他の機械、例えば超音波検査の機械をつなげると、外科医が手術をしながらその画面の隣に検査の画像を表示できるようになり、従来より多くの情報を同時に見ながら手術ができます。

そして何より人工知能、AIの技術による手術革新が加速しています。まずは、高画質の手術動画が集積されることで、手術動画の解析が進みます。慶大発のベンチャー企業(Direava株式会社)と共同で開発した手術動画の解析プログラムでは、例えば我々のロボット膵(すい)切除を録画したビデオを見せると、その複雑な手術の中で、その時私が何をしているのか90%ほどの正確さで分かるようになりました(フェーズ認識、と呼んでいます)。

手術動画解析のためのAIシステムの開発は、まさに群雄割拠の時代です。他にも手術中に臓器の輪郭や、傷つけてはいけない神経、あるいは結合組織の"隙間"を認識して色を付ける手術教育システムが次々と開発されています。米国ではもう販売されている「ダビンチ5」という新機種では、手術の情報は集約化され、さまざまな解析が可能です。ロボットの指先がどれくらいの距離を移動したのか、どれくらいの圧力がかかっていたのか、どれだけ効率的に手術ができていたのか。このような情報は外科医へのフィードバックと次世代の教育に使用できます。

将棋の世界では、2017年に将棋AIポナンザが当時の佐藤天彦名人を下しました。トップ棋士でもAIに勝つのは難しい。それでもAIプログラムから学び、藤井聡太7冠というスーパースターが現れたのです。外科の世界でも、外科医たちがAIから学び、成長を続け、最新のテクノロジーを効果的に使うことで、患者さんたちにより良い医療をお届けすることができると思っています。

◇生駒 成彦(いこま・なるひこ)2007年、慶大医学部卒。11年に渡米し、米国ヒューストンのテキサス大医学部で外科研修。15年からMDアンダーソンがんセンターで腫瘍外科研修を履修。18年から同センターで膵・胃がんの手術を専門に、ロボット腫瘍外科プログラムディレクターとして勤務。世界的第一人者として、手術だけでなく革新的な臨床研究でも名高い。

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