菅義偉vs官僚の前例踏襲主義、安倍・トランプ会談の舞台「赤坂迎賓館」を巡る激闘

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菅義偉vs官僚の前例踏襲主義、安倍・トランプ会談の舞台「赤坂迎賓館」を巡る激闘インタビューに応じる菅義偉前首相 Photo by Masato Kato

菅義偉前首相の独占インタビューを全4回にわたってお届けする。最終回のテーマは、インバウンド政策だ。安倍晋三元首相とドナルド・トランプ前米大統領の首脳会談や、菅前首相によるワクチン外交の舞台となった迎賓館赤坂離宮。その一般公開にこぎ着けたことこそ、日本のインバウンド政策において重要な「前例踏襲主義の打破」を実現した例だと、菅氏は語る。知られざる官僚たちとの攻防戦の舞台裏を明かす。(イトモス研究所所長 小倉健一)

「インバウンド政策で犯罪が増える」
抵抗する治安当局とどう対峙した?

――2822日に及ぶ史上最長の長期政権を築いた第2次安倍晋三政権では、首相の女房役である官房長官として一度も交代することなく任務を全うしました。官房長官に任命されたとき、どんなことを考え、何を実行に移していったのでしょうか。

安倍元総理を総裁選挙に担ぎ出した者として、しっかり支えなければならないと決意していました。安倍政権が発足して官房長官になったとき、まずインバウンド(訪日外国人客)政策に全力を尽くそうと考えました。

私が読んだデービッド・アトキンソンさんの論によると、「インバウンドは、自然、気候、文化、食の四つが充実した国にやってくる」と。外国の観光客数が一番多い国はフランスで、コロナ前までは年間9000万人くらいいたんですが、日本はフランスと比べても遜色がないぐらいに、観光資源に恵まれているという旨が書いてあったのです。

日本の観光資源というと「おもてなし」や「安心・安全」ということがまず頭に浮かぶ人も多いと思うのですが、アトキンソンさんはそうではないという。非常に面白いと思って、彼に会ってお話を聞いてみると「日本は、インバウンドが栄える四つの条件はそろっているのに、ビザが厳しくて外国人を来させないようにしているんだ」とおっしゃるのです。

――そこでビザを緩和し、インバウンドをたくさん増やす方向に政策のかじを切ったわけですが、霞が関の官僚からは反対があったそうですね。

一番の反対は、外国人がたくさん日本に入ってくることに対する治安当局からの抵抗でした。来日外国人が増えるとなると、多くの割合は、アジア諸国からです。「長官、アジア諸国の人がたくさんくると、犯罪が増えて大変なことになりますよ」というのが、彼らの偽らざる本音でした。

そこで、谷垣禎一法務大臣、古屋圭司国家公安委員会委員長を、それと「観光」分野の担当である国土交通大臣で公明党の太田昭宏さんにまず了解を得たのです(役職はいずれも当時)。「インバウンド政策を積極的に進めていきましょう」「とにかくビザの緩和をしたい」ということで。実はこれ、たった10分の出来事だったんですが、政権の目標として強力に推進していくことになりました。

――たった10分。その後、治安当局からの抵抗はどうなったのですか。

日本は「安全」だから観光資源として魅力があるのだという人もいました。その人の言うことが正しければ、外国人が増えて犯罪者が増えたら、元も子もないということになります。

しかし、そもそも外国人がたくさん来ても日本の治安を守るのが、治安当局の役目のはずです。担当者には「犯罪をさせないのが皆さんの仕事でしょう。これ(インバウンド政策)は政権としてやるのだから、それに従ってくれ」とお願いをしました。「それはもちろんしっかり頑張りますけれども...」というのが当時の返事だったのです。

結果として、2012年の第2次安倍政権発足当時、836万人だったインバウンドが、19年には3188万人にまで増えました。消費額は、1兆800億円から4兆8000億円に膨れ上がりました。まさに観光は成長産業になったのです。

ただ、その中でも嬉しかったのは懸念されていた犯罪数が「微減」となったことです。政権初期の段階でインバウンドの成功を収めたので、以降の政権運営に自信がつきました。

もし、コロナがなく、東京オリンピック・パラリンピックがきちんと世界中のお客さまを迎え入れる形で開催されていれば、さらにインバウンドが増えていたのだと思うと残念でなりません。

安倍・トランプ会談の舞台
「赤坂迎賓館」を巡る官庁との激闘

――菅さんは、「前例踏襲主義の打破」とか「縦割りの打破」ということを繰り返し言います。しかし、それらは目的ではないところがポイントなのだと思います。要するにビザ緩和という改革それ自体が目的なのではなく、「インバウンドによって日本社会に利益をもたらす」ことが目的であり、「前例踏襲主義の打破」は手段に過ぎないのですよね。

その話でいうと、官房長官時代に「迎賓館赤坂離宮((注記))の一般開放」を実現するために前例踏襲主義を打ち破った、というのも好例だと思います。外国人観光客の人気スポットにもなったのでインバウンドとも関係してくるのですが、国民の立場に立った問題解決でした。

(注記)筆者注1:迎賓館赤坂離宮とは、1909(明治42)年に東宮御所(皇太子の居所)として建設された、日本唯一のネオバロック式の西洋風宮殿。この建物は戦後、国に移管され、外国の賓客を国として接遇するための施設として改修された。09年には迎賓館赤坂離宮の本館、正門、主庭噴水池等が明治以降の建築物としては初めて国宝に指定された。
(注記)筆者注2:安倍晋三元首相とドナルド・トランプ前米大統領との会談が行われたり、菅前首相がファイザーのトップとワクチン外交を繰り広げたりした舞台でもある(詳細は『菅前首相が明かす、ワクチン接種1日100万回をぶち上げた根拠と縦割り打破』参照)。

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