日本が「世界に恥をさらした」小児がん検診が2年前まで生き延びた理由

ダイヤモンド編集部
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健康診断のホント#8Photo:PIXTA
「週刊ダイヤモンド」2020年4月4日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの

特集『健康診断のホント』(全18回)の#8では、自治体による健診問題を取り上げる。「子供をがんから救いたい」という目的で始まり、一時は90%を超える乳児が受けたがん検診が18年、一般にほぼ知られぬまま絶滅した。集団検診の汚点とまでされる神経芽腫検診だ。(ダイヤモンド編集部 宮原啓影)

「週刊ダイヤモンド」2020年4月4日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの

15年前に消えた「自治体検診失敗の象徴」
小児神経芽腫検診がなぜか大阪府で延命

「世界に恥をさらした集団検診の失敗例が日本にある」――。検診研究における第一人者の一人である医師は、そうため息をつく。

「国際学会で失敗した検診政策の代表として必ずと言っていいほど例示されるが、一部の自治体ではごく最近まで続けられていた」(同)

そんな「失敗の象徴」と断じられたある集団検診が、"ひっそり"と姿を消したのはわずか2年前、2018年3月のことだ。

小児がんの一種である「神経芽腫(神経芽細胞腫)」は、主に0〜4歳児の腹部などの神経組織から発生する腫瘍で、このがんにかかる0〜4歳児の割合は10万人におよそ2人。小児がんの中では白血病、脳腫瘍、リンパ腫に次いで多いとされる。ただし、同じ神経芽腫でも、悪性度が高く死に至るケースがある一方、自然に小さくなって治癒する「自然退縮」が起きることも多いのが特徴だ。

この神経芽腫を尿で手軽に検査できる画期的な手法が日本で開発されたことで、1985年、当時の厚生省は、対策型の検診として生後6カ月の乳児全員を対象に全国で集団検診を開始。その受診率は一時90%超に上った。

ところがだ。02年以降、この検診を"輸入"したドイツやカナダから、集団検診をしても死亡率が減少しないという研究結果が相次いで発表される。そして、日本も03年、厚生労働省の通知によって全国検査が休止に追い込まれ、多くの都道府県から神経芽腫の集団検診がほぼ一掃された。今から15年以上も昔のことだ。

その理由を「神経芽腫に限らず、がん検診の目的は早期発見ではなく、がん死を減らすこと。発見できても死亡率が下がらなければ有効とは言えない」と、事情に詳しい別の医師は言う。

事実、17年に日本の研究グループが、集団検診休止後の神経芽腫の罹患率と死亡率の検証結果を発表。集団検診中止により罹患率は著しく下がったが、死亡率は実質的な変化がなかったことを明らかにした。要するに、集団検診で患者は増えたが、死亡率の低下につながらなかったわけだ。

弊害はそれだけにとどまらない。国が休止を決めたもう一つの理由は、受診者が「不利益を受ける場合がある」(厚労省の検討会報告書)からだ。不利益とは過剰診断。前述のように、神経芽腫は自然に治るケースも多いが、裏を返せば、集団検診で本来治療を受ける必要がないがんも見つけてしまう。

「(集団検診による)増加分の患者は、検査事業が行われなければ、特段の対応が必要とならなかったと考えられ、『過剰診断を受けた』と言える」と検討会報告書は指摘する。さらに、発見後の手術や化学療法による合併症の問題を挙げ、76〜96年までの集団検診で発見された1453例中、1226例で手術が行われ、うち132例で合併症が発生、死亡するケースも8例あった。同じ間、化学療法の合併症による死亡は10例に及ぶ。

「このような過剰診断や過剰治療は他のがん検診でも起きるが、そのデメリットを上回るメリットが存在することが検診存続の条件。神経芽腫検診はその条件を満たせなかった」と前出の医師は言う。

だが、そんな集団検診が、なぜ一部の自治体で国の通達から15年間も続いたのか。

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