昨日の土曜日、慶應SDMの5周年記念シンポジウムが開かれました。慶應SDMは、慶應義塾開塾150周年を記念して設立された若い大学院。下に学部をもたない独立系大学院で、とても小さい大学院。専任教員の数は12名と、これもおそらく日本一小さい規模でしょう。修士と博士合わせて1学年100人という、誰でも仲良くできるフレンドリーなサイズの学生数でもあります。
この「日本一小さな大学院」が、社会にイノベーションを起こす波を作ろうと、日本そして世界の「仕組み」を前向きに協創の力で変えていく試みを大学教育の現場からはじめて5年。その節目を記念してのシンポジウムが昨日開かれたのです。
第一部は、創設時の慶應SDM委員長であり、宇宙工学とシステム工学の世界的権威である
狼嘉彰先生の講演。
×ばつシステム思考」のワークショップを、
白坂成功先生の事務局のもと、ファシリテーションの前半を慶應SDMの現委員長である
前野隆司先生、そして後半を保井が担当しました。
photo1 第二部のワークショップには、50名を超える慶應SDMの修了生ほかが大集合。いずれも、日本を代表する企業や官公庁、NPOなどで日本のイノベーションの加速のために汗を流しているメンバーたちです。起業家や新規ビジネスの実行者として日々奮闘している若い修了生たちの姿も見えます。
photo2 ×ばつデザイン思考」の考え方の概説、ソーシャルイノベーションの世界的な波の俯瞰、そしてイノベーションの創発に使う実際の技法として、「正しい」ブレーンストーミング、親和図法、構造シフト発想法、因果ループ図、レパレッジポイントの特定、プロトタイピング、「両手を使った思考」によるプロトタイプ・イメージの共有、と進みました。
photo3 企業のビジネスの現場や社会のしがらみの中で苦闘している修了生もいるはず。そして2時間という短い時間で、感覚は取り戻せるだろうか、と初めは心配していましたが、そんなのはまったくの取り越し苦労でした。ブレインストーミングが始まるとすぐに、参加者から笑顔がこぼれ、ポジティブ思考が溢れだし、アイディアが湧き出ます。
photo4 親和図の作成で、発散したアイディア群の構造化をまずは行います。そして、アイディアが出てきた無意識の思考のバイアスのパターンを崩すべく、親和図を使って、思考の「パターンずらし」、すなわちシフトをみなで行っていきます。構造シフト発想法と呼ばれるこの技法は、慶應SDMの5年間のイノベーション教育から出てきたオリジナルの技法。昨年のアジア太平洋システムズ・エンジニアリング学会(APCOSEC)や日本創造学会で、その成果が学会発表されています。
photo5 因果ループ図の作成から、ソリューションを生み出す梃子となる点、すなわちレバレッジポイントを特定します。各チームとも、うきうきするような伸びやかな雰囲気の下、レバレッジポイントにあるアイディアの束を使い、ソリューションのストーリーを粘土や色紙、紙コップや紙皿、色ペンなどで、模造紙に表現していきます。
photo6 粘土と色紙のプロトタイピングは一見すると「子どもだまし」のように見えるかもしれませんが、「すばやく失敗せよ(fail fast)」、すなわち決めうちせずに、何回も何回もイノベーション・ループをまわして試作品を作り、ユーザーや開発者間で共感のために使おうという「共感のためのプロトタイピング」の原則にもとづくものです。
「共感のためのプロトタイピング」は1990年代の後半から、米国の西海岸でスタンフォード大学や世界的な社会デザインソリューション会社IDEOが、「経験プロトタイピング」として知見を積み上げ、いまやソーシャルデザインの基本的技法のひとつになっています。時には教育玩具レゴや即興の寸劇(スキットやプレイバックシアター)を使うときもありますが、今回は粘土と色紙です。
粘土の手触りが感性を刺激するのか、参加者はみな生き生きとした表情です。
photo7 ワークショップ終了後は、慶應SDMで毎日24時間、いつ行っても絶対に誰かが何かの作業しているという噂の、通称「大部屋」に集まり、大同窓会です。いま夢中で追い求めていること、研究とビジネスの夢、ソーシャルイノベーションへの意気込み。100人以上の現役学生・同窓生と教員が集まり、100個以上のイノベーションの加速にかける夢が語られました。
第三部の大同窓会では、北関東のそうそうたる通信系企業のトップで慶應SDMの現役社会人学生でもあるイノべーターによる、「人間風船」というサプライズ・イベントも飛び出し、会場は歓声と笑いで沸きに沸きました。
×ばつデサイン思考」のイノベーション・ループの輪にサッと入っていただきました。
最近ややオーバーワーク気味で、ちょっと元気がなかったのですが、昨日集まっていただいたみなさんから「情熱と行動することへの勇気」を補給していただいた気がします。みなさん、本当にありがとう。涙が出ました。さあ、日本のソーシャルイノベーションの加速のプラットフォームづくりに、これからも前向きに頑張っていこう。心の底からそう思えた、気持ちのよい月夜でした。
- 2014年01月12日(日) 15:14:01|
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